無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ラプラス「行けっ! ファンネル! 幼女を救うのだ!」
リベラル「嫌です」
盗賊「へっへっへ」
幼女大帝「めしをくれればなんでもするのじゃ」

あー…何か違う。もっと感情移入出来るように書きたいのに…これじゃ淡々と話が進んでるようにしか感じん。もっと感情の起伏や物語に起伏を与えんといかんけぇ。


6話 『行き倒れの幼女大帝』

 

 

 

 リベラルは転生者であり、未来の知識を持った存在だ。

 そんな彼女は生前、文章にて『魔界大帝』の姿を知り、歴史を知った。実際にその姿を見た訳ではないが、それでもリベラルは確信する。

 即ち、目の前で三人の男たちに囲まれている幼女の正体――『魔界大帝』キシリカ・キシリス、その人であると。

 

 

――――

 

 

 リベラルは、どうするべきか考える。盗賊退治に来たら、何故か魔界大帝がその盗賊たちに、餌付けされそうになっていることに。

 このまま介入して、盗賊たちと戦って大丈夫なのだろうか? と、そんな疑問が頭に渦巻いた。しかし、そんな考え事をしている間に、彼らの話は進んで行く。

 

「めしっ…はよう欲しいのじゃぁ…妾は腹が空いてしかたないぞ…」

「ああ、俺たちのアジトに付いてきてくれたら、たんまり食わせてやるよ…へへへ…俺のをな」

 

 純粋で、穢れを知らぬかのような、あどけない笑みを浮かべるキシリカ。そんな彼女とは対称的に、男の声色からは下卑た笑みを隠し切れていなかった。

 なんというか、助けて上げなければいけない場面にしか見えない。

 

「…ん? 何だ、後ろにも女がいる、ぞ…?」

 

 ふと、後ろに顔を向けた男と目が合う。どうやら、他の仲間たちの方を向こうとした際に、リベラルに気付いたようだ。

 男はリベラルの存在に気付き、鴨が増えたと言わんばかりのにやけ顔を晒し――すぐに恐怖の顔色を浮かべた。

 

「ひっ」

「何だ?」

「どうした?」

 

 男は小さな悲鳴を上げ、腰に帯刀していた剣を引き抜く。その様子に、仲間の二人もこちらに気付き――顔色を変えて剣と杖を構えた。

 

「えっ…?」

 

 いきなりの展開に、リベラルは混乱する。だが、すぐさま原因に思い至った。――呪いだ。他者に恐怖を与える呪いが、この場では悪い方向に作用していた。

 ロステリーナに対しては、逃げ出されたり、泣き出されたりする程度であった呪いは、何も知らぬ者を襲わせてしまう力を持っていたのだ。

 そのことを思えば、今までのロステリーナの反応は、かなりマシだったのだろう。

 

 そして、そんな思考も束の間である。深く考える時間もなく、男の一人が斬り掛かって来たのだ。

 

「し、死ねやぁバケモノ!!」

 

 完全に不意を突かれたリベラル。彼女が普通の人であれば、このまま殺されていたことだろう。

 だが、リベラルには盗賊の動きが、あまりにも緩やかに見えていた。ラプラスとは比べものにならぬほど、その剣筋は遅く感じられたのだ。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟に、からだが動いていた。

 それは、ラプラスに教わり、何十、何百、何千と、毎日毎日繰り返してきた動きのひとつだ。

 

 眼前に迫る剣を、そっと撫で上げるかのように添える。その瞬間に、力の(ナガレ)を操り、向きを変えた。そこに自身の力も付け加え、男を吹き飛ばす。

 ただ、それだけだ。それだけで男は竜巻のように回転しながら、空から地面へと墜ちていく。

 

 そして、グギッと、嫌な音が響いた。

 男の首はあらぬ方向に折れ曲がり、既にその瞳から光を失わせていた。

 

「……えっ」

 

 死んだ。

 呆気なく、殺してしまった。

 

「テメェ!!」

「くそったれがぁ!!」

 

 現状についていくことが出来ず、頭を混乱させていたリベラルに、男たちが待つ訳もなく突っ込んで来る。

 

 再び、リベラルは反射的にからだを動かしていた。

 闘気で強化した指先を固め、そのまま前方に貫く。単純な貫手だ。故に最速の一撃。一直線に進んだ拳は、剣を振り下ろそうとしていた男の胸に突き刺さる。確実に、心臓を貫いていた。

