赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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 This is サボり魔。




吶喊

 

 

 祐斗の待つ運動場への移動途中、突如としてやはり無骨な校内アナウンスが響く。

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士(ポーン)」三名、脱落(リタイア)

 

 兵士が三人……状況から察するに祐斗か。

 これでフェニックス眷属陣営の脱落者は七。こちらは小猫一人を失ったのみで、戦力差は9対5。二倍以下にまでもつれ込んだが、倒した七人のうち実に六人が兵士というのが現状。油断なんて欠片もできない。

 

 考えながら走っていると、林の影から一人の生体電流を感じる。これは……

 

「祐斗か?」

 

「はい、先輩も壮健で何よりです」

 

 壮健、か。

 死角の位置となる体育用具入れの物陰に潜んでいた祐斗は周囲を警戒しつつ、ボクの下へ歩み寄ってくる。

 

「アナウンスは丁度聞いたよ。三人を一網打尽とはね」

 

「勝手な予想ですけど、最初の兵士三人撃破は先輩ですよね? それは遠まわしな自慢ですか?」

 

「できるわけないじゃないか。自慢なんて」

 

 どちらとも、小猫の話題は出さない。お互いを鼓舞するためにも、可能な限り自陣営の脱落者の話はしないでおいている。

 ボクと祐斗で互いの間に決めた事だ。小猫が邪魔だとかそういうわけではない。ただボク達の間では、話題にしないようにしようというだけの話――

 

「……勝とう、祐斗」

 

「言われるまでもありません」

 

 互いに拳をぶつけあう。ボク達はこれでいい。こうすれば、お互い彼女についてどう思っているかなんて、だいたいわかってしまえる。

 

「状況は?」

 

「敵の司令塔が予想外に狡猾です。なんとか見回りの兵士だけは一か所に集めて一網打尽にしましたが……恐らく僕の手の内は見られました。

 犠牲(サクリファイス)を好んで使用している……そんな印象です」

 

 『爆弾王妃(ボム・クイーン)』との会話でなんとなく察しはついていたが、そういう作戦を全面的に敷いているようだ。

 王たるライザー・フェニックスの絶対的な不死性と、『悪魔の駒(イーヴィルピース)』全てを使い切った人数状況だからこそできる得意技、というべきか。

 

「指揮を取っているのは『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』が一人ずつの合計三名。随分と厳重に固めています」

 

「先方としても運動場はそれだけ完全占拠に足るポジション、か。

 リアスへの報告がそっちに行き渡ってると思うけど体育館は現在朱乃が『爆弾王妃』と戦闘中。広範囲への攻撃を撒き散らして戦っているだろうから、当然ここ一本に防衛戦力を注ぐことになっているんだろう」

 

 祐斗と状況の整理。あちらではこうして直にチームメイトと作戦を会議する機会はそこまで多くなかっただけに、今ボクは普段やっていたミッションと、このレーティングゲームに異なる感触を見出していた。

 いい意味で緊張感が違う。個人で臨機応変に、適宜仲間達の遠隔的なサポートがあったあちらとは違い、その場に仲間がいる戦闘は仲間のいない実感も、いる実感も非常に湧きやすい。

 

 ふと、祐斗の手を見る。

 彼の右手は震えていた。堕天使との実戦経験もあり、未だ師より劣る剣の腕の腕はまだしも、常に心の未熟さだけは見せまいと心掛けている祐斗は今、はっきりと見てとれる震えを見せていた。

 

「緊張してる?」

 

「え? ……はい。正直言えば。

 先輩は全然ですね。まるでいくつもこんな修羅場を潜って来たみたいで、憧れます」

 

 確かに、失敗の許されない状況には慣れているけど。

 

「そんな事ないよ。この敵がいるんだと誰しもが理解している、張り詰めた空気にはそこまで縁がない」

 

 慣れない空気に当てられているのもまた事実だ。

 七十二の柱に連ねるグレモリーの眷属に身を寄せている以上はこの感覚とは否応なしに付き合っていくのだろう。

 

 あの夜、リアスに言った言葉に嘘はない。

 自由を望む彼女に、自由を望み続ける限り(チカラ)を貸す。その為にもこの世界には慣れる必要がある。

 

「祐斗、ボク達は今、試されている。

 ライザー・フェニックスに。グレモリー家とフェニックス家に。そして、レーティングゲームそのものに。

 緊張に負けてしまうのは簡単だ。足掻く努力を止めればいい。ボク達のその先を、リアスの自由を捨てればいいだけだ」

 

「そんなの、まっぴらですよ」

 

「……そうだね。ボクも御免だ。だから、強くなろう。この戦いの末に。この戦いの中で」

 

「……はい!」

 

 ボク自身の想いを追想しながら祐斗を激励する。『彼』ならもっと上手く、私情に流されない励まし方もできたのだろうか。

 ……いや、もう終わった話だ。あの世界に未練や思い残しがないわけじゃない。それでも、ボクは今ここに居る。あちらにはいられない存在となってしまった。最早、『彼』があの世界で何をしているのかなど、関係することができない話だ。

 

 その時、勇んだ女性の大声があてずっぽうに飛んできた。

 

「私はライザー様に使える『騎士』カーラマイン! こそこそと腹の探り合いに徹するだけの状況も飽きた!

