ルーデウス「ビタに憑依されてて、リベラルに寄生させて、最後に命を掛けてリベラルを取り返した」
オルステッド「憑依されてたリベラルと戦った」
リベラル「過去に転移失敗してパパに助けられて、日記だけ過去に送った」
久しぶりの前書きです。
予定では次章である10章で完結します。
今章も長くなりそうですが、よろしくお願いします。
1話 『対処』
殴り飛ばされ、地面に倒れるサル顔の男。
そしてそれを睨み付けるのは、オルステッドだった。
「おい、嘘だろ!? 待ってくれよ旦那!」
「…………」
「本当だって! 何も知らねぇんだよ!」
「…………」
「ほら! 何も持ってねぇだろ!? 信じてくれよ!」
必死に弁明するサル顔の男――ギースは服すら脱いで自身の潔白を証明しようとする。
確かに今の彼は何も持っていない。
身の潔白を証明することが出来ている。
だが、駄目なのだ。
オルステッドは既に知ってるのだ。
――ギースがヒトガミの使徒であることに。
そして彼は、ヒトガミの使徒に対して容赦しない。
「死んで人神に伝えるがいい。
龍神オルステッドは、決してお前を生かしてはおかん、とな」
――――
その日、パウロはいつものように彼女の家に訪れる。
普段ならば気配でも読んでるのか到着する頃には出迎えてくれるのが、今日はその様子がなかった。
それからノックや呼び掛けを行うのだが、彼女が出てくることはない。
「あれ? リベラルいねぇな」
時おり街から離れることはあるが、基本的に伝言があったりする。
だが、今回は特にそれらの類は一切なかったため、パウロは不思議そうにするのだった。
誰もいないのに待機していても仕方ないため、その日のパウロは諦めて帰ることにした。
後からルーデウスから聞いた話なのだが、やはりリベラルはしばらく留守にするようで、街にはいないとのこと。
いつものように布石を取り除きに行ったらしいのだが、今回は慌てて出ていったようだ。
それが数ヶ月前の出来事である。
そして現在、大変な出来事が発生してしまう。
シルフィエットとロキシーが倒れたのである。
2人は高熱にうなされ、顔を真っ赤にしながら体力の汗を流していた。
最初はただの風邪と思われたのだが、いつまで経ってもそれが治ることはなかった。
そしてアイシャが2人の足先が結晶化してることに気付き、クリフを呼んだことで発覚する。
――これは魔石病である、と。
リベラルがいないタイミングにて、それは起きてしまったのだ。
ルーデウスは後ほどオルステッドにも相談したのだが、彼も魔石病を治す術は持っていなかった。
最早どうすることも出来ぬ状況。
このまま2人を助けることが出来ないのかとルーデウスは絶望してしまう。
「落ち着けルーデウス。予定ではリベラルがもうすぐで帰ってくる。奴にも確認するべきだろう。それからでも遅くはない」
クリフからミリシオンにある神級魔術について話は聞いていた。
居ても立っても居られず、飛び出してしまいそうだったがオルステッドにそう諭されてしまう。
確かにリベラルならば扱えてもおかしくないため、彼は僅かな希望に縋り待つことにしたのだった。
それから数日後、リベラルが帰還する。
報告を受けたノルンが急いで迎えに行き、彼女は全員が集うこの家へとやってきた。
案内されたリベラルが扉を開けば、そこは大所帯となっているのだった。
ルーデウスに、パウロ、リーリャ、アイシャ。レオも傍にいる。それだけではなく、クリフにエリナリーゼもいた。
そして彼らの中央に、苦しそうに横たわる2人の姿が。
「なるほど、事情は分かりました」
「どうにかなりませんか!?」
「もちろん、どうにかしますよ。治療しますので一度退席してもらっていいですか?」
その言葉に、ルーデウスはパァッと表情を輝かせる。
正直もう無理だと思っていたため、絶望から希望へと一気に引き上げられたのだ。
