無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

アリエル「トリスティーナ確保したけどもっと盤石な体制にしてからアスラ王国に向かいます」
ギレーヌ「銀緑の伝説はあたしも知っている。一手願おう」
エリス「リベラルに負けて悔しい…」

更新遅れると思ったけど、だいぶ昔(5年前)に作ってた過去話があったのでそれとくっつけて無理やり完成させました。
今言ったように5年前に考えた設定&書いたものが11話に編集もせずに使われてますが、特に違和感ないと思います……ないよね?

こうして考えると、最初に投稿してから5年以上経ってるんですよ…更新遅すぎて草すら生えませんね…。


11話 『セブン』

 

 

 

 シャリーアの郊外にある小屋。

 そこにリベラルは足音を立てながら歩んでいた。

 ナナホシから指定された場所はそこであり、オルステッドと共にそこで待つと記されていたのだ。

 ふたりと会うことはずっと待ち望んでいたことであり、心臓が高鳴って自然と高揚していた。

 

 小屋に辿り着けば、異様な雰囲気が漂っていた。

 初代龍神の血を引くオルステッドの神の魔力がそうさせているのだろうか。

 何かしらの効果線が出ていそうな感じがしていた。

 もちろんそれに怯むことはないし、リベラルは躊躇なく扉の前まで歩み寄る。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 深呼吸をひとつ。

 扉をノックした。

 

「お待たせしました、リベラルです」

「来たか。入るといい」

「はい」

 

 ガチャリと扉を開けば、中にある椅子にオルステッドは座っていた。

 その横に並ぶかのように、ナナホシも椅子に座っている。

 三者面談かな? なんて冗談を思いながら向かいの椅子にリベラルも着席した。

 

 オルステッドは僅かに警戒しているのか、すぐにでも動けるような重心であったが、そのことには触れずに口を開く。

 

「はじめまして、と言うべきですかね。知っていると思いますが私はリベラルです。今回は忙しい中お集まり頂きありがとうございます」

「…………」

「前回の出会いについては、不幸なすれ違いとしてなかったことにしましょう」

 

 争いになった原因は既に分かっていることであり、態々そのことを蒸し返す必要もない。

 サラッと流しつつ、今回来てもらった目的について話しを始める。

 

「お前のことはナナホシやペルギウスから聞いた……ヒトガミを倒すことを目標にしていると」

「ええ、それが私たち龍族の悲願ですから」

「それだけではないだろう」

 

 他の龍族でヒトガミ打倒を掲げている者は少ない。

 明らかに形式的な理由を告げたリベラルに、オルステッドは訝しげに睨み付ける。

 ピリピリした雰囲気が辺りに漂い、隣にいたナナホシは居心地が悪そうだった。

 彼女としてはこんな場所で争われたら巻き添えになってしまうので、逃げ出したい気持ちも湧き出る。しかし、早く話をしたい思いもあり、ジレンマに襲われていた。

 

 そのことを察したリベラルはフッと小さく笑い、無駄な駆け引きを止めることにする。

 

「私がヒトガミを倒したいのは、父親であるラプラスの願いだからですよ」

「ラプラス……『魔神』ではなく『魔龍王』か」

「私の大切な家族です。暴力ばっかり振るってきて何度も逃げ出してやるって思ったりもしましたけど、今となっては微笑ましい過去ですよ」

 

 龍鳴山で過ごした日々は、辛いことも多かった。けれど、それでも幸せな思い出も沢山あるのだ。

 ラプラスを出迎え、サレヤクトに餌をねだられ、ロステリーナに癒やされて。

 狭い世界であったが、それでも十分だった。

 今でも思い返すことが出来る。

 互いに家族として認め合い、わだかまりのなくなったあの日のことを。

 

 そして、全てを失った日のことを。

 思い返せば思い返すほどに腸が煮えくり返る。

 許せない。

 人の大切なもの(ラプラス)を奪い、今も人々の大切なものを壊すヒトガミが憎い。

 

