ルディ「落ち込んだ父様説得します」
リベラル「ギースはヒトガミを知らない…?」
ギース「へっ、ジンクスだよ」
お待たせ致しました。パウロ説得回(物理)です。
新しい環境になりましたが勉強もお仕事も頑張ります。お勉強は微妙ですが病院のお仕事は楽しいです。
アマラント・ノトス・グレイラット。
バレンティナ・ノトス・グレイラット。
その二人の長男として誕生したパウロは、甘やかされながら育っていたのである。
初めての子供だからか、父親であるアマラントは表面上は厳しい顔をしていても、基本的に息子に甘く接していた。
母親であるバレンティナは、 息子の優しさや明るさを認め、パウロの心の拠り所となるような存在であった。
とはいえ、それもずっとではなかった。
勉強を真面目にせず女遊びばかりしていたパウロに、アマラントは徐々に冷めた態度を取るようになっていった。
従僕やメイドたちも同様に、初めの頃の態度から変化していった。
唯一変わらなかったのは、母親であるバレンティナだけだ。彼女だけはパウロを見限らず、ずっと優しく愛情を注いでいた。
次男であるピレモンが生まれてからは、そちらに対して愛情を向ける時間が多くなったものの、それは変わらなかった。
パウロは学校の勉強を頻繁にサボりはしていたが、剣術だけは必ず出向いていた。
しかし、剣術が出来ることは貴族としてそこまで重要なことではない。
やることもせず、女遊びしかしないパウロは、ノトス家に泥を塗り続けていた。
結果、パウロはアマラントに軟禁され、部屋から出ることを禁じられてしまう。
軟禁されてからというものの、バレンティナは毎日パウロの元へと足を運んでいた。
母親を心の拠り所としていたパウロはそれだけで十分だったが、いつしかバレンティナは来なくなってしまう。
――彼女は病に犯されていたのだ。
そのことを知ったパウロは、軟禁が解かれてからは必死に母親を助ける方法を探した。
けれど、そんな努力も虚しくバレンティナはこの世を去ってしまった。
心の拠り所を失ったパウロ。
信頼してくれなくなった父親のアマラント。
嫌味ばかり言う弟のピレモン。
「――知るか! 好きで貴族の家に生まれた訳じゃない!」
結局――パウロは家から出ていった。
もちろん、彼に味方してくれる者もいた。けど、その信頼の重みも怖かったのだ。
全てを掛けて歩み寄ってくるこの人に、自分は何も返すことが出来ない、と。自分に味方をしても何も出来ない、と。
その思いに、ただの一度も報いることも出来ず、家から立ち去ってしまった。
――パウロは強いが、打たれ弱かった。
それは過去からくる経験なのか、それとも本人の気質なのかは分からない。
今でこそ気の合う仲間や、
転移事件後。
今回の件で彼は自身の力で誰一人として助けられず、助けられてばかりだった。
そんな彼が深く傷付いてしまうのも当然の結果だったのだろう。
このままではまたバレンティナのように、家族を助けられない場面が訪れるかもしれない。
自分はまた何も出来ない。
あまりにも無力だ。
そんな思いが、胸中から離れることがなかった。
――――
とある酒場の奥。
そこで、酒を一気にあおる男がいた。
既に何本も飲んでいるようで、瓶がテーブルの上にいくつか置かれている。
「ちっ、酒がなくなったか…」
ろくに身支度をしていないのか、無精髭に髪の毛もボサボサとなった男――パウロがイライラした様子で酒を飲み干す。
捜索団が貸し切りとしている酒場に、最近のパウロはずっと入り浸っていた。もちろん、捜索団としてやるべきことは行っているが、それでも最低限だ。
どうにもこの国には、奴隷として連れて来られたフィットア領の人々がいるようなので、しばらくは留まる必要がある。
また、ゼニスの実家でもあるラトレイア家でのやり取りもあったため、心身共に疲れ果てていた。
ゼニスの母親であるクレアからも、散々言われてしまったことも原因だ。
「…………」
もう何も考えることが出来ずにいた。
