無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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3話 『四面楚歌』

 

 

 

 立ち上がったリベラルは、目に入りそうな血を拭い取る。

 闘神の不意打ちによって何十メートルも弾き飛ばされたダメージは、決して軽くはなかった。

 オルステッドと違い、龍聖闘気を纏えぬリベラルは、決して防御力が高くないのだ。

 

「バーディガーディィ!!」

「来るか! 銀緑よ!」

 

 目の前に闘神がいるため、回復よりも攻撃を選択した。

 

 何千年もの修練を重ね、磨き上げたその一閃は、ロクに鍛錬をしてこなかった闘神に見切れる筈がないだろう。

 例え傷を負った状態であっても、その鋭さは変わりない。

 

 心臓を狙った一撃は――闘神鎧を貫くことが出来なかった。

 

「!!」

「フハハハ! 効かん!」

 

 闘神はその六本の剛腕を振り上げ、リベラルへと反撃する。

 龍鳴山で戦ったかつての彼女であれば、その攻撃を捌き切ることが出来なかった。しかし、今は違う。

 まるで嵐の様に吹き荒れる六本の腕を前に、リベラルは全て受け流していく。

 ……が、背後からの気配を感じ取り、咄嗟に横へと飛び退いた。

 

「っ!」

「おっと、避けられちまったか」

 

 後方から迫っていた剣神の一撃は、呆気なく外れる。

 それをカバーするかのように、王竜剣を構えた北神が彼女の目前にいた。

 

「たああぁぁぁ!」

 

 もちろん、その程度の連携でやられるリベラルではない。

 ソっと手を添えたかと思えば、北神は回転しながら上空に弾き飛ばされるのだ。

 北神は王竜剣の固有能力である重力操作によって空中で体勢を整え、上空から剣を振り下ろした。

 

「!!」

 

 それに合せて、ルーデウスの岩砲弾が射出される。

 岩砲弾を躱すことは難しくないのだが、リベラルの視界には拳を振り上げている闘神と、光の太刀を放とうとする剣神の姿が目に映った。

 

 上空、左右、正面。

 あらゆる方角からの攻撃に、彼女は全てを避けることが出来ないと判断する。

 光の太刀を放つ剣神の攻撃は避けなくてはならない。

 王竜剣による一撃も致命傷だ。

 岩砲弾は言うまでもないだろう。

 だとしたら、答えは1つである。

 

 リベラルは闘神の方へと一歩踏み出し、彼の拳に合せて吹き飛ばされた。

 派手に吹き飛ばされつつも、ガードしたためダメージはほとんどない。

 

(まずは傷を治さなくては)

 

 着地と同時に治癒魔術を使おうとしたリベラルだったが、足が地面に沈み込む。

 ルーデウスによる泥沼だ。

 すぐさま抜け出そうとしたが、身体が重くなる。

 重力魔術による妨害であることに気付き、すぐさまレジストするのだが、それと同時に今度は軽くなり浮き上がった。

 

(王竜剣の能力!)

 

 北神の重力操作によって、彼女の体勢は乱れた。

 そこに剣神の光の太刀が迫ろうとしていたが、溶岩<マグマガッシュ>を放つことで中断させる。

 が、息を吐く間もなく北神が立体機動で迫っていた。

 更には横から闘神も迫る。

 

「――(ナガレ)

 

 空中に浮かび上がっているにも関わらず、リベラルは2人の攻撃を受け流してみせた。

 流されたことでたたらを踏んだ2人に対し、そのまま空中で回し蹴りを放つ。

 北神は弾き飛ばされていったが、闘神は怯みもせず前に出る。

 

「フハハハハ! その程度か!?」

「……!」

 

 未だに滞空していたリベラルの足首を掴んだ。

 そのままぶん回すと、地面に思いっ切り叩き付けるのだった。

 

「ガッ、ハッ!」

「――光の太刀」

 

