オルステッド「ヒトガミの使徒は死ね」
ギース「うわー!」
リベラル「魔石病治してビタも始末したよん(^o^)v」
体調不良になったのでその間に一気に書き上げました。
皆さんも体調にはお気を付け下さい。
日も沈んだ夜、パウロはリベラルの後ろを着いていっていた。
いつもしている鍛錬とは別件だ。リベラルの家には向かっていなかった。
彼の表情は普段の軽薄なものと違い、複雑そうなものである。まるで転移事件後を彷彿させるほど動揺しているようにも見える。
2人がたどり着いたのは酒場である。
ただの酒場だが、他のところと違うのはそこはアトーフェラトーフェの元親衛隊の利用が多いことだろうか。
つまりオルステッドの私兵の溜まり場である。
酒場にも関わらず実力者が多いことにパウロは驚きつつ、カウンター席にいた男の元へと足を進めていった。
1人でカウンター席に座っていた男――ギースは彼の姿に気付くと、軽薄な笑みを浮かべながら手を上げた。
「よお、パウロ。久しぶりだな」
「ギース……」
「何だよ、辛気臭そうな顔してよ」
ギースは殺されていなかった。
オルステッドによって捕まった彼だが、親衛隊たちに止められたのである。どうやらリベラルが根回しし、殺されないようにしていたのだ。
何とか死なずに済んだギースは、親衛隊に監視されながら今までを過ごしていたのだった。
彼が魔石病に感染したネズミを持っていたことは、既にルーデウスたちに知らされている。
その上で、最初にパウロをここに連れてきたのだった。
「では、私は離れています」
ここまで案内したリベラルは、その場から退席して出て行く。
周りに親衛隊はいるものの、声が聞こえるほどの距離にはいない。
態々一対一で話せるように配慮されていたことは明白だった。
パウロはギースの隣に座り、水を一口飲んだ。
「……一応確認するけどよ、魔石病のネズミを持っていたのは本当なのか?」
「ああ、本当だぜ。頑張って誤魔化そうとしたけど、無理だった」
「ヒトガミの使徒ってのも、本当なのか?」
「違う、って言いたいところだが、決定的な証拠があるから否定出来ねえな」
「…………」
観念したかのようにそう告げるギースを前に、パウロは怒りで身体を震わせる。
けれど、ここで手を出したり結論をすぐに出すことはなかった。
ブエナ村で過ごしていた頃よりも、彼は成長しているのだ。
話を最後まで聞こうとしていた。
「何でそんなことしたんだ? 何でヒトガミなんかの言いなりになってるんだ?」
「ネズミに関しては、それがヒトガミの指示だったからだぜ。言う事を聞いてるのも、まあ腐れ縁みたいなもんだ」
「……そうかよ」
ギースは変わらず軽薄な様子だった。
結論は出たも当然だろう。
だが、パウロはそこで話を終わらせなかった。
伊達に長年パーティを組んでないのだ。
これでああハイそうですか、と終わる程度の関係性ではない。
「なあギース、もう一回言うぞ。何であんな奴の言いなりになってるんだ?」
「おいおい、言ったじゃねえか。腐れ縁だから仕方なくだってよ」
「違うだろ。お前はそんなことだけでオレの息子に危害を加えたりしない筈だ。何があったんだ?」
キッパリとそう言い切ったパウロに、ギースは目を丸くする。
やがて降参するかのように両手を上げた。
「ただヒトガミに恩があるからだぜ。嫌な事はされたけど、トータルで見りゃあ、俺は救われたんだ」
「恩か。確かにそりゃあ大切な理由だな」
「だろ? アイツは嫌な奴だけどよ、俺は救われちまったんだ。だから、従ってる。それだけだ」
後悔のない様子の彼に、パウロはもう一杯水を飲み込む。
ギースの故郷が滅んでいることは知っているし、きっとそれはヒトガミが原因なのだろうと考えた。
そしてそれでも手を貸すようなお人好しであることを知っているのだ。