 

 リベラルは、グチャリと引き抜いた手を眺め、嫌悪感に苛まれる。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 二人が瞬殺される様を見ていた残りの一人は、半狂乱になりながら魔術を放とうとしていた。

 だが、リベラルは咄嗟に掌に闘気を纏い、ヌルリと滑らせるかのように、後方へと受け流す。

 

「な、何だと!?」

 

 男が狼狽えていた隙に、リベラルはまるでスライド移動するかのように、彼の目の前に現れる。そして、その胸に、双掌打をめり込ませていた。

 男のからだは吹っ飛ぶことなく、全ての衝撃を内部に集約され、内臓が、肺が潰れ、血反吐を溢す。

 

「ガ、ガブ…ブ…ゥ…」

 

 肺を潰された魔術師は、何も出来ない。男は魔術を放とうと口を動かしていたが、意味のない音が漏れ出すだけであった。

 リベラルは、男が死ぬその瞬間までの様子を、顔を顰めながらも黙って見つめる。己がしてしまったことから、目を逸らさぬよう、最期の時まで。

 

「――――」

「――――」

「――――」

 

 三人の男たちを始末したリベラルは、自身の掌を見つめた。血で真っ赤に染め上がり、鉄臭い不快な臭いが漂っている。

 

(……臭い…)

 

 サレヤクトの唾液まみれになるのとは根本的に違う、赤色の死臭。掌にこびりついた血が、脳裏に強烈な刺激を与える。

 リベラルは、人を殺すことに忌諱感を持っていなかった。それは、既に覚悟を決めていたからだ。遅かれ早かれ、この世界でいずれ人を殺すことを、分かっていたから。

 

 だが、覚悟を決めていたからといって、嫌悪感を感じぬ訳ではない。

 

 ただ、気持ち悪かった。殺意を向けられた事が。命のやり取りが。血の臭いが。肉を抉る感触が。死ぬ瞬間が。とても、とても気持ち悪かった。

 こんなこと(殺し合い)を死合う雰囲気でもなかった筈なのに、自身の呪いもあってか、身構える間もなくアッサリと、一線を越えてしまったのだ。

 

 そして、ラプラスの言った通り、リベラルが盗賊ごときに遅れを取ることはなかった。殺し合いなどと表現したが、これは完全に一方的な殺戮であった。

 

「お、おお……」

 

 そんな気落ちをしていたリベラルの耳に、声が聞こえる。幼い声だ。

 そう言えば、この場にキシリカがいたな、と彼女はボンヤリと思い出し、そちらに顔を向ける。

 

「お、おおお……き、貴様、なんということを……! なんということをしてくれたのじゃ…!」

 

 キシリカは震えていた。だが、それはリベラルの呪いに対してでも、ましてやこの惨状に対してでもなかった。

 

「この男たちは、腹の空いた妾に、め、めしを…くぅぅ…めしがぁ!」

 

 やはり、魔界大帝は魔界大帝(バカ)であった。

 場違いとも言えるキシリカの発言に、リベラルは少しばかり気持ちを落ち着けることが、出来たのである。

 

 

――――

 

 

 『魔界大帝』キシリカ・キシリス。

 

 かつて、第一次人魔大戦を引き起こした張本人であり、好戦的な魔王の傀儡に成り下がっていた考えなしでもある。

 勇者アルスによって討伐された筈なのだが、彼女は死んでも1000年ほど経てば蘇るらしい。『復活の魔帝』とも呼ばれる、正真正銘、不死身の存在だ。

 

 そして、オルステッドと同じ、神の血を引く者――魔神の娘である。

 

 キシリスは、直接的な戦闘能力は高くない。だが、真に恐ろしいのは彼女の持つ12の魔眼だ。

 キシリスは、体内で魔眼を生成し、移植することが出来る。その力によって、数多くの魔族を魔眼持ちにし、種族全体の戦力を底上げ出来るのだ。完全なるサポート特化だが、それ故に恐ろしい力である。

 

 

「くぅぅ…腹が空いたのじゃ…誰か…めしを…めしをぉ…!」

 

