無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

アトーフェ「リベラルにボコられた」
リベラル「アトーフェをボコって親衛隊を解放しました」
キシリカ「バーディが見当たらないのじゃ」

お待たせしました。そして実習もようやく終わりました。でも国家試験が待ってます。やったね!
4月には資格を持って働きますが、ずっと勉強しながら働く必要があるから結局時間がない悲しみ。完結まで走るんだよォ!


7話 『不自然』

 

 

 

 ――時は遡り、ラノア王国での話だ。

 

 リベラルが離れてから数ヶ月ほど経過していた。

 オルステッドも既にラノアから離れており、ルーデウスはのんびりした時間を過ごしていた。

 

 シルフィエットやロキシーと共に学校へ向かい、友人であるザノバやクリフと雑談し。

 前世の頃には考えられないほど充実した時間を過ごし、青春を満喫していた。

 皆と食事を食べながら、ルーデウスはそんなことを思う。

 自分の歩んできた道のりは無駄ではなかったな、と。

 

 毎日の日課として鍛錬し、学校で勉強し、研究し、そして遊んで学校が終わる。

 家に帰れば家族と穏やかな時間を過ごして。

 前世では途中から出来なくなったことだ。

 

 その日も当然ながら学校で過ごしていた。

 

「ふわぁ……」

「眠そうですな師匠」

「ああいや、知ってる内容だったからつい、な」

 

 講義中に欠伸をしていたルーデウスに、ザノバが声を掛ける。

 ブエナ村にてロキシーやリベラルから魔術を学んでいたため、時おり知っている講義内容のときがあるのだ。

 無論、知らない内容もあるため退屈という訳ではないが、気が抜けてしまうのも仕方ないだろう。

 そもそも緊張して受ける必要もない。

 上級までは数が多すぎるため覚えていないものも多いが、それでも基本をマスターしてれば流用出来るものも多くある。

 魔術に関しては成長が止まってきてるように感じているものの、リベラルやオルステッド曰く「魔術に関してはほぼ最上位の実力だろう」と言われた。

 戦闘力を伸ばしたいのであれば、新しい魔術を覚えるのではなく経験を重ねればいいとのことだ。

 

 実際に接近戦になった際、魔術は攻撃までが遅いため剣術を磨く方がいいだろう。

 引き出しを増やすにしても、数が多ければ多いほど判断が難しくなる。

 オルステッドは『泥沼』で距離を稼ぎ、『岩砲弾』で攻撃するだけで大半は完封出来ると言っていた。

 もちろん状況に合わせた最適解を選べれば一番だが、基本はその組み合わせを軸にすれば問題ないらしい。

 

「ザノバ、今日は一階で食べようか」

「構いませぬぞ」

「ぐらんどますた、りょうかいです」

 

 昼食時、ジュリが三階の食堂を使えないため一階の食堂へと向かう。

 何故かこの学校の番長になってしまったため、人混みになっていても道を譲られるのはご愛嬌だ。

 空いてる場所を探してキョロキョロしていると、どこかから声を掛けられる。

 

「あっ、ルディ! こっちこっち!」

 

 遠くから手を振りアピールしてくるのは、シルフィエットだ。

 最近の彼女は男を侍らかして逆ハーレムを築いていたため、そちらに向かうことに抵抗してしまう。

 彼女は学校に入学してからモテるようになったらしく、必ずといっていいほど男が近くをうろついていた。

 そんな状況にモヤモヤしてしまうが、シルフィエットは押して駄目だったので引いてるらしい。

 因みに、それはエリナリーゼからの談である。

 

 このままではNTR同人誌のような展開になってしまうのではないかという焦燥感もあるが、結局ヘタレてしまいアタックすることが出来ずにいた。

 彼女の元へと歩めば、人混みが割れる。

 

「おい、ルーデウスだぜ……」

「くそぅ、シルフィちゃんに好かれてるとか氏ね!」

「やめろ! 聞かれたら殺されるぞ!」

 