中でもクリフが一番衝撃を受けていたが、治療の邪魔になるため一言二言だけ話すと退席していく。
それに続いて、他の者たちも退席して行くのだった。
「さて、と。取りあえず治しますか」
そうしてリベラルは、懐から分厚い本を取り出す。
それはミリシオンにある解毒神級魔術を記した写本である。
未来の出来事を知った彼女はオルステッドと相談した結果、先にこれを確保することにしたのだ。
そのため家を長らく空けることになったが、この時期は研究程度しかしてないので特に支障もなかった。
「内容も長いことですし、さっさと治しましょうか」
そうして彼女は、写本した内容を詠唱していく。
分厚い本であるため、数十分程度では終わらない。
数時間ほど掛けて、詠唱しながら魔力を練り上げていった。
そして、解毒神級魔術を発動する。
「――ふぅ、中々疲れますね」
彼女の視線の先には――魔石病の症状が消失したシルフィエットとロキシーがいるのだった。
長い時間を掛けて詠唱し、ずっと集中していたリベラルは染み出た汗を拭う。
一旦深呼吸をした後、魔眼を開いて2人の状態を確認する。
結果は良好だ。魔石病によって不自然になっていた魔力の流れは整い、元の状態に戻っていた。
「子どもの方は……」
そしてもう一つ大切なのが、2人の胎内に芽吹いていた新たなる生命だ。
魔石病は胎児の身体を魔石へと作り変えることで、母体へと影響を与える。
そのため、2人に症状が出た時点で非常に危険な状態となってしまう。
魔眼でそちらも確認すると、魔力の流れに異常はなかった。
とはいえ、どうなるのかは分からない。
リベラルの予想では、神子や呪子のように何らかの力を有して誕生すると考えている。
もちろん、何らかの障害を抱えて生まれる可能性もあり、楽観視することの出来ない状況だ。
「でもまあ、まずは2人を助けられたことを素直に喜びましょうか……」
これで未来は変わった。
最悪の結末がすぐに訪れることはない。
ヒトガミの策略に見事に嵌められてしまったが、未来の自分が託してくれた日記により回避することが出来た。
一番はそもそも魔石病を起こさず防ぐことだったが、それについては失敗してしまった。
というのも、魔石病になるには魔石病に感染しているネズミが必要だからだ。
そしてそのネズミもずっと生きている訳ではない。
だからこそ、何者かが態々ネズミをこちらに運ぶ必要があった。
その何者かは状況的にギースだと考えた。
日記の内容的にそれ以外いないだろう。
けれど違った。
オルステッドがネズミを持ったギースを確保したのだが、それでも意味はなかったのである。
ギースの存在に関係なく――魔石病は発生してしまったのだ。
リベラルは念のためミリシオンにて神級魔術を写生しに行ったが、もしもその行動をしていなければ大変な事態に陥っていたであろう。
未来からの日記があったのにも関わらず、綱渡りな結果となった。
後ほど、魔石病になったネズミがどこから来たのかは発覚する。
ビタに憑依されていたルーデウスが召喚していたのだ。
魔法陣は彼の家の地下にある祭壇……ロキシーのパンツを祀っている場所にひっそりと作られていた。
つまり、ギースはただの囮だったのだ。
何らかの方法で知られていたとしても、目を他所に向けさせるための罠。
ここまで用意周到に、魔石病の計画は進められていたのである。
気付けなかったのも無理はないだろう。
リベラルは祭壇のことを知っていたが故に、召喚魔法陣を作っているとは思わなかったのだった。
「今は取りあえず、みんなに伝えないとですね」
魔眼を閉じた彼女は、外でずっと待っているであろうみんなに報告するため、この場から退出するのだった。
報告後、一同は安堵し喜んでいた。
魔石病という難病を前に諦めるしかないと思っていたのに、治療に成功したのだ。
魔石病をある程度知っているクリフは、驚きのあまり顎が外れそうな様子だった。