「パウロ、お前なら分かるだろ? 俺みたいに、どうしても出来ない事のある奴の気持ちをよ」
「まあ、な。オレたち黒狼の牙はそんな奴らの寄せ集めだったからな」
「ヘッ、ちげえねえ」
ヘラヘラ笑うギースは、酒を飲み干す。
ヒトガミの使徒であろうとなかろうと、彼は何も変わらなかった。
パウロの知っているギースのままだった。
「……なあ、ギース。ヒトガミじゃなくてオレたちの方に付けよ」
ふとパウロの口から溢れ出た言葉に、彼は再び目を丸くする。
「おいおい、何言ってるんだよパウロ。俺が筋を通す奴だって知ってんだろ? そんなこと出来ねえよ」
「ギース。お前はいつからヒトガミの使徒だったんだ?」
「そりゃあずっと昔からさ。何十年も前からだぜ」
「やっぱりオレたちと会う前からだったんだな」
「そうだぜ、駆け出しの頃から何度も助けられたんだ。黒狼の牙と出会えたのも、ヒトガミのお陰なんだよ」
ギースはヒトガミと長い付き合いだった。
元々彼はヌカ族の村長の息子に産まれて何不自由なく暮らしていたが、そんな生活を退屈に感じて冒険者になった。
だが、剣も魔術も人並み以下だったギースは当然ながら死にそうになり、そこをヒトガミに助けられたのだ。
それからはヒトガミの助言に従うことで、冒険者のランクを上げていき、何度も死を回避することが出来たのである。
順調に進んできた最中、故郷を滅ぼされてしまったが……何度も助けられた事実は変わらない。
恨みは恨み、恩は恩と考え、その後もヒトガミと繋がりを持った。
パウロたちと出会ったのは、それから先の話である。
黒狼の牙の一員となったギースは、Sランク冒険者として大成出来た。
当時は楽しかった。間違いなく絶頂期だっただろう。
だからこそ解散してしまったのは残念だったが、満足な結果は残せた。
恨みはあれど、ヒトガミに感謝しない訳がないだろう。
ヒトガミには数え切れないほど助けられたのだ。
だからこそ、ヒトガミを裏切ることは出来ないのだった。
「だからよ、パウロ。俺はお前の側に付けねえんだ」
数回程度なら、ギースはヒトガミの元から離れただろう。
だが、そうではないのだ。
与えられた恩義が大き過ぎたのだ。
けれど、そんな彼の様子にパウロは鼻で笑う。
「なあギース。お前は本当にヒトガミの助言で今まで死地を乗り越えて来たのか?」
「はぁ? いきなりなんだよパウロ? そう言ってんだろ?」
「いいや、それは勘違いだ。ヒトガミがいなくてもお前は死地を乗り越えられた」
「おいおい……」
「オレたち黒狼の牙は、一癖も二癖もある集まりだった。互いの短所を埋め合うことは出来たけど、1人じゃロクなことも出来やしなかっただろ」
そう、黒狼の牙は1人ではロクなことも 出来ない集まりだった。
エリナリーゼは呪いによって男漁りしないと生きていけないし、戦闘力では随一を誇るギレーヌも道端で野垂れ死にしかける始末だ。
だけど、そんな者たちでも今まで1人でやってきたのだ。
「だけどよ、オレたちは何度もお前の判断に助けられたことがあるんだぞ? それともその判断も全てヒトガミがしてたのか?」
「いや、そうじゃねえけどよ……」
「なら自分の判断で生き残れる道を選べた筈だ。ヒトガミの言葉があろうとなかろうとな」
「……それはこじつけだろ?」
確かに無理のある言い分だろう。
だが、パウロはそれを否定する。
「ギース、お前は用意周到な奴だった。ヒトガミはお前のことをちゃんと知らねえんだよ」
「…………」
彼のその言葉には、思い当たる節があった。
ヒトガミはギースのことを「何もできないゴミ」と見下しているのだ。
本来の歴史でも、ヒトガミは一生懸命働いた彼に対して嘲笑うようなことしかしなかった。
結局、最期までその言葉を訂正させられることなく役立たずの烙印を押されることになった。