 そんなヒソヒソ話をされるが、それは入学してから何度も経験したことだ。

 小さな溜め息を溢しながら、シルフィエットの元へと向かう。

 

「ねえルディ。アリエル様が生徒会室に来て欲しいって言ってたけど、何かしたの?」

「え? いや別に何もしてないけど……多分」

「うーん、怒ってたりとかはしてなかったから勧誘だと思うよ」

 

 王位継承のために、現在のアリエルはまだまだ支援者や仲間を募っている途中だ。

 ルーデウスも『魔術王』なんて大層な二つ名があるため、これまで何度もアプローチを受けてきた。

 最終的に彼女をアスラ王にする方針になってるものの、オルステッドやリベラルからは「命を懸けられるほどの価値があると思うまで断ってもいい」と言われたのだ。

 別にアリエルと親しいわけでもないし、政治に関わりたいとも思ってない。

 そのため、曖昧な返答で濁し続けてる状況だった。

 

「今日は別の用事があるから行けないと思う」

「そっか。それならボクから伝えとくよ」

 

 そう告げた彼女に、ルーデウスは首を傾げる。

 王女の伝言係みたいポジションに彼女はなってしまってるのだろうか、と。

 

「シルフィはアリエル王女とよく話したりするのか?」

「うん、不思議と気が合うんだ。身分も何もかも違うのに、なんでだろうね」

「勧誘とかは受けてないのか?」

「受けてるけど、ボクはまあ……今はいいかなって」

 

 ルーデウスの影に隠れてはいるものの、彼女も聖級魔術師なのだ。水王級にも既に至っている。

 それならば勧誘されていてもおかしくないだろう。仲も良いなら尚更だ。

 シルフィエットは元々気の弱い性格であるため、争い事も苦手だろう。断ってるのも頷く話だ。

 

「余にも支援を願われましたが、断っております。少なくとも、師匠が手を貸すまで干渉しませんぞ」

「ぐらんどますたに、したがいます」

「あ、うん。別に俺を理由にしなくてもいいぞ」

「何を言いますか師匠! 余は師匠にどこまでも着いていきますぞ!」

 

 熱く語るザノバに呆れつつ、彼は食事を食べ始める。

 ジュリもザノバにベッタリなため、変な影響を受けなければいいが……なんて思うが、ジンジャーが教育してるので大丈夫だろう。

 

 そんな感じで会話を続けた。

 

 昼食が終わればシルフィエットと別れ、ザノバと別の場所に移動する。

 この大学では研究も行えるため、最近の午後は授業ではなく彼と共に研究に勤しんでいるのだ。

 研究内容はリベラルから貰った資料を元にした自動人形、及び魔導鎧についてである。

 どうやら未来の自分が作ることになるらしいもので、どちらも有用性の高いものだ。

 魔導鎧は大幅な機動力と防御力、そして攻撃力を兼ね備え、自動人形は義手などの作成に役立つ。

 ロケットパンチを撃ってたらしいので、取りあえずその機能も搭載する予定である。

 リベラルの渡した資料にはザノバも大興奮し、順調に制作が進んでいた。

 

 時間になれば帰宅準備をし、学校の外へと向かう。

 ザノバは少し居残りをするとのことなので、ひとりで外へと向かうこととなった。

 その道中にて、彼は青髪の少女――ロキシーとバッタリ出会う。

 

「ロキシー先生! どうしたんですか帰らずに?」

「あぁ、ルディですか。アリエル王女に会いに行く途中なだけです」

「ということは、勧誘?」

「ええ、そうです。水王級魔術師としての腕を見込んで、アスラ王国で弟子の育成や教育をしませんかと誘われました」

「流石は先生! 俺の尊敬する人です!」

「何言ってるんですか。ルディだけでなくシルフィも誘われてることは知ってますよ」

 

