無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

オーベール「某は暗殺者である。名はない」
ロキシー「ルディが危なかったから庇ったけど、太ももに短剣を受けてしまってな…」
ルーデウス「ロキシーが毒に侵されたからオーベールを追いかけなきゃ」
パウロ「レオがピンチを察知したから援軍に来たぜ」

これで今年の更新は最後になると思います。この作品を見てくださってる皆様、読んでいただきありがとうございます。
亀更新で遅いですが、来年からも完結まで更新していきたいと思います。
よいお年をお過ごしください。


9話 『告白』

 

 

 

 本来の歴史でのパウロは、三大流派を全て上級まで修めた天才剣士として名を馳せていた。

 聖級と大きな差があるものの、上級で免許皆伝と言えるレベルなため十分すぎるだろう。

 現代で言えば、上級で柔道の黒帯と同等なのかもしれない。

 

 先ほど言ったように、聖級と上級では越えられない壁が存在する。

 闘気を自在に扱えることが聖級に至る必須条件だ。

 闘気によって身体能力に雲泥の差が生まれるため、それも当然と言えよう。

 

 以前リベラルと手合わせをした際、パウロの評価としては聖級レベルだと告げられた。

 彼は闘気を自在に纏うことは出来ないが、本能レベルで扱うことが出来る。

 しかし、その程度の練度では、オーベールを相手にするには力不足だろう。

 何せオーベールは剣王が二人がかりでも優勢に立てるほどの実力者なのだから。

 とは言え、それは以前のままの実力であるならばの話。

 パウロにはまだまだ伸び代があった。

 彼は成長しているのだ。

 

 そしてその実力は、この戦いを通して明確になるだろう。

 

 

――――

 

 

 ――隙は見当たらない、か。

 

 援軍として現れたパウロに対し、静かに観察したオーベールは素直にそう感じた。

 情報の片隅に三大流派の全てを上級まで修めた剣士、というものはあるが、所感としては上級以上だとその身で感じ取る。

 少なくとも、剣神流でもない限り真正面から一撃で仕留めることは難しいだろう。

 今のパウロは水神流の構えを取っているので、余計に隙が見当たらなかった。

 

 試しに視線や動作による揺さぶりをかけるが、彼は微動だにしない。

 リベラルから何度も視線誘導や不意打ちを受けてきたパウロは、フェイントに掛からぬ観察眼と不動の心を手に入れていたためだ。

 であるならばの、動きの中で崩していくしかないだろう。

 

 そうして仕掛けようとしたオーベールだったが、

 

「ワォン!」

「!!」

 

 聖獣レオが短い咆哮を上げると、身体が重くなるのであった。

 闘気の出力が減少したのである。

 

「これは……っ」

 

 逆にパウロやルーデウスは、身体が軽くなっていた。

 闘気が向上したことで、身体能力が上昇する。

 まさかのバフとデバフ効果のある咆哮であった。

 このような力があることを知らなかったルーデウスとパウロは驚くが、集中力を切らさず動きを注視する。

 

 オーベールは正面から打ち合おうとしていたが、今しがたの現象によりそれを中断することにする。

 代わりに、手に持っていた袋を投げた。

 袋はゆったりとした放物線を描いて、パウロへと飛んでいく。

 

「俺が対応します!」

 

 それに対し、ルーデウスは『水弾(ウォーターボール)』を放つ。

 前世で見た漫画で、同じような場面を見たことがあったからだ。中に何かが入っていると咄嗟に感じた。

 

 水の弾は投げられた袋を包み込むと、そのまま地面にべシャリと落ちる。すると中から粉らしきものが溢れ出す。

 それが何かまでは分からないが、ルーデウスの予想通りだった。

 

「おらぁ!」

 

 その間に、パウロは『石蕾剣(せきらいけん)』を放つ。

 地面をガリガリと削り取り、破片を伴いながらオーベールへと飛んでいく。

 彼は素早く身を翻すことで難なく避けるが、そこにパウロが走り込んだ。

 

