赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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 アキュラくんは前書きあとがき埋めたい病って知ってる?
 別に隙間恐怖症でもないのに埋めたくなる、不思議な病気なんだって。




接敵

 

 

「さて、と。まずは手始めにライザーの『兵士(ポーン)』を撃破(キャプチャー)しないとね。プロモーションでもされたらもう勝ち目は薄いでしょうし」

 

 リアスは余裕にも、いつものようにソファに腰掛けながらくつろぎ始める。

 朱乃もそんな彼女に呼応するように紅茶を淹れ出す。

 うん、いつも通りの態度が崩れていない。下手に焦ることもせずに、よく冷静に努められている。

 

「部長、随分と余裕なんですね……」

 

 アーシアがついポロリと漏らす。

 まあ、そこはボクがフォローしておいた方がいいか。

 

「レーティングゲームっていうのは基本、長時間に渡って行われるものだからね。こうしていつも通りのルーチンワークができる余裕があるっていうのはとてもいいことだ。

 実際のチェスを見たことはある? アレと同じで、早期に決着をつけるパターンこそあれど基本は長く戦うことになるんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「『(キング)』を倒せばおしまいというルールこそあれど、その本質はチェスや将棋と同じ陣取りゲームってことさ。

 特にゲーム盤には川や森が存在する場合もあるから、場所の性質も考えると陣取りは数も経験の質も負けているボク達には急務だ。そうすると、短期決戦(ブリッツ)はボク達が必然的に不利を背負うことになる」

 

「私達の本拠地付近には森があるわ。これはこちらの領土ととっても差し支えないでしょう。

 逆にライザーの本拠地は生徒会室。まあこれはある意味当然ね。よって新校舎はあちらの領土。入ればその動向は全て確認されているのが自然よ。

 校庭も新校舎からは丸見えという構造上、ここを無策で直進するのは愚の骨頂ね」

 

 ふむふむ、とボクとリアスの話を聞くアーシアはあ、と手を叩く。

 

「なら新校舎に入るのは裏の運動場からですか?」

 

 リアス、軽く苦笑。

 

「普通ならね。でもそれは先方だって招致のハズよ。運動場なら……戦場の広さを利用しない手はないでしょうね。そこに騎士(ナイト)と兵士の三、四人態勢といったところかしら」

 

 こん、こと、と白側の駒を広げられた地図の運動場に配置する。

 これで盤上を疑似的に俯瞰している、チェスのプレイヤー目線に立っているというワケだ。

 

「部長。旧校舎寄りの体育館。先ずはここを占拠してはどうですか?

 ここを取れば新校舎までのルートを確保できますし、体育館は新旧いずれの校舎にも隣接しています。牽制の役割としても十分だと思います」

 

「そうね、祐斗。この狭い場所を取るのなら戦車(ルーク)ね。あちら側はわざわざ攻勢に出る必要がない以上体育館の損害なんて気にしないでしょうし……ヴァーリと小猫に中盤、ここをお願いしていいかしら? ここはできるだけ綺麗な状態で陣取りをしておきたいわ」

 

「了解」

 

「……わかりました」

 

 チェスや将棋といった盤上遊戯は基本、先手こそが絶対的な有利を持つ。

 先に試合展開を行い、ゲームを動かせるという意味は、『同じ力を同じ数だけ持っている』チェスや将棋においては圧倒的なアドバンテージとなるからだ。

 だが、レーティングゲームではそうはいかない。これはチェスに見立てたゲームであると同時に駒が『個性を持つ生き物』なのだ。加えて、外的要因に左右されるような盤の構成がされている。

 よってこれは『チェスに見立てたゲーム』であってチェスの定石はほとんど通用しない。『個性の柔軟性』が戦略に幅を持たせるゲームであり、ゲリラ戦で数の差を逆転させる作戦を中心にしなければマトモな勝筋を見いだせていないボク達には相当な苦戦を強いられるだろう。

 

「……ひとまず罠ね。裕斗と小猫は罠を森に仕掛けて来て。予備の地図も持って、設置場所のチェックもね。後でその地図をコピーするから」

 

「はい」

 

「了解」

 

 リアスの指示が飛ぶや否や、二人はさっさとその場から去っていった。小猫の嗅覚と祐斗の判断なら疑うこともないだろう。

 