 リアス・グレモリーの『騎士』よ、いざ尋常に剣を交えようではないかッ!」

 

 ボク達が目を向けたのは声の発生源。野球グラウンドの方だ。

 ピッチャーマウンドに甲冑姿の女性が堂々と仁王立ちをしている。

 あそこまでの広所に、朱乃が戦闘中という状況だからか。あるいは単にあの山が気に入ったのか。どっちだろう。

 

「……呼ばれたからには応えないのは、『騎士』として、剣士として黙ってはいられないか」

 

 祐斗はそういうと、用具小屋の物陰から出て行った。

 

「ゲームに試されてるって言ったばかりなんだけどな……」

 

 真正面からのぶつかり合い。ボクには縁の少ない言葉だ。

 そして祐斗は誇りを選んだ。正しくない選択だろうけど、嬉しい選択だったんだろう。実際ボクも祐斗の返答に少し笑っている。

 

「付き合うのが先輩の務めかな」

 

 ボクもゆっくりと、祐斗の後を追うことにした。

 

「僕はリアス・グレモリーの『騎士』、木場祐斗」

 

「『戦車(ルーク)』、ヴァーリ・アシモフ」

 

 『騎士』カーラマインに応えるようにボク達は名乗りを上げる。

 彼女はその様子を見て純粋に、満足なものを見られたような表情を浮かべた。

 

「まさか不利の状況でありながら応える者達がいたとは。正気の沙汰とは思えんな、嬉しく思うぞ」

 

 何も言わず、祐斗が一歩前に出る。

 

「私好みの愚か者だよ、お前達は」

 

 そう言うと『騎士』カーラマインは鞘に帯剣した剣を抜く。銀光に塗れた剣を抜き身にして、祐斗の言葉を待っているようにしている。

 

「『騎士』同士の削り合い……望むところだよ。できるなら尋常に、尋常ならざる剣舞を演じたいものだね」

 

 祐斗もまた、己の『神器』で生み出した剣を持ち攻撃的に答える。

 両者はどちらでもなく、笑う。次の瞬間、互いに合図の一つもなしに剣戟を始めた。

 

「……で、仕掛けてこないのかい? ライザーの『戦車』と『僧侶』」

 

「気付いていたか」

 

 剣劇を演じる二人を後目に、ダートリーダーを構える。銃口の先には顔の半分にだけ仮面を付けた女性と、ドレスを着こんだ女性。仮面の方が『戦車』で、消去法的に『僧侶』となるドレスの女性は――

 

「レイヴェル・フェニックス……ライザー・フェニックスが妹を眷属悪魔としている話は耳にしたことがあったな」

 

「それはまた耳年増なことですわね」

 

 レイヴェル・フェニックスはボクをじぃ、と観察するように視線を送る。探られる目は正直好きではないのだけれど……

 

「あちらの剣バカに乗っかっていった剣バカの『騎士』といい、どちらも中性的で男の色がない顔ですこと……もしかしてリアス様はそういう趣味をお持ちで?」

 

「そういうわけじゃないと思うよ。ボクも祐斗も、行き倒れたところを拾われただけだからね」

 

 ボクの方は嘘だけど。

 レイヴェルがそう、と興味なさげに返答をする。

 その間にボク自身の体内電流を活性化させ、戦闘の準備に移行する。が、レイヴェルは敵対意思を見せたボクに対して小さく嘆息をする。

 

「私、あなたのお相手は致しませんわよ。イザベラ、あなたが相手をしてあげたら?」

 

 イザベラ、と呼ばれた仮面の少女は頷き、レイヴェルと前後を入れ替わる。

 

「元からそのつもり。さ、手持無沙汰同士で戦り合うとしよう」

 

「レイヴェル・フェニックスはお飾りの眷属だ、とでも言いたげだな」

 

「そんな強がりを言って。有難いという感想が出ないのは男の子だからですの?」

 

「まさか。ボクが女の子だとしても言うに決まってる」

 

 バチ、と溢れた電流が眼前で火花を散らす。

 これ以上の与太話は止そうと、『戦車』イザベラに告げるようにして。

 

「……では、行くぞ! 銃の『戦車』よ!」

 

 イザベラは言葉と同時にボクに肉薄する。『戦車』の特性で強化された拳が眼前に迫り、それを回避する。

 