 当時のことを思い出したリベラルは、自身の過去について語っていた。

 龍鳴山にてずっと鍛錬を要求されたこと。

 思わず家出してしまったこと。

 殺されかけたこと。

 仲良くなったこと。

 自身がバーディガーディに敗北したこと。

 父親とサレヤクトを失ったこと。

 そして、誓いを立てたこと。

 

 途中で声が荒くなったり、悔しさで握り締めた拳からも血が溢れ出たりした。

 それでもゆっくりと全て話し、オルステッドも口を挟むことなく聞き続けた。

 

「とまあ、それがここに至るまでの私の歴史ですよ」

「……そうか」

 

 オルステッドはそれ以上何も言うことはなかった。

 彼もヒトガミのことはよく知っているのだ。

 似たような経験もあったし、実際に似たような境遇の者を見たことがあったりする。

 だからこそ、リベラルのその気持ちが本気であることは伝わったし、口を挟むようなこともしなかった。

 

「私からもいい?」

 

 と、そこで今までで黙っていたナナホシが口を開く。

 

「貴方は……異世界人、なのよね?」

 

 ルーデウスに対しても溢していた疑問。

 リベラルが訪れてから真っ先に知りたかったことだ。

 その質問に彼女は特に物怖じせず平然とした様子で答える。

 

「ええ、私は異世界人であり転生者です。ただし、静香のいた日本とはちょっとだけ違う平行世界から、ですけどね」

「平行世界……?」

「言葉通りです」

 

 思っていた答えと違ったことに、ナナホシは怪訝な表情を浮かべる。

 

「じゃあ、何で私のことを知ってるの?」

「転生前の私と静香は親友だったからですよ」

「平行世界から来たって言わなかった?」

「言いましたよ」

 

 ナナホシの疑問はもっともだろう。

 平行世界にいた自分と仲が良かった、と言われても納得出来るような反応ではなかった。

 それに、期待していた答えでもなかった。

 もしかしたら彼女なら転移事件について知ってるかも、と思ったがこれでは期待薄だろう。

 

 そうして僅かに落ち込んだナナホシだったが、リベラルは言葉を続ける。

 

「私が出会った静香は、未来の貴方なんですけどね」

 

 サラッと告げられた言葉に、ナナホシやオルステッドは驚いた表情を見せた。

 

「待って……つまり、どういうこと?」

「本来私という存在は誕生しない筈でした。オルステッド様ならその意味が分かるでしょう」

「………」

 

 話を振られたオルステッドは、その言葉の意味に気付く。

 何度もループを繰り返してヒトガミを倒そうとしている彼は、ループ期間におけるありとあらゆる人物を知っている。

 それこそ、誰と誰がくっつけばどの人物が生まれるかすら知っているのだ。

 ナナホシ、リベラル、そして話に聞いているルーデウス。この3人は彼のループにて一度も存在しなかった人物たちである。

 

 そしてリベラルの発言は、オルステッドがループをしていることを知っていることを告げていた。

 

「本来の歴史での静香は、ルーデウス様や特待生の皆様、そしてペルギウス様たちと協力し、異世界転移装置を作り上げました」

「――――」

「その装置を使った結果、静香は私の元に転移して来た訳ですよ」

「……待って、つまりそれは――」

 

 声を震わせるナナホシ。

 そう、リベラルの言葉から考えられることはひとつしかなかった。

 

「――私は……失敗して知らない世界に行ったというの……?」

「その通りです」

「そんな……」

 

 ナナホシは唖然としてしまう。

 まだまだ先は遠いが、それでも異世界転移装置を作る道筋は見えていたのだ。

 なのに、それが失敗すると前もって伝えられればショックを受けるのも当然だろう。

 自分の努力が全て無駄になってしまったかのような気持ちに苛まれる。

 

 だが、話には続きがある。

 それだけではリベラルがこの世界にいることに繋がらない。

 