「トラップの設置が終わるまでは各自待機。……あー、朱乃」

 

「はい、なんでしょう部長」

 

「二人が帰ってきたら森周辺、空も含めて霧と幻術をお願いできるかしら。勿論ライザー側にだけ反応するように。

 それで序盤は終わりになるかしら。中盤からのゲームは激しくなるけど、その時にまたお願いね」

 

「わかりました」

 

 ……わかっていたが、ボクとアーシアのこの段階での役割は皆無、か。

 

「え、ええっと先輩……私達はどうすれば……」

 

 アーシアが不安気にボクに話し掛けてくる。同じ境遇に立たされたのだ。まあボクかリアスに相談するというのは妥当か。

 

「大人しく待機、かな」

 

「え、でも……」

 

「大丈夫。このゲームはさっき言った通り削り合いながら数の不利を減らす戦闘にせざるを得ない。それならアーシアの優しい力は間違いなく輝くよ」

 

「……わかりました」

 

「それまでは緊張をほぐすなりなんなり、同じ手持ち無沙汰のボクが付き合うよ」

 

 ボクがそう言うと、アーシアはひとまずは納得したように頷く。

 

「……じゃあ世間話をいいですか?」

 

「いいよ。ボクが答えられるならね」

 

 そう言うと、アーシアは少しだけ躊躇ったようにして、すぐに首を振ってボクに向き直る。

 

「どうしてイッセーちゃんを避けているんですか?」

 

「———、」

 

 すごく答え辛い質問がいきなり飛んできた。

 おいそれと答えられる内容でもなければ、アーシアからしてみれば同じ部活の部員を心なしに避ける理由など、隠す必要がそうないのかもしれない。

 

「……そうだな」

 

「はいっ」

 

「リアスの眷属悪魔になる前の話だ」

 

「あら、ヴァーリが私の眷属になる前の話? 興味深いわね」

 

 ボクが静かに話し出すと、リアスと朱乃もまた興味ありげに顔を向ける。

 

「……振っておいてなんだけど、あんまり面白い話じゃないよ?」

 

「私はそれでも聞きたいわ。あなた、全然昔のこと話そうとしないじゃない」

 

「そうですね。あまり詮索はしないようにしているけれど、私もそろそろヴァーリくんの事情の一つでも聞いてみたいものです」

 

「えっと……私も、です!」

 

 困った。女性はこういう話が大好きだ。理屈ではなく、乙女心というヤツだろうか。

 

「とある女の子を……拾ったんだよ。一緒に暮らしていたのは半年だけだったけど」

 

「へえ……」

 

「半年でそれなりに、彼女と一緒の生活は板についていたと思う。

 ……うん、忘れられない、忘れることを許してはいけない日々だ」

 

 彼女(シアン)との日々は……兵藤一誠として生きる彼女にはボク(GV)は枷になってしまう。だからボクは彼女の前ではヴァーリ・アシモフとして生きる。

 それがシアンという少女をあの鳥籠から解き放ってしまったボクの責任。あの世界で彼女を守り通せなかったGVに、シアンと共にこの世界で同じ艱難辛苦を受けさせるわけにはいかない。

 

「訳あってあの子を死なせてしまったんだ。

 ……女々しいかもしれないけど、彼女はあの子ととても似ていて、とてもじゃないけど積極的に接しにいく気にならないかな」

 

「そう、だったんですか……」

 

「まあ……」

 

「………」

 

 三人は三者三様、それでもボクになんといえばいいか。言葉を探しているようにしている。

 だからあんまりいい話じゃないって言ったんだけど……言えるような返事がこれくらいしか思い浮かばなかったのは事実なんだけれど。

 

「こういう話ばっかりだからあんまり言いたくないっていうのもあったんだけど……」

 

「せ、先輩! じゃあ、今度からイッセーちゃんとお話しましょう! お手伝いしますから!」

 

「え?」

 

「だってですよ!? 先輩それじゃあ、その子を死なせてしまったことが心残りでイッセーちゃんと話せないんですよね!?

