無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ルーデウス「はじめまして、よろしくお願いします」
オルステッド「取りあえずアリエルを王にするからよろしく」
リベラル「王にするための情報はルディ様の未来からの日記です。恥ずかしいこともいっぱい書いてますよ!」

執筆していて気付きました。暇なときの方が筆進まないことに。
休み期間中、何か無駄な時間をずっと過ごしてました。やはり、ある程度の忙しさがないと脳細胞は死滅してしまうのか…。
そして、書籍版もついに最終刊が出てしまいますね…。完結するまでに終わらせる予定だったのに、どうしてこんなに時間を掛けてるんだ…。


3話 『旅路の前に』

 

 

 

 オルステッドたちとの話し合いの後、ルーデウスはヒトガミ以外のことで気になることがあった。

 以前からずっとどうすれば良いのか悩んでいたことについて関係がある。

 それは自分の未来についてだ。

 ナナホシの転移装置の開発に最後まで協力することは分かったが、それ以上の情報を何も聞けなかった。

 特に知りたかったのは、シルフィエットやロキシー、エリスたちのことについてである。

 果たして未来の自分は、彼女たちとどういう関係になったのかが気になった。

 

 現在ヘタれたことにより悩んでいたため、これからについての判断材料にしたかった。

 

「ということなんです」

「贅沢な悩みですね」

 

 そのことを伝えると、リベラルは呆れた表情で呟く。

 言葉通り贅沢な悩みだろう。

 複数人からの好意に対し、どうすればいいのかを未来の自分の行動から判断するのだ。

 本来なら不可能な選択である。

 自分の意思で決めろよ、というのが彼女の率直な思いだった。

 とはいえ、気になるのも当然だろう。

 もしもの世界を知りたいのは大半の人が抱く思いだ。

 

「へへっ、おねげぇしやす姉御」

「ふっ……可愛い弟分の頼みです。聞いてあげないこともないです」

「流石です姉御!」

 

 話すだけなら無料である。

 やれやれと首を振りながら、リベラルはどこから話し始めるか考える。

 

「そうですね……まず転移事件後、エリス様を無事にフィットア領まで送り届けると、そこで彼女と添い遂げることになります」

「おお、一緒です!」

「やっぱりエリス様と致しちゃってましたか。彼女とするのは気持ち良かったですか?」

「それはもう最高でした!」

「……何かウザいので肩パンしますね」

 

 宣言通り肩パンすると、ルーデウスは悲鳴を上げながら「聞いてきたのそっちじゃん!」と文句を言うがお構いなしだ。

 ポカポカ殴り、満足したところで続きを話す。

 

「その後、諸事情によりエリス様は黙ってその場から立ち去るのですが……ルディ様は幻滅されたと勘違いして不能になります」

「えっ」

「不能になったルディ様は絶望の中冒険者としての活動を続け、その際に知り合った『カウンターアロー』のサラという女性と結ばれる直前まで行きましたが……不能が原因で破局します」

「ちょっ」

「そしてヒトガミに不能を治す鍵はラノア魔法大学にあると告げられ、そのままここに移住することになりました」

「あああぁぁぁぁ!!」

 

 再び告げられる黒歴史を前に、ルーデウスは悶え苦しむ。

 不能は病気なのだからそこまで恥ずかしがらなくても、などどリベラルは思うものの、その様子が面白かったので何も言わずに微笑ましく眺め続けた。

 まあ不能が原因で破局、なんて確かに情けないかも知れないが、男には時にどうしようもないことがあることは理解してる。

 それにこの世界のルーデウスとは別なのだから、そこまで過剰に反応しなくてもいいだろう。

 

「ところで、ルディ様は現在不能になってたりするんですか?」

 

 リベラルとしては、そのことは普通に心配でもあった。

 何だかんだでエリスとは離れ離れになっているのだ。

 本来の歴史と同じく不能になっていてもおかしくないだろう。

 

 しかし、先程から散々弄り回されてるルーデウスには反撃の好機に見えた。

 仕返しと言わんばかりに暗い表情を浮かべ、視線を自身の股間に向ける。

 

「……実は不能になってるんです。リベラルさんが治してくれませんか?」

「いいですよ。因みに私の握力は恐らく500kgを超えてるんですが、力加減を誤ってうっかり握り潰してしまったらすみませんね」

「ごめんなさい不能なのは嘘です」

「遠慮しなくて大丈夫ですよ。潰れても魔術で治せますから」

「新手の拷問じゃん」

 