奴隷となったフィットア領民の解放も、無心でこなしていた。
今は何も考えたくなかった。
「おいマスター! 酒をもうひとつくれ」
「おいおい、飲みすぎじゃねぇか? そろそろ止めとけよ」
「いいだろ別に。早く寄越せよ」
聞く耳を持たぬパウロに、酒場の店主はため息を吐きながら水を突き渡す。酒を飲むのはいいのだが、飲みすぎて辺りを汚されても困るのだ。
もちろん、パウロはそれに納得するわけもない。舌打ちしながら「おい」と呼び止める。
「テメェふざけてんのか。俺は客だぞ」
「限度を考えてくれ。飲んでくれるのはありがたいが、お前さんが荒らしてるせいで客足が遠退いてんだ」
酒癖が悪いのか、ここ最近のパウロは周囲のものに当たる傾向があった。そのため、フィットア領捜索団の人間以外が利用せず、酒場の売上に影響が出ているのだ。
もちろん、そう言われて今の彼が素直に「はいそうですか」と言う訳もない。頭に青筋をたてながらジョッキを店主へと投げつける。
「何すんだ!」
「あぁ!? いいから早く持ってこいよ!」
「うるせえ! お前さんはもう客じゃねぇ! さっさと出ていきやがれ!」
「テメェ……!」
売り言葉に買い言葉。互いに感情をぶつけ合い、怒り心頭となったパウロは遂に席を立ち上がり、そのまま店主へと殴り掛かる。
当然ながら、両者の腕っぷしの差は歴善だ。普通に店主が負けるだろう。
だが、そのタイミングで誰かが入店する。
「ちょ、ちょっとちょっと父様!?」
あわや殴り合いへと発展しそうな現場に訪れたルーデウスは、慌てて二人の間に割り込む。
興奮する二人を何とか宥めたルーデウスは店主へと謝罪し、場を取り持たせることが出来た。
その後、パウロを席へと促し、自身も席につく。
「何してるんですか父様……」
「…………」
ルーデウスの問いかけに対して、パウロはどこかイライラした様子を見せつつ無言になる。
とてもではないが、話しが行いやすい雰囲気ではない。昔にあったリーリャの妊娠騒動のときとは訳が違う。
しかし、そのまま同じように無言となるわけにもいかないだろう。意を決したルーデウスは、口を開く。
「父様、僕がブエナ村から出ていく前までのことを覚えてますか?」
「……覚えてるよ」
「じゃあ、僕の五歳を迎えた誕生日のことも覚えてますか?」
「……ああ」
「それは良かったです」
これで忘れられていればかなりショックだし話しも止めようかと思ったが、流石にそんなことはなかったようだ。
最近は冒険で忙しかったルーデウスは、思い出すようにゆっくりと語り出す。
「『男は心の中に一本の剣を持っておかねばならん』……確か、そんな感じのことを言ってましたね」
「…………」
「今なので正直に言いますが……すいません、あれあんまり聞いてなかったです」
「おい…」
「それに、貰った剣も結局なくしてしまいましたし」
なくしてしまったと言っても、フィットア領に強制連行された際に、家に置きっぱなしとなったことが理由だ。不可抗力と言えよう。
生憎、ルーデウスの手元にあるのはリベラルから貰ったナイフのみだ。ゼニスの植物辞典やロキシーの杖も転移事件と共に全てなくなってしまった。
御神体とリベラルのパンツも含めて。
「父様も、たくさんのものをなくしてしまったと思います」
「……どうだろうな」
確かにパウロも多くを失った。家はなくなったし、愛馬のカラヴァッジョもいなくなったし、多くの知り合いを失った。
家族は散り散りになりつつも、何とか合流出来たことは僥倖と言えるだろう。しかし、彼はそのことに目を向けれても、自分の無能さからも目を離すことが出来なかった。
結局はただの幸運だ。ルーデウスはともかく、他の家族はリベラルがいなければこのような結果になることはなかっただろう。
「……父様。少し、外に行きませんか?」
暗い表情を浮かべるパウロを見かねたルーデウスは、空気を変えるために提案した。
――――
人通りは少ないが、街並みを見れる広場。そんな場所まで二人は散歩していた。
