赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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 一話を書き上げるのが致命的に音速い




靄雲

 

 

 わたし(シアン)には結局、結婚の行く末を決めるゲームに参加することは能わなかった。

 相手のライザー・フェニックスが認めているのだから。私も参加したいと言うことは簡単だった。

 でも、それを言えば間違いなく、私は部長の厚意と信頼を蔑ろにすることだってよくわかっていて。結局、オカルト部の人達のためにも、部長のためにも私はなにかをすることができなかった。

 

『相棒は考え事に耽る生き物だな』

 

「詳しいんだね……えっと」

 

『ああ、結局あれから名前も言っていなかったな。改めて名乗ろう、俺はドライグ。赤龍帝ドライグだ』

 

「……ドライグ」

 

『お前達は俺達の世界に転生……この場合は悪魔になることとは全く別の意味を持っているらしいが。

 それをしてこの世界に生を受けてからもずっと俺が呼び掛けていたことを知らなかったのだ。まったく、話ができるまで16年費やそうとは思いにもよらなんだわ』

 

『ヴァーリ・……アシモフの言葉を契機にあなたの存在を朧気に知覚したことが大きいんでしょうね。

 アタシも発現するまで全然、存在を知らなかった……目と鼻の先の隣人だったのに』

 

 ともかく、あんまりわたしの頭の状況は芳しくない。助けてもらっているみんなになにもできていないという焦り、きっとそう言われてそれで信頼に不興を買うんだろうという恐れ。

 もう少し人付き合いのできる前世と今生を送りたかったものです。皮肉ではなく、真剣に。

 

 オカ研の皆々様方は……修行に行くとかなんとかで、お山の方に行きました。わたしもなにかのお手伝いができないものかと思ってついて行こうと思ったら部長が「あなたは何も心配しなくてもいいの」と言って突っぱねられてしまい。

 歯がゆくて仕方がない。

 

◆◇◆

 

 場所と時間は移って、陽が暮れ始めたグレモリーの別荘。

 半日を修行に費やしたグレモリー眷属たちの晩餐と言ったところだろう。

 

「こ、これ……アシモフ先輩が作ったんですか……?」

 

 アーシアが唖然としていた。食卓に並ぶ素材は山菜や猪をはじめとして、山で取れるもののあり合わせを料理した、といった雰囲気をこれでもかと醸し出している。

 

「色々あって料理は人並みにはできてね。レシピもないなりに拘っていた期間が半年ほどあったから、久しぶりにと思って」

 

 メガネを拭きながらヴァーリは答える。

 ……が、話題はすぐに代わった。メガネを掛けているヴァーリが、興味深かったのだ。

 

「……先輩って部活の時メガネ、掛けてましたっけ?」

 

「ああ、実はちょっとだけ眼が悪くて。いつもはコンタクトなんだけど……あれはボクの神器の力を増幅させる特殊なものだから、修行のために外してきたんだ。あと、学校の時は普段使いのためにメガネって感じかな」

 

「ヴァーリはメガネよりコンタクトの方が似合ってるわ」

 

「先輩はコンタクトの方が似合ってると思いますよ」

 

 偶然にも重なる、リアスとアーシアの声。

 

「………」

 

 昔、そんな話を彼女としたことがある。彼女もまたそんな答えを返したな、とふとヴァーリ(GV)は郷愁に駆られた。

 でも、そんな感傷も少しだけのことで。

 

(今のボクはグレモリー眷属のヴァーリだ。彼女とはただの高校の先輩後輩でしかない。

 ……それで、白龍皇と赤龍帝ってだけだ)

 

 ヴァーリ・アシモフは兵藤一誠の先輩である。それがGV(ガンヴォルト)の課したシアンへの接し方。

 きっと兵藤一誠にとってシアンの記憶は辛いものばかりで、GVといたひとときの安らぎはそれを癒すような力もないのだから。

 

「……たまに言われるよ。コンタクトの方がいいって」

 

 いつものような表情で二人に返答する。

 それでこそヴァーリ・アシモフだ。

 隠し事は慣れてる。自分は悪魔の情勢を監視するために眷属となった堕天使側の者だし、自分が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と対を為す神器『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の所持者であることだって隠し事だ。

 

「それより早く夕食にしよう。小猫が全部食べてしまいそうな勢いで料理を見つめてる」

 