だからこそ、その評価を見返してやろうとギースはヒトガミの側につくのだ。
けれど、ここには彼のことを良く知る人物が生きている。
「――
「――――」
それはパーティの一員として頼りにしていたパウロたちの共通認識だった。
そして彼が最も求めていた言葉だった。
「お前は何も出来ない奴じゃない。
情報収集、索敵、雑用と、戦闘以外のことは何でも出来る男だ。
当たり前のことであろうと、それをパウロたちは出来なかった。
戦闘が出来なくても、それは互いに補うことで完成したパーティだったのだ。
「なあ、ギース」
「なんだよ」
「お前がヒトガミ側に付いたら、俺たちは瓦解しちまうよ」
「そうかよ」
「だからよ、戻ってこいよ」
「…………」
その言葉が嘘でないことを、彼はよく知っている。
実際に黒狼の牙が解散した後は、ロクに冒険者として活動している者はいなかった。
タルハンドは器用に魔法戦士として立ち回っていたようだが、結局エリナリーゼと同行していたところを見ると結果はお察しだろう。
最近はどこかの酒場に入り浸っていると話を聞いており、冒険者どころかロクな生活を送ってないことが窺えた。
ギースもギャンブラーになっているので、人のことは言えない。
「けどよ、恩義は消えないって言ったぜ?」
結局、そこに行きつくのだった。
パウロたちがどう思ってようと、それは彼にとっての事実なのだ。
ヒトガミがいたから今まで生きてこれた。
その認識を覆すには至らない。
だが、パウロは呆れたかのように口を開いた。
「じゃあオレたちへの恩義は?」
「……は?」
「戦闘出来ないお前を散々守ってやっただろうが」
「いやいや、俺の判断で助けられたとか言ってたじゃねえか」
「それとこれは別だ。恩は恩だろ」
「無茶苦茶言いやがるぜ」
「トータルで見たらオレたちの方が救ってるからな」
実際にどっちが多く助けたかなど分からないだろう。
これは言ったもの勝ちでしかない。
「じゃあ今回のことは許してやるから、それでお前の恩義はチャラだ。これで残ってるのはオレ達への恩義だけだ。それでいいだろ」
「それを言われると弱いけどよ……」
ギースだって別にルーデウスたちが憎くて、魔石病を仕掛けようとした訳ではないのだ。
ヒトガミに指示されたからでしかない。
「それによ、パウロが許しても他の奴らが許さねえだろ。特にルーデウスとかよ」
今回のことを考えれば、ギースは許されないだろう。
確かにギースが魔石病を仕掛けることは出来なかったが、そちらに目が向いた結果シルフィエットとロキシーは魔石病になってしまったのだ。
無事に治癒されることになったが、それは結果論でしかない。
「ああ、それなら大丈夫だ。ルディはお前じゃなくてビタに怒っていたからな」
「それなら龍神はどうなんだ? 真っ先に殺されそうになったけどよ」
「それはリベラルがどうにかするらしいぞ」
ギースを殺そうとしていたオルステッドを止めたのはリベラルである。
態々助けたのに、ここから放ったらかしにし、むざむざオルステッドに殺させるなんてことはしないとだろう。
「リベラルからの伝言もあるぞ。
『貴方を強大な力から命からがら……そう、命懸けで何とか助けたので、その恩義はしっかり返して下さい』
ってよ」
「本当かよ……」
とはいえ、助けてもらったのは確かである。
「まあ、エリナリーゼはお前のことを殺すって言ってたけどな」
「駄目じゃねえか」
「オレには止められねえ。頑張ってくれ」
そこまで話し、2人は自然に笑い出す。
この感覚はここ最近ずっとなかったものだ。
忘れていた感覚を、ギースはゆっくり思い出していく。
(解散して以来だな。こんな気楽に笑えるのも……)
本来の歴史では、ギースは最期まで敵として戦い、敵のまま散っていった。