 小さく溜め息を溢す彼女に対し、ルーデウスはとんでもないと言わんばかりに顔を振る。

 

「確かに誘われましたけど、そんな教育をしてくれなんて言われてませんよ」

「では、なんと?」

「護衛を依頼したいって言ってました」

「……そうですか」

 

 王位を巡った争いが起きていることは知っているため、ロキシーは同情的な視線を向けてしまう。

 報酬はかなり良さそうだが、その分のリスクが高すぎる。

 もしも自分が誘われていれば、間違いなく断るだろうなと思った。

 

「それで、先生はその誘いを受けるつもりですか?」

「……正直、悩んでます。最近ここに教師として就任したので今すぐという訳ではありませんが、条件次第では将来的にそちらに移るのも悪くないんじゃないかと考えてるので」

「えっ!?」

 

 彼女の返答にルーデウスは思わず驚いてしまう。

 まさか悩んでいるとは思いもしなかったのだ。

 

 ロキシーがいない学園生活を想像すると、胸の奥が締め付けられるかのような思いになってしまう。

 しかし、自分が彼女を止める資格もない。

 結局、そのことに対して「もしいなくなったら寂しいです」と言うことしか出来なかった。

 

「ところでルディ、話は変わるのですが」

「なんでしょうか」

「前々から思ってましたが、少々わたしのことを過大評価し過ぎてるように思えるんです」

「そんなつもりありませんが?」

「そうですか?」

「先生の素晴らしさは俺ごときの言葉では言い表わせませんからね、あれでも足りないぐらいです」

 

 ルーデウスのその言葉に、ロキシーはジト目で見つめる。

 どうしてもからかわれてるようにしか感じられないのだ。

 

「以前のことですが、授業をしようとしたら生徒から怯えられて授業になりませんでした」

「ロキシー先生の素晴らしさが分からないなんて徳が足りませんね。どこのどいつですか? 俺が言い聞かせますよ!」

「そう、それですよ! 何ですか徳が足りないって。私のことを神様か何かと勘違いしてませんか?」

「ロキシー先生は神じゃないですか」

「えっ?」

「ロキシー先生は神じゃないですか」

「えっ? ……えっ?」

 

 血走った目でそのようなことを告げる彼の姿に、ロキシーは困惑と僅かな恐怖を覚えてしまう。

 自分としては特別なことをした記憶はないのだが、いつの間にか家庭教師として教えていたことが崇拝されてるのだ。

 何がどうなってそうなったのかが理解出来ないのも仕方ないだろう。

 その後にルーデウスを弟子にしたリベラルに対し、そのような様子もないため余計に不可解だった。

 

「……と、とにかくわたしのことを大袈裟に吹聴しないように!」

「大袈裟にした記憶はないですけど」

「わたしが困るので止めてください。いいですか?」

「むぅ……分かりました」

 

 そんな感じで、ロキシーとの会話は終わった。

 彼女の素晴らしさを人々に伝えられないのは悲しいが、(ロキシー)の言葉なのだから止めるしかないだろう。

 嫌われたくはないので、大人しく引き下がった。

 

 

――――

 

 

 家へと帰れば、庭でパウロがレオへとブラッシングを行っていた。

 毛玉の塊であるため、時おりしないと家の中が抜毛まみれになるのだ。

 特に当番などは決めてないが、パウロが一番レオへと世話をしていた。

 そのレオはウトウトと頭を揺らし、気持ち良さそうに受け入れている。

 

「おう、ルディ。おかえり」

「ただいま父さん」

 

 帰宅してきた彼に気付いたパウロが声を掛けると、ブラッシングされていたレオも気付く。

 

「グルル……」

 

 それと同時に立ち上がり、ルーデウスへと唸り声をあげるのであった。

 最早いつものことと言える光景だ。

 結局、レオは召喚してからというものの、どういう訳かルーデウスに対してずっとそのような様子を見せていた。

 特に危害を加えるといったことはないものの、かつてのドルディア族の村のようにすり寄ってくることはなかった。

 