「お前がこの世界にいるのであれば、そちらの世界からこちらに来ることは出来ているのだろう」

 

 そのことを疑問に思ったオルステッドが質問していた。

 

「そうですね。私は静香の持っていた異世界転移についての資料や設計図を元に、この世界に転移したんです」

「じゃあ……私は元の世界に帰れるの……!?」

「まあ、失敗したから転移じゃなくて転生しちゃったんですけど」

 

 失敗したことをカラカラ笑いながら告げるリベラルだったが、ナナホシからすれば笑いごとではない。

 転生したということは、つまり彼女は死亡して今のリベラルになったということだ。

 原因は知らないが、それでは帰れると喜べないだろう。

 ナナホシは帰りたいと願っているが、転生した状態で帰りたい訳ではない。

 今の姿のまま日本に戻りたいのだ。

 

 その願いを持っている彼女からすれば、その宣告は絶望そのものだろう。

 そんなナナホシとは対照的に、オルステッドは納得することがあった。

 

 リベラルという存在はイレギュラーであり、正体が何も見えなかった。

 しかし、話を聞く限り異世界とこちらの世界では時間の流れが違うようなのだ。

 未来のナナホシが異世界に行き、その情報を持ったリベラルがこちらの過去の世界にやってきた。

 言葉にすればそれだけのことである。

 

 詳しい原因は分からないものの、異世界とこちらの世界の時間の流れが違ったため、リベラルは過去に転生してラプラスの娘になったのかも知れない。

 異世界を経由した転生のため、オルステッドの持つループの効果をすり抜け、ループ開始地点より更に過去へと干渉することが出来たのではないかと考える。

 もしかしたら、オルステッドの持つループが世界へと影響をもたらすため、そこから何らかの要因が働き転移が失敗して過去へと飛ばされた可能性もある。

 とはいえ、憶測に過ぎない以上混乱させるだけと判断し、彼は言葉にはしなかった。

 

「折角です。異世界での静香の話もしましょう」

「……その話は、必要なの?」

「必要ではありませんよ。ただ私が話したいだけです」

「なら興味ないわ」

「無理ですぅー! 聞かないと私もこれ以上何も話しませーん!」

「…………」

 

 謎のテンションで告げるリベラルに、ナナホシは少しイライラした様子を見せる。

 だが、彼女から色々な話を聞かなければならないことも事実だ。

 嫌そうな表情を浮かべながら、根負けしたナナホシは了承する。

 

「昔々、あるところに私がいました。私は買い物をし、家から帰る途中で――」

「その話し方止めてくれない? 私は真面目に聞いてるのよ」

「……コホン、失礼しました」

 

 彼女からの注意に、リベラルは謝罪しながら気を取り直す。

 そして次は、真面目に話し出した。

 

 

――――

 

 

 リベラルは転生する前、周りからは『セブン』とあだ名で呼ばれていた。

 名前に七という文字が入るためか、自然とそう呼ばれるようになったのだ。

 それはさておき。

  ある程度頭の良い大学を卒業してるのにも関わらず、 周りからは目先のことしか見てないから詰めの甘い奴と言われてる人間だった。

 

 そんなセブンはロマンを求めたのか、 研究職で色々な科学分野の勉強をしていた。とは言っても、周りのレベルに追い付けずに落ちこぼれに近い状態だが。

 そしてその日、セブンは冷蔵庫の中が空っぽだったことに気付き、近所のスーパーへと買い物に出掛ようとしていた。

 

「雨ですか。外に出る日に限って降りますね、全く……」

 

 パラパラと降り注ぐ雨雲を見上げ、セブンはゲンナリした様子を見せる。

 しかし、どのみち外へ行かなければ食事にありつけることが出来ないのだ。デリバリーは割高なので却下である。

 セブンは愚痴を溢しながらも車へと乗り込み、何を食べようかと考えながら走らせた。

 

「我ながら安直な気もしますね……」

 