ヒトガミへの恩義を理由に、決して味方になることはなかった。
けれど、ここでは違う。
ギースをヒトガミから切り離すピースが揃っていた。
彼自身の能力を肯定してくれる存在。
仲間であることを認めてくれる存在。
バラバラだった皆を繋ぎ止めてくれる存在。
――即ちパウロである。
彼は本来ならば、転移迷宮へとゼニスを助けに向かい、そこで命を落とすことになる。
けれど、この世界ではそうならなかった。
パウロは黒狼の牙のリーダーであり、彼の元に自分たちは集まったのだ。
そう、一番最初にギースの能力を見抜いたのはパウロだった。
必要としてくれたのが彼だったのだ。
だからこそ、ギースは差し出された手を握ることが出来た。
「分かったよパウロ――お前らは俺様がいないと駄目だからな」
いつしか軽薄な笑みは消え去り、彼は黒狼の牙としての表情に戻る。
「――俺様が助けてやるよ」
ギースは、ヒトガミの使徒から離れるのだった。
その言葉に、パウロはニヤリと笑みを浮かべる。
「ヘッ、精々足引っ張んなよ」
「そりゃあこっちのセリフだぜ」
2人は酒を頼み、互いに語らい合うのだった。
しがらみはなくなり、昔の関係へと2人は戻る。
――――
ギースとパウロ。
2人が酒を飲み合う様子を、リベラルは外から観察していた。
そして背後にいたオルステッドへとドヤ顔を見せるのだった。
「ね、やってみるものでしょう?」
「……まだ信用は出来ん」
「まあ、それは今後のギース様の行動から判断しましょう」
今回この場を設けたのは彼女である。
何とかしてギースを味方に取り入れられないかと考え、パウロに説得を頼んだのだ。
結果は成功。
もちろんオルステッドの言う通り、この場だけの口八丁の可能性もある。
しかし、それを言い始めたらキリがないだろう。
確かにギースを殺した方が確実だ。
憂いもなくなるし、ヒトガミの手駒を減らすことにも繋がる。
だが、短絡的な行動は味方を失うことにも繋がるのだ。
今までのオルステッドは、呪いの影響により味方を作ることが出来ず1人で戦い続けた。
けれど、今はルーデウスやリベラルがいる。
ヒトガミを相手にするのならば、敵を増やすより味方を増やす方が有効だろう。
スパイのような者が紛れ込む可能性もあるが、1人で戦い続けるよりか勝率は上がる。
「それに裏切ろうとしても、その前兆には気付けるでしょう」
「大した自信だな」
「ええ、私以外にギース様を見る人が増えますから」
その言葉に、オルステッドはどの人物のことを指しているのかに気付く。
「……完成したのか?」
「ええ、無事に」
「なるほど、心を読める者がいるのならば、自己暗示していても気付けるか」
「それに、催眠魔術のことを考慮して私も観察しますので」
そこまで責任を持って監視するのならば、彼としても言うことはなかった。
本当にギースが裏切らないのであれば、それは喜ばしい事実であることは確かなのだ。
中の様子を一瞥したオルステッドは、背を向けて離れていく。
「俺はそろそろシーローンに向かう。何かあったら伝えろ」
「お任せ下さい社長」
「しゃちょ…………ああ」
既にザノバはこの地から離れている。
それでもオルステッドならば容易に追い付くだろう。
彼女も中の様子を最後に確認し、自身の準備のために離れていくのだった。
――――
数ヶ月後、リベラルはゼニスを家へと招待していた。
今までは彼女が家へと赴いていたが、今回は準備が必要だったので来てもらう必要があった。
用件は言わなくても分かるだろう。
――ゼニスの治療の目処が立ったのである。
この場にはグレイラット家だけでなく、ギレーヌを除く黒狼の牙のメンバーも来ていた。ギースはエリナリーゼにぶん殴られたのか顔を腫らしていたのは余談だろう。
それにクリフやアリエルもおり、とても大所帯となっている。