 そんな魔界大帝は、リベラルの目の前でジタバタと手足を動かし、駄々を捏ねていた。

 そのマヌケな姿は、未来でも晒されることになることを思えば、昔からずっとこのような性格らしい。

 

「なぜ…なぜその男たちを殺したのじゃぁ…」

 

 ぎゅるぎゅるとお腹を鳴らし、グチグチと文句を溢すキシリス。

 

「ぐ……ううぅ……復活してより400年。よもやこんな所で倒れるとはな……」

「…………」

 

 そんな彼女に対し、リベラルは今一度倒れている男たちを眺める。

 割り切らなくてはならないのだ。いつまでもこの気持ちを引き摺っていては、日常を謳歌し、笑うことすら出来ない。遅かれ早かれ、こうなることは分かっていたのだ。

 だから、偽りでもいい。この感情を押し殺し、笑顔を浮かべられるようにならなくてはならない。

 

「……ふぅ…」

 

 それから、リベラルは一度目を瞑り、何か押し留める仕草を見せて、目を開いた。

 

「…ん? おぉ?」

 

 しかし、気持ちを強く持とうとしていたリベラルに、キシリスが唐突に顔を寄せた。

 近くで視線が絡み合う。紫と黒の綺麗なオッドアイだ。そして、右目がぐるんと回り、瞳の色彩が紫色から青色へと変わった。

 

「うっわ…なんじゃおまえ…気持ち悪いのぉ…いやいや、なんじゃこれ、なんじゃこれは、意味が分からんぞ」

「……何がですか?」

「色々と突っ込みどころが多いのじゃが…おまえ、本当にこの世に存在しとるのか? 魂が透けておるぞ?」

「――――」

「それに、お主の体内で恐ろしい気を放っておるのは一体なんじゃ?」

 

 次々と質問を投げ掛けてくるキシリカに、リベラルは答えることが出来ずに、言葉をつまらせる。

 

「…ん? なんじゃおまえ、手が震えておるぞ?」

 

 けれど、そんなことよりも、リベラルは先ほどのことが脳裏に染み付き、離れることがなかった。

 頭では分かっていても、心が言うことを聞かない。リベラルは震える自身の手に気付き、抑えようと反対の手で握るのだが、益々震えは大きくなった。

 その情けない様子に、キシリカは目をパチパチさせる。

 

「もしや、人を殺めるのはこれが初めてなのかの?」

「……ええ、そうですよ」

「むぐぐ…そのような醜態を晒すくらいならば、その男たちを殺さないで欲しかったぞ…」

 

 三人の男たちが死んだことに対し、特に思うことはないのか、キシリカはあくまで己の欲望を優先した発言をする。

 

「まぁ、よいのじゃ。おまえのように震える兵士たちを、妾は見たこともあるからの。何を求めてるのかは理解しておるぞ」

「……そうですか」

「ほれほれ、こっちに来んか。少しくらい慰めてやらんこともないぞ?」

「…………」

 

 リベラルは、言われるがままに寝転んでるキシリカへと近寄った。もしかしたら、目に指を突っ込まれて、魔眼に変えられるのではないかと考えるも、キシリカは盗賊たちから助けられたと思ってすらいないだろう。なので、それはあり得ない。

 結局、よく分からないまま、リベラルは寝転んでるキシリカの目の前で、膝をついた。

 

「よっこいしょ。ふぅ…腹が空きすぎてからだを起こすのも一苦労じゃ」

 

 上体だけを起こしたキシリカは、リベラルと同じ目線になる。

 

「えっと…確かこうじゃったかの……うむ! 大義であった! これでお主は一歩立派な戦士に近付いたのじゃ」

 

 リベラルの頭はナデナデされた。

 

「……何してるのですか?」

「うむ、こうしてやるとの、少しだけ気持ちが楽になると好評だったのじゃ!」

「…馬鹿じゃないですか」

「なんじゃ、文句を言いよってからに。止めてええのか?」

「……いえ、しばらくこのままでいさせて下さい」

「ハッハッハ! 妾の魅力に陥落したのかの? ファーハハハハハ! ファーハハハ! ファーハハアフアガホゲホ……」

 

 空腹が原因なのか、思いっきり噎せてるキシリカを無視して、リベラルは無言で撫でられ続ける。

 