 嘘をあっさり見破られたルーデウスは、敢えなく撃沈するのであった。

 とりあえず、そのような感じで未来での出来事を話していった。

 結局3人と結ばれたことは伝えたし、その際にパウロが亡くなったことも伝えた。

 驚いた様子を見せるものの、今は生きてるのだからそれ以上気にした様子はない。

 むしろ、ザノバやクリフの話を聞いて「あいつらとはもっと仲良くしよう」と呟いていた。

 

「それで、参考になりましたか?」

「ええ、まあ……」

 

 元々未来の話をしたのは、ルーデウスがシルフィエットたちとどのように接するのが正しいか参考にするためだ。

 返事をしたものの、まだまだ迷いがありそうな彼に対し、リベラルは怪訝な表情を見せる。

 

「何か気掛かりでもありますか?」

「未来のことは聞きましたけど、現在とは状況が違うので同じようになるか不安で……」

 

 その台詞には、リベラルも「はぁぁ?!!」と顔を歪める。

 ここまで情報を伝え、結果がこれでは文句も言いたくなるだろう。

 何故そこまで腰が引けてるのか一切理解出来なかった。

 

「今度からヘタレウス・グレイラットと貴方の名前を改名しませんか?」

「えっ? それはちょっと……」

 

 こんなにも情けない彼の姿は見たくなかったが、今すぐにそのヘタレっぷりが治るわけでもない。

 我慢しようかと思ったが、思わず文句を言ってしまう。

 

「いいですかヘタレウス様」

「は、はい」

「私の話と今の状況が違うのは当たり前です。

 シルフィエット様はアリエル様の護衛じゃないですし、ロキシー様もシルフィエット様を弟子にしてます。

 それにエリス様も剣の聖地に行ってません」

 

 しかし、それは問題ではないのだ。

 

「彼女たちは貴方に好意があり、アプローチもしてるじゃないですか」

 

 そのことは変わらないのだ。

 3人が好意を抱いているのは、今までのルーデウスの行動があってこそである。

 今の彼が好きなのであり、そこに未来の話は関係ないだろう。

 

「不安に思ってるのは、自分の行動で相手を傷つけてしまうかも知れないと考えてるからですよね?」

「そうです……」

「どのみち先伸ばししても傷つけるだけではないですか?」

 

 行動に移せない気持ちは分かるし、今の関係を崩したくない気持ちも分かる。

 だが、終わりの見えてる関係でもある。

 

「迷っていても結果は分からないままですよ」

「それは分かってるんですけどね……」

「はぁ……じゃあ思い出してください。昔のことを」

 

 ずっとウジウジと言い続けるルーデウスに対し、溜め息を見せるのも仕方ないだろう。

 彼女はブエナ村でのことを話し、自分なりの励ましを送ろうとする。

 

「ゼニス様はどうでしたか? パウロ様とリーリャ様の関係でどう反応してましたか?」

「そりゃあもう、カンカンに怒ってましたね」

「じゃあ、ずっとそうでしたか? パウロ様に愛想尽くしてましたか?」

「そうではないですけど……」

 

 子どものため、という理由もあっただろうが、何だかんだでゼニスはパウロが好きだったのだ。

 彼女がお人好しだったこともあるが、最終的にはちゃんと笑顔で過ごしていた。

 リーリャとの仲も良好だったし、パウロとも上手くやっていた。

 

「大切なのはその後の行動ですよ。ルディ様が誠意を持って接すれば思いは伝わる筈です」

 

 結局、そういうことなのだろう。

 未来のルーデウスは3人に序列など付けなかったし、平等に愛していた。

 現代ではその考えは通用しないだろうが、ここは異世界であり多種多様な思想がある。

 少なくとも、リベラルの目には未来のルーデウスは楽しそうな様子で過ごしていたし、同様にゼニスたちも不満は少ないように見えた。

 

「他の人にも相談してみて下さい。きっと最善の選択に繋がる筈です」

「……分かりました」

 

 今のルーデウスは不安に負けてるだけであり、本心では彼女たちとの関係を望んでいるだろう。

 うじうじしてるものの、今の彼は灰色だった青春を取り戻してる最中なのだ。

 こうした悩みを持つことも青春だと考えているので、あまり邪魔せず見守ろうと考えた。

 

 相談相手もそれなりにいる筈である。

 パウロは二股をした張本人で実例を聞けるし、エリナリーゼからも色々聞けるだろう。

 

