がんばって書いた。ほめて
婚約、というものがある。それは今も昔も
彼自身には、だが。
だけれども、今のヴァーリの立場は公爵家の眷属悪魔。本人に縁遠くとも、関連者に全く縁がないなど、そんなわけがあるハズもなく。
「は、はぁ……えっと、ライザー・フェニックスさん……部長の婚約者さんですか……」
その場にいた女性……リアスの兄サーゼクスの
「はい。貴女の事情はリアスお嬢さまより伺っております。
悪魔の世界の政治に関係がないとはいえ……その存在は最早悪魔はおろか天使、堕天使のいずれも見逃すことはできないでしょう。故にこうして説明をば」
一誠には与り知らぬことではあるが、少しだけヴァーリが苦い顔をしていた。
(関わらせない選択肢は、もう本当にないんだな)
自販機で買ってきた安物のパックコーヒーに口を付ける。お湯みたいな味はしない。しっかりとしたコーヒーの味だ。
それでもヴァーリはコーヒーらしいその味に少しだけ辟易として、いつか飲んだコーヒー風味のお湯がひどく懐かしんだ。
(凶弾は既に放たれてしまった。きっと彼女の過酷な未来は、もう変えようがない。それでもボクが……)
「先輩、怖い目線」
「――え?」
ふと、彼の思考を
ヴァーリが視線を斜め下に移すと、彼を心配そうに、少々懐疑するような目で見ている小猫の姿があった。
「そういう目で見続けると、一誠先輩にいつか気付かれます」
「……ごめん、ちょっと物騒な考え事をしていた。ありがとう」
「いえ」
コーヒーが口に合わない。失礼だが糖分補給もできるジュースにでも買い変えようか、そう思った時――
「いい加減にしてちょうだい!」
リアスの怒号が響く。
声の方に視線を移すと、そこには激高したような表情でライザーと相対するリアスと、そんな視線も軽く流すようなライザーがいた。
「ライザー! 以前にも言った筈よ! 私はあなたと結婚なんてしない!」
「ああ、以前にも聞いたよ。だがリアス、そうも言ってられないだろう?
お前のお家事情、結構切羽詰まってるって聞いたが?」
「余計なお世話だわ! 私が次期頭首である以上私の婿くらい私が決めるッ!
父も兄も性急に過ぎるのよ! 当初の話では私が大学を出るまでは自由であった筈でしょう!?」
「その通り。キミは自由さリアス。大学に行くことだって自由だ、キミの訳ありな下僕達について僕達は口出しなんてしようものかよ。
でもお義父さまも義兄上も心配なのさ。御家断絶が怖い。
先の大戦で実に多くの悪魔が死んだ。我々は元々繁殖能力が地上の生き物達に比べてあまりにも弱い……戦争を脱したとはいえ悪魔、天使、堕天使の三陣営は今も小競り合いの拮抗状態。
ある意味、三陣営が誰も彼も自由でもあるこの地上に居座り続けるキミがくだらない小競り合いで死んでしまえばグレモリーはそこまでだ。実際そういう話だってなくはないんだ。純潔悪魔のお家同士がくっつくなんてこのご時世大して珍しいことでもない。
純血の上級悪魔……それがどれだけ価値と希望を秘めた存在か、若くともキミにだってわかるだろう?」
リアスが歯噛みする。ライザーの言い分は、今の悪魔情勢からすると御尤も至極な事実なのだ。
ライザーは経験と家の品位を示すかのように、姿に似合わず紅茶を優雅に飲みながら話を続ける。
「新鋭気質の悪魔――キミの下僕達のような転生悪魔が幅を利かせすぎるのは僕達純血にとってはあまりよろしいことじゃあない。
いや、イキのいい若者たちが増えること自体は大賛成さ。減り過ぎた悪魔の事情も打開しうる妙案であるのは違いない。……それでも純血の悪魔を途絶えさせるわけにはいかないだろう? だからだよリアス。我が家には俺の兄がいる。それでもグレモリーはキミの兄と、キミの二人だけ。
しかも義兄上はお家を出られたと来たものだ。キミしかいないのさリアス。婿を得なければグレモリーは潰える。それは正しいことか? キミのエゴで、長く続いたお家を潰すことが? もう既に『七十二柱』の家は半数以上が亡くなっているというのに」
「え、遠大なお話……」
小声で一誠が木場に囁く。木場も同意しながらも二人から視線を外さない。
古いしきたりだ。先程ヴァーリが一誠に語ったように悪魔は古臭く、封建主義な部分が今もある。
当時の人間社会よりは幾分もマシだろうが、貴族社会が未だに顕在しているような世の中なのだ。
日本人の感覚で言えば天皇が多くいるというのか。血を費やしてはならない家が多くあり、その家も既に半分が最早存在していない。こうなれば悪魔達が血を繋ぐことを急くのも、なんら不自然はない。
「私は家を潰させない。婿養子だって迎えるつもり」
「おおそうか! なら今からでも早すぎるなんてことはない、さっそく俺と」
「でもそれはあなたじゃない。私は私の心が決めたヒトと結ばれる。鳥が自由に空を羽ばたくように、古い家でもそれくらいの権利はある筈なのよ」
「……意固地だなリアス。お前がそういう女だと知っているし、お前がお前自身とグレモリーの誇りに賭けていることだって理解しているつもりだ。
だが、だからこそ。俺にもそれはある。俺とてフェニックスの子だ。本来こんなボロ屋敷に来たいわけないだろ?