「こらっ、レオ! いつも言ってるじゃないか!」

「くぅん」

 

 パウロに叱られ、しょんぼりした様子を見せるレオ。

 しょんぼりしたいのはルーデウスの方であった。

 

「なあルディ、本当に何したんだ?」

「何もしてないよ……多分」

「本当か? ドルディア族の村で色んな子たちにお手つきしたんじゃないだろうな?」

 

 冗談めかして告げるパウロだが、もちろん本気で言ってはいない。

 大森林では人攫いたちと戦っていたことを知ってるからだ。そして、北聖ガルス・クリーナーを退けたと聞いた。

 ルイジェルドからもその話を聞いてるため、嘘だとは思っていない。

 魔術師対剣士であり、恐らく乱戦の場であろうことは想像できる。ハッキリ言ってルーデウスが死んでてもおかしくなかっただろう。

 そんな状況下で、態々聖獣に何かしたとは考えにくい。

 

「なあレオ。ルディが一体何やったんだ?」

「ワンッ!」

「何言ってるか分かんねぇ」

 

 当然ながら言葉が通じる訳もなく、小さな溜め息をこぼす。

 ルーデウスもそのやり取りには慣れてしまったため、苦笑を浮かべるだけだ。

 

「まあ、今度獣族の友人を連れてきてみますよ」

「そうか。それで解決出来たらいいんだがな」

「そうですね」

 

 リニアとプルセナならばレオの言葉も分かる。

 今まではパウロにからかわれることを嫌って連れてこなかったが、そろそろいいかな、なんて思う。

 まあ、あのふたりを連れてきてもロクなことにならなさそうだが。

 

「お帰りなさいませ、ルーデウス様」

「ただいまリーリャさん」

 

 帰宅すればゼニスを車椅子に乗せたリーリャが出迎える。

 リベラルから引き取った後、彼女はゼニスの世話を中心に働いているが、家のメインは既にアイシャが行っていた。

 ノルンは基本的にパウロから剣術を習っており、ラノア大学に入学するため勉強も行っている。因みに、来年入学予定だ。

 時間がある時だけだが、ルーデウスはふたりに魔術を教えたりなんかもしていた。

 

 その後はご飯を食べ、大学での話をしながら家族と談笑する。

 これがルーデウス・グレイラットの一日であった。

 

 

――――

 

 

 数日後、ルーデウスは生徒会室へと向かっていた。

 以前にシルフィエットから聞いていたアリエルからのアポである。

 話の内容は分かり切ってるが、ヒトガミとの戦いに必要なことなので向かう。

 

 辿り着いた先でノックをし、返事があれば中に入る。

 机の中央にはアリエル。その両隣にルークとデリックが立っていた。更にその後ろにはトリスティーナが控えていた。

 彼らに対して軽い会釈をし、ルーデウスはアリエルに視線を向ける。

 

「来るのが遅くなって申し訳ないです」

「いえ、構いませんルーデウス様。こちらの都合で来てもらってますから」

「それでも来るのが後日になってしまいましたので」

 

 別に来ようと思えば来れたのだが、自分のわがままで後回しにしてしまったのだ。

 形だけになろうとも謝罪はするべきと考え、アリエルに頭を下げた。

 

「それで、本日の用件は」

「予想しているでしょうが、ルーデウス様の勧誘です」

「はぁ」

 

 それは既に何度も繰り返されたやり取りだ。

 アリエルは過去にいくつもの条件を提示した。

 富、名誉、権力……そのどれもにルーデウスは首を縦に振らなかった。

 

 いい加減諦めるべきかと彼女も考えていたが、リベラルから彼の協力を引き出せないならアスラ王になるのは厳しいと言われたのである。

 リベラルが説得すれば確かに協力するだろうが、大魔術師の一人くらい己の力で勧誘出来ないようでは王としての資質は未熟と言わざるを得ない。

 そうした事情もあり、アリエルは諦めずに勧誘を続けていたのだ。

 