道中の会話はあまりなかった。ルーデウスが話し掛けても、「ああ…」「そうか…」と相づちを打つだけだ。
そこで立ち止まった彼は、パウロへと向き直る。
「先ほどの誕生日の話ですが、父様は僕が今何歳か覚えてますか?」
「……確か、11歳だったか?」
「そうです。残念ながら10歳の誕生日は魔大陸の道中で迎えてしまいました」
「それは、すまんな」
本来の歴史であれば、ルーデウスはボレアス家で小さな誕生日パーティーが開かれたが、その前に転移事件が起きてしまった。そのため、彼は
とはいえ、ルーデウスとしてはそこまで気にしてることではない。ただの話の流れだ。
「何故、父様が謝るのですか?」
「……親として何もしてやれなかったからよ」
「今回の件は完全な不運です。父様がそこまで落ち込む必要はありませんよ」
「…………」
そんなことを言われても無理があるだろう。
無言となったパウロに対して特に気にした様子も見せず、ルーデウスは続ける。
「でもしっかりと五歳の誕生日のことは覚えてますし、僕としてはその思い出だけでも十分ですよ」
「でもよ……」
「誕生日の後にあったことは覚えてますか? 僕がシルフィと会った日のことです」
無論、そのこともパウロはちゃんと覚えている。息子を叱ろうとしたら、逆に説教されてしまった時のことを言ってるのだろう。
あれは当時のパウロには堪えた。父親らしいところを見せようとして空回りしてしまったのだから。
「では、父様が僕に対して何と言ったのかも覚えてますか?」
『男の強さは威張るためにあるんじゃない』
その日以外にも、鍛練中にはよく言っていた台詞だ。同年代の中で圧倒的な強さを持つルーデウスに、戒めも込めて告げた言葉。
彼のその台詞に、パウロは自嘲するように鼻で笑う。
「さっきの店主とのやり取りのことでも言ってんのかよ?」
「いえ、そうではないです」
確かに今のパウロは、昔とは比べ物にならないほど落ちぶれた様子となっている。けれど、そんなことは関係ない。
「僕は、父様の凄さを知っています」
ルーデウスが一番最初に目指したのは、パウロなのだから。
この世界に転生し、一番最初にこの世界の凄さを教えてくれた人物はパウロだ。
最初は素振りしている痛い父親、なんて思ったりもしたが、世界のことを知っていくにつれ、その思いはすぐに霧散した。
魔術とは違う動き。
まるで映画の一場面のような剣術。
岩をも切り裂く一閃。
そんな姿を見て、憧れを抱いた。
自分もああなりたいと。
魔術は順調に進んでいたが、剣術は思うようにいかなかった。魔術抜きではアクロバティックな動きは出来ないし、岩なんて切り裂けない。
更には自分の生前の半分程度の年齢で、家族を支えてそのような強さまであるのだ。
クズだし不倫するし子を孕ませるような奴だが、自分には何一つとして出来なかったことである。
「昔のように組手をしたいです」
「何でだよ」
「いいじゃないですか。たまには息子のわがままくらい聞いて下さいよ」
パウロの返事を待つことなく、土魔術で剣をふたつ作りあげる。それを彼へと投げ渡す。
それを反射的に受け取ったパウロは、ぶつぶつと文句を言っていたが、
「ふっ!」
「うおっ!?」
懐へと飛び込み、剣を振り下ろそうとする
「なにすんだ!」
思わず怒声をあげるパウロ。
しかし、ルーデウスは気にした様子を見せず、再び彼へと接近していた。
間合いに入り込んだ瞬間に剣を横凪ぎしようとしたパウロであったが、ルーデウスの足が一瞬だけホバー移動となる。
「くっ!?」
想定と違う間合いの入られ方に、パウロはタイミングをずらされる。狼狽えながら剣を振るうも遅すぎた。
既に懐まで入り込んでいたルーデウスは、そのまま体重を乗せた体当りをする。
体重差があったからこそパウロは倒れなかったが、大きくよろめいてしまう。
「ちぃ!」
その隙を逃さず剣を振りかぶる
そのまま後方へと飛び退き、距離を稼ぐことに成功した。
だが、その瞬間には
(考える余裕がねぇ!)