パウロにとっては義娘になるため、喜びのあまり半泣きである。
「治せて良かったです……本当にありがとうございますリベラルさん……!」
「いいんですよ。私と貴方の仲じゃないですか」
ポンポンと肩を叩くと、ルーデウスは身体を震わせながら涙を溢す。
リベラルはそれを優しく抱き締め、安心感を与える。
彼にとって家族とはこの世界で最も大切なものであり、前世の過ちを克服した証拠でもある。
本気で生きてきたからこそ、シルフィエットとロキシーは彼を慕い、そしてその2人をルーデウスは愛していた。
2人が死にそうになって一番辛かったのはルーデウスだろう。
彼の不安と恐怖は誰にも想像出来ないほど大きかった筈だ。
だからこそ、許せなかった。
魔石病になってしまったのはビタが原因である。
ルーデウスを操ることで、この事態を引き起こしたのだ。
彼がどれほど本気で生きてきたか知っているからこそ、その行為がどれほど想いを踏みにじるものか理解していた。
(本当に、厄介な存在ですね……)
しかし、今は手出し出来ない。
ビタの本質は、憑依というより寄生だった。
魔眼で確認したルーデウスの姿は、ビタの一部に脳が犯されているのだ。
何か仕掛けたり結界による無力化をしても、ルーデウスを道連れにすることが出来る状態だった。
態々ミリシオンまで神級魔術を写生しに行ったのも、それが理由である。
ビタをどうにかすることが出来なかったこともあり、魔石病を防ぐことが出来なかったのだ。
「あの、リベラルさん」
不意にルーデウスに話し掛けられたことにより、彼女は思考を中断する。
彼は何かを決心したかのように、口を開くのだった。
「今日の夜……家に行かせてもらっていいですか?」
「今夜ですか? 構いませんけど、どうしたんですか?」
「大切な話があるんです」
そう言われてしまえば断ることも出来ないだろう。
予定はあったのだが、後回しに出来ることなので彼女は頷いた。
「いつでも来てください」
「ありがとうございます。今夜行かせてもらいます」
シルフィエットとロキシーの2人は、リーリャやアイシャがいるので大丈夫だろう。
大切な話の内容については、未来の日記を持ってる彼女にも分からない。
だが、ビタのことがある以上、リベラルとしても好都合だった。
一応、オルステッドにも報告した後、ルーデウスに来てもらうことにする。
――――
日も沈み切った夜。
ルーデウスは宣言通りやって来た。
もちろん彼一人である。
家の中に招待したリベラルは、お茶やおつまみなどをテーブルに置きつつ、椅子に座った。
「それで、どうしたんですか?」
「…………」
彼は何か言い辛そうにしつつ、おつまみを食べる。
それからようやく口を開いた。
「こ、今夜は月が綺麗ですね」
「……? 綺麗ですけど、そんなことを言いに来た訳じゃないですよね?」
「あ、ああ、今のはちょっと話の切っ掛けを掴むためのものなので……」
「何を緊張してるんですか……?」
流石に気になったリベラルは、顔を近付けつつ彼のおでこを触る。
とても熱くなっており、耳まで真っ赤になっていた。
その様子から、ルーデウスの様子について察してしまう。
(ああ……そういうことですか……)
事情を理解した彼女は、拳を強く握り締める。
けれどきわめて冷静に努めつつ、何気ない会話からすることにした。
「シルフィ様とロキシー様は目を覚ましましたか?」
「はい、お陰様で」
「もしまた体調を崩すようでしたら教えてください。まあ、私より医者とかに見せた方がいいかも知れませんけど」
「いえいえ、リベラルさんの方が安心出来ますって」
確かに彼女はある程度の医学に精通しているが、専門職に勝てるかと言われれば何とも言えないところだ。
どちらかと言えば、オルステッドの方が知識はあるだろう。
とはいえ、魔石病を治したことを考えれば、リベラルを頼るのも不思議ではない。
