世界一初恋パラレル 想いさえも閉じ込めることができるなら   作:bui

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第1話

[北の大地]

 

 

 

始まりは些細な出来事だったはず

 

▽

 

 

その時政宗は、毎月渡される生活費を投じて手に入れた高価なデジタル一眼レフカメラとそこへ行くための切符を手にしていた。

 

それは直感のような思いつきだった。

その時にはすでに壊れかけていた自分にまともな思考が出来ていたのかどうかも分からない。

 

ただ何かに呼ばれるように行かねばと身体が動いた。

 

愛しいもののために踊るその姿をこの目で見たかった・・・。

 

 

 

きっかけはいつもなんとなく点けているテレビが流していた情報番組だった。

 

テレビが点いている理由は特にない。

 

見たいドラマがあるわけでも聞きたいニュースがあるわけでもなく、番組によって時間がわかるから。

静まり返った部屋の中で、ただ一人自分が動く音だけを聞くのが嫌だから。

蛍光灯のワナワナと瞬く中でなにも動くものがないのが嫌だったから。

 

やはり明確な理由などない・・・。

 

 

自分の何が悪いかも知らされないまま、両親は政宗に関心を寄せることを放棄している。

両親が家に『来る』時、それは来ざるを得ない用事がある場合で、決して政宗への関心からではなかった。

いくらガタイが大きいとは言え、まだ未成年の高校生だと言うのに。

それでもたまに思い出すぐらいはするのだとは思うけど・・・。

 

自分の呼吸の音しかしない家で落ち込む思考から耳をふさぐための、そんないつものとある番組だった。

 

 

ステイタスの高い両親のしつらえた居間のテレビは、壁一面が画面で埋まるほど大きく、そしてその広い液晶いっばいにの雪原に同じ白の塊が睦まじく愛を語っていた。

 

無垢な白地に墨を落としたような黒。そしてその頂には目に刺さるような朱・・・。

 

丹頂という名の鶴の写真展の紹介だった。

 

 

自然を撮るというその写真家の連なる静止した写真は躍動的で、あなたが恋しい、愛しい、あなたが欲しいと鶴がお互いに叫びあっている声が聞こえるかに思えた・・・。

 

純粋な本能のダンスに嫉妬心を覚えながら、今の自分には枯れたと思っていた感情を理解できることに安塔する。

頬に涙が伝っていることに気づいた瞬間、いつだって使い切れずぞんざいに突っ込んであった生活費という名の紙の束の入った封筒を掴み、政宗はそのまま外へと飛び出したのだった。

 

 

▽

 

 

 

駅前の交差点ではこの寒空にミニスカートに薄っぺらい派手な色のジャケットを着た女性が引きつった笑顔でビラを配っている。

 

寒そうだなと少しだけ気の毒になるが仕事とはそういうモノなのだろう。父と母はいつだって生活の多くの時間をそれに費やしていた。

 

最も両親のすべてがそれだけではないことは理解していたが、それでも人は糧を得るために働く。

未成年の自分が何もせずそれを享受していることは、この世に存在させた彼女らの俺に対する慰謝料なのだと自分を正当化して痛い現実を見ない振りを決め込む。

 

ガンガンとうるさくが鳴る音楽をすり抜け目的の店に政宗は入ったのだった。

 

何階に行けばいいのだろうか?確かこの店のどこかの階で見かけた記憶だけはあったのだけどはっきりとは覚えていない。

 

キョロキョロと案内板を探すが目当てのものは見当たらず、狭いエスカレーターで一階ずつ確かめるように上っていくと程なくしてその品物は大きな看板とともに整列していた。

 

小さい物からかなり厳ついものまで呆れるほどの量の品物が並んでいる。

 

とりあえず・・・、と・・・、

 

万引き防止のコードに繋がれた小ぶりのモノを一つ手にして小さなキイを押したりひっくり返したりしていると、近くの店員が気安さ纏った妙なテンションで声をかけてきた。

 

今まで欲しいと思ったこともなかったので、商品に対しての知識は皆無でなにが良いのかの見当もつかない政宗は、本来なら店員など適当にかわすところを助言を求めるべくカメラが欲しいのだと告げた。

 

当初簡単なコンパクトカメラを勧めたそうだったその店員は、政宗の鳥を撮りたいという言葉を聞き、少しだけ思案したように「そういうハイスペックなカメラはとても高価なんですよ。」と言う。

 