 買い物を終えて食材を車に乗せたセブンは、自分が買ってきたご飯を思い、苦笑を浮かべる。

 正直、料理をするのが面倒だったので、インスタント系のものを適当に購入しようとしていたセブンだったが、日持ちのするカレーへとシフトチェンジしたのだ。

 やすい、うまい、おおい。

 その3拍子を兼ね備えているものこそ、カレーだろう。

 野菜をタップリ入れれば、栄養も満点だ。鼻歌を歌いながら車を進めていたセブンであったが、その日に運命が変わることとな った。

 

「ん? 誰か倒れてる……?」

 

 家の前へと到着し、駐車場へと車を止めようとしていたのだが、 何者かが家の前にうつ伏せで倒れていたのである。

 車を止めたセブンはドアを開け、雨の中を出歩くことに怠く感じながらも、その人物の元へと駆け寄った。

 

「酔っ払いですか? 邪魔ですよー。そんなところで寝ていたら風邪引きますよ」

 

 元々この場所は住宅街であり、車が暴走出来るほど広い場所でもないし、周囲に荒れた様子はない。

 なので、事故による怪我人でないことは明白だろう。 病人でなければ、倒れているのはただの酔っ払いだと判断したセブンは、メンドクセェなあ……と内心思いながらも声を掛ける。

 だが、声を掛けても反応がなかったので、セブンは仕方なく倒れている者を仰向けにしようとし、そこで初めてその者が女性だということに気付く。

 

「ずいぶん若いですね。酔っ払いではなさそうですが……もしかして病気ですかね?」

 

 見た目的には何処にでもいそうな女子高生くらいの年齢のように見えたが、可笑しなところがあるとすれば、その格好であろう。

 現代人が着用するとは思えない旅装姿だったのだ。ローブのようなものを着ており、何かのコスプレと言われれば納得出来そうな格好である。

 

 そして、まるで天使の羽のような“白い髪の毛”であり、染めているようにも見えない美しい純白さ。

 どこかの漫画から飛び出してきたかのような姿であった。

 

「……何か、面白そうな臭いがしますね」

 

 少しばかり現実離れしたその状況に、セブンは玩具を見付けた子供のような瞳を見せ、倒れ伏せていた少女を看病することにする。

 さっさと警察や病院にでも連れてった方が良さそうだったが、興味が湧いてしまったのだ。

 

 ただの好奇心。

 今のセブンを突き動かしたのは、ただそれだけである。

 こんなことばかりだからこそ、周りから馬鹿にさ れるのだ。

 

 しかし、 セブンはこうした好奇心は人生を楽しむのに必要であり、従うべきだと思っている。もちろん常識の範囲内で、だが。

 

 目の前に倒れている少女に関しても、取り合えず身元の分かる物の確認が取れて、 ただのコスプレイヤーだったりすれば、普通に警察でも呼ぶつもりだ。

 けれど、 何となく予感があったのだ。 この少女はそんなものではない、と。常識では測れない未知である、と。

 

「リュックも持ってるのですか。後で中身を拝見させて貰いましょうか」

 

 少女を家の中へ運び、リュックも運び、車を駐車場に停めたセブンは、意気揚々と家へ帰宅する。

 残るはシトシトと降り注ぐ雨音だけであり、 何事もなかったかのように雨だけが降り続いた。

 

 

――――

 

 

「……ん、んぅ… ここは……?」

 

 目を覚ました少女は、ボンヤリと瞼を開けて天井を眺める。

 そのまま何をするでもなく、じっと廃人になったかのように眺め続けた。それから暫くすると部屋の扉が開き、一人の人物が中へと入って来た。

 

「おや、 目覚めたようですね」

「…………」

「私はセブンと周りから呼ばれてます。 貴方が私の家の前で倒れていたので看病させてもらいました。 それで、貴方の名前は何ですか?」

 