「……今日は、本当にありがとうございました」
「当然のことをしたまでですよ」
「それでも、俺には返しきれないほどの恩です」
ルーデウスはお茶を一口飲み、テーブルに置く。
「実は、悪夢を見たんです」
「悪夢ですか」
「はい……魔石病になった2人を失う悪夢です」
「…………」
それは実際に未来で起きた出来事であり、今回も起こり得た未来だ。
「2人だけじゃなくて、父さんや母さん、ノルンにアイシャ、ザノバ、クリフ、みんなが死んでしまう……そんな最悪な悪夢です」
「それは、辛かったですね」
もしかしたら彼は、ビタに憑依されていることを無意識に知覚しているのかも知れない。
だからこそ、不安になってリベラルに会いに来たことも考えられるだろう。
「思い返せば、俺は昔からずっとリベラルさんに助けられてばかりです」
「そうですか? かなり放任してた気がしますけど」
「そんなことはないです。ずっと、ずっと感謝してたんです」
確かに彼女は龍神流を教えたが、基本的なことしか教えていない。
ブエナ村で過ごしていた時も、大半の時間を瞑想だけに使わせていた。
エリスの元へ家庭教師に行ってからは、手紙でしかやり取りしていないのだ。
転移事件が発生してから再会したのもミリスであり、そこまで助けた記憶がなかった。
だが、どうにもルーデウスの視点では違うようである。
「リベラルさんのお陰で、俺は魔術師としてそれなりの力を手に入れられましたし、生きる術を手にしました」
「ふむ」
「それに、母さんのことも助けてくれました」
「確かにそうですね。ふっ、私にもっと感謝するがいい」
リベラルはあえて茶化したのだが、彼は真剣な表情を崩さなかった。
「父さんに稽古してくれてることもそうですし、フィリップを助けてくれていたこともそうです」
「…………」
「間接的ですけど、エリスも助けてくれたようなものです」
ルーデウスも詳しい状況を知っている訳ではないだろう。
だけど、フィリップたちが死なないようにリベラルが根回ししたことは確かである。
「そして今回の件です。俺にはどうすることも出来なかった。悪夢が実現してもおかしくなかった」
「…………」
「けど、リベラルさんが助けてくれた」
魔石病を治癒したことは、あまりにも大きなことだった。
心がグチャグチャになりそうな時に、彼女はそれを治してみせたのだ。
そのことに対して、何も感じない訳がないだろう。
ルーデウスは近くへと寄ってくる。
そのまま手を握ってきた。
そして意を決したかのように、言葉を続けた。
「気付いたんです――リベラルさんのことが好きなんだということに」
彼女はやはりか、と思いつつ、首を横に振った。
答えは以前から告げていた通りだ。
「……申し訳ございませんが、私はヒトガミを倒すまではパートナーを作るつもりがないです」
「分かってます。けど、言いたかったんです」
「そもそも妻が2人いるのに何を言ってるんですか?」
「リベラルさんのことが好きなんだって……その気持ちに嘘を吐きたくなかったんです」
ギュッと握り締められる手の力に、リベラルは溜め息を溢す。
「ルディ様、お止めください」
「駄目ですか?」
「……もしかして溜まってるんですか?」
毎日のように致していたが、魔石病によって倒れてからは妻と出来なかったのだろう。
だからと言ってこちらを性のはけ口にされてはたまったものではない。
「違います! そんな訳ない!」
ルーデウスの手が身体へと伸びる。
リベラルはそれを振り払いはしなかったが、じっと彼の目を見た。
「もういいですよ、その下手な演技は」
「……なんのことですか? 演技じゃないですよ?」
「……いい加減胸糞悪いんです。人の気持ちを踏みにじって……」
リベラルの見せた怒りの表情に、ルーデウスは僅かに狼狽える。
「――冥王ビタ。人の身体を使って変なことを言わせないで欲しいです」
我慢の限界だった。