早く動くもの、遠い所の物を取るためにはシャッター速度とそれなりのレンズが必要で、レンズに関してはハイスペックな物になればなるほど本体以上に高価なのだ。

コンパクトカメラにもそれういう類のものもないことはないが、どうしても限界がある。目的が決まっているならそれなりのものにした方が先々良いのですけど予算は?と聞かれ、政宗は手に握りしめた封筒を差し出した。

 

それなりに揃った諭吉の顔を見て、政宗が単なる冷やかし客ではないことを店員は悟ったようで、大量に展示されているデモ機の中から大きなデジタル一眼レフを政宗に手渡し説明をし始めた。

 

メーカーによって得意不得意があるから、アレならコレならと見せられたカメラの中から、アナログ操作もしやすく今後のマウントなどのことも考えて、初心者でも扱いやすいわりにはプロにも評判の高いものを一押しと勧められ、予算内であったために一時間後の政宗はそれを紙袋に入れ駅に向かって歩いていたのだった。

 

あとは旅券か・・・。

 

自分のどこにこんな行動力があったのだろうかと顔ではなく心で苦笑し、駅前の格安旅券を売っている店に飛び込む。

受付が空いていたこともあって早々に「釧路湿原に行きたい。」とそう告げると笑顔の女性がいくつかのツアーのチラシを政宗に差し出した。

 

北海道のツアーの多くはグルメと観光が主だ。

チラシは観光スポットのサムネイルと目にも鮮やかな海の幸の料理がキラキラと食欲をそそる画像になってトップに張り付けられていた。

 

「グルメと観光はいらない。丹頂を見に行きたい。」そう告げると思い当たるものがあるらしく、そのツアーは一つしかないですよと新しいチラシを見せられる。

 

数枚の冊子のようになったパンフレットの表紙は大きな鶴が羽を広げて舞っている美しい写真だった。

 

「ただ、行くだけならチケットだけ買えばいいのでしょ?でもツアーとなるとグルメがない旅はあまりないですね。でも寒い季節ですから野宿もできないでしょ?宿泊は必須よ。」と言われるが「食事は別にどうでもいいのだけど。」と再度伝えると「ほかのツアーなら素泊まりと旅券だけのセットもまれにはありますけど、丹頂を見るツアーはこれしかないです。でもこのツアーは丹頂を見る人が多く利用するペンションなのでそんなに構えたところではないですよ。」とつけ加えて説明してくれた。

 

「オーナーがそのスジの方なので絶景スポットへの案内もきちんとしてくれます。」とトドメのような言葉を告げられ政宗はそのチケットを購入することにした。

 

 

突き上げるような「行かなければならない」という衝動に、らしくないとひとりごちるがもはやカードは手の中に揃った。自分は連休にたった一人で釧路に向けて旅立つ。

 

そう思うと不思議な高揚感に動悸が高鳴るのだった。

 

 

 

 

 

▽

 

ツアーと言っても旅行会社が用意したプランというだけで団体で行動するわけではなく、湿原の案内をしてくれるペンションに宿泊して決まりのある場所で鶴を見るというだけのさっぱりしたもののようだ。

 

旅行会社は代行して現地までの足と宿の予約をしてくれるだけで、その他は引率をするものもなく自由なものだった。

 

政宗は未成年なので、本来は保護者の承認が必要ではあったのだが旅行会社はそれを省き認印のみで済ました。

 

それでいいのか?と、さすがに突っ込みを入れたい気持ちもあったが、家族に言えばおそらくNGだ。彼らは手を差し出さないくせに何かをしようとするとそれを止めようとする。常識や世間体のみを押し付けられ結局はひきこもるしかなくなる。

 

まあ・・・、その前に家族に会えるかどうかはわからないし・・・。

 

そこで駄目になるリスクを犯す気持ちはなく、お金さえ払えば大概のことはどうにかなる大人社会を覚めた目で見るのみだ。

楽だな、こういうの・・・。

 

そして今は北に向かうカラフルな色の新幹線に乗り窓から外の景色を眺めていた。

 

初めて訪れるのに気分は北帰行だ・・・。

 

北海道へは飛行機で行くことだってできる。

しかし白い地でダンスをする鶴が見たいのに自分が空を飛ぶのは何かちぐはぐな気がしてならない。飛ぶ鳥に敬意を払い、政宗は地を這って北の大地に向かうのだった。

 

 

自分はダンスを見たいのか自分が踊りたいのか、一体その景色の先になにを期待しているのか。答えの出ないであろう自問自答を繰り返す。

 