何故ルーデウスがいきなりこのようなことをするのか。何かしただろうか。
そんな疑問が頭に浮かんでいたが、深く思考する間もなかった。
次々と襲い掛かる息子からの猛攻に、パウロは凌ぐことで精一杯だった。
「う、おぉ!?」
その隙に、ルーデウスは更に魔術を行使し、次の射出の準備を整える。
流れるように剣術と魔術を繰り出され、パウロはほぼ詰みの状態となってしまった。
(強く、なりすぎだろ……)
ごちゃごちゃと考えていたら、いつの間にかそんな状況に追い込まれていたパウロ。
当たり前と言えば当たり前だが、ルーデウスは昔よりもずっと強かった。
ブエナ村からフィットア領に送り付ける際は、何とか叩きのめすことが出来たが、今はそんなこと出来そうにない。
今回のこの組手も、その時の意趣返しなのだろうかとぼんやり考える。
それと同時に、ルーデウスがここまで強くなったことも何故か誇らしく感じられた。
本当に自分の息子なのかと疑いたくなるほどの優秀さだ。
己とは違うのだろう。
ルーデウスはやはり天才だ。
それこそ、自分の手が届かなくなるほどの……。
そこまで考えた時、不意に過去の言葉が過る。
『不器用でも、口下手でも、だらしなくても、情けなくても、威厳がなくても、良いところがなくても――』
『――それでも我が子を導くのが、親ってものでしょう?』
どうしていきなりそんな言葉を思い出したのかは分からない。
けれど、余計な思考が頭から抜け落ちた。
「――ッ!」
瞬間、パウロの動きが変わる。
射出した筈の魔術は、いつの間にか切り裂かれていた。
『無音の太刀』。
斬擊を放つことで、後の先を取ってみせた。
その隙にパウロは泥沼から脱出し、両手を地面に付ける『四足の型』となる。
まるで狼のように四足歩行で駆け寄るパウロに、ルーデウスは
「らあああぁぁ!」
パウロの姿が一瞬ぶれる。
次の瞬間には、
氷塊に紛れパウロの姿も見えなくなる。
ほんの僅かだが、父の姿を見失ったルーデウス。
悪寒を感じた彼は、後ろへと飛び下がる。
そのタイミングで、横から剣を振り下ろしていたパウロの切っ先が通り過ぎた。
何とか体勢を整えたルーデウスだったが、今度は彼の目の前に何かが飛んでくる。
靴だ。
パウロは自分の靴を足で投げ飛ばしたのだ。
靴と言っても、鉄板の入れられたものである。当たれば痛いだけでは済まないだろう。
咄嗟に剣で受け流したルーデウスであったが、続けて投げられた剣が目前まで迫る。
何とかそれも弾くことが出来たものの、
「なっ」
懐まで迫っていたパウロは、先ほどの意趣返しのように体当りした。
「ぐっ!」
地面に弾き飛ばされるルーデウス。
すぐに起き上がろとするが、パウロが上にのし掛かる。
更にいつの間にか、手から剣も奪い取られていた。
「まだ続けるかルディ?」
「……いえ、参りました父様」
ルーデウスは、再びパウロに負けた。
――――
「で、何でいきなりあんなことしたんだよ」
戦いの後、パウロは尋ねた。
いきなりあのような実戦形式の組手が始まったのだ。
何かしらの理由があるだろう。
「理由はいくつかあります」
「ほう」
「ひとつは、悩んでいるときは部屋に引きこもるよりも、身体を動かす方が健康的だからです」
これは、ルーデウスの過去の経験から来る考えだった。
生前のニートであった時は家の中にずっといたため、悪い思考しか出来なくなっていた。
部屋に閉じこもると、閉鎖的空間の影響でネガティブなことしか考えられず、負のスパイラルに陥ってしまうからだ。
「もうひとつは、父様のことを尊敬してるからです」
「……俺を尊敬、か」
「そりゃ父様は臭いですし、クズですし、情けない父親だと思いますよ」
「どこが尊敬してんだよ」
「でも、父様は強いです」
目を逸らさずハッキリと言ったルーデウスに、パウロは目を丸くする。
「昔は一度も勝てませんでしたけど、今なら父様に勝てると思ってたんですよ」
ブエナ村にいた頃、パウロと鍛練中に一度も剣を当てることが出来なかった。
それどころか、何度も脳内でシミュレートしたにも関わらず、有効な魔術すらも当てることが出来なかった。
そんなこともあってか、ルーデウスは慢心することなくここまで帰還することが出来たのだ。
「言ってませんでしたけど、実は大森林で北聖のガルス・クリーナーって人と戦ったんです」
「北聖と?」
それは初耳であった。
デッドエンドを名乗っていることや、エリスとスペルド族と共にいることなどは聞いたが、詳しい道程までは聞いてなかったのだ。