ルーデウスがそんなことを言うわけがないのだ。
彼は確かにリベラルに好意を抱いてるかも知れない。
だが、シルフィエットやロキシーを蔑ろにするようなことは絶対にしないのだ。
ここに来てからの発言は、ルーデウスに対する冒涜でしかなかった。
そもそも、妻の2人が倒れていたのにも関わらず、別の女に告白するなんて頭がイカれてるとしか思えないだろう。
「……分かっていましたか」
「たまたまですよ。本当なら気付けませんでしたし」
未来からの日記が無ければ気付けなかったのだ。
言葉通り、気付けたのは偶然でしかなかった。
「ならば、私が何をしようとしていたのかも予想していたのでは?」
「どうせ私に寄生するために来たのでしょう」
「そうですね。魔石病は阻止されましたが、君の身体にさえ入り込めれば巻き返すことが出来る」
「なら、私に気付かれた時点で失敗ですね」
ビタは再びリベラルの顔に両手を伸ばす。
当然ながら振り払おうとしたのだが、彼の言葉により動けなくなってしまう。
「抵抗すればこの男の命はありませんよ」
「!!」
「彼の命は私が握っています。その意味が分かりますね?」
「……この、外道め」
「何とでもいいなさい」
伸ばされた両手は、リベラルの顔を固定する。
彼女の力ならばいつでも振り払えるが、それをすればルーデウスがどうなるか分からないだろう。
人質を取られてしまったことで抵抗することも出来ず、彼女の表情に焦りが見える。
「……私が対策していないとでも思ってますか?」
「おかしなことを言いますね。対策していたのならば、このような状況にはならなかった筈です」
そう、彼の言う通りだ。
寄生したビタだけを取り除く方法がなかったからこそ、魔石病を起こされてしまった。
ビタに気付いていながらこの状況に持っていかれたことこそ、リベラルの発言が強がりでしかない証拠だった。
悔しそうな表情を見せる彼女に、ルーデウスはニチャリと顔を歪める。
まるで幼少期の性欲しかない頃の顔だった。
「嫌ならば抵抗すればいいでしょう。その時はルーデウスがどうなるか分かりませんがね」
「……くっ、殺せ!」
「ええ、オルステッドと戦わせた後に、その願いを叶えてあげましょう」
徐々にルーデウスの顔が、リベラルの顔へと近付いていく。
やがて――2人の唇が触れ合う。
彼女は最後の抵抗をするかのように口を閉ざす。
そんな抵抗を嘲笑うかのように、何度も唇で啄まれることで徐々に脱力してしまう。
力が抜けきった瞬間、半開きになった口にルーデウスの舌がねじ込まれた。
それと同時に――液体のようなものが口内に侵入していく。
そのまま冥王ビタは、リベラルの喉奥へと潜り込んでいくのだった。
意識を失ったルーデウスとリベラルは、その場に倒れるのだった。
――――
椅子に腰を掛けたリベラルは、オルステッドと向き合っていた。
奥の方には、ベットに寝かし付けられていたルーデウスが静かに寝息を立てている。
「本当はもっとスマートにどうにかしたかったんですけどね」
「仕方あるまい。俺もビタに対する有効手は多く知らないからな」
「まあ、被害なく対処出来たので良しとしますか」
予想通りと言えば、予想通りだった。
ルーデウスに大切な話があると言われた時点で、そうなることは予測出来た。
だからこそ、何の対策もなく冥王ビタと相対する訳がないだろう。
家の床には、ビタの死骸とボロボロに崩れた指輪が落ちていた。
「――ラクサスの骨指輪。解析する時間が欲しかったですね」
彼女はこの数ヶ月間、ラノアから離れていた。
そしてそれは、ビタをどうにかするための手段を手にするためだったのだ。
ミリシオンへと神級魔術を写生しに行ったのは、どちらかと言えばついでのことである。
本当の目的は死神ランドルフと会い、ラクサスの骨指輪を貰うことだった。
「しかし、ビタも思い切ったことをしたな」
「そうでもないでしょう。彼にはそうするしか手段がなかったんですよ」