前の方では仲良く旅を楽しむ親子連れの姿が見え、楽しそうなその声に気分が落ち込む。

 

自分は何故この世に存在しているのだろうか。唯一の親にさえ顧みられない自分の存在とはなんなのだろうか・・・。

 

今更ママに可愛がって欲しいと思っているわけではないのに、そんなはずはないはずなのにイライラする。

 

もやもやした気持ちを払いのけるように書店で購入した件の写真家の写真集を広げながら、政宗は雪原を求愛ダンスする鶴の姿をみている自分を想像していた。

 

自分の求めるものが何なのかを知りたい・・・。

 

シンプルなその思いだけを胸に抱きながら・・・。

 

 

 

 

 

 

▽

 

そこは桃色と緑を基調にした山小屋風のとても可愛らしいペンションだった。

 

主人は丹頂鶴が好きで雪原に通いつめ、とうとうこの地で同じく丹頂を愛する人々の道しるべとなるべく奥様と宿を始めたのだそうだ。

 

ここにも恋がある?

 

政宗はオーナに回廊の途中の白い壁紙の部屋に案内され、ついでにと丹頂を見るための今後の予定をといくつかの注意点をレクチャーされた。

 

明日は現地到着が7時前の予定なので、ここを出るのは6時前になること。

 

寒いところなので防寒対策は過ぎると言うことはない。自分自身もカメラなどの精密機器にもきちんと防寒をすること。

 

大勢のツアーなので気を付けなければいけないことが沢山ある。独りよがりに行動しないこと、などだった。

 

野生の生き物を見るのだ。それは確かに必須のことだろう。そう納得しつつその時を想像して胸が高鳴る。

あの美しい生き物をこの目に治める。

 

そう思うとなぜカメラを手にしているのかと思わなくもない。カメラは手段にすぎず単にそれを見たかっただけなのか?

 

自分の突飛な行動を静かに振り返るとそんな気持ちが脳裏をよぎる。あの鶴のダンスを見て俺はシャッターを切ることができるんだろうか?

 

しかし次の瞬間それは違うと思いなおした。

 

やはり目にも映像にも納めたい。あの美しく躍動的な大きな鳥を手に入れられるのはこの四角い機械しかない。

 

 

 

「君は運がいいよ。今日は野鳥の撮影で有名な小野寺さんが来るんだ。」

 

レクチャーしてもらっている最中に他所に意識が飛んでいた政宗だったそのが言葉に胸がドクリと高鳴り、普段意識しない頬が赤くなっていくのがわかる。

 

「小野寺さんって写真家の?!」

「そう。ついさっき釧路に到着したって連絡があった。いつもこの宿を使ってくれるんだ。」

「まさか・・・。」

 

そう、その写真家はあの番組で紹介されていた人物なのだ。

 

たった一度、テレビの情報番組で見ただけの写真は自分をこんな遠くまで旅立たせ、心の奥深くに押し込んでいた人としての感情を解いた。

政宗の凍結していた感情は今一度芽を吹き返し、小さいけど確かな目標点へと真っすぐに延びている。

 

「今回は息子さんも連れてきているって言っていたよ。嵯峨君と同年代だから仲良くできるかもね。」

 

呆然としている政宗をしり目に、オーナーは嬉しそうにニコニコ笑ってそう告げた。

 

 

 

 

[あこがれの人]

 

▽

 

程なくして時間となった夕食は、正式なディナー料理というほどではなかったが、何度かに分かれて運ばれて来るコース料理で、まずはと出されたサラダのような前菜は鴨の冷製肉と脂が乗ってテラリと光るシャケの冷たいルイベだった。

 

女の子だったら喜びそうだな・・・。

 

極寒の北の地ではあったが温まった部屋にそれはぴったりで、小さいニンジン、紫色の大根、オレンジのミニチュアのかぼちゃ、ラディッシュ、フリルのようなレタス・・・、そんな彩のよい野菜はまるで絵画のように鮮やかだった。

 

ペンションはオーべルージュというわけではないようだが、料理好きのご夫婦だそうで心温まる味は人柄にもよったのかもしれない。

 

ルイベは舌に乗せると半解凍だった身が体温で解けるように消え、香りをふわりと立たせた。ただ切っただけの料理といえばそれまでなのだけど・・・。

 

今まで食べていた料理は、熱くても冷えていてもうまさも温度も感じることなどほとんどない出来合いのものであることが政宗の日常だった。

 