 『無音の太刀』。

 音すら置き去りにするその一閃は、しかし短剣の切っ先を合わせられることでズラされた。

 それと同時に、体勢の崩れたパウロを斬り裂こうとするが、岩砲弾が飛来したことで回避を選択する。

 本来であれば岩砲弾も対処しながら斬れたのだが、レオの闘気への干渉により出来なかったのだ。

 

 バックステップしたオーベールの背後から、レオが爪を振り抜いていた。

 

「ぐっ」

 

 何とか受け止めたのだが、衝撃は殺せず弾き飛ばされる。

 受け身を取りながら立ち上がろうするのだが、身体がまるで何かに抑えつけられるかのような重圧に襲われ、膝をついてしまう。

 ルーデウスの重力操作による妨害だ。

 

 そこにパウロが再び『無音の太刀』を放つ。

 

「ぬ、おぉぉぉ!!」

 

 別に遊んでいた訳ではないが、本気で殺らなければ殺られると悟る。

 最早やる気が出ないなどと言ってる場合ではなかった。

 自分の持てる限りの力を発揮し、なりふり構わず相手をしなければこの場を切り抜けることは出来ないだろう。

 

 足に力を入れたオーベールは、横に跳躍することでパウロの一太刀を回避する。

 そのまま壁を蹴り、ルーデウスの方へと跳んだ。

 

「ガウ!」

 

 空中にいるオーベールへと、レオも爪を立てながら飛び掛かっていた。

 そのまま腕を振るったレオだったが、彼は短剣で受け止める。

 吹き飛ばされることもなく、まるで衝撃を受け流すかのように全身を回転させ、レオの背中に身体を滑らせていく。

 背中を飛び越えたオーベールはレオを蹴り、更に加速しながら跳んだ。

 

 オーベールはこの中でルーデウスが一番厄介だと評価していた。

 彼は魔術師として常識を壊す戦い方ばかりだ。

 普通の魔術師はこれほど魔術の発動は早くないし、連射も出来ない。

 更には剣士と連携しながら妨害魔術など出来るものではない。

 先ほどの重力魔術もそうだ。

 オーベール自身は何が起きたのかは理解してないものの、ルーデウスが引き起こしたことは理解した。

 

 重力魔術は強力なものの、王竜剣とは違い“対象そのものの重力”を操作している訳ではない。

 “対象のいる地点の重力”を変えることで妨害しているのだ。

 その場から動かれると効果は発揮されない。

 今の攻防でそのことを理解したオーベールは、動くことで重力魔術を回避していた。

 まだ空中にいるため、泥沼による妨害も出来ない。

 そしてルーデウスはその動きを捉えることが出来ず、魔術を放つも避けられ接近を許した。

 

「ルディ!!」

「おおっとぉ!」

 

 背後からパウロの投げた剣が迫るも、彼は身体を捻りながら躱す。

 だが、その剣をルーデウスはキャッチした。

 そのまま水神流の構えを取り、オーベールの攻撃に備える。

 

「ほう! 剣術も出来るのであるか!」

 

 そのことに驚きつつも、飛翔は止めない。

 オーベールは両手に持った苦無をふたつ、ルーデウスに振り下ろした。

 咄嗟に『土壁』の術を左手に使いながらガードし、もうひとつは右手の剣で受け止める。

 

「北神流奥義……『朧十文字』」

 

 オーベールの手がブレた。

 中空で剣を捨て、上体を倒しつつ、懐にある苦無へと手を伸ばしていた。

 その技をルーデウスは知っている。ラノアでリベラルから稽古をしてもらった際に、受けたことのある技だった。

 だからこそ、反応することが出来た。

 

 だが、反応出来てもその動きに付いていける訳ではない。

 ルーデウスは本来の歴史のように、受け止めることしか選択出来なかった。

 両手の塞がっている彼は、曲げていた膝を伸ばし、跳躍しながら、オーベールの抜刀を左足で受ける。

 しかし――土壁を左足に纏いながらだ。

 

「ぬぅ!」

 

 オーベールの一撃は土壁を砕き、けれど切断にまでは至らなかった。

 ルーデウスの皮膚は斬り裂いたが、骨で止まっていた。

 

「ガルルル!」

 

 そこにレオが迫ったため、彼は素早く横に移動して回避する。

 