「あら、本当」

 

「……全部は食べません」

 

「冗談だよ」

 

 そんな風に他愛のない、いつもの部室風景から一誠を取り除いたらこうなるんだろうな、という空気そのままに会話をしながら食事を始める。

 山菜のおひたしを口に運ぶ。いつもは出汁浸しを省いているが、人様に出すものなのだからと浸した甲斐もあったようだ。みりんがそれなりに効いている。ヴァーリは別段味に目ざといわけではないが、鈍いわけでもない。普通の舌だ。普通の舌がおいしいと思ったのなら、それは普通にうまくできたということなのだろうと勝手に納得しておく。

 問題はこれが舌が肥えているであろうリアスに通用するかどうかだが。

 

「……いいと思うわ。これ、好きよ」

 

「よかった。リアスの舌に合うかは正直不安だった」

 

「ええ。あなたが女の子だったらいいお嫁さんになれると思うわ」

 

「勘弁してくれないかなそれは……」

 

 さしものヴァーリも本気で嫌そうな顔をした。自分が女だったらばなんて想像はしたこともないし、仮になってどうしろというのだろうか。

 結婚願望はないが、それ以上に男に抱かれる趣味など毛頭ないというのに。

 

(……さて、今日の修行をして改めて思ったけど。『蒼き雷霆(アームドブルー)』だけじゃライザー・フェニックスに勝つのはきっと無理だ)

 

 『蒼き雷霆』━━それがGVが持つ神器『白き雷装(ブランシュ・エクレール)』の本当の名だ。

 この世界にヴァーリとして生まれ直した時からシアンがいる可能性を考慮していた彼は以来徹底的に蒼き雷霆の名を外に出すことをしなかった。

 

(昔、不死の第七波動(セブンス)使いと戦ったことはある。でもあれは二人……いや、三人だったか。の生命輪廻能力者が互いを生き返らせ続けていた、いわば疑似的な不死だった。だから同時に倒せば問題なかった。

 それでもライザーは……フェニックスは、単独でその生命輪廻を続ける。規模ではどちらもひけを取らなかったけど、レーティングゲームの性質上厄介なのは間違いなくライザーだ)

 

『どうするヴァーリよ。フェニックスはお前が望むならば俺の力を振るうに能うが』

 

(……使わないよ。今ボクが白龍皇であることは悪魔の世界に行き渡るわけにはいかない。

 少なくとももう少し……アザゼルが三勢力への和平を取り付けるまでだ)

 

『意固地な』

 

(……意固地でいいよ。とにかくボクは白龍皇の力には頼らない。今は使うわけにはいかないんだ)

 

 そうして食後、入浴を済ませて更に訓練をこなして、その日の修行は終わりとなる。

 

◆◇◆

 

 何日か修行をして、ボクに「このままでは負ける」という事実が次々と突きつけられる。

 修行をして、皆とチームワークを高めれば高めるほどにどうしても蒼き雷霆だけでは勝てないという現実が突き刺さる。

 皆が弱いとか、ボクが未熟だとか言っているんじゃない。レーティングゲームがチェスを模したチーム戦である以上、個人の力が勝敗に直結する展開が少ないのだ。

 正直な話、チーム戦というのもボクに影を落とす。昔はチームミッションをこなすことも多かったが、シアンとの出会いを契機にボクのこなす依頼は単独任務が殆どになっていた。加えてこの世界に来てからも複数人で動くことがあまりなかったし、どうしても意識が先走ってしまう。

 ゲームエリアの広さ次第だが、状況次第で多対多の戦闘なんて当たり前だ。広範囲に雷の力をぶつけるボクの力とも相性が悪い。

 そしてなによりもフェニックス側がレーティングゲームの経験を積み、不死という明確で単純かつ強力な強みも兼ね備えている。経験ほどありふれて、明確な力量差を出すものはない。

 

 ……これらの負け一直線への理由はどれも、ボクが白龍皇の力を使わなければの話だ。

 早い話、白龍皇の光翼を使えばいい。

 それでもふんぎりがつかない。

 

 隣で祐斗がぐっすりと寝ている。

 

「……水、いや、お湯……」

 

 なんとなく喉を潤したくなったためキッチンにまで足を運ぶ。

 

「あら、起きたの?」

 