 龍鳴山には、こうして甘えられる存在がいなかったのだ。ラプラスは言うまでもなく、いつも手合わせなどと抜かして、ボコボコにしてくるDV野郎である。ロステリーナに関しては、呪いが原因で近寄れないこともあるが、そもそも甘えてくる側である。

 もし、もしも己の母親がいたのであれば、こうして泣き出したい時や苦しんでる時に、そっと身近にいてくれたのではないだろうか。あり得ないもしもの可能性を思い、なんとなく寂しい気持ちに陥った。

 

 リベラルは自身の母親のことに関して、特にこれといった感情を抱いていない。己が生まれたと同時に死んでいるため、顔すら知らないのだ。よく分からない、と言うのが素直な感想だろう。

 だけど、もしも生きていたのであれば、きっとキシリカのように、頭を撫でたりして甘えさせてくれたかも知れない。それに、鍛練ばかりを要求してくるラプラスを、止めてくれたり。

 リベラルは、静かにキシリカに抱き付き、頭を撫でられ続ける。

 

「おお? 可愛い奴じゃの。うむうむ、これも妾の人徳がなせる技と言うべきかの」

「…………」

「辛いことや苦しいことがあれば、笑えばええのじゃ。どんな時にでも笑え。そうすれば、心が楽になるぞ!」

「……そうですかね?」

「妾がそうだと言えばそうなのじゃ! ほれ、堅苦しい言葉遣いを止めて笑わんか。ファーハハハハハ!」

 

 キシリカは楽しそうに笑う。正直、何一つとして笑う要素はない。それに、笑える心境ではなかった。だが、長年生きてきた彼女がそう言うのであれば、きっとそうなのかも知れない。

 リベラルは心にある様々な感情を振り切り、無理矢理な笑顔を作ってみせた。

 

「…フ、ファーハハハハ!」

「それでいいのじゃ! もっと思いっきり笑え! ファーハハハハハ!」

「ファーハハハハハ!」

 

 二人で大声を出して、笑い合う。

 死体の転がる中で爆笑している二人は、あまりにも異様な光景だったかも知れないだろう。けれど、そんなことはリベラルにとってどうでもよかった。

 笑う度に、心の中にあったしこりが抜け落ちて行き、段々と気楽になってきたのだ。まるで、本当に楽しいことがあったかのように、悲しみや苦しみが塗り潰されていく。まさか、このような幼女に、ここまでの母性があるとは思いもしなかった。

 

「ファーフアガホゲホォ……」

 

 が、キシリカは再び噎せ出す。

 

「……むぅ、無理じゃぁ…もう笑う気力すらなくなってきたぞ…」

 

 それだけを呟くと、先ほどまでの爆笑がピタリと止み、ビターンと地面に倒れてしまう。

 

「こ、これだけやれば十分じゃろ…」

「はい…ありがとう御座いましたキシリカ様…」

 

 キシリカのお陰で、リベラルはいくばか心に余裕を取り戻すことが出来たのだ。本当に、心の底からの感謝の言葉を、口にしていた。

 

「…それより、じゃ。妾はもう腹が空いて動けん…じゃから、おぶってくれんか?」

「私が背中におぶるのですか?」

「そうじゃ。お前があの男たちを殺さなければ、妾は今頃めしにありつけたのじゃぞ…」

「何でそこを蒸し返すのですか…」

「それはそれ、これはこれなのじゃ」

 

 先程まで、そのことを気にするなと言わんばかりの施しを受けたというのに、それをぶち壊す発言にリベラルはゲンナリする。

 

「あの男たちは、キシリカ様に良からぬことを行おうとしていたのですが…」

「構わん! 妾の命を救おうとしてくれたのじゃぞ! 良からぬことの1つや2つ、妾は受け入れておったわ!」

「えぇ…」

 

 キシリカのとんでもない発言に、ちょっぴり引いた様子をリベラルは見せる。だが、少しばかり考えた。別に、あの場にキシリカを放置したところで、何ら問題はないのだ。どのみち、彼女は死んだところでいずれ復活するので。

 しかし、と思い直して、キシリカの姿を眺めた。

 

 黒いレザー系のきわどいファッション。

膝まであるブーツ。レザーのホットパンツ、レザーのチューブトップ。

 青白い肌に、鎖骨、寸胴、ヘソ、ふともも。そして、ボリュームのあるウェーブのかかった紫色の髪と、山羊のような角。

 