 

――――

 

 

 今のところ、リベラルの研究は上手くいっていた。

 ゼニスの治療は順調に進んでいるし、ナナホシの研究も未来と変わりなく進んでいる。

 今のところは転移に失敗した原因がまだ不明なので不安はあるものの、予定通りと言えば予定通りだ。

 オルステッドとの関係も良好で、時おり手合わせなんかもしている。

 現在はあまり大きな布石もないため、彼はこの地にいることが多く、ナナホシも呼んで適当にお喋りに興じることもあった。

 聞くのは主にこの世界に来てからのことだ。

 二人がどんな風に過ごしていたのか純粋に興味があったのである。

 

 そんなこんなで日々を過ごしていた。

 

 変化があったのはしばらくしてからである。

 リベラルの元に、とある男が訪ねてきたのであった。

 ツルッとした坊主頭に、額についてる特徴的な宝石。

 ルイジェルド・スペルディアだ。

 状況は分からないが、彼が唐突に現れたのである。

 

「お久し振りですね、ルイジェルド様」

「ああ、久し振りだな」

 

 別れてからしばらく経つが、彼は変わらぬ様子だった。

 定期的に髪は剃っているためか、ルイジェルドの頭は少しばかり眩しく感じられる。

 いかつく見えるし好みの見た目でもないので、そろそろ髪を伸ばして欲しいというのが素直な思いだ。

 

「ちょっと失礼しますね」

 

 一言断りを入れたリベラルは、魔眼を使用する。

 ルイジェルドの呪いがどうなってるのか確認するため、態々使用した。

 以前に使いすぎたことによる副作用があったものの、治療やこういった機会に使うくらいなら問題はないのだ。

 彼の状態を確認出来たリベラルは、ふむふむと頷きながら口を開く。

 

「既に呪いの効力もなくなっています。髪の毛はそろそろ伸ばしていいと思いますよ」

「そうなのか?」

「ええ。それに私は緑髪が好きなので、その方が嬉しいです」

「そうか……ならば伸ばすとしよう」

 

 ルイジェルドとしては、実用性を重視してるため別にどちらでもよかったのだろう。

 しかし、そのように言われれば悪い気もしない。

 素直にその提案を受け入れた彼は、以前の容姿に戻そうと考える。

 

「それで、ここに来たということは支援者を見付けられたということですか」

 

 旅をしていた頃、ルーデウスの提案によりデッドエンドとしての活動を延長していた。

 スペルド族のいる地域には疫病が蔓延してるため案内出来ないと言われたが、代わりに協力者を見付けるという話になっていただろ。

 差別自体は簡単になくせないが、個人からの差別をなくすことが出来る。

 ルイジェルドは優しいので、人助けにより恩を感じる人は数多くいるだろう。

 

 リベラルの確認に、彼は頷いた。

 

「ああ。事情を伝えたら引き受けてくれた。ビヘイリル王国での医療団が動いてくれることになったな」

「医療団って……一体なにをしたらそうなるんですか」

「ただ困り事を助けただけだ」

 

 本当かよ、とツッコミを入れたいところだが、ルイジェルドは冗談を言わない。

 事実なのだろう。

 それよりも気になることがあった。

 スペルド族の村があるのは、ビヘイリル王国の比較的近くなのだ。

 旅を続けていた彼が、それに気付かず人助けだけをしていたとは考えにくい。

 もしかしたら同族の居場所が分かったのではないかと不安になる。

 

「そして……スペルド族を見つけた」

「やはり、ですか」

「だが、約束は忘れていない。俺はそこには近寄らなかった」

 

 リベラルと交わした約束は、スペルド族の居場所には案内出来ないというものだった。

 疫病が蔓延しているからこそ、不必要な感染を起こさぬためだ。

 彼はその言葉を覚えていた。

 そして、治すための手助けをすると言うこともだ。

 だからこそ、ルイジェルドはここに来たのである。

 

「銀緑、頼む。手を貸してほしい」

 

 彼はとても不安そうな表情だった。

 リベラルにもやることがあり、まだそれが終わっていないことも分かっている。

 断られてもおかしくない状況なのだ。

 

 そんなルイジェルドに対し、リベラルは笑顔を見せる。

 何百年も探し求め、やっと見付けた光明なのだ。

 それが失われるかも知れない不安を、彼女は知っているのだから。

 