「ルディ! 大丈夫か!?」

「こっちは大丈夫です! それよりこれを!」

 

 ルーデウスは土壁を解除しつつ、走ってきたパウロに剣を投げ渡す。その間に自身の足の治癒を行っていく。

 剣を受け取ったパウロは、時間稼ぎも兼ねて再びオーベールへと立ち向かった。

 

「まさか魔術師に某の奥義を受け止められるとはな……」

 

 眼中にないとはまさにこのことなのだろうか。

 距離を詰めて剣を振るうパウロに対し、オーベールは短剣すら使わず避ける。

 上体を逸らし、半身となり。

 そこにレオも突進していくが、彼はそれを待っていたかのように間を走った。

 

「!!」

 

 パウロの剣とレオの爪がぶつかり、オーベールはその間を悠々と通り過ぎる。

 狙いは治癒魔術を使い動けないルーデウスだ。

 

「ち、くしょお!」

 

 全く相手にすらされず、ひたすら息子だけを狙われるパウロ。

 そのことに歯噛みし、悔しさにまみれる。

 だからこそ、ムキになりオーベールの背に跳躍していた。

 

「待ちやがれ!」

「軽率であるなぁ」

 

 オーベールはそれを待ってたかのように向き直り、パウロに苦無を投げつける。

 空中にいる彼は身をよじり躱すが、もう一本の苦無を持ったオーベールが振り下ろそうとしていた。

 体勢を崩している彼に、回避する余裕はない。

 

「――――」

 

 彼の脳裏に過去の思い出が過ぎる。

 それは走馬灯ではない。

 リベラルと行っていた鍛錬での記憶だ。

 

 

――――

 

 

『――本能的に戦うのを止めた方がいいか、ですか?』

 

 更なる高みを目指していたパウロは、悩んでいた疑問を口にした。

 ルーデウスを通し、剣王となったギレーヌから言われてしまったのだ。

 自分が何をしているのか理解していなければ強くなれない。

 ――即ち合理が必要であると。

 

 パウロは自分の動きを言語化することが出来ない。

 言葉にしても「グッ!」や「ザンッ!」と擬音でしか説明出来なかった。

 少なくとも、ルーデウスに自身の動きを伝えることは出来なかったのだから。

 

 だからこそ、その悩みや疑問を口にした。

 リベラルは苦笑しながら答える。

 

『――別に止めなくていいですよ?』

 

 その答えに、パウロは更なる疑問を抱く。

 ギレーヌからの言葉に彼は納得していたからだ。

 パウロは彼女が剣聖の頃から勝ったことがない。そのギレーヌが剣王にまで至るのに必要なのが『合理』だと告げたのだ。

 それを否定するほど彼も馬鹿ではない。

 

『パウロ様――本能的に戦うことと、合理を追究することは両立出来ますよ』

 

 もちろん、自分がどうすればその動きを出来るのか考えていくことは必要だ。しかし、戦いの中で一個一個に思考を取り入れる必要はない。

 当たり前と言えば当たり前だが、そんなことをしていては動きが鈍ってしまうのだ。

 

 だが――本能的に戦うというのは、その思考過程を省略して最短を行くことが出来る。

 

 だからこそ、本能的に戦う者は強いのだ。

 リベラルやオルステッドほどの高みに至れば、思考と本能を両立することが出来る。

 

『それが出来れば――貴方はもっと強くなれる』

 

 

――――

 

 

「ぐはッ!?」

 

 窮地にありながらも、一瞬の攻防を制したのはパウロだった。

 オーベールの顔面に蹴りが突き刺さっていたのだ。

 

 彼は地面に剣を突き刺すことで自分の動きを強制的に止め、オーベールの一太刀を回避した。

 それと同時に慣性によって流れた身体で、そのまま蹴りを繰り出したのである。

 

 オーベールは吹き飛び、地面に両手をついてしまう。

 

「ぬぅ……!」

 

 ふらつく身体を無理矢理動かし、彼は横に跳躍する。

 迫りくるレオの一撃を避けたオーベールだったが、そこに岩砲弾が放たれていた。

 当然ながら、彼はそれを苦無で受け流すように弾いた。

 