 中々素晴らしい幼女である。どちらかと言えば、ロステリーナの方が好みであったが、そのロステリーナは呪いが原因で近寄ることが出来ない。

 だが、キシリカは違う。彼女には、呪いは強く作用しない為か、キスが出来るほど近寄っても平気なのだ。

 思い返せば、今まで癒しがなかった。毎日毎日鍛練鍛練。ラプラスにサンドバックにされては、やりたくもない殺し合いまでさせられたのだ。

 それに対し、キシリカは違う。まるで母親のような包容力と母性を持ち、慰めてくれた。正直、この世界に来てから、あのような気持ちになったのは初めてかも知れないのだ。

 その上、キシリカに飯を食わせれば――何でも一つだけ願いを叶えてくれるのだ。リベラルはどうして食料を持ち歩かなかったのだと、悔しそうに表情を歪める。

 

「畏まりました…では、私がキシリカ様の足となりましょう」

「お?」

「キシリカ様は『千里眼』を持っていた筈です。それを使い、食事のある場所まで案内してください。そこまでお運び致しましょう。一緒にご飯を食べるのです!」

「ほう、ほうほう…いい反応じゃ! 妾はそういう反応を待っておったのじゃ! 妾のことを忘れておる、あやつらとは大違いなのじゃ!」

 

 空腹で動けないと喚いていた割には、それなりに元気そうな様子を見せるキシリカ。だが、リベラルは気にしない。

 

「それより! まずは名を名乗れ!」

「失礼しました。リベラルと申します」

「よし! 知っておるようじゃが、妾はキシリカ・キシリス! 人呼んで、魔・界・大・帝!」

 

 キシリカは地面に転がりながらも、腰に手を当てて、股間を突き出すように胸を張った。

 なので、リベラルは未来のルーデウスの行動をリスペクトし、目の前にあった太ももをペロリと舐める。砂がこびりついていたのか、ジャリジャリした味しかしなかった。現実は無情である。

 

「うひゃぁ! 何するんじゃい! キッタナイのう!」

 

 キシリカは内股になり、なめられた所をゴシゴシと擦りながら、睨んできた。その姿には、何かそそるものを感じていた。

 

 リベラルは、元々常識的な人間であった。特に異常な性癖を抱えていた訳でもなく、ごく普通の感性を持った常人だ。ロステリーナに関しても、単純に可愛いと感じていたから、愛でたいと思っただけである。

 だが、度重なる鍛練の果てに、リベラルの感性は狂い始めていた。愛でたいではなく、ハスハスしたくなっていた。その兆候は、ロステリーナによって芽を咲かせてたのだ。

 極み付けは、先ほどの殺し合い。そして、キシリカの包容力によって、その余計な才能は、完全に開花してしまった。

 

「では、こちらにお乗り下さい。お運び致します」

「うむ」

 

 素早く背中を向け、リベラルは幼女を背中に搭載する。

 

「うむ、うむ…そのまま森の中に行くのじゃ! その先にめしが待っておる!」

 

 ぐるんと瞳を回転させ、『千里眼』を使用したキシリカは、道から外れた場所へと指をさす。

 

「ハッ! 畏まりました陛下! そのめしを奪い取ればいいのですね!」

 

 なんとなく楽しくなってきたリベラルは、ノリノリになって森の中を突き進んで行く。ぶっちゃけてしまうと、今まで抱えていたストレスの反動により、頭のネジが弛んでいた。そして、キシリカに甘えてもいいという思いが、悪く組み合わさっていたのだ。

 不死身の魔帝は、どうやら寛容な存在らしい。むしろ、不死身だからこそ寛容なのだろう。

 恩を返すのに、からだを差し出すことも厭わないとは、幼女の姿で恐ろしいことを言う。こんな幼女を野放しにするのは間違いである。早急に保護しなくてはならない。

 

「うむ、行くのじゃー! ファーハハハハハ!」

 

 こうして、ラプラスに課された試練を途中で投げ出し、リベラルは幼女を背負って走り続けた。

 そしてその光景を、上空からサレヤクトは静かに見守る。その顔は「何やってんだアイツ…」と言いたげであった。




次回はキシリカではなく別の人物とわちゃわちゃします。凛凛しい姉キャラとです。
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