今回のヒトガミの目的は、リベラルに冥王ビタを憑依させることだった。
魔石病を引き起こし、その混乱に乗じて戦力を分断させることは、それをより確実にするための手段でしかない。
リベラルさえ駒にすることが出来れば、後は未来の日記と同じような状況を作りだけるだろう。
ビタはずっと綱渡りな状況に身を置いていた。
偶然が重なり、ルーデウスの前でリベラルは魔眼を使用することがなかった。
だが、それはずっとではなかっただろう。
いつの日か魔眼が使われ、ビタの憑依が露呈する日が来る。
そうなれば、リベラルに憑依することは困難だ。
故に、魔石病を治されたことに焦ったのだろう。
「ずっと潜んでいてもジリ貧でしたし、無理やりにでも寄生せざるを得なかったんでしょう」
ずっと潜んで正体がバレるか、脅してでも寄生するか。
お粗末な告白のせいでバレバレだったが、互いに機転は効かせた方だろう。
当初の予定では、告白された流れでキスをさせて寄生される、という流れだったのだ。
しかし、ルーデウスたちを冒涜するかのような告白に、リベラルが怒りを堪えることが出来なかったのである。
あのまま自害を迫られていたり、指輪に気付かれたりすれば危なかっただろう。
「まあ、ひとまず安心ということで」
「そうだな。ヒトガミは大きな失敗をした」
未来の日記では、リベラルに憑依させるためにラプラスの復活位置の固定に関与していなかった。
今回も同様だろう。
既にザノバは戦争のために国に戻ることを伝えており、ここからヒトガミに関与出来ることはない。
「後、私の言ったことはちゃんと守ってますか?」
「守っているが、お前はそこまでの覚悟を持ってるんだな」
「まあ、どうせなら目指すはパーフェクトゲームですよ」
「……今回の功績はリベラル、お前だ。だからこそ判断は任せる」
「ありがとうございます」
「事が終わったら、責任を持って見ていろ」
「もちろんです」
それを告げたオルステッドは、お茶を飲み干すと立ち上がる。
ビタの死骸を一瞥した後、扉を開いて出て行くのだった。
退出を見届けたリベラルも立ち上がり、使った食器を洗って片付けていく。
片付け終わった後、彼女は寝静まっているルーデウスの前へと近付いた。
「……ルディ様、私は貴方の想いに応えることは出来ません」
ベットに腰を掛けつつ、彼の身体をそっと撫でる。
意識がないのにピクッと反応することに苦笑しつつ、言葉を続けた。
「でもまあ、先ほどのキスはそこまで嫌ではありませんでしたよ」
彼が操られていることもなく、そして本気で結婚などを考えていたのであれば、正直かなり迷っただろう。
使命と約束があるため、首を縦に振ることは出来ないが。
少なくとも、それくらいにはルーデウスに対して好意はあった。
「……貴方たち家族の関係はとても好きです。見ていて心が暖かくなります。昔のことを思い出して、センチメンタルになったりしますよ」
ぷにぶにと頬を弄った後、リベラルは立ち上がる。
「――
そして、彼女も部屋から出て行くのだった。
誤字報告、感想、評価。
いつもしてくださりありがとうございます。
Q.あれ、ギース…死んだ…?
A.オルステッドからは逃げられないのだった。
Q.魔石病防げなかったんか。
A.作中に記載したように二重工作です。ヒトガミも本気でここで仕留めるつもりでした。未来でのギースがネズミを仕込んだのかは…不明です。
Q.ルーデウスの告白。
A.残念ながらビタに操られ、本能のまま告白しました。本気ではありません。遊びでした。
Q.リベラルとルーデウス。
A.ルーデウスのファン。好きだけど、どちらかと言えば嫁たちの関係性が大好き。その間に入り込むなんてナンセンス!
Q.ビタ。
A.無性生物なので恋愛の機微が分からず、適当に告白させてしまい地雷を踏み抜く。勝ちを確信したリベラルにくっころごっこされた。