 セブン、と名乗った人物に対し、 少女はボンヤリとそちらを眺めるだけであった。

 そのことをセブンは怪訝に思い、 踏み行った質問をしようと考える。

 

「自分の名前を覚えておりますか?」

「……覚えてない」

「そうですか。貴方の名前は七星 静香さんらしいですよ」

 

 セブンの言葉に対し、 少女は何故分かるのだと言いたげに首を傾げたが、カードのようなものが差し出される。

 少女はそれを手に取って見れば、とある高校の生徒証であることが分かった。

 

 表記されてる名前は――七星 静香。

 

 記載されている写真を見て、彼女は近くにあった鏡へと顔を向ける。

 髪色に違いはあったものの、それは確かに自分の顔であったのだ。

 

「七星さんは私の家の前で倒れていた訳ですが…… どこまで記憶があるか教えてもらっても?」

「…………」

 

 セブンの質問に対し、 七星は考える素振りを見せながら口を開く。

 

「昨日までよ。 気付いたら知らない場所にいて……けど、とにかく帰らなきゃって感じて……。

 どこを目指してるのか分からないまま歩いていたら……ここに辿り着いて……表札を見たときに意識を失ったの」

「……なるほど、昨日までですね」

「えっと、その……態々看病してくださってありがとうございます」

 

 ある程度意識がハッキリとしてきたのか、七星は礼を述べる。だが、セブンは別に構わないと一瞥するのみであった。

 

「七星さんにひとつお伝えすることがある とすれば……貴方はちゃんと家に帰れてるということですかね」

「……? それはどういう……」

「いえ、その生徒証に記載されてる住所なんですけどね、この家なんですよ」

「えっ……?」

「記憶喪失になりながらも帰って来れるとは、人体は神秘に満ち溢れてますね」

 

 軽く笑いながらそう告げるセブンに対し、七星は唖然とした表情を浮かべたまま固まる。

 何故なのかは分からないのだが、七星はどうしても家に帰りたいという気持ちが心の中に燻っていたのだ。そのために、今までずっと頑張ってきたのだから。

 

 けれど、 出された答えは帰れてるのか帰れてないのかよく分からないものであった。そのことに、混乱してしまう。

 

「あの……ここは私の家じゃないの……?」

 

 そんな馬鹿なと思う。

 七星は確かに見たのだ。

 この家にあった表札の名前を。

 

 ――――『七星』と刻まれた表札を。

 

 それに対し、セブンは何が面白いのか愉快そうに顔を綻ばせ、

 

「勿論違いますよ。この家には結構前から住んでますので。

 それに、私には貴方のような娘がいた記憶なんてありません。

 そもそも子供なんていませんし、 まずパートナーもいないので」

 

 更に言えば、 親戚にも『静香』と言う人物はいないのだ。

 もしかしたら遠い親戚にいるのかも知れないが……それはあり得ないという確証がセブンにはあった。

 

「…………どういうこと……?」

「さあ? 私にも分かりませんよそんなことは。 ただですね……貴方が眠っている間に、知り合いの公務員に七星さんのことを調べさせてもらったんですよ。そしたらですね? 何とも驚くべきことが分かったんですよ!」

 

 口を三日月のように歪め、答えた。

 

「――七星 静香という戸籍は存在しなかったのです」

 

 楽しそうな様子を見せるセブンに、七星は不快に感じながらもどういうことなのか考える。

 

 そもそも昨日以降の記憶がないのでロクな考察など出来ないが、セブンはこの家が生徒証と同じ住所だと告げたのだ。だが、 実際には七星の家ではなかった。

 本能が覚えているのか、もしくはただの勘なのか。 けれど、それは自分でも感じていたことなのである――ここは私の家ではない、と。

 

 胸の中に燻るのは、顔を思い出すことの出来ない母親と父親の顔。

 その日は秋刀魚を焼くと言っていた。

 早く帰って来ると言っていた。

 朧気だが、そんなやり取り があったような気がするのだ。

 