しかし今回の件はそれほど周りの者たちにとって重要なことなのだった。
「では、ゼニス様はこちらの椅子に座って下さい」
彼女の示す椅子は、天井に届くほど背が高く、そして幾重にも魔法陣が刻まれていた。
更にその下には土台があり、地面には大きな魔法陣が記されている。
流石に転移装置ほどの規模はないが、それでも大規模な装置に変わりなかった。
「…………」
「大丈夫ですよ。別に痛いことはない……と思います。多分」
「おい、多分ってなんだよ」
「動物相手なら痛みにもがくことはありませんでしたけど、人間は今回が初めてなので……」
「不安になること言うなよ……」
そんなやり取りをしてる間に、リーリャが椅子の近くまで介護し、ゼニスは座るのだった。
「リベラルさん……お母さんを、お願いします」
「ふふ、任せて下さいノルン様」
ノルンの言葉を皮切りに、ルーデウスたちもお願いしますと口を開く。
その全てを聞き届けた後、全員を魔法陣の外へと誘導し、魔力を込めていくのだった。
「では、始めます」
魔法陣は魔力に呼応するかのように、端から輝きを増していく。
青に、緑に、白にと色を変えつつ、魔法陣が光を放つ。
やがてそれぞれの輝きが増大し、辺りを光が包んだ。
それから数秒間、周りが見えなくなり、徐々に光源は消え去っていく。
そして完全に光が消失した時、椅子にはぐったりと脱力していたゼニスが座っているのだった。
「完了です」
「ゼニス!」
リベラルの言葉と同時に、パウロが駆け寄る。
椅子から崩れ落ちそうなゼニスを支え、何度も声を掛け続ける。
その様子を、周りの全員が見守っていた。
やがて目を開いたゼニスが、パウロへと視線を向ける。
「ゼニス! ゼニス! オレが分かるか!?」
「――――」
「おい、ゼニス! 大丈夫か!?」
彼女は、起き抜け特有のぼんやりとした顔でパウロを見ていた。
それから周りへと視線を向けた後、再びパウロへと顔を向ける。
「…………ぁ」
「ゼニス?」
「――……ぱ、う、ろ」
途切れ途切れだったが、ゼニスは確かに言葉を発した。
今までの彼女は、単語すら発することが出来なかった。
けれど、ハッキリとパウロの名を呼んだ。
「ゼニス……? 分かるか? オレだよ!」
「……う、ん……わか、る、わ」
「あ、あぁ……ゼニス、ゼニス……!」
それは、ずっと待ち続けていた光景だった。
転移事件が起きてから、ずっと追い求めていた。
本当はもう無理なんじゃないかと諦めそうにすらなっていた。
このまま一生廃人のようなゼニスを見続けなければならないのかと絶望していた。
もう二度とあの笑顔を見ることは出来ない。そう思ってすらいたのに……。
「お、母さん?」
「の、るん」
ノルンは冷静にいようとしていた。
何せ転移事件後は離れ離れとなり、最早言葉を交わした年数よりも長い時間今の状態になってしまったのだ。
けれど、無理だった。
彼女もずっと待っていたのだ。
自分の母親が良くなる日を。
そしてゼニスの一言によって、その冷静さは決壊する。
「お母さん……お母さん……!!」
駆け寄るノルンを静かに包容し、娘の感情を全て受け止める。
そしてそのまま、ゼニスはルーデウスへと視線を向けるのだった。
「る、でぃ、がんば、った、のね」
「母さん……」
「おい、で」
その言葉に従い、ルーデウスは彼女の元へと歩いて行く。
そのまま視線を合わせるようにしゃがむと、ゼニスの手が彼の頭を撫でるのだった。
「あり、が、とう」
「……礼を言うのは俺の方だよ母さん。俺を産んでくれてありがとう。俺、今幸せだよ」
ゼニスは更にアイシャとリーリャにも視線を向ける。
「ふた、りも、おいで」
「奥様……」
「ゆめ、を、みて、たの。みん、な、と、また、いっしょ、にすごす、ゆめを」