 だが、その隣には既にパウロは迫っていた。

 

 水神流奥義――『(ナガレ)』。

 

「――――」

 

 岩砲弾を弾いた苦無を、パウロは更に受け流していた。

 それが確実な一撃を入れる方法だと本能的に感じ取ったのだ。

 オーベールは体勢を崩され、再び両手を地面に付いてしまう。

 

 パウロの蹴りが彼の胸に突き刺さった。

 

「ごはッ!!」

 

 再び吹き飛ばされたオーベールは地面を転げ、口から血を吐き出す。しかし休んでいる時間はない。

 視界に迫りくるレオと魔術を放とうとしているルーデウスを捉えていた彼は、吹き飛ばされながらも備えていたのである。

 

「『赤墨』」

 

 いつの間にか地面にまかれていた赤い玉。

 それはパァンと大きな破裂音が響き渡らせながら、粘着性の強い液体をばら撒いた。

 レオはそれに足を取られ動けなくなり、ルーデウスもどうするべきか迷い硬直する。

 

 だが、パウロは壁を蹴りオーベールの元に跳んでいた。

 

「オラァァ!!」

 

 いくつも繰り出される斬撃を、オーベールは冷静に苦無で受け流す。

 本能的となり疾くなったパウロだったが、真正面からの打ち合いであればまだオーベールに分があった。

 更に加速させていくが、オーベールには届かない。

 

「ぐっ」

 

 斬撃の隙を見抜いた彼は、仕返しと言わんばかりにパウロの胴体を蹴飛ばす。

 吹き飛んだパウロは受け身を取ることで、素早く立ち上がった。

 

「だが……この間合いは丁度いいな」

 

 今まで『無音の太刀』しか放たなかったパウロだが、それは何となくそうするべきだと感じたからだ。

 そして無意識の内に隠していたからこそ、オーベールは“それ”は使えないのだと思いこんでしまった。

 パウロは納刀し、居合の構えを取る。

 

 ゾクリとした感覚がオーベールを襲う。

 この位置は不味いと感じ取った。

 距離的に放つことを妨害することは出来ない。

 彼は咄嗟に身を捻る。

 

 『光の太刀』。

 ポツリとそんな声が聞こえたような気がした。 

 

 

 ――光を置き去りにした刃は、時間の停止した世界を斬り裂き、全ての事象が遅れて発現する。

 刹那の間も存在せず、剣を振り終えたパウロがそこにいた。

 

 

「……見事だ」

 

 オーベールの右手が弾け飛んでいた。

 光の太刀というものは、回避できるものではない。

 踏み込みをずらす。体勢を崩させる。本気で斬れない位置に立つ。そうやって事前の工夫にて放たせないことはできる。

 だが、刷り込みによって彼はその対処が遅れた。

 

 空中をくるくると舞う腕をキャッチしたオーベールは、観念するかのように左手で待つように制した。

 それを見たパウロたちは、首を傾げながら動きを止める。

 別に従う必要はないのだが、それでも彼からはそうさせるだけの雰囲気があったのだ。

 

「――負けを、認めよう。現時点で某がお主たちに勝つことは出来ぬ」

「……では、大人しく俺たちに従うと?」

「否、そういう訳ではない!」

 

 オーベールは懐から瓶を取り出す。

 

「ルーデウス・グレイラット。解毒薬……これが欲しかったのであろう?」

「……それが本物である証拠は?」

「ふむ、某がそれに答える必要はないなぁ」

 

 彼は懐から更に瓶をふたつ取り出す。

 何をするのか気付いたルーデウスは、慌てて妨害しようとし――

 

 

「――嘘であると思うならば、某を追い掛けるとよい」

 

 

 ――それよりも早く、3つの瓶は高く投げ捨てられた。

 そしてオーベールは反対方向に駆け出す。

 

「……父さん! レオ! 解毒薬を!!」

 

 オーベールを追い掛けるか迷うが、瞬時に投げ捨てられた瓶を追うことにする。

 解毒薬が本物であれば取り返しがつかないし、かと言って二手に別れてオーベールを追いかけても返り討ちに合う可能性が高い。

 今回は3人だったからこそ相手取れたが、ひとりでも欠ければ負けていたのはこちらだろう。

 オーベールを追い掛けるという選択肢は始めからなかったのだ。

 