「ルーデウス様は無欲なのですね」

「いえ……別にそんなことはないですけど」

「ほう、例えば?」

「例えばというか、平穏に暮らせれば十分ですね」

「それを無欲というのでは?」

「そうかも知れませんが、争いが増えたからこそ望んでるんです」

 

 その返答に彼女は目を細める。

 ルーデウスはヒトガミと戦うことを決めた以上、戦いから逃れられない運命となった。

 元々彼は争い事は好きではないのだ。

 アリエルに協力して大きな報酬を貰ったりすれば、それこそ新たなトラブルの元になりかねない。

 

 ルーデウスの返答は、政治的なことに関わりたくないという答えであった。

 

「それは困りましたね」

 

 その意図に気付いた彼女は、苦笑しながらも凛とした雰囲気を崩さない。

 

「ところでルーデウス様」

「はい」

「転移事件の際、魔大陸にて『デットエンド』を名乗ってたらしいですね」

 

 唐突な話題に、彼は疑問を浮かべながらも頷く。

 

「そうですけど……それがどうかしましたか?」

「当時のメンバーは、シルフィエットとロキシーのふたりではないと聞きました」

「……?」

「エリス・ボレアス・グレイラット。彼女と共に行動していたそうですね」

 

 デットエンドはルーデウスが冒険者として名乗っていたパーティ名だが、アスラ王国からメンバーが変わっている。

 そのため、ラノア王国では彼が元々は3人パーティであることを知らない人が大半であった。

 

 とは言え、特に隠していたことではない。

 エリスの名前が出たことに驚くが、それがどうしたのだろうとしか思えなかった。

 

「エリス様ですが、今は私と共に行動していることをご存知ですか?」

「……え? そうなんですか?」

「現在は王国の方にいますが、私の後ろで控えているトリスティーナをこの地まで護送して下さいました」

「エリスが……そうですか……」

 

 アリエルの言葉に、ルーデウスの脳裏にかつての旅路が駆け巡る。

 初体験後に去ってしまったことはショックだったが、事情についての推測が出来てからは立ち直ることも出来た。

 

(……そっか、やっぱりエリスはフィリップを助けに行ったんだな)

 

 ようやく知ることの出来た事実に、彼はホッとした気持ちとなる。

 少なくとも、自分が下手くそだったから立ち去った訳ではないのだ。

 それだけでも安心出来た。

 

「エリスは、元気でしたか?」

「元気かどうかは分かりませんが、激しい戦いを乗り越えてきたそうです」

「激しい戦い……そりゃ戦いになりますよね」

 

「――後、ルークが求婚してました」

 

「は?」

 

 その言葉に、ルーデウスは隣に控えているルークを睨み付ける。

 しかし、彼はどこ吹く風だ。

 あっけらかんと答える。

 

「おいおい、こういうのは早い者勝ちだろう?」

「――――」

 

 そんなことを告げる彼に、ルーデウスは胸が締め付けられるかのような気持ちになってしまう。

 胸糞悪いというか、何だが擬似的な寝取られ体験をしてるかのような気分だった。

 

「断られはしたけど、諦めるつもりはないぞ」

「そう、ですか……」

 

 だが、ルーデウスに文句を言う権利はない。

 エリスのことを放ったらかしにし、呑気にこの地で過ごしているのが悪いのだ。

 少なくとも、探すことすらせずに諦めてしまったのだから。

 それと同時に、強い思いが宿る。

 

 ――エリスを渡したくない。

 

 我儘なのだろうか。

 シルフィエットやロキシーに好意を向けながら、そのような気持ちを抱くのは。

 けれどルークの言葉を聞き、そんな思いに駆られてしまう。

 

 典型的なクズ男だな、なんて自虐しつつもその思いを否定は出来ない。

 様々な思いが駆け巡りつつ、ルーデウスは口を開いた。

 