 じゃあイッセーちゃんとお話できるようになれば、ちょっとでもその心残りを解かせないかって思うんです!」

 

 間違いではない。その理屈なら、確かにボクと兵藤一誠がしっかりと話すことができるようになれば、ボクが提示した理由は意味を為さなくなる。

 

 ちょっと言い訳が雑だったかもしれないな……

 

「ありがとうアーシア。その時が来たら頼りにさせてもらうよ」

 

 別に彼女と絶対に関わるわけにはいかないというわけでもない。むしろ今まで避け気味だったせいでアーシアはこの問題を突き付けてきたのだ。

 仲のいい友達、とまではいかずとも普通に話せる先輩くらいの距離感が丁度いいのかもしれない。

 

「その時は私も手伝うわよ。部員間の悩みを解決するのは部長の務めでしょう?」

 

「あら、でしたら副部長の私も」

 

「リアス、朱乃……面白がってない?」

 

「そんなことないわ」

 

「ヴァーリくんったら、クラスでも必要以上に人と親しくなろうとしませんものね」

 

「不自然にならない程度にはクラスメイトとも喋っているつもりだけど」

 

「そういう風に言うから私達が心配してるのよ」

 

「……了解。気を付けるよ」

 

 そんな風にして、祐斗と小猫が帰ってくるのを待ち続けた。

 

◆◇◆

 

 序盤の陣地確保が終了して、いざ任務開始といった頃。ボクは今回の作戦の相方となる小猫を隣に置いて軽いストレッチをしていた。

 

「いいかしら、ヴァーリ、小猫。体育館に入れば激突は避けられないわ。

 もしもここで二人が敗れ去るなんてことがあれば、その時点でこちらの不利はいよいよ決定的なものになる。キッチリ頼むわよ」

 

 小猫とボクは静かに、しかし確かに頷く。

 失敗は許されない、重要拠点への遊撃任務。隣に相方がいることを除けばあちらで何度もやっていたのだ。気負う必要はない。

 

「では、僕も行ってきます」

 

 祐斗は既に腰に帯剣して出向く準備を済ませている。

 

「頼むわね祐斗。例の指示通りに」

 

「抜かりなく」

 

「アーシアは私と一緒に拠点待機ね。前線の状況次第で勿論動くけど、常に誰かと一緒にいること。ヒーラーの貴女を真っ先に狙わない道理はないわ」

 

「は、はいっ!」

 

 アーシアも声を張って威勢を見せる。

 彼女の力は短期で戦いを終わらせる為の無茶を可能にする貴重な生命線。序盤のゲームメイクに不要であったとしても、総合戦においてボク達が彼女にどれだけ頼ることになるかは容易に想像がつく。

 

「朱乃は頃合いを見て、お願い」

 

「はい、部長」

 

 朱乃の広範囲への攻撃は短期戦によって必然的に起こる混戦を一気に終わらせる手管として有力だ。騎士のボク祐斗がどれだけ守勢に転じて負けない展開を作っても、彼女がいない限りは勝利する展開を作ることはできないだろう。

 全員の確認を取り終えると、リアスは一歩前に出て、その細い腕を決意を新たに表明するかのように力強く振るう。

 

「さあ、私の可愛い下僕達。準備はいいかしら?

 敵は将来を有望視されている才児、紅蓮の輪廻(リインカネーション)、ライザー・フェニックス。

 誇りと実績に裏打ちされたあの鼻っ柱をへし折って差し上げなさい!」

 

『はい!』

 

 その言葉と同時に駆け出す。

 

「それじゃあ先輩、先に待ってます」

 

「ああ、先に待っててくれ……グッドラック」

 

 ボクがそう言うと、祐斗は一瞬呆気に取られたような顔を見せた後、クスりと笑ってボク達と別れて行った。

 

「先輩、格好付けですね」

 

「これを言わないと締まらないんだよ」

 

 体育館に来ると、侵入を察知されないように裏口のドアを調べる。

 ……異常なし。問題なく開く。先にあちら側が動いていて、鍵を掛けられていた時のことを考えていたが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 ――いや、この電気信号は。

 

「小猫」

 

「はい、います」

 

 裏口から入り、演壇の裏側から体育館内に出る。

 いるとわかっているのなら無暗に隠れる理由もない。ボク達がここに来る前からいたということならば、敵もまらボク達がここにいることなどもう理解(わか)りきっていることだ。

 