「もちろん、構いませんよ」

「……助かる」

「感謝は早いですよ。状況を教えて下さい」

「分かった」

 

 彼から話を聞くと、想像以上に状況を進めてることが分かった。

 どうやらその医療団たちは、既にスペルド族の村に向かっているらしい。

 そこまでしてるなら自分が手助けする必要もない気がするものの、何が起きていたのか興味もあるため向かうことに異論はなかった。

 リベラルは病気方面に対する知識が少ないため、知見を広げるためにも同行したかったのである。

 

「取りあえず、準備や報告する必要がありますので、出発は明日でよろしいですか?」

「ああ」

 

 ルイジェルドと共に行くのであれば、ペルギウスにお願いしてビヘイリル王国の近くまで転移することは出来ない。

 転移遺跡も近所にある訳ではないため、それなりの時間この国から離れることになる。

 大体どの程度の時間離れるのか、伝える必要があるだろう。

 それに、ついでと言っては何だがこの機会に行くべき場所もあった。

 

(静香のことも、そろそろ対処しないといけませんからね)

 

 異世界人であるナナホシは、この世界に存在する魔力を一切持たない人間であり、発散させることが出来ない。

 その魔力が蓄積することによって、様々な病気を引き起こすドライン病になってしまう。

 現代で言うところのエイズに近い症状が発生するのだ。

 魔力が蓄積する限り発症する病気であるため、完治させることは出来ない。

 ナナホシに肉体改造でも施せばその限りでもないかも知れないが、流石にそんなことをする気はない。

 一先ずの対処法として、ソーカス草と呼ばれるものを摂取することで魔力の排泄を促すことが出来る。

 リベラルは遠出をするこのタイミングで、ソーカス草を取りに行きたかったのだった。

 

 以前にも伝えたことであるが、ソーカス草は環境を整えないと栽培出来ない。

 そのため、今までずっと旅をしてきた彼女は手元に用意することが出来なかったのだ。

 

「明日の日の出には出られるようにしますので、その頃にまたここに来て下さい」

「分かった。だが、離れることを伝えるのだろう?」

「そうですが、どうしましたか?」

「離れる理由である俺がいなければ不義理だろう。途中まで同行する」

 

 ルイジェルドの言うことは尤もだ。

 オルステッドは呪いの関係があるため見送るが、パウロには挨拶すべきだろう。

 ゼニスのことを診れなくなるため、彼から事情を説明するのが筋である。

 

 そういうこともあり、ルイジェルドと共にパウロの家へと向かった。

 しかし、意外と言うべきか話は特に難航することなく進んだ。

 元々はルーデウスの恩人であり、彼もまた家族捜索の貢献者である。

 パウロも悪い顔は見せず、リベラルが離れることを受け入れた。

 

「じゃあ、私は次の場所に向かいますね」

「分かった」

「おう」

 

 ルイジェルドはその場に残ってパウロたちと話をすることにしたようだ。

 ミリスではあまり会話出来てなかった様なので、魔大陸でのルーデウスとの旅路を聞きたいらしい。

 いつの間に懐いていたのか不明だが、ルイジェルドの背中にしがみついてるノルンを見ながら次の場所へと向かった。

 

 辿り着いた先はナナホシの部屋である。

 外出することが少ない彼女にも伝えておく必要があるだろう。

 ノックをすれば返事があったため、リベラルは中へと入る。

 相変わらず散らかった部屋であり、端っこの方で窓の外を眺めながらナナホシは椅子に座っていた。

 

「黄昏れてますね」

「休憩中よ。気分転換だから気にしないでいいわよ。それで、どうしたの?」

「ええ、実はしばらく離れることになりまして」

 

 どこかムスッとした様子の彼女を傍目に、リベラルは単刀直入で用件を伝える。

 

「離れる? どれくらいの時間?」

「ここより更に北東にあるビヘイリル王国に向かった後、別件で魔大陸まで行きます」

「…………」

「1年も掛からないと思いますが、半年以上は掛かる予定です」

「……そう。分かったわ」

 

 ある程度の時間を伝えたが、彼女は思ったより平静であった。

 本来の歴史から考えれば、別にリベラルはいてもいなくても研究に支障は出ないのだ。

 特に手伝ってくれる訳でもなく、ただ研究過程を観察してるだけの人である。

 当たり前と言えば当たり前だが、離れるからと言って困ることはないのだ。

 むしろ、リベラルの目的である研究過程の観察に支障が出るのではないか? と逆に心配されるのであった。

 