 ぶん回される彼女の身体のタイミングに合わせ、剣神が一閃を放った。

 防御不能の一太刀が、最も最悪なタイミングで放たれたのだ。

 ついでと言わんばかりに岩砲弾もそれに合わせて放たれている。

 無傷で凌げないことを察したリベラルは、自身の掴まれていた足を手刀で斬り裂いた。

 彼女はそのままクルクルと上空を回転していきながら、治癒魔術を発動する。一瞬にして切断した足が生え、無傷の状態で着地するのであった。

 

 距離が出来たことで息を整える間が出来たため、4人へと向き直るのだった。

 

「全く……こんないたいけな女性に襲い掛かるなんて男の風上にも置けませんね」

「ハッ、誰がいたいけだよ。普通に凌ぎ切りやがって」

「……ガル様はこんな形で私と戦っていいのですか?」

「あ?」

 

 まるで挑発するかのように、やれやれとした仕草を見せながら続ける。

 

「貴方が頂きを目指しているのであれば、一対一で挑むべきではないのですか?」

「まぁ、それは俺様も考えたぜ。けどよ、おめぇが教えてくれたんじゃねぇか」

「私が、ですか」

「卑怯だろうがなんだろうが、勝てる手段を選ぶべきだってよ」

 

 かつて剣の聖地で戦おうとした剣神だったが、呆気なく敗れることになった。

 事前に用意されていた結界に誘い込まれ、何もすることが出来なかったのだ。

 実力があるにも関わらず、そのような手段を取られたことに悔しい思いをした。

 

 それと同時に思い知ったのだ。

 戦いとは身体だけで行うものではないと。

 頭でも行わなければならないのだと。

 勝つ手段を模索し、それを実行することも強さである。

 今回の作戦はギースが考えたのだが、見事と言う他ないだろう。

 この状況に追い込むのも、立派な力である。

 

「……それで数で押す、ですか」

「そりゃ一対一でやり合えねぇのは残念だけどよ、勝ちゃいいんだよ。それも強さのひとつだぜ」

 

 この様子では戦いから引かせることは出来ないな、と感じたリベラルは、続いて北神へと視線を向けた。

 彼も英雄を目指すのであれば、この状況に思うところがあるはずだろう。

 

「アレクサンダー様は何とも思わないのですか」

「思いませんね。僕の祖父様も魔神ラプラスを倒すために力を合わせて戦った。今の状況はそれと変わりませんよ」

「……さいですか」

 

 やはり無理かという諦観を抱きながら、彼女はどうするか考える。

 

 ハッキリ言って――腸が煮えくり返る思いなのだ。

 

 パウロもクリフも殺されてしまい、更にはルーデウスもビタに乗っ取られてしまった。

 彼らが様々な思いを抱いてミリシオンに向かったことを知っているのだ。

 誰も彼もが利己的な思考を捨て去り、助けるために動いていた。

 

 それを嘲笑うかのように、殺されたのだ。

 意思も想いも無駄だと言わんばかりに、無惨に殺された。

 

 

『――死せるまでエリナリーゼを愛すると誓おう』

 

 結婚式での誓いは、破られてしまった。

 ラノアで待っているエリナリーゼを思うと、心折れそうだ。

 

『――後はお前だけだゼニス。お前さえ治れば……バラバラになった家族がみんな揃うんだ』

 

 再会する筈だった家族の絆も、引き裂かれてしまった。

 ノルンも、アイシャも、リーリャも、ゼニスも悲しむだろう。

 

『――もちろんですよ。俺は今――幸せです』

 

 本気で生きて、後悔した人生を取り戻すことも出来なくなった。

 大切な家族と友人を自らの手で掛けてしまい、心折れるかも知れない。

 

 

 リベラルは彼らの思いを知っていた。

 知っていたからこそ、目の前の敵を許せなかった。

 仇を討たなければ、彼らの帰りを待っている者たちに顔向けすることも出来ない。

 

()()()……貴方は必ず助けます)

 

 この中で真っ先に排除出来るのはルーデウスだった。人の身であり、闘気すら纏えぬ彼は最も脆い。

 一撃でも当てれば倒すことが出来る。

 けれど、リベラルはそれを良しとしなかった。

 何が何でも彼だけは助けようと考えた。

 それが、彼女に出来る罪滅ぼしなのだ。

 可能であれば、気絶させようと考える。

 