なにより食べる側の政宗の心が冷たく冷え切っているのだからそれから感動を得たことはない。

たとえそれがどれほどの高級品で食欲という人の欲を満たすには十分だったとしてもだ。

 

しかしこの料理は冷たいとしっかり感じられ、

使われている素材一つ一つを政宗の喉がうまいと告げた・・・。

 

 

 

 

たとえ家族が家にいても食事を一緒にすることはない。食事は単に死なないための営みの一つだと割り切っていた。

でもやはりここは何もかも豊かで素晴らしい・・・。

 

 

孤独な食事は日常だ。笑顔で談笑する多くのテーブルの中で、一人で食事をすることに政宗にはなんの抵抗もなかったが、端から見たらもの寂しく痛々しく思えたのだろう。

オーナーが忙しい合間を縫ってあれこれと声をかけてくれていたところへ子どもを連れた男性が近づいてきた。

 

「ああ、小野寺さん。」

 

オーナーが弾んだ声を出すので政宗ははっとしてその姿を見上げた。

 

優しそうな茶色い髪の男性は紛れもなくテレビで紹介された人だった。

 

「あれ?若い方とは珍しいですね。」

小野寺は政宗に視線を落として優しい目で言った。

 

小野寺は当然父のような年齢だが、憧れと同じくらいあった恐れにも似た警戒心をその柔らかい笑顔が瞬時に取っ払ってくれた。

 

野鳥の観察は年配の方が多い。リタイアして趣味に浸れる人たちにとって北の大地の美しい鳥はその心をくすぐるのだろう。

 

「ご両親と一緒かな?」

 

未成年の政宗にそう聞くのは当たり前のことだと思ったが、その質問は不全の親子関係を持つ政宗を少しだけ傷つけた。

目の端に映る子供が彼の息子だろう、先ほどオーナーがそう言った。

 

自分にだって両親はいる。しかし自分にはいないも同然だ。

 

普段は蓋をしていた思いが沸く。今は寂しく感じる・・・。

 

「一人です。丹頂を見に来ました。」

 

政宗がそう答えると小野寺はニッコリと笑って、ならナンパしても大丈夫かな?とオーナーの方を向いてそう言った。

 

「もしよければ一緒のテーブルで食事をさせて貰えないだろうか?」

 

小野寺が政宗にそう言うので政宗は驚いて顔をじっと見てしまった。

 

「息子と来たのだけど、彼はあまり私に心を開いてくれなくて・・・。」

 

小野寺が苦笑して言うので、いったいどういうことかと思う気持ちが顔に出たのだろう「普段旅をすることが多くて一緒に暮らしていないから律も私に慣れないようで、同年代の君がいてくれると話も弾むかと思って・・・。」と小野寺は再度説明を付け加えた。

 

「律はあまり日本語が得意ではないのでゆっくり話をしないと理解してくれない。」とまた苦笑した。

小野寺は律に関心を持っていないわけではないけどやはりすれ違ってしまっているのだろうか・・・。

 

ここにも不全の親子関係を持つ人がいたことで、不謹慎だとは思うものの少しだけ気が楽になった。

 

政宗は小野寺の写真を見てここに来ていること、実はカメラは買ったばかりで初心者であることを正直に告げた。

 

小野寺は初心者の政宗に鶴のこと、カメラのことなどを丁寧にわかりやすく説明をしてくれて、政宗の疑問にも政宗の目線に降りて話をしてくれた。

そして政宗は自分より2歳年下の律のことを小野寺が今自分にしてくれたように丁寧に接することにした。

 

きっと律の気持ちを一番理解できるのは自分なのだと思ったから・・・。

 

 

 

 

息子と聞いても女の子にしか見えない律は、小野寺が言うほど気難しいわけでもなく、政宗の問いかけにもゆっくりとではあるがきちんと答えてくれる。

 

おそらく律は父親のことが好きなのだ。だけどちょうどいま自分たちはそれを表にうまく出せない年代に入っている。離れた時間が長くどう接していいかわからずにぐるぐるしてしまっているんだろう。

政宗は律のことをそう思うと同時に、ひょっとしたら自分たちの家族もそうなのだろうかと思いもした。

一人では答えの出ない問題だと分かってはいたけど・・・。

 

政宗の英語力は人より秀でているわけでもなかったが、以前通っていた日曜学校で外国人の宣教師の人と接していたせいか、律とのやり取りにおいて聞き取りはそれほどの問題を感じなかった。なので律に合わせてできるだけ英語で話をしようと努力もした。

 

弟がいたらこんな感じかと思っていたらオーナーの奥さんが給仕にきて「まるで小さい恋人同士みたいね。」と茶化した。

律は言葉がわからなかったようだったが、高野はその意味は理解できるので少しだけ居心地が悪くなってしまった。

 

『恋人って男同士なのに・・・。』

 

野生の動物はオスとメスで番になる。

それにイレギュラーは発生しないのだろうか?