 そのことを思うと、胸の奥が締め付けられるような気持ちになり、涙が溢れてしまいそうになる。

 

 帰りたい。

 

 その想いが、 消えない。

 

「驚くべきことは、この生徒証の学校そのものも存在しないことですね」

「学校も……ないの?」

「ええ、戸籍に関しては見落としによる勘違いの可能性もありますが、学校に関しては間違いようがないでしょう」

「そう……」

 

 自然と落胆した声が溢れ出していた。学校もないのであれば、大好きだったあの人にももう会えない。

  存在しているかも知れないけど、もう2度と会えない気がして。

 

 そんな悲しみが溢れているのに、思い出すことも出来ない。

 そのことが余計に辛くて、もどかしくて、苦しかった。

 

「それと、勝手ながら貴方のリュックを調べさせてもらったのですが……こちらも興味深いものでしたよ」

 

 悲しむ七星のことを気にした様子も見せず、セブンはポケットから宝石のような物を取り出し、 彼女へと見せる。

 

「これが何だか覚えておりますか?」

「……魔力結晶」

 

 見たことのない物の筈だった。

 だけど、七星の頭の中にはその使い道がハッキ リと流れ込んでいた。

 知らないのに、知識だけが頭を埋め尽くす。

 けれど、頭の片隅に何かが残っていた。

 魔力なんてないから、ずっと代わりに使い続け、彼と協力するようになってからは消費量が減ったもの。

 別れのあの日に護身用として渡されたもの。

 

 七星はデジャヴのような不思議な記憶にとらわれ、思い出すことが出来ないのに寂しさを感じた。

 ポッカリ空いたかのような喪失感は、ずっと拭うことが出来ずにいる。

 

「なるほど。 魔力結晶は覚えているのですか……知識自体は残っているみたいですね」

「……全然分からないわよ」

「魔素と呼ばれる不思議物質で出来たものらしいですね。科学の根本をぶち壊す存在ですよコイツは」

「…………」

 

 研究者であるセブンからすれば、魔力結晶などと非科学なオカルトの塊である意味不明なものを手に入れ、阿鼻叫喚な気持ちであった。

 だが、 それ以上に興味を抱き、強制的に冷静さを取り戻させるものがあったのだ。

 

「では、ルーデウス・グレイラットという名に聞き覚えは?」

「……分からないわ」

「オルステッドという名は?」

「……分からないわ」

「ペルギウス・ドーラは?」

「…………」

「そうですか……では、最後にもう一人だけ」

 

 少し溜めつくりながらセブンは口を開き、

 

「――篠原 秋人、という名も知りませんか?」

 

 ドン! と床を叩く音が響き渡った。

 七星が怒りの表情を浮かべながら、腕を振り下ろしたのだ。

 先程まで感じられていた寂しさは無くなり、セブンを睨み付けるかのように見ていた。

 

「分からないって言ってるじゃない! 分からない……分からないのよ!

 皆の名前を聞く度に胸が締め付けられて……苦しくなるの……!

 もう、聞かないで下さい……私はそんな人たちのことは知りませんから……!」

 

 七星の激情にセブンは少し呆気に取られた様子を見せ、すぐ病人に対して深く突っ込みすぎたと謝罪をする。

 それからこれ以上のことを訊ねても無駄だと判断し、セブンはどうするべきか思案しながら部屋から出ていった。

 

「もしこれが事実だとすれば……世紀の大発見どころではありませんね」

 

 カレーでも持っていって落ち着いてもらおうと考えながら、セブンは七星のリュックに入っていたもののことを思い、楽しげな表情を浮かべる。どれもこれもが現実離れしたものだ。

 

 存在しない戸籍に学校。

 聞いたこともない物質。

 怪しげなスクロール。

 そして家族宛に書かれた手紙。

 

 結局、篠原秋人という戸籍も存在しなかったし、ルーデウスの前世の家族とやらも見付からなかった。

 それらの状況を鑑みて、七星 静香という人物が何なのか……にわか信じがたいがとある仮説が思い浮かぶ。

 