 そこにはリアスがいた。リビングのソファに腰をかけ、メガネを掛けてレーティングゲームの戦術書を読み通しているようだった。

 

「ちょっと眠れなくて。昔から深夜は眼がよく見えてしまって」

 

「悪魔でしょう。当たり前じゃない」

 

「それはそうだ」

 

 少しの間が空き、どちらともなくクスリと笑う。

 

「少しお話でもしましょう? 口が湿りすぎて乾かしたい気分なの」

 

「わかった。少し待って」

 

 お湯を沸かした後、豆の量を少なくしてコーヒーを挽いて、淹れる。

 

「……それ、お湯じゃないの?」

 

「コーヒーの風味があるから、きっとコーヒーだよ。

 悩み事があるととりあえずこれを飲む。心の整理とかによく使うんだ」

 

「変わった事を……」

 

 リアスが呆れている。正直自分もこんなものが気分転換になるなんてと呆れている部分がある。

 でも、なる。ボクはこれが一番落ち着く。

 

「ところでリアス。そのメガネ」

 

「これ? あなたのとは違うわ。気分的なもの。

 考え事をしているとこれを掛けると、それっぽく見えるでしょう? カタチからって案外大事なのよ」

 

「なるほど……ボクもリアスはメガネがない方がいいと思うよ」

 

 意趣返しとばかりに言ってやる。彼女の方はありがとうと、予想通りの返答をしてくる。

 雰囲気の明るさもそれなりに。ボクはふと、彼女に一つ質問を投げ掛けることにした。

 

「……リアス。そういえばどうしてキミはこの縁談を拒否してるんだ?

 言っちゃなんだけど、先日のライザーの言ってることは至極尤もだったから、どうしても気になるんだ」

 

 明るくなった雰囲気を一蹴するような質問に彼女は嘆息する。その溜め息は気分をパァにした恨みというよりも、やはり来たかという感じのものだ。

 

「……私は『グレモリー』なのよ」

 

「そうだね。キミはリアス・グレモリーだ。きっとどこまでいってもグレモリーは付きまとうんだろうね」

 

「……ええ、そうよ」

 

「嫌なの?」

 

「無論誇りよ。同時にリアスをグレモリーに縛り付ける呪い。

 冥界の誰しもが私をグレモリー家のリアスだって言う。リアス・グレモリーを見てくれない。だから人間界の生活は充実してるわ。

 皆は悪魔のグレモリーのリアスを知らないもの。この生活を手放したくないしくらい充実してる」

 

 リアスは遠い瞳でどこかを見ている。

 抑圧された自分、というものだろう。彼女は誇りであり、軛でもあるグレモリーの名を受け流せるほど歳を取っていないし、賢しいわけでもない。

 これまでも、これからも、家の看板を背負い続ける彼女だからこその悩みだ。

 ボクには縁遠い話だ。

 

「私ね、私をグレモリーのリアスじゃなくてリアス・グレモリーとして見てくれるヒトと一緒になりたい。

 ライザーは私をグレモリーの御令嬢として接しているの。グレモリーのリアスを愛する度量と覚悟がある。それがたまらなく嫌。

 それでもグレモリーの誇りは抱いていたい。矛盾していると思うけど、私はこんな小さな夢があるんだって、胸を張りたい」

 

 ……嗚呼、それは、反則だ。

 そんなことを言われたらボクは……意地でもゲームに勝たねばという気になってしまう。

 彼女の矛盾した願いに比べれば、ボクの隠し事なんてきっと些細だ。社会を揺るがすという意味では多分こっちの方が大きいけど、今ボクは彼女の願いが叶えてはいけないものだなんて思えない。

 

「リアス。キミが自由を望むのなら、ボクは(チカラ)を貸す。

 だから約束しよう。簡単にゲームを投げ出さないで欲しい。ボクを……皆を頼ってほしい」

 

「ヴァーリ……」

 

 あまり自分の本心を吐露するようなことはリアス達にはしていない。だから彼女がボクを驚くような眼で見ているのも、納得できてしまう。

 

「リアス。眠れるようになるまで話をしよう。キミの不安がなくなるように」

 

「……あら、まるで天使ね、あなた」

 

「そんなわけないだろ」

 

 そうして今日も夜が更けていく。

 

 






暗いと不平を言うより進んで灯を付けましょうってか?

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