「この程度は躱すか、ならば一段、二段とギアを上げようか!」

 

 だん、だん、だん、と。文字に起こすならまさしくその表現通り。

 彼女の四肢から放たれる攻撃は一発、二発と速度も重さも、キレも伸びる。

 侮りか、余裕か。それとも楽しみか。彼女は尻上がりに調子を上げて行って少しずつ、間隔も短く拳を振り放つ。やがてそれは折り曲げた腕を鞭のようにしならせたフリッカージャブ等、バラエティにも富みだしてきた。

 

「ッ……!」

 

 生体電流の活性化によってどうにか凌げているのが現状だ。第七波動(セブンス)の能力者達はその特異性から彼女のような力技を主軸にする者がまず少なく、こうも単純に攻め立ててくる類の敵とは相対した経験がかなり少ない。

 

(苦手なタイプだな……力技を主体にした第七波動使い……デイトナやカレラを思い出す)

 

 『怒れる爆炎(バーントラース)』デイトナ、そして『欲深き磁界拳(マグネットグリード)』カレラ。かつてGV(ガンヴォルト)が戦った強力無比なる第七波動使いである。

 デイトナは炎、カレラは磁力と、イザベラのような正真正銘力一辺倒の敵ではなかったが、己の力を直接的な暴力としてのみ使っていた二人はこれまでの敵の中でイザベラにとても近いと言える。

 

「そら、そらそら! 動きにムラが出てき始めているよ!」

 

(反撃手を出さなくては……! それでもこの一撃一撃に隙のない行動は、迂闊に攻め手に転じられない!)

 

 チェスを模したレーティングゲームで無粋な表現だが、将棋で着々と詰まされていくような不快感を感じる。自分のやりたいことを純粋な力技の脅威で怖気付かせに来ている。

 

「足元、お留守さ!」

 

「しまっ……!」

 

 ズンッ、という重い音が腹部の臓腑(うちがわ)から響いた。脚だ。全身を使ったしなるような拳の動きで、本命の脚を強引に隠していたのか?

 一撃が重いッ!

 

「グ、あ……!」

 

 本気の本気で放たれた、加減無しの一発……!

 『戦車』でなければ耐えられなかった! 相手と同じ駒特性を持っていたことに感謝しなければならない。

 

「驚いた。今のを堪えるのかい。

 正直駒特性だけの防御力だと思っていた、謝罪させてもらうよ」

 

「っ……それは、どうも」

 

 軽口を叩いていられるぐらいの余裕はある。日頃の鍛錬は未だボクを裏切ってはいない。

 

「だがその調子で、今の状態で更にギアを上げた攻撃をされれば流石に立てもすまいだろう。過小評価し、蔑んでしまった謝罪だ。一撃で終わらせる!」

 

 来る――!

 

「ッ、駆け抜けろ、『白の雷装(ブランシュ・エクレール)』! ヒーリングヴォルト!」

 

 活性化した生体電流が身体中を駆け巡る。これによりボクの身体の自然治癒力が高まっていき、イザベラに負わされた傷は見る間に失せていった。

 

「回復能力!? 事前の確認では回復能力を持つのは金髪の『僧侶(ビショップ)』の子だけだったが……隠しものがあったということかい!」

 

「そういうことに、なりますね!」

 

 体勢を立て直し、再び迫ってくる攻撃を回避する。攻撃力に比重を置いていたせいか、大振りになっていた拳はそれまでの隙のない攻撃と比較して明らかに簡単に回避ができた。

 

「だったら!」

 

 再び攻撃のテンポが高まっていく。一撃、一撃と攻撃の速度を上げていき、やがては眼前に迫る拳の回避のみに意識を刈り取らせる攻撃――

 恐らくはこれが『戦車』イザベラの得意とする戦い方なのだろう、剽軽な物言いと相手を立てるように正々堂々とした振舞い。どれも彼女という存在の真実だろう。だがその振舞いこそが、彼女の『正々堂々とした攻撃』に意識を刈り取られる戦略として成り立っている。そこに的確な蹴りを繰り出す。拳の回避のみに意識が向いたその瞬間を見逃さない嗅覚と観察力、直感があるのだ。

 だが。

 

「そこか!」

 

「ッ、な!?」

 

 一度体験してしまえば、どのタイミングでどのように仕掛けてくるかの予測も立てられる。

 そして、隙を見せればボクの距離だ!