静かに歩み寄るアイシャとリーリャ。
そんな2人も、ゼニスは抱き締めた。
彼女の周りには、ようやく家族が揃った。
転移事件から失われていた家族の絆。
それは長い年月を得て――元の形に戻るのだった。
この瞬間、グレイラット家は本当の意味で再会を果たす。
「ゼニス様はしばらく喋らずにいましたので、しばらくしたら以前のように途切れることなく話せると思いますよ」
リベラルの補足を聞きながら、彼らは再会の喜びを分かち合った。
その後、シルフィエットやロキシー、エリナリーゼたちも会話に交じっていくのだった。
クリフもルーデウスの友人として改めて挨拶し、アリエルもこれからお世話になる予定があるため挨拶を交わす。
それはもう二度と見れないと思われていた光景だった。
――――
しばらくして。
全員から話しかけられることになったゼニスは休憩を取ることになった。
それに伴い、集まった全員は解散していく。
ゼニス本人もリーリャと共に出て行った後、その場に残ったのはパウロとリベラルだった。
「無事に治せて良かったです」
「ああ……本当に良かったよ……」
パウロはどこか神妙な様子だった。
先ほどまでゼニスが治ったことにより感極まり泣き出していたが、今は収まっている。
とはいえ、既に彼から感謝の言葉は貰っているため、何故ここに残っているのかリベラルには分からなかった。
「リベラル」
「どうしましたか」
「改めて礼を言わせてくれ……ありがとう」
僅かに目元が腫れているが、パウロの表情は真剣そのものだ。
そしてそのまま、彼はその場に膝を付いた。
相手への最上の敬意を示す最敬礼だ。
彼なりの誠意を示す方法なのだろう。
貴族の名を捨てたパウロも、作法を覚えていたらしい。
そして、
「オレは、何度も無礼を働いちまった。
最初はヒトガミの言葉に踊らされ、変な疑いを持って。
家族の行方を教えてもらって。
アイシャとリーリャの手助けまで受けて。
ゼニスを助けに転移迷宮まで行かせるなんて無茶振りをさせて。
お金は借りてしまって。
ルディの嫁の魔石病を治してくれて。
ゼニスの治療も任せて。
オレは、オレは……こんなにも助けられたのに、全然何も返せてねえんだ……!!」
ずっとリベラルにおんぶにだっこだった。
こんな自分が情けないし、どうしようもないほど憎かった。
だからこそ、今は言葉を並べることしか出来ないのだ。
「リベラル、家族がまた揃う光景を見れたのは、全部お前のお陰だ。
オレにとっての希望を掻き集めてくれたんだ。
この日を迎えられたことに感謝を。
オレの全てに掛け感謝する。
そして誓うぜ。
オレは……何があってもリベラルの味方だ。
この実力じゃ守る、なんてことは言えねえけど――それでもこの身が朽ち果てるまで力になる」
それこそ、今の自分に出来る恩返しだった。
この身を捧げる以上のことは思いつかなかった。
そんなパウロに対し、リベラルは目をパチパチさせた後フッと笑う。
「断るのは逆に失礼なので、ありがたく頂戴しましょう」
「……ありがとう」
「でも、ちゃんと家族のためにも身を尽くして下さいよ?」
その言葉に、パウロも笑みを浮かべて頷いた。
誤字脱字、いつもご報告ありがとうございます。
感想もありがとうございますm(_ _)m
Q.ギース。
A.原作では散ったものの、今作では仲間入り。目指すはパーフェクトゲーム。
裏切るかは……ま、大丈夫やろ。
因みにオルステッドが言っていた監視者役はリベラルとゼニスになります。
Q.ゼニス復活。
A.予定通りの復活。今は作中で記載したように全然口を開いてなかったためあんまり喋れないが、言葉を重ねるごとに転移事件以前に戻っていく。なお、神子としての力は残っているので心を読める。
Q.パウロの誓い。
A.リベラルに身を捧げ、一生を誓った。