「あの、それだけですか?」

「……何が?」

「もっと寂しがってくれてもいいんですよ?」

「別に私は貴方とそこまで深い仲でもないのに?」

「ひどっ!!」

 

 ナナホシは「冗談よ」と言いながらクスクス笑う。

 ブラックジョークではあったが、リベラルもそんなことでへこたれるほどのメンタルはしていない。

 そもそも彼女がとても強いことは知ってるのだ。

 何の力も持たないナナホシが心配したところで意味などないだろう。

 

「まあ、なるべく早く帰ってきてね」

「!!」

 

 その言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

「任せて下さい! 秒速で帰ってきますから!」

「……ゆっくりでいいわよ」

「またまたー。照れちゃちゃってー」

「うざ」

「私、この旅が終わったら静香に結婚を申し込むんです。返事は帰ってきてから下さい」

「お断りに決まってるじゃない」

「そんなー」

 

 なんて馬鹿なやり取りをしつつ、しばらく会話を楽しんだリベラルは次の場所へと向かう。

 オルステッドのいる小屋だ。

 彼はリベラルから受け取った本来の歴史の情報を元に、これから先の布石について一度考え直している。

 そのため、最近はこの地にいることが多かった。

 

 早速辿り着いたリベラルは、小屋の中からオルステッドの気配があることを確認する。

 そのままバンッと扉を開いて中へと入っていく。

 

「たのもー」

「……そんな性格だったか?」

「たのもーたのもーたのもー!」

「静かにしろ」

 

 流石に鬱陶しかったのか、リベラルは黙らされてしまう。

 表情はいつもと変わらず怖い顔のため、怒っているかどうかの判別はつかなかい。

 ただ、彼女の予想では別に何も怒っていないだろうと思っていた。

 

「社長、お願いがあります」

「社長……?」

「将来建設するオルステッドコーポレーションの社長なのでオルステッド社長です」

「意味が分からん」

「まあ、それはさておき。少しばかり遠出する用事がありまして」

 

 彼であれば、もしかすると解決法を知ってるのではないかという期待を込め、ルイジェルドのことやスペルド族の元に行くことを伝える。

 ループしてきた中で、間違いなくスペルド族の事情は知っているだろう。

 どうすれば治せるのか聞ければ、到着してからも時間を掛ける必要もないのだ。

 そんな期待を込めて伝えたのだが、オルステッドは難しい表情を見せていた。

 

「スペルド族の村か……」

「……その反応、治療方法は知らなさそうですね」

「そうだ。全ての解毒魔術を試し、治る可能性のある薬を全て試した。だが、治らなかった」

「なるほど」

 

 そう言われると困ってしまう。

 リベラルも別に病気に対して詳しくないのだ。

 未知の病などであれば、対応できるとは言えない。

 

「ちょっと確認したいんですけど、オルステッド様って魔石病とか治せますか?」

「いや、無理だ。知っての通り、魔石症はそもそも掛かるのに特殊な条件を満たす必要があり、遭遇例自体少ない。

 そして、治すのには神級の解毒魔術を使わねばならず、多大な魔力を必要とする。

 それならば、そもそも魔石病にならないようにした方が効率が良かったからだ。

 故に、俺は魔石病を治せない」

「……分かりました。ありがとうございます」

 

 彼女が唐突にそのことを確認したのは、未来で発病する可能性を考慮してのことだ。

 魔石病はネズミを媒介にする。 

 子宮の中にいる胎児にしか感染せず、経口感染しかしない。菌も長生きせず半日程度で死滅する。

 そして“雪国であるラノア王国に、ネズミは存在しない”。

 本来の歴史にてソーカス草を取りに魔大陸へと向かったルーデウスたちだが、帰還した際にネズミが紛れ込んでいたのである。

 それによってロキシーが魔石病に掛かるのだが、オルステッドが治せない以上、絶対に予防しなければならない。

 

 彼もそのことを警戒してることに気付いたのだろう。

 フッと笑いながら、安心させるかのように声を掛ける。

 

「ルーデウスが聖獣を召喚した以上、ネズミが紛れ込んだところで問題はない」

「まあ、それもそうですね」

 

 聖獣レオがいるため、そもそも家の半径2キロメートルは野良猫すら寄り付かなくなるのだ。

 ネズミのような小動物が寄り付くわけもなかった。

 すぐに逃げ出すだろう。

 