「分かりました。アリエル様に協力します」

「あら、どういう心変わりでしょうか」

「分かってて言ったんでしょう。俺の負けですよ」

「さて、何のことでしょう」

 

 妖艶な笑みを浮かべるアリエルに、彼は小さく溜め息を溢す。

 ルークに渡したくない気持ちは本当なので後悔はないが、上手いこと誘導された訳である。

 

「協力はしますので、どこかのタイミングでエリスと会える機会を作って下されは助かります」

「もちろんです。それを協力の条件としましょう」

「お願いします。ついでにルークに求婚させないでください」

「おい」

 

 そういうことで、アリエルとの協力関係が築かれた。

 今回の内容であれば、リベラルのことを抜きにしても協力しただろう。

 上手いことやられたわけだ。

 こうした強かな面も、王に必要な能力なのだろう。

 正直言って政治には関わりたくないが、今回に関しては致し方ない。

 

「結構話し込んでしまいましたね」

 

 その他にも色々と話し合いが行われた。

 やがて用件が全て終われば、彼は疲れた表情で挨拶する。

 

「では、俺はこれで」

「ええ、有意義な時間でした。ありがとうございますルーデウス様」

 

 ニッコリと笑みを浮べるアリエルを見つつ、ルーデウスは退出した。

 元々彼女を王にすることは決まっていたが、自分の意思でも王にする手助けをすると決めたのだ。

 今更取り消すことも出来ないが、争い事に関わるのはいつだって不安である。

 

 そう思いつつ通路を進めば、バッタリとロキシーと出会った。

 

「ロキシー先生!」

「突然どうしたんですかルディ?」

 

 反射的に抱き着いてしまい、彼女は驚いた声を上げる。

 セクハラで訴えられかねない行為だが、ロキシーは赤面しつつも一度距離を取った。

 

「アリエル王女に協力することになりました」

「意外ですね」

「俺もビックリです」

 

 どういう理由かは分からないが、自分の意思で協力すると決めたのだと言うことは把握する。

 ルーデウスが争い事は苦手だとロキシーは知ってるため、意外に思うのであった。

 

「ということは、先ほどまで話し合ってたんですね」

「そうなります」

「私も今からアリエル王女と話し合うんですよ」

 

 以前から彼女も勧誘されてることは知ってるため、特に驚きはない。

 ルーデウスがロキシーの意思に口出しする権利はないため、ラノア王国から離れないことを祈ることしか出来ないのだ。

 だが、権利はなくても自分の気持ちを口にするのはいいだろう。

 

「出来れば、離れないで欲しいですね」

「ふふ、善処します」

 

 ということで、ロキシーも生徒会室へと向かうのであった。

 

 

――――

 

 

 大学での用もこれ以上ないため帰宅しようとしたルーデウスだったが、強烈な違和感に襲われていた。

 違和感を感じたのは、ロキシーと別れてからすぐのことだ。

 いつも通っている中庭を歩いていたのだが、普段の風景と違って見えたのである。

 思わず立ち止まり、違和感の元を探してしまう。

 

「なんだ……?」

 

 

 ――突然だが、ルーデウスはリベラルより幼少期からあるものを教わっている。

 龍神流の心構えであり奥義でもある『明鏡止水』だ。

 己を極限まで静めることにより、周囲の流れを読み取る技術。要は、自分の心を落ち着かせ、周囲に気を配りましょう、と言うものだ。

 この技術で最も磨かれるのは、観察力である。

 意識することで戦闘時では相手の動きを高度に予測することが出来るが、それ以外にも効果は発揮されるのだ。

 

 それは、普段からの観察力。

 何気ない日常の風景においても、洞察力が向上するのであった。

 