「タイミングも悪く、僕一人でしたので危なかったですよ。それはもう、ええ、死にかけました。……いや本当にですよ?」
ルーデウスが死ぬ。
あまりにも軽々しく言われたため、その言葉に実感がわかなかった。
けれど、北聖を相手にしたのであれば、それは当たり前の事実でもあった。
間違いなく、自分よりも格上の剣士なのだから。
「まあ、何とか勝ちましたけど」
「そ、そうか」
「けど、父様には勝てませんでした」
それも、不意を突いて先手を仕掛けたにも関わらずだ。
「そりゃあ、おめー……」
「僕が手を抜いたと思いますか?」
それこそないだろう。
ルーデウスは強かった。
昔よりもずっとだ。
剣術、魔術、戦術。
どれを見ても非常に高レベルに使い分けていた。
もちろん、剣術はまだまだ粗があったものの、パウロからしてみればそれくらいしか言うことがなかった。
剣士の間合いで戦っていたにも関わらず、魔術の行使があまりにも早いのだ。戦っていたパウロは、複数人と戦っているかのような感覚に陥っていた。
「もう一度言います」
そんなルーデウスに勝てる人物は、そう多くないだろう。
「父様は強いです」
だからこそ、ルーデウスはハッキリと断言出来るのだ。
「…………」
そこまで言われても、どこか浮かない表情を浮かべるパウロ。
けれど、気にせずルーデウスは続ける。
「……父様が失敗をしたように、僕だってたくさんの失敗ばかりですよ」
「ルディがか? 想像出来ねぇな……」
「思い出すことも辛い失敗だってありますよ」
ルーデウスの生前は、後悔ばかりだ。
けれど、今の人生も後悔はたくさんある。
「あの時ああすれば良かった。こうすれば良かった。何であれをしなかったのだろう。どうしてやらなかったのだろう。
思い返せば思い返すほど、その気持ちは強くなるばかりですよ。
けど、それは出来ないんですよ。いくら過去の失敗を考えたところで、それをなかったことには出来ないんです
僕はもう、そんな後悔をしたくないんです」
そこで、一度言葉を区切る。
「――だからこそ、本気で生きていくんです」
それは、後悔ばかりしてきた男の、心の底からの誓いだった。
「それでも失敗だってするし、思い通りにならないことも沢山あります。けれど、そういう過程を得て僕は……僕たちは成長していくんです」
ルーデウスは両手を広げ、パウロに抱きつく。
「父様、一緒に前に進みましょう」
「ルディ……」
「父様だって、守りたいものがあるでしょう」
抱きつかれたパウロは戸惑いながらも、ルーデウスの言葉に反応する。
「ああ……俺は家族を、失いたくないよ」
「僕だってそうですよ」
「ルディ……お前はやっぱ凄いな」
パウロは背中へと手を回し、力強く抱きしめ返した。
「ごめんな、こんな情けない父親で」
「そう思うなら見返して下さい」
「ああ、ああ……分かったよ」
口で言うのは容易いが、実現するのは難しいだろう。何せ、相手は優秀すぎる
けれど、そんな言い訳は情けなさ過ぎるだろう。
ルーデウスが前を見て歩いてるように、己もまた前を向いて歩かねばならない。
「そんなに不安なら修行でもすればどうです? 少しは自信も付くんじゃないですか?」
冗談めかして言うルーデウスであったが、パウロはその発言でとある人物が頭に浮かんだ。
彼の知る中で、最も強いであろう人物であり、実際に息子を更に強くした実績を持つ。
「……そうだな。ルディに追い付かれそうだし、父さんもちょっと頑張ろうかな」
いつの間にか胸の中にあった不安もなくなり、前を向くことが出来た。
ならば、後はその気持ちに見合うだけの力をつける必要がある。
もっと強くなろう。
もう迷わないように。
次こそは助けられるように。
Q.パウロの両親と過去のお話。
A.『無職転生~ゲームになっても本気だす~』に公開されたオリジナルストーリー『パウロの幼少期』を参考に書きました。ゲームとしては…正直微妙。ファンじゃなければ辛いかもです。
Q.ルディとパウロ強すぎん?
A.ルディは強化によって魔術を近接で織り混ぜられるようになってます。パウロは…本来の実力ならこれくらい出来るのではないか、と思いこうなりました。
Q.パウロの愛馬のカラヴッチョ。
A.カラヴッチョは転移で飛ばされましたが、シルフィエットの愛馬になりました…と考えてますが、普通に忘れそうな設定です…。
Q.パウロの最後。
A.ここのシーンを変えたのは、全部このためです。つまり、パウロの強化フラグです。原作ではルディとあまり肩を並べることが出来ませんでしたが、この作品では強くなったパウロがルーデウスを助けてくれます。いずれ王の称号が付くかもしれない。