「くっ!」

 

 走り出したルーデウスは間に合わないと感じ、重力操作によって瓶の衝撃を抑える。

 結局落下には間に合わなかったものの、瓶は割れることなく入手することが出来た。

 

「ルディ! こっちは大丈夫だ!」

「ワンっ!」

「ありがとうございます」

 

 ルーデウスよりと身体能力の高いパウロは手に取っており、レオは器用に口で咥えていた。

 何とか解毒薬を失わずに済んだことにホッとしつつ、オーベールが立ち去った方を向く。

 

「逃げられちゃいましたね……」

 

 そうなることは分かっていたものの、どうすることも出来なかっただろう。

 ここでオーベールを仕留められなかったことを残念に感じつつ、パウロへと向き直る。

 

「レオなら追跡出来ると思うけどどうする?」

「いえ、ロキシーの解毒をしたいです。それに、デリックさんにももしかしたら必要かも知れないので持って行って欲しいです」

「分かったよ、レオと一緒に届ける。……その方がいいよな?」

「はい」

 

 何か含みのある言葉であったが、その意図はしっかりと通じる。

 そう。今はロキシーと二人っきりにして欲しかったのだ。

 パウロはそのことに気づいたのである。

 

 そうして、ルーデウスたちは大学へと向かうのであった。

 

 

――――

 

 

 大学へと戻れば、ロキシーは生徒たちから応急手当を受けていた。

 流石に怪我人を放置するほど彼らは薄情者ではない。

 治癒魔術の使い手も居たため傷口は塞がっていたものの、相変わらず皮膚は紫色に変色している。

 解毒魔術を掛けている者もいたようだが、効果がないことは明らかだった。

 

 ルーデウスが来ると人混みは割れ、ロキシーまでの道が出来上がる。

 

「ロキシー!」

「……ルディ、ですか。そちらは大丈夫でしたか……?」

「当たり前です! 解毒薬も手に入れました! 飲んで下さい!」

 

 オーベールから手に入れた解毒剤を飲ませた後、彼はロキシーを抱えて医務室まで運ぶことにした。

 流石にあのような人混みの中で、落ち着いた会話をすることは出来ない。

 それに毒を受けたのだから、安静にしておくべきだろう。

 

 ベッドまで運び寝かせたルーデウスは、ホット一息吐く。

 ロキシーの顔色は悪かったものの、それ以上の症状は見られない。紫がかった皮膚の色も、徐々に引いていってる。

 医務室の医者にチェックしてもらった後、ルーデウスは二人っきりにしてほしいことをお願いし、退室してもらった。

 

「ロキシー先生……どうして俺を庇ったんですか?」

 

 落ち着いてきた頃合いを見て、彼は質問する。

 

「どうしてって、当然でしょう。庇わなければルディは死んでましたよ」

「だからって、ロキシーが庇う必要はありませんでしたよ!」

 

 その言葉に彼女はムッとした表情となる。

 どうしてそこまで否定されるのか分からないのだ。

 感謝されたかった訳ではないが、それでも「ありがとう」の一言があればこの話は終わる筈だった。

 

「幸いにも今回は大丈夫でしたけど、ロキシーが死んでいても可笑しくなかったんですよ!?」

「……ルディ、わたしは邪魔でしたか?」

「そういう訳じゃないですけど……ロキシーが苦無に刺されて毒に侵された時、俺は本当に怖かったんです」

「それを言えば、ルディが死んでしまうかもって思ってわたしも怖かったですよ」

 

 先ほど言ったように、彼女が庇わなければ苦無はルーデウスに刺さっていた。

 その場合、残念ながら解毒剤を入手することは出来なかっただろう。

 この毒に致死性があったのかどうかは不明だが、ロキシーは何も出来ずに見守ることになっていた筈だ。

 寧ろ、自分が傷付くことよりそうなる方が怖かった。

 

「ルディ」

「何ですか?」

「以前にも言いましたが、わたしのことを過大評価し過ぎてるように思えるんです」

 