 リベラルがそれを教えたのは、ルーデウスの近接戦闘の弱さを補うためである。

 しかしそれ以外にも意図があった。

 奇襲に対する察知能力の向上だ。

 魔術師は近接戦闘以外にも、不意打ちに弱い。

 だからこそ、索敵能力も同時に鍛えるようにしたのだった。

 

 そして前述の通り、普段からの洞察力が上がっていたルーデウスは、中庭で違和感を感じたのである。

 

「…………」

 

 違和感を辿り目に付いたのは草陰だ。

 パッと見では何もないようにしか見えない。

 しかしよくよく見てみると、迷彩柄の姿をした人物が潜んでいることに気付いた。

 それもひとりではない。

 隣に3人ほど同じ格好をした者がいる。

 

 何だあいつら、なんて思いつつ放置しようとしたが、脳裏に警鐘が鳴り響く。

 少なくとも、ラノア大学の生活でこんな隠れ方をする者はいなかった。

 というか、隠れる意味が分からない。

 かくれんぼでもしてるならともかく、平常時なら堂々としていればいいだろう。

 潜んでいるのは、やましい理由があるからこそだ。

 

 故に、ルーデウスは何者かを知るために魔術をひとつ発動する。

 万が一のことを考え、殺傷力のないただ脅かすだけの音の魔術だ。

 射出された魔術が潜む者たちの近くに着弾すると、大きな破裂音を振りまく。

 

「ぬおぉ!?」

 

 当然ながら攻撃されたと思った彼らは慌てて飛び退いた。

 それと同時に、剣を抜きルーデウスへと向き直るのであった。

 

「!!」

 

 ひとりだけ声を上げてはいたが、それ以外の者たちは淀みない動作で素早く散開する。

 素人ではなく、訓練された者の動きだ。

 明らかに堅気ではないその雰囲気に、ルーデウスは地雷を踏み抜いてしまったことに気付く。

 

 その中のひとり。

 声を上げていた男の姿に目を奪わる。

 一言で言えば、傾奇者だ。

 いつの間に着替えたのか、虹色の上着に、膝までしかない下履き、腰には三本の剣。

 頬には孔雀の刺青があり、髪型はパラボラアンテナのように開いていた。

 

「……まさか気づかれるとはな」

 

 感心したかのような声だ。

 けれど、すぐに視線を外す。

 

「今の音で目標に気付かれた可能性がある。作戦通りに進めよ」

「はっ」

「!!」

 

 傾奇者はルーデウスへと目を向けず、その先へと駆けていく。

 そしてひとりだけこの場に残り、ルーデウスへと刃を向けて走り出していた。

 

(まさか……アリエル王女を狙った暗殺者?)

 

 いやいや、そんな馬鹿なと考える。

 アスラ王国からラノア王国までの距離を思えば非現実的だろう。

 更にこの地は雪国であり、忍び込んだところで孤立無援となる。

 獣族も多くいるため、学校に潜入するのも非常に困難だろう。

 少数で敵地に赴くことがどれほど無謀なのか言わずとも知れる。

 

 そんな状況で、暗殺者を送り込んだ?

 

 立案した者は頭がイカれてるとしか思えなかった。

 理解出来ぬ状況に混乱するだろう。

 あまりにも常識外れな出来事だ。

 だが、今のルーデウスの脳内はそれどころではなかった。

 

 ――ロキシーが危ない。

 

 タイミング的に、己の恩師がアリエルとの話し合いをしてるのだ。

 そのことに気付いたルーデウスは、すぐさま駆け付けねばと考えるのであった。

 




いつも安心推敲無しです。誤字脱字あれば申し訳ない。

Q.シルフィエットとロキシーはどこに住んでるの?
A.現在はラノア大学の寮で暮らしてます。

Q.何で襲撃が起きたの?ヒトガミ馬鹿なの?
A.追い詰められてるのかも知れませんね。立案者も頭が悪いのかも知れませんが、ヒトガミ以外の理由もあるかも知れません。

Q.急な展開だな?
A.これが私の限界でした。
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