「そこにいるのはわかっているわよ、グレモリーの下僕さん達! 貴方達が入ってくる姿はバッチリと監視させてもらってたんだから!」

 

 そこにいたのは四人。チャイナドレスの女性と瓜二つの容姿をした双子の女の子。そして棍を携えた女の子。

 レーティングゲームでは事前に敵チームの顔写真と与えられた悪魔の駒(イーヴィルピース)を確認することができる。瓜二つの二人を分身や二重人格の受肉化ではなく、単なる双子だと断言した理由もそれだ。

 

 『兵士』3、『戦車(ルーク)』1。こっちは『戦車』2であるが、数の不利という悩みにいきなり直面したということになる。チーム全体を見ればおおよそ3倍の戦力差だ。ここまで人数に違いがあるとなれば、流石にこの問題と衝突しない展開の方が少なくなるだろう。

 しかも陣地の妨害と準備に時間を要し、接近戦が性質上不得手となる朱乃、戦わせるわけにはいかないアーシア、『王』であるリアスの三人……戦力の半分が機能しない状況ともなると、ボクと小猫、そして祐斗の三人で中立地帯の陣地取りを進めていかなくてはならない。

 

 つまり、この人数不利は必定――

 

「行こう、小猫。『戦車』を任せてもいいかな?」

 

「……了解です。先輩は私に邪魔が来ないようにお願いします」

 

 ボク達はそれぞれの対峙する敵を明示するように別れる。相手方もボク達の意思を尊重――いや、ボク達の自身をへし折るためにその誘いに乗って来た。

 チャイナドレスの『戦車』がその服装に違わぬ、拳法の構えを。棍を持つ少女はその得物を構え、双子は――

 

「解体しまーす♪」

 

「チェーンソー……随分と物騒なものを持ち出してくるな」

 

 ボクの銃を、ダートリーダーを眉間に向けて撃ち出す。刃が完全に回転するよりも前に当てられるなら、と射貫いたが、彼女達はレーティングゲームでの場数を証明するように回避した。

 

「鉄砲撃ちながら言われたくはないわ!」

 

 二人はチェーンソーを床に当て、その音を豪快に打ち鳴らしながら接近してくる。

 

「聴覚、そして視覚的な心理攻撃のつもりか!」

 

 心理的なまやかしなど!

 

「ボクには通用しない!」

 

 二人の攻撃の軌道を読み切り、チェーンソーにダートを三発ずつ押し当てる。

 ダートの弾は避雷針の用途を主とし、それ単体での攻撃性能は皆無と言っていい程に持ち合わせてはいない。だが、その弾にはボクの雷撃が円滑に伝わるように、ボクの髪の毛に特殊なコーティングを施したものを使っている。弾そのものは針程度の痛みしか与えずとも、その弾の固さは避雷針として機能させる為に十二分な硬質化も施してある。

 

「このっ……!?」

 

「は、刃が回らない!?」

 

「いくら魔力で強化していようとも、チェーンソーは精密に作られている。

 加えてゲーム盤によって精密に再現された駒王学園の体育館の床は表面板の段階から複数の素材を用いて作られている。そこにボクの鋼鉄の顎が加われば、一時的でもそいつを動かせなくする程度造作もない」

 

 回転する力を失ったチェーンソーなど、最早重いだけの鉄板だ。

 ……とはいえ、彼女が視ている状況で無暗にダートと雷撃鱗を使うのは避けたい。できるなら、肉弾戦でねじ伏せるべきだ。

 

「だったら、拳でェ!」

 

「小細工ナシの!」

 

「三人掛かり!」

 

 チェーンソーを即座に捨てると、棍持ちの女の子と息を合わせて取り囲んで来る。

 武器を捨てて尚態々近づいてくれるのならもうこちらの思い通りだ。

 

「ふッ――」

 

 白き雷装(ブランシュ・エクレール)と偽った蒼き雷霆(アームド・ブルー)によって身体能力を底上げする。そこに『戦車』の駒特性である筋力の強化が加われば、『プロモーション』を果たしていない『兵士』なんてものの数ではない。

 リーチの兼ね合いで一番最初に伸びてきた棍の下に左手を添える。棍を受け止めると、右手で上から先を持ち、一気に左手は上に、右手は下に向けて力を籠める。

 すると急なベクトルの変動に棍の女の子は堪え切れず、両手を棍から離して上空に投げ飛ばされる。

 