「岩砲弾」

 

 詠唱すると、彼女の後方に10個ほどの岩砲弾が浮かび上がった。

 もっと発動することも出来るのだが、ルーデウスが死んでしまう可能性を考慮し抑える。

 

「貴方がたを許すことは出来ません……全力で排除します」

 

 その言葉と同時に、全ての岩砲弾が射出された。

 ルーデウスの放つ岩砲弾と遜色ない威力で放たれたそれは――闘神が先頭に立つことで全て 防いだ。

 

「吾輩に魔術など効かぬ!」

 

 全くの無傷で凌いだ闘神だったが、一発だけ地面に命中して砂埃が舞い散る。

 その間に、リベラルは次の魔術を用意していた。

 

「でしたら、これはどうですか――!!」

 

 彼女の右手は白く発光し、眩しい光が周囲を照らす。

 それは、甲龍王の奥義の1つだ。

 

「甲龍手刀『一断』」

 

 己の右手に掻き集めた魔力を、全力で振るった。

 

 光り輝く手刀は闘神へと迫り――僅かに拮抗した後、闘神鎧に穴を開けた。

 しかし、すぐに修復され塞がれる。

 リベラルも力を込めたため、追撃出来る体勢ではなかった。

 

「これは……」

「とりゃああああ!」

 

 僅かに動揺しつつも、横合いから突進してきた北神の攻撃を躱していく。

 今の魔術はリベラルの全力だった。

 もちろんあらゆる力を掻き集めたものではないものの、マナタイトヒュドラにすら拮抗することが出来た一撃だ。

 

 今の一撃で、吸魔石と同等かそれ以上の魔術に対する防御力があることを窺い知れた。

 闘神を魔術で突破するのは困難だろう。

 しかし己の持つ技術を持って突破すればいいとすぐに自答した。

 

「『鯨波』」

 

 接近している北神へと技を放つのだが、それを庇うかのように闘神が無理やり間へと割って入る。

 直撃した闘神はとてつもない振動に襲われその身を硬直させるのだが、それは一瞬とも言えぬ間だった。

 

「助かりました」

「いくぜ」

「…………!」

 

 左右から剣神と北神が飛び出し、リベラルへとその剣を振るう。

 右、左、下。

 神の名を冠する彼らの太刀は、生半可ではなく頂点に位置するものだ。

 しかしそれは彼女も同じこと。

 目にも止まらぬ速さで身体を動かすことで回避していく。

 

 急造チームであるため、連携に僅かな綻び見つけたリベラルは、その隙をついて剣神を最初に始末しようとする。

 が、ルーデウスが電撃を放ち、更に闘神が割り込んだことによって阻止された。

 

「っ」

 

 サポートに回っているルーデウスの魔術も厄介だが、何よりも闘神が一番厄介だった。

 彼はリベラルの攻撃をことごとく防いでいる。

 身体全体を使って割り込んでいるのに、耐久力が高すぎてダメージを与えられていない。

 

 これ以上ないほどに、優秀なタンクと言えよう。

 全てのダメージを闘神が請け負っているため、剣神と北神も自分のペースで戦うことが出来ている。

 ルーデウスを気絶させようとしているのだが、必ず割り込める位置にいるため出来ずにいた。

 

「…………」

 

 空を飛んで回り込もうとしたのだが、ルーデウスと北神が重力を操作することで阻止される。

 接近してきた剣神から倒そうとしても、闘神が体を張って身代わりになるため排除出来ない。

 北神は不死魔族の血を引いているため、多少の傷は気にせず戦い続ける。

 地形変化を伴う魔術も、ルーデウスによってレジストされた。

 困ったことに、彼らは完成度の高いチームだった。

 

 闘神たちの攻撃を回避し、一歩下がったリベラルは、僅かな溜めを作って放つ。

 

「――不死瑕北神流『不帰』」

 

 剣神に向け、全力を持って放った。

 闘神が割り込んで来ることを分かっているため、態々不死瑕北神流を扱ったのだ。

 

「ぬぅ!」

 