 ロキシーはどうしてそこまで自分のことをそこまで評価しているのか理解出来なかった。

 家庭教師としてルーデウスを育てたが、彼は自分と出会った時にはもう無詠唱魔術を扱っていたのだ。

 

「わたし以外の魔術師が教えていたとしても、ルディはきっと今と同等の実力に至っていたと思います。

 それこそ、家庭教師がいなくても独学で成長していたでしょう。

 だからこそ、分からないのです。

 どうしてわたしのことを尊敬しているのですか?」

 

 言葉にはしていないが、ルーデウスの態度からは崇拝とも言えるほどの尊敬の念を感じていた。

 以前に聞いた時は神だからとかそのように濁されてしまったが、今回こそハッキリ聞きたかった。

 いくら思い出しても分からないのだ。自分は何か特別なことをしただろうかと。

 むしろ、リベラルの方が上手に教えていた筈だ。

 

 今回のこともそうだ。

 確かに庇ったことによって負傷したが、致命傷ではなかった。短剣には毒が塗られていたが、それは結果論である。

 ルーデウスはロキシーが傷付くことを過剰に恐れていることは誰の目からも明らかであった。

 自分の身よりも、彼女のことを優先しているのだ。

 

「…………」

 

 ルーデウスは何か躊躇うかのように言葉に詰まっていた。

 けれど、やがてポツリと口にする。

 

「俺にはどうしても出来ないことがあったんです」

「出来ないことですか?」

「はい、誰にも出来なかったことです」

 

 彼が思い返すのは、その時の場面だ。

 今にして思えば、なんと下らないことだろうとすら感じること。けれど、パウロやゼニス、そして生前の両親や兄弟にすら出来なかったことだ。

 

「俺は、外へ出ることに心的外傷(トラウマ)があったんです」

 

 何を馬鹿な、なんて思うかも知れないが、当時の彼は本当に庭より先に出ることが出来なかった。

 

「……どういうことですか?」

 

 彼女の疑問も当然だろう。

 当時出会ったルーデウスは幼かったものの、とても大人びた姿も見られた。

 魔術の才能も発揮し、両親からも愛されて育てられ、何不自由なく過ごしているように見えたのだから。

 

 ルーデウスはその先も話すかどうかを迷う。

 迷ったが、隠し事なく話すことを決めた。

 

 

「俺には、ルーデウス・グレイラットとして生を受ける前の記憶があります――元々はこの世界の人間じゃないんです」

 

 

 本来であればその告白がされることはなかった。

 墓場まで持っていく秘密であった。

 

 けれど、リベラルによる未来日記の影響や、転生していることを知ってる人物が増えたことによって、隠したいという気持ちが和らいでいたのである。

 それによって、ルーデウスは己が転生者であることを開示することになった。

 

「転生する前の俺は、イジメられたことが原因で引きこもりになってました」

「…………」

「誰かと関わることが怖かったんですよ。だから外に出られなくなったんです」

 

 結局、変わることが出来ずに死んでしまうことになる。

 情けない人生であり、人を呪うことしか出来なかった。

 

 

「――俺は、この世界が実は夢なんじゃないかって思ってたんです。

 だって、都合が良過ぎると思いませんか?

 新たな生を受けて人生をやり直せるって。

 前世の知識があって、魔術に対する才能もあって、平和に過ごせて。

 以前とは違い、誰よりも優遇された環境にいたんです」

 

「生前、俺は家の中ででもんもんとしながら何度も妄想しました。何度も夢に見ました。

 夢の中の俺は超人ではありませんでしたけど、人並みでした。

 人並みに、自分のできることをやっていました。

 一人で生きていくことができていました。

 けれど、夢は醒めました。

 

 もし一歩でも家の外に踏み出せば、この夢も覚めてしまうかもしれない。

 夢が覚め、あの絶望の瞬間に戻ってしまうかもしれない。

 後悔の波に押しつぶされそうな、あの瞬間に………」

 

「夢じゃないことは分かってました。

 わかっているのに、俺は一歩も踏み出せなかったんです。

 心の中ではどれだけやる気になっても、本気になると口で誓っても……身体は決して付いてこない」

 