「それで、スペルド族の村はどう考えている?」

「実際に見てみなければ分かりませんが、治せるとは思ってますよ」

「何故そう思う?」

「それが私の生み出された存在理由だからですよ」

 

 元々リベラルは、ラプラスの保険として生み出された。

 その本質は『ありとあらゆる技術の進化』である。

 確かにループをしているオルステッドに対し、その保険はあまり意味がなかったのかも知れない。

 しかし、ループ開始地点より過去から誕生したリベラルは、オルステッドの持ち得る技術とはまた別の技術を持つのだ。

 どちらの技術の方が優秀かはさておき、彼の知らない技術を持っていることは確かである。

 

 だからこそ、オルステッドとは違う視点で病気に対処出来るのではないかと考えていた。

 

「もちろん、私の持つものは全て社長に伝授しますから安心してくださいね」

「……そうか」

「ああ、でも伝授する訳にいかないのもありました」

 

 リベラルが思い浮かべるのは、自身の持つ禁じ手や奥の手についてだが今はいいだろう。

 他にも話すことはあるのだ。

 

「オルステッド様も来られますか?」

「いや、いい」

 

 折角なので彼も誘ってみたが、生憎断られてしまう。

 

「しばらく離れるのであれば、俺もこのタイミングに片付けられるものは片付けておこう。1年以内には戻るつもりだ」

「布石潰しですか」

「ああ。そろそろ動かねばならん」

 

 そういう事情であれば仕方ない。

 オルステッドがこの地にずっと留まるには、準備がまだ足りないのだから。

 本来の歴史では事務所を作り、その地下に世界各国の主要地に転移魔法陣を作ることになる。

 拠点と移動手段を盤石にするまでは、どうしても不在の時間が増えてしまうのだ。

 

「ルディ様はどうしますか?」

「この状況で付いてこさせてもどうしようもないだろう。拠点作りに力を入れてもらうしかあるまい」

「お留守番ですね」

 

 遠出させるのは、本来の歴史通り大学を卒業後でいいだろうとオルステッドは考えていた。

 今はリベラルがいるため、無理にルーデウスを動かす必要もないのだ。

 それに、アリエル王女の動向を見守っているだけでも十分な仕事である。

 彼女をアスラ王にする方針は伝えているため、その手伝いをするのがいいだろう。

 

「それに、俺の呪いを抑えれるようにする必要もあるからな」

 

 他者に恐れられる呪いを持つ彼は、クリフの協力によってその呪いの効果を抑えられるようになる。

 そのための協力を得るにも、ルーデウスの力が必要であった。

 もちろんリベラルも作る予定ではある。

 しかし、ゼニスのことやルイジェルドのこと、そしてナナホシのこともあるためクリフの協力はやはり欲しかった。

 

「取りあえず、ビヘイリル王国の近くと魔大陸の2つに転移魔法陣は設置しときますよ」

「頼む」

 

 そうして、リベラルの準備は整うのであった。




Q.ヘタレウス・グレイラット。
A.正直に言いますと、ここまで引き伸ばす予定ではなかった。もっと心情を具体的に表現して既にシルフィとくっついてる予定でしたが、自身の力不足により出来ませんでした。
どちらの子を選ぶか、なんて状況やいっそハーレムでも作ろう!なんて状況をリアルで体験したこともないので、全然想像出来んのですよ。
ちゃんと内面まで書ききった孫の手さんは本当に凄い。

Q.オルステッド社長魔石病治せないんか。
A.独自解釈です。作中で説明したように、オルステッドは魔力の回復が遅いため誰かの治療のために神級魔術を使用するとは思いません。
また、男性であるため妊娠もしないので自身に使う機会も皆無。
誰かに使ってもらうにしても、流石にハリーポッター並の分厚い本を全て写本して渡せるとは思えませんし、何より呪いによって他者との交流が困難です。
それなら、そもそも対象者が魔石病にならないように布石を打つのが道理でしょう。
設定だけ見れば治せるとは思いますが、私の作品では治せないことにしました。

Q.リベラルはっちゃけてるなあ…。
A.ナナホシに対しては過去の交流があったことや、帰れないことへの焦燥感を和らげるために明るく振る舞ってます。
同様に、オルステッドに対してもループをし続けて孤独に生きてきたことを知ってるため、明るく振る舞ってます。
もちろん、自身の性格ありきなので無理をしてるという訳でもありません。
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