 彼女の予想通り、闘神が割り込む。

 全力で放った手刀は闘神鎧に直撃し――リベラルの手が破壊された。

 純粋に彼女の手刀の強度が足りなかったのである。

 

 血しぶきを上げ、振り切ったリベラルへと向け剣神の光の太刀が迫った。

 何とか避けようとするが、間に合わない。

 身体を捻りつつ、片腕を差し出すことで軌道を変え、何とか致命傷を避けるのだった。

 その隙を見逃さず、北神が立体構造で上空から迫って王竜剣を振るう。

 が、それは受け流して弾き返す。

 

「苦しそうだな! 銀緑よ!」

 

 闘神が突進してきたかと思えば、その六本腕を持ってリベラルの身体を拘束する。

 その瞬間、彼女は僅かに重心をズラすだけで闘神はバランスを崩し、そのまま股間を蹴り上げることで上空へと吹き飛ばす。

 そのままリベラルも上空へと飛び上がり、空中で回転する。

 

「――不治瑕北神流『八双(ハッソウ)』」

 

 踵落としをするかのように、闘神へと落下していく。

 彼女の姿は不自然に揺らめき、その脚が振り抜かれた。

 手を伸ばしていた闘神の動きが、ピタリと止まる。その横を彼女は着地し、すり抜けた。

 

 闘神鎧に、ヒビが入る。

 

「フハハハハ! 温い!」

 

 が、次の瞬間には修復し、リベラルへと襲い掛かるのだった。

 後方へとステップしつつ、剣神や北神、ルーデウスの射線が通らないように位置する。

 

「死靈魔術」

 

 それは第一次人魔大戦にて禁術となった魔術だ。

 言葉と同時に、大地から手が掘り返されていく。

 人族、魔族、魔物、種族を問わずに様々なスケルトンたちが這い出る。

 戦力として期待してる訳ではない。数を出すことで目眩まししようとしていた。

 

 

「右手に剣を、左手に剣を」

 

 

 しかし、這い出たアンデットたちは、その瞬間にフワリと浮き上がる。

 

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

 

 リベラルの身体も浮き上がりそうになるが、すぐさまレジストした。

 ……したのだが、ルーデウスも重力魔術を扱うことで、力負けして浮き上がってしまう。

 

 

「我が名は北神アレクサンダー・ライバック」

 

 

 これほどの広範囲に影響を与えているのであれば、相手側にも干渉しているのではないかと視線を向ける。

 闘神は全て無効化しているのか、一切浮かび上がる様子もなく、剣神とルーデウスを抱き抱えていた。

 

 完全に無防備となっているのは、リベラルだけだ。

 レジストするのを諦め、アンデットたちを重力魔術にて近くに寄せ集めた。

 

 

「――奥義『重力破断』」

 

 

 爆音と閃光が辺りを包み込む。

 凄まじい衝撃が襲い掛かる。

 

 リベラルは寄せ集めたアンデットを盾にはしなかった。

 アンデットを蹴り、その場から離脱したのである。

 結果、僅かな衝撃波を受けただけで回避に成功。

 砂埃が舞っている間に接近するのだった。

 

「なっ」

 

 避けられるとは思っていなかった北神は、動揺した様子を見せる。

 だが、そこで割って入ってくるのはやはり闘神だった。

 もはや驚きもせず、リベラルは自身の持ちうる最強の魔術を使用することを決める。

 

 

「『龍門解放』――発勁」

 

 

 かつてアトーフェラトーフェにも使った龍族固有魔術(オリジナルマジック)

 それは第二次人魔大戦にて、魔龍王ラプラスが多用していた技だ。

 その技を纏うことで、数多の不死魔族たちを消滅させてきたのである。

 リベラルも父親と同じ技を扱った。

 

 光り輝く龍気を腕に纏った彼女は、そのまま闘神へと掌を振り抜くのだった。

 凄まじい衝撃音と共に、闘神が吹き飛ばされていく。

 吹き飛んでる最中の闘神に追い付いたリベラルは、そのまま腕を振り下ろし、闘神を地面に叩き付けた。

 