「しまっ、武器を!?」

 

 一瞬の攻防で武器を奪い取られるとは思いもよらなかったのだろう。双子は慌てて距離を取ろうと足を踏み込むが、即座に膝裏を奪った棍で叩く。

 

「「きゃあ!?」」

 

 二人が倒れ込んだ瞬間を逃す程優しくもない。棍を足元に手放し、雷の力を付与した両手で二人の腹部と背部を殴りつける。

 

「「が、ぅあああああ!?」」

 

 そして悪魔の持つ翼によって空中で態勢を整えようとしている棍の女の子には槍投げの要領で棍を投げ返す。姿勢制御に手一杯であった彼女は自慢の武器によってなすすべなく倒されていった。

 

「ぐ、ぅえ!?」

 

 双子がひとしきりもがき、棍の女の子が異物を一気に身体に押し込まれたようなうめき声を挙げた後、その姿は光のように透けてゲーム盤から消えて行った。

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイヤ』

 

「なっ—―」

 

「よそ見ッ」

 

 一分にも満たない一方的とも言えたやり取りに呆気を取られた『戦車』の女性。無論小猫もその隙を見逃さず、強烈なボディブローを捻じ込んだ。

 

「ぐっ、あ……!」

 

 いくら攻防性能に特化した『戦車』といえど、同じ『戦車』の渾身の一発が入れば膝を落とす。瞬間、小猫は回し蹴りを浴びせ、チャイナ服の女性を完全にのした。

 

『ライザー・フェニックス様の「戦車」一名、リタイヤ』

 

 体育館が屋内である状況を維持したままここを制圧できたのは大きい。このまま校舎を通って祐斗と合流を――ッ!

 

「小猫! 後ろだ!」

 

「え——ガッ!?」

 

 小猫が突如、彼女の後ろから現れた女の魔法により、ボクの後方へと吹き飛ばされた。

 

撃破(テイク)

 

 その女はフードを被り、魔導師の風貌をしている。

 見覚えがある。彼女はライザーの『女王(クイーン)』だ。

 

「残念だったわね? こちらが多少の『兵士』を犠牲(サクリファイス)にしても、一人そちらを倒せればその戦力差は現状維持。メンバー不足の貴方達には大打撃でしょう?」

 

 小猫を助けるために後ろを振り向くのは愚策だ。彼女はその瞬間を待っている。

 

「戦うというのならこちらも受けるのは吝かではありませんが……ライザー様のようなワイルドな顔ではないけれど、その端正な顔をめちゃくちゃにしてしまうのは気が引けてしまいますわね」

 

「親切にありがとうございます。ライザー・フェニックスの『爆弾王妃(ボム・クイーン)』、ユーベルーナさん」

 

「……あまりその呼び方、物騒で好みませんの」

 

 『女王』と一戦交えるか……彼女への勝算はないわけではない。

 だけどここで祐斗との合流ができなければ、あちらの物量先方でこちらの戦力が消えていくのは明白。

 撒くか? いや、一歩しくじれば祐斗との合流で更なる激戦になりかねない。確実に始末するか、彼女をこの場に押し留める手管があれば……

 

「ヴァーリくん」

 

 突如聞こえたその言葉。ボクと『女王』ユーベルーナの間に挟まれるように体育館の窓を叩き割って朱乃が現れる。

 

「お行きなさいな。二人が先にここを制圧してくれたおかげで、私も力を温存したまま『爆弾王妃』さまと対峙できますわ」

 

 図ったようなタイミングだ。図っているなら小猫がやられる前から来てくれていただろうが。

 ともあれ、これで祐斗との合流を遅らせる必要は無くなった。

 

「……任せた! 小猫、後は任せろ」

 

「ッ……ごめんなさい、先輩……もっと、皆さんのお役に立ちたかったです……」

 

「ノルマは果たしたんだ……謝ることはないさ」

 

「……ご武運を……」

 

 朱乃に体育館を任せ、運動場に向けて駆け出していく。

 途中、小猫がゲームから退場したという無慈悲なアナウンスが鳴り響いた。

 

 






 ミチル。変な病気の名前を出してブロッコリーから逃げようとするな。
 それと、そんな病気は医学上存在しない。

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