人には同性を恋人に持つ人もいると聞く。

好きであれば性別は気にならないものなのだろうか?

 

生き物は子孫を残さなければならないからそういうことはないのかもしれない。

人は違うのだろうか?

 

生き物が持つ相手を愛しいという気持は人とは異なるのだろうか?

 

答えの出ない質問にまた政宗は思案を深めたのだった。

 

 

 

 

 

食事が終わってからも小野寺にカメラの説明を聞きながら、律のたどたどしい日本語の質問に答えたりしているうちに政宗の北の国の第1日目の夜は更けて行った。

 

明日はいよいよ早朝から雪原に繰り出すのだ。

 

緊張して眠れないかもしれない・・・。

 

そんな風に思っていると律が「マサムネ?」と自分を呼んだ。

 

二歳年下だというリツは、しかしもう少し幼く見える。

 

亜麻色の髪も、少し緑がかって見える大きな瞳もなんども本当は女の子ではないのだろうかと疑うほどに華奢でかわいらしかった。

 

「マサムネはカメラが好き?」

 

「うん・・・。始めたばかりだからまだ分からないけど好きだと思う。」

 

「重いのに・・・。」

 

「そうだね。持っていると手が疲れてくる。」

 

そんなたわいもない話をしながら夜が更けてもリツは俺の側から離れようとはしなかった。

 

お父さんと一緒にいるのにいいのかと、ちらりと小野寺さんを見ると、小野寺さんは悪いねという目をして目を細めて笑った。

 

普段は一緒に住んでいないと言っていた。

リツは普段はどうしているのだろうと素朴な疑問が沸いて聞くと

「キシュクシャ?にいた。」とリツが言った。

 

リツの母親はイギリスの人で、リツが小さい頃に病で亡くなったのだそうだ。

 

リツが小さい頃は小野寺さんと一緒に写真撮影の旅行三昧の生活をしていたのだけど、さすがに学校に行かなければならない年齢からはそうもできず、母親の故郷のイギリスで寄宿舎生活をしているのだそうだ。

 

言葉がイマイチ不慣れなのはそういうことかと合点がいく。

 

「でも高校生になるからトウキョウの学校に春から行く。」

 

リツの言うその学校が自分の通っている中高一貫校だと知り度重なる偶然に息を飲む。小野寺さんはこれからも取材で不在にすることは多いけど、拠点はしばらく日本に置くといった。

 

まだ小野寺さんと繋がっていられる。そう思うとあふれ出る喜びを止めることはできなかった。

 

 

 

「リツ、良かったな。マサムネ君がセンパイだって。」

 

「センパイ?」

 

「そう。学校の上級生のことだ。」

 

「マサムネがセンパイ?」

 

リツが花が咲いたようにふわりと笑ったので俺もなんとも言えないくすぐったい気持ちになって口元が緩んだ。

 

なんだかいいな・・・、これ・・・。

 

政宗は真綿のような柔らかいものにくるまれるような充足感に顔が緩む自分がおかしかった。

 

 

夜半になって自室に戻りベッドに倒れ込むと政宗の身体からホッと力が抜け、まるで今日のことが夢だったのではと思えて急に不安が広がる。

 

俺は幸せ恐怖症か?笑える。

 

確かに今日の俺は幸せ過ぎでもうどうしていいかわからないぐらい浮わっついている。期待して絶望りするのにもう心が耐えられないから何も求めないふりを続けてきたのだと今なら解る。

 

だから今日のことが夢だったりしたら、もう立ち直れないだろう。

 

でも今日の出来事は夢ではなかった。そして明日、小野寺さんとあの鳥を見るのだ。すっと潔く立つ美しいフオルムのあの鳥が愛を語る姿を・・・。

 

 

そんなことをなんとも言えない満ち足りた気持ちで考えていたら、高ぶって眠れないと思っていたはずなのにいつの間にか政宗は眠りの世界に引き込まれていった。

 

明日の幸せを確信しながら・・・。

 

 

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