 何度も何度も、龍気を纏った拳を振り下ろす。

 闘神鎧は剥がれ、肉体を潰す感覚が手から伝わる。

 しばらく殴り続けていたが、やがて追い付いた剣神と北神の太刀によって回避を余儀なくされた。

 

(手応えはありましたが……)

 

 今の技は、リベラルが出せる最大の技である。

 もっと出力を上げることも出来るが、やり過ぎると大陸に巨大な穴を空けることになってしまう。

 かつてのラプラスのように、自爆する可能性がある以上、これ以上の威力を調整することが出来ないのだ。

 

 警戒する剣神と北神を他所に、怪我を治癒しながら闘神の様子を見ていたリベラルだったが――闘神はアッサリと立ち上がった。

 

「フハハハハ! 魔龍王と同じ技を扱うか! だが、それでは吾輩を倒すことは出来ん!」

 

 魔龍王は第二次人魔大戦にて闘神と戦ったのだが、当然ながらリベラルと同じように龍族固有魔術を使用した。

 それでも決定打を与えることが出来ず、結局最大出力の攻撃にて相打ちとなったのだ。

 今のリベラルは、確かに魔龍王ラプラスに追い付いている。

 

 追い付いているのだが――超えてはいない。

 

 それが闘神の評価だった。

 その言葉に、彼女は唖然とした表情を浮かべる。

 

 

(…………けるな)

 

 

 ギリッと歯軋りし、握られた拳に力がこもる。

 父親を超えられていない。

 その評価は別にいいのだ。

 実際の強さを測ることはもう出来ないのだから、気にはしなかった。

 

 

(ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁっ!!)

 

 

 何よりも許せないのは――闘神を突破出来ぬ自身の弱さだ。

 

 リベラルの火力の高さは、この世界では最上位であり、3指に入ると言っても過言ではないほどに高い。

 しかしそれは、魔術による破壊力が高いためだ。

 魔術抜きとなった時、彼女の火力は中の上。良くて上の下ほどしかない。

 呪いにより剣を扱うことが出来ず、かと言って素手では高威力な技を扱うことが出来ず。

 

 即ち、魔術が無ければ脅威度が一気に下がるのである。

 

 

(こんなところで、こんなところで負ける訳にいかない……!!)

 

 

 現在の戦いは一見拮抗しているように見えるのだが、実際には勝利することが絶望的な状況だった。

 剣神や北神は倒せるだろう。

 だが、闘神を倒すことが出来ないのだ。

 純粋に、リベラルとの相性が悪かった。

 

 魔術を無力化する上、高い防御性能を誇る闘神は、リベラルにとって天敵だったのだ。

 彼女の攻撃の大半は――通用しない。

 最大火力の魔術で突破出来なかった以上、今の彼女に倒す方法は存在しないのだ。

 その事実を理解したため、自分自身の弱さに憤ったのである。

 

 

(私は誓ったんだ――もう誰にも負けないと!!)

 

 

 龍鳴山でバーディガーディに敗北したリベラルは、尚も戦い続ける家族の姿に約束した。

 

 

(――強くなってみせると!!)

 

 

 闘神へと接近し、何度も殴りつけた。

 闘神、剣神、北神、更にルーデウスたちから放たれる嵐のような攻撃を前に、一切引くことなく殴り続ける。

 誰もがリベラルに触れることすら出来ていない。

 けれど、闘神にはダメージを与えることすら出来ていない。

 圧倒的な技量差があるのに、劣勢に立たされている。

 

 こんな理不尽なことがあっていいのかと、怒りを更に溜めていく。

 

 

(今度こそ勝つと――そう誓ったんだ!!)