 即ち――異世界人だと。

 

 無論、それ以外の仮説も山ほどあるのだが、セブンは七星が異世界人だと信じた。

 オカルトを信じるのは学者として失格だろうけれど、その方が夢のある話なのだから。

 

 むしろ、そうあって欲しいと願う。

 つまらない現実より、夢想した方が面白いもの だ。

 

「異世界ですか……もしもこれらが事実であれば……ふふっ、こんなにもワクワクするのはいつ以来でしょうね……」

 

 そしてその手には、本のようなものが握られ――『無職転生』 とタイトルが記載されていた。

 とある転生した人物が、かつての家族宛に書いた書籍。

 

 ルーデウス・グレイラットが書き記した人生の軌跡だ。

 

 

――――

 

 

 セブンがその場から立ち去った後、七星は何をする訳でもなく、虚ろな瞳で虚空を眺める。

 

 七星の記憶にあるのは昨日までのことで、その時は漠然とした気持ちのまま、何も思考することも出来ずに帰路を探していた。

 けれど、辿り着いた先に帰るべき場所はなく、自分の居場所はなかった。

 とても遠い場所に迷い込んでしまい、ここは異世界なのだと告げられたのだ。

 

「……なんでよ」

 

 見知らぬ世界に放り出され、記憶すらも失った。

 何で自分がこんな場所にいるのかも分からず、心の奥を帰郷の気持ちで締め付けられる。

 

「……なんでなのよ」

 

 孤独だった。

 頼れる者もいない。

 不安が七星の胸を押し潰す。

 

「なんでっ! 私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ……っ!」

 

 親の顔すら思い浮かべることが出来ず、訳の分からない状況で昨日以降のことを思い返すことも出来ない。

 なのに、知らない知識だけは頭の中に残っている。

 誰一人として知人を思い出せないのに、そんなことだけは覚えているのだ。

 知らないことを知っていることが気持ち悪くて、思い出したいことを思い出せなくてもどかしい。

 どうして自分がこんな目に遭わなくてはならないのか、行き場のない憤りが心の中をグルグルと駆け巡っていた。

 

「私は何なの……」

 

 自分が何者なのかも思い出せない。世界にたった一人だけ取り残されたかのような孤独感に襲われ、七星の嗚咽が部屋の中に響き渡る。

 

「帰りたい……帰りたいよぉ……」

 

 ずっと消えることのない渇望を口にし、七星は泣き続けた。




※ここから過去編に突入はしません。後は口頭で説明してもらいます。
過去編書こうかと思いましたが、冗長になりそうなのと上手く書けなさそうだったので止めときます。

Q.リベラルの話を少し整理して欲しい。
A.原作二百三十六話のナナホシが転移失敗→セブンの世界にやってくる→異世界転移装置の資料を元にセブンが六面世界に転移する→何らかの要因で失敗して死ぬ→過去に魂が行く→セブン改めリベラル誕生
社長が考察してくれた通りです。

Q.社長今回は大人しいな…。
A.ペルギウスとナナホシから釘を刺されてるので流石に見敵必殺はしませんでした。

Q.なんかリベラルのテンションおかしくね?
A.彼女本人に自覚はありません。作者である私が意図的にテンションバグらせてます。お陰様でナナホシも激おこです。

Q.え?リベラルって七星なの?!
A.七星ですが静香ではありません。ただの七星であり、それ以上でもそれ以下でもないです。

Q.リベラルの前世って男? 女?
A.決めてません。どちらでもいいですが、うぶっぽいところや女性であるナナホシがこれから先家に居付くことを考えれば、女性の方が違和感はないかもしれませんね。

Q.何でナナホシの髪の色が白になってるの?
A.なんでやろなぁ。
ところで話が変わりますが、原作にもいましたよね。髪の色が変わり、記憶も中途半端になった人物が。不思議ですね。
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