 

「そんな俺を――ロキシーが外に連れ出してくれたんです」

 

 

 それは大したことではなかったのかも知れない。

 彼女が外に連れ出したのも、単に聖級魔術の影響を受けない場所に移動するためのものだ。

 そこに深い理由はなかった。

 

 けれど。

 それでも。

 ルーデウスはその行動に救われたのだ。

 

「……それは、別にわたしでなくても最終的に出来ていたのではないですか?」

 

 彼女の疑問はもっともだろう。

 だが、ルーデウスは首を横に振った。

 

「ロキシーは、誰にもできない事を、やってのけたんです。

 生前、両親も兄弟もできなかったことを。

 ロキシーがしてくれたんです。

 無責任な言葉でなく、責任ある勇気を与えてくれたんです。

 だから俺は――ロキシーを尊敬してるんです」

 

 それが、尊敬の理由だった。

 彼女だけにしか成し得なかった行動だ。

 

「……そう、ですか」

 

 ロキシーは照れるかのように顔を俯ける。

 転生だとか、色々と沢山な情報があって混乱もしているが、それでも自分の行動がルーデウスの救いになったことは分かった。

 

「次は俺の番ですよ。何で俺を庇ったんですか?」

 

 ルーデウスの話はこれでおしまいだ。

 ロキシーが傷付いて欲しくない理由は十分伝わっただろう。

 

「何でって、ルディのことが大切だからに決まってるじゃないですか」

「――――」

 

 彼女はなんてことないかのように告げた。

 まるで告白のような台詞なのに、特に恥じらう様子も見えない。

 

 けれど、ルーデウスはスッと受け入れた。

 リベラルから聞いた通りだ。

 ロキシーは純粋な好意を向けてくれている。

 

 思い返せば、何でここまでヘタれていたのだろうと思う。

 ロキシーは身体を張ってまで自分のことを助けようとしてくれた。

 そして、シルフィエットもそうだ。

 今回は関与していないが、以前のヒトガミに関することでとても助けられた。

 

(俺は、何でふたりの気持ちから逃げてたんだろうな……)

 

 そう思うと、気が楽になった。

 ヒトガミを倒すためだけに頑張る。

 それもいいだろう。

 けれどルーデウスはまたひとつ、本気で生きる人生の目標を見つけた。

 

「ロキシー。相談があります」

「何ですか?」

「シルフィにも告げるつもりではあるんですけど――」

 

 だからこそ、自然とその言葉を告げることが出来た。

 

 

「――俺と結婚してくれませんか?」

 

 

 ロキシーも、シルフィエットも幸せにすることだ。




宣言通り更新した俺えらい!でも見返してないから誤字脱字あったらごめんね!

Q.VSオーベール戦。
A.MVPはレオです。闘気のバフとデバフがなければパウロは普通に返り討ちにあってました。デバフのお陰でオーベールの動きは鈍り、ルーデウスも朧十文字を回避することが出来ました。

Q.聖獣レオの能力。
A.独自設定です。ヒトガミですら手を出すことの出来ない守護魔獣なので、それ相応の力があると思い付け足しました。

Q.パウロ。
A.現在は三大流派全て聖級です。彼の強みは作中で説明したように、本能的に最適解を選ぶことです。合理で動かないためミスもありますが、三大流派を状況に合わせて使い分けられるため、どのような場面にも対応出来るようになりました。それによって実力は王級のレベルに到達しています。

Q.解毒剤。
A.オーベールが使うのは一種類だけであり、かつ致死性のあるものではありません。全ての苦無に毒を塗ってますが、どちらかと言えば相手の隙を作るためのものです。
逃走する際に瓶を優先しなくても問題はありませんでしたが、そのことを知らないためオーベールを追うことが出来ませんでした。

Q.ルーデウスの告白。
A.ヘタレウス・グレイラットは消え去りました。原作よりも転生者であることを知ってる人物が多いため、隠したい気持ちは控え目になってました。そしてしれっとシルフィとも結婚することを告げてます。
ヒトガミ打倒以外の目標を手にした彼は、これからも本気で生きていくでしょう。
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