 

 

 龍族固有魔術を身に纏い、思いっ切り闘神へと叩きつける。

 だけど、結果は変わらない。

 吹き飛ばされずに踏ん張った闘神は、反撃に六本腕を振り回す。

 それを受け流し、何度も叩きつけるのだが、やはり結果は変わらない。

 

 彼らの攻撃を避け続けてはいるが、いずれ限界を迎える。

 

 

「――光の太刀」

「ぐっ!」

 

 

 剣神の放った防御不能の一太刀が、リベラルの片腕を切り飛ばす。

 その隙を見逃さず、北神が剣を振り上げた。

 

 

「フハハハハ! 逃さんぞ!」

「――っ!!」

 

 

 避けようとしたのだが、闘神に抱きつかれる。

 もがいてすぐさま拘束から抜け出したのだが、その間は余りにも遅すぎた。

 残ったもう片方の腕が切り飛ばされる。

 

 それでも油断なく、彼らは攻撃を続けていく。

 リベラルは脚と身体の動きだけで翻弄し続けていたのだが、不意に足元が泥沼と化す。

 すぐさまレジストして泥沼を固めたのだが、次は身体が重くなる。

 それもレジストしたのだが、王竜剣の能力も相乗され、力負けして膝をついてしまう。

 

 そこに、闘神の剛腕が迫っていた。

 防ぐことも出来ず、顎に拳が突き刺さる。

 

 

(――……お父様、誓いを果たせず……ごめんなさい)

 

 

 闘神の剛腕が振り抜かれると、リベラルは空中を何回転もしながら地面に叩き付けられるのであった。

 薄れゆく意識の中、彼女は魔力を高めていき最後の悪足掻きをする。

 

 

(サレヤクト……ルディを頼みましたよ)

 

 

 そして、リベラルの意識は途切れた。

 

 

――――

 

 

 意識を失ったリベラルを前に、闘神たちは立っていた。

 勝者は彼らである。

 完全なる勝利だろう。

 

「中々手強かったですけど、何とかなりましたね」

「そうだな。一対一ならヤバかったぜ」

 

 北神と剣神の2人は、素直にリベラルの技量の高さを称賛した。

 余裕だったとは言わない。

 今回は間違いなくこちらの作戦勝ちだったのだ。

 特に、闘神が全てのヘイトを請け負ったのが大きいだろう。

 

 一番あり得た負け方は、各個撃破だ。

 闘神を完全に無視していれば、恐らく彼らは負けただろう。

 特にアレクサンダーが狙われていれば不味かった。

 彼の持つ王竜剣は、リベラルの呪いを乗り越える可能性が高かったのだ。

 

 しかし、リベラルはかつての因縁もあったためか、バーディガーディに執着してしまった。

 本人も気付いていなかったのだろうが、途中からは闘神にしか攻撃していなかったのだ。

 その執着が、今回の結果を生み出した。

 

「まぁ、そうなることも作戦の内なんだぜ」

 

 戦闘に巻き込まれないよう離れていたギースは、そんなことを言いながら戻ってくる。

 今回の作戦を立てたのも、剣神と北神を集めたのも全て彼の力だ。

 直接手出しはしていないものの、その功績は大きいだろう。

 

「旦那、それじゃあ次の作戦に移ろうか」

「そうであるな」

 

 ギースがルーデウスへと目配せすると、彼はヨロヨロと足を進める。

 そしてそのまま倒れていたリベラルに覆い被さると――キスをした。

 口付けを介し、冥王ビタがリベラルの中へと浸食していく。

 やがて全ての粘体を移し切ったルーデウスは、痙攣しながら横に倒れるのであった。

 

「この男はどうします?」

「そりゃあ、始末すりゃいいだろ」

 

 そして無防備なルーデウスへと剣を振り抜こうとし――、

 

 

「グルオオォォォオオ!!」

 

 

 ――巨大な赤竜が、空から飛翔してきた。

 

「あぁ!?」

 

 赤竜――サレヤクトは倒れていたルーデウスを掴むと、剣神たちを無視して上空へと舞い戻る。

 それは唐突に現れたドラゴンに対応する間もなく、あっという間の出来事だった。

 呆気に取られていた彼らだったが、やがて我に返る。

 

「おい、逃げられちまったぞ。どうすんだ?」

「どうするって言っても、どうしようもないでしょう」

「……まあいいか。逃げたのは大した奴じゃないしな」

「そうですね」

 

 そう結論付けた剣神と北神だったが、闘神とギースは険しい顔で飛び去った上空を眺めていた。

 しかし、今更どうすることも出来ないだろう。

 

 諦めた表情を浮かべ、彼らはその場から立ち去るのであった。

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