それに俺は人間界が大っ嫌いだ。風も炎も汚らしい。風と炎の悪魔としては耐え難いのだよッ!」
ボゥ、と炎が巻き上がる。
ライザーの内心が発露したかのような焔は部屋全体へと伝わり、チリチリと肌を焦がす。
「我慢の一つ覚えすらしないで嫌だ嫌だと……俺はキミの下僕も、そこの赤龍帝をも燃やそうとキミを連れ帰る所存だ」
その時、ライザーもリアスも、恐怖で足の竦んだ一誠とアーシアを除いた全員が臨戦態勢に入った。
ある者は赤い破壊の権化を。ある者は生命に恐怖を植え付ける炎を。ある者は剣を、雷を、その四肢を。
――それでも、一人冷静な者がいれば場は収まるものだ。
「そこまでです、皆さま」
グレイフィアがライザーとリアスの間に割って入る。静かに、それでもなお明確な迫力を以て。
「これ以上をやるとなれば私とて傍観者でいられる筋合いはありません。
御二人のお言葉を借りるならば、私もサーゼクスさまの名誉のためにここにいるのですから」
ライザーはその言葉に頭の平静さを取り戻したようにふぅ、と呟くと身体に纏った炎をあっさりと消し去る。
「……最強の女王と評されるあなたにそう言われると俺とて恐ろしい。怪物揃いのサーゼクスさまの眷属とは、是非とも戦いたくないね」
ライザーの言葉を皮切りに、他の者達も戦意を収める。
全員の戦意が消えたことを確認すると、グレイフィアは話を続ける。
「こうなることは旦那さまもサーゼクスさまも、フェニックスの方々もご承知の上でした。正直に申し上げますと、これを最後にするつもりだったのです」
「最後……?」
「これで決着がつかないことさえも承知の上です。故に最後の手段を。
お嬢さま、御自身の意思を貫き通す覚悟がおありなら……『レーティングゲーム』で決着をつけることをお勧めいたします」
「――ッ!?」
「レーティング……ゲーム……?」
「爵位持ちの悪魔達の遊行。下僕同士を競わせて戦うゲームのことだよ」
聞き覚えのない単語に混乱とする一誠にやはり木場が囁く。
そう、悪魔の遊行。『
「未成年であらせられるお嬢さまは公式なルール上レーティングゲームに参加する資格はございません。
しかし純血の悪魔の場合、非公式なゲームを行うことが可能です。その場合のほとんどが――」
「お家同士の揉め事……」
リアスは嘆息しながらグレイフィアの言葉に続く。
「つまるところお父様はここまで全てを予見して、このゲームで明確なものにしようというハラなのね……どこまで私の人生を弄りまわせばッ……!」
「……それは、ゲームの拒否とみてよろしいでしょうか?」
「冗談。このウザったらしいゴタゴタを終わらせるにはいい機会ですもの。決着を付けましょうライザー」
その物言いは挑戦的だ。挑発的と取ることさえもできる。
「へぇ、受けるのか。まあいいけど。
俺はもう成熟してるし、公式のゲームも何度か経験済みだ。今のところ勝ち星の方が多い。それでもやるのかい?」
「やるわ。やって消し炭にしてあげる。
あなたもあなたの眷属も、この婚約関係も何もかも」
「OKその意気や良し。そっちが勝てば好きにすればいいさ。だが俺が勝てば即結婚だ」
両者の間にはすさまじい火花が散っているかのようだ。最早そのにらみ合いは、悪魔ではない一誠は完全に蚊帳の外。
「招致しました。御二人の御意志は私どもから、両家の方々にお伝えいたします。
両家の立ち合い人としてこのゲームの指揮も同じく、私が取らせていただきます」
「ええ」
「ああ」
二人が同時に頷くとグレイフィアは頭を下げる。
そしてそれを皮切りにするかのようにライザーは再びリアスに嘲笑するかのような眼で話し掛ける。
「なぁリアス。お前の眷属はここにいるのに、赤龍帝を除いて全員かい?」
「だとしたら?」
「いや、正直役不足じゃあないかなって。『雷の巫女』以外てんで話になりそうもない。なんならそこの赤龍帝ちゃんもハンデに投入してもいいくらいだ」
「彼女は悪魔の世界に関わらざるを得なくとも悪魔の政治には関らせません。それが彼女を庇護する私の責務です」
「っ………」
リアスの言葉を聞いて一誠は少し、息を呑んだ。それを目ざとく見ていたのかそれとも、ライザーはニタリと笑って「まあキミがそれでいいならいいけど?」と続ける。
「それで勝てる見込みなんて万に一つもありはしない。
俺は勝てないゲームは嫌いだ。それでも勝ち以外に在り得ないゲームはもっと嫌いなんでね。
ハンデをやる。ゲーム開始は十日後でどうだ? その間にレーティングゲームの基礎をしっかりと学んでくるといい」
「……慈悲とでも言いたいの?」
「屈辱か? ならそれはお門違いだ。下僕達を統べ、レーティングゲームに誇りを賭ける頭首は盤上を俯瞰する『王者』でなくてはならない。
リアス、はっきり言って今のお前は感情に任せた獣そのものさ。『紅髪の
「っ……ご忠告痛み入るわ。それならお言葉に甘えます」
リアスが心底屈辱そうに、それでも彼の言葉にしっかりと耳を傾けていることにライザーは感心し、魔法陣を展開する。
帰る気なのだろう。
「十日。それだけあればキミは下僕達をなんとかできるさ」
そしてライザーの視線は二人の男――ヴァーリと木場に映る。
「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『騎士』と『戦車』。お前達の一撃はリアスの一撃だ。努々忘れちゃあいけない」
別に二人に気をかけているわけじゃない。それはライザーにとって当たり前の、婚約者への誠意である。
「リアス、次はゲームで会おう」
そう言い残してライザーは消えた。そこに残ったのはオカルト部の部員達と、グレイフィアだけだった。
がんばって書く、ほめて(クソザコ乞食)