 活性化した生体電流だけではない。周囲に存在する分子を電離させ、プラズマを構成させる。生まれたプラズマや電流はボクの右手に集中していき、周囲に火花を散らす。

 

「ッ……あああああああ!!!!」

 

 グレモリー眷属側がユニフォーム代わりに運用している制服が飛び散るプラズマに焼き焦がされる。

 そしてダートの弾丸を更に右手に打ち込む。避雷針は対峙する敵ではなく、ボク自身だ。

 

「くらえ……!」

 

「………! これは、喰らえないッ!」

 

 技と呼べるほど大層なものであるつもりもない。やぶれかぶれの攻撃だと誹られようとも仕方はないだろう。なにせボク自身こんな攻撃はしたことがない。

 こんな、自分のセブンスで自分の身体に傷をつけるような真似、普通の人間じゃしない。

 そんなボクの意を汲んだのかは定かではないが。イザベラは全力でボクの攻撃を回避しにかかった。

 

「うおおおおあああああああッッッ!!!!!」

 

「……避け、切ったァ!」

 

 力任せに、全身を駆け巡る稲光の奔流を振り被って叩く。大振りの一撃は意地の回避体勢に入ったイザベラには掠りもしない。全力で避けたんだから、当たり前だが――

 

「雷よ、迸れ!!! 眼前の敵を打ち砕く青龍の牙となれ!!!! 迸れ――『白の雷装』!! 降雷波!!!」

 

 蒼い雷が白い光を伴ってボクの腕から落ちてくる。イザベラの身体を空振った腕はそのまま地面に落ちて行き――雷の余波が彼女を焼き焦がした。

 

「ぐ、ああああああ!!!??」

 

 雷の余波にイザベラは焼かれる。だがこれは余波を当てただけで、クリーンヒットしたわけではない。彼女とてまだ戦えるに違いはない。

 

「な、めるな……! 私とてライザー様の『戦車』だ、これしきの雷で止まるものだと思わないことだ……!」

 

「侮るものか!」

 

 雷を当てられたのならこちらのものだ。あちらの世界では電気代を賄うような細かな調節を効かせられなかった『蒼き雷霆(アームドブルー)』だったが、この世界に生まれ直して既に、ボクはガンヴォルトとして生きたよりも長い時間を過ごしている。

 ボクがボクのセブンスに対して、何もしていなかったわけはない。今のボクは他者に流した電流によって、意図的に特定の筋肉を麻痺させることも可能だ。

 

「なっ……これ、は!? 足がッ、腕枕で夜通し寝た寝起きの腕のように動かない……!?」

 

 その例え方はどうなんだと思わないでもないが、そんなことをいちいち気にしている理由もない。こちらを恨めし気に睨むイザベラを一瞥し、再び雷を帯びた腕を叩きつける。

 

「ぐ、ぉあ!?」

 

 あっさり、と言うべきなのか。その一撃を受けてイザベラは地に伏してやがてその姿は霧散していった。

 

『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名、戦闘脱落(リタイヤ)

 

 ボク達の敵、そのうちの一人を確かに倒したという証明のアナウンスが聞こえる。

 ただ淡々と、誰が倒れたのかを教えてくれるこのアナウンスが有難い。

 

「リアス。そっちの状況は今どうだ?」

 

 現状の再確認を行うべく、敗退していったイザベラの後方に控えているレイヴェル・フェニックスに警戒を露わにしながらリアスに通信を送る。

 

「こっちは祐斗が『騎士』と交戦中で、ボクも同じくライザーの『僧侶(ビショップ)』と対峙している……リアス?」

 

 返事が、ない。

 どういうことだ。グレイフィアさんのアナウンスはリアスと、彼女の傍にいたアーシアの脱落を知らせてはいない。二人が健在だということは確かだが、今二人は何をしている――?

 

「どうしたんだリアス? 応答してくれ」

 

「――あら、もしやリアス様と連絡がつかないことにご心配をなさっているのですか?」

 

 と、まるで謀っていたいたかのようにレイヴェルが話し掛けてきた。

 彼女の顔は全てを察しているとでも言いたげに笑っている。

 どういうことだ? 何故、彼女がリアスと応答が取れないことを知っている。何故、確信を持ってそうだと問い詰めて来た?

 

「祐斗――」

 

 思わず、祐斗の方へ向き直る。だが目を向けた先に、更にボクは驚愕させられた。

 

「聖剣使いと会った……と言ったな?」

 

「ああ、あの男は確かに聖剣を振るっていた」

 

「ならその男について聞かせてもらおうか」

 

「ほう? お前もまた、聖剣と奇縁で結ばれていると? 答えてやるのも吝かではないが……我等は剣士だ。剣にて応えようではないか」

 

「……半殺しまでなら大丈夫か」

 

 祐斗の全身から殺意が溢れ出している。常日頃から温和であり続けている祐斗は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持っていた。

 彼の事情は知っている。裕斗が怒りに狂い、殺意を滲ませるのに妥当な理由は確かに存在する。

 

 だがまさか、こうも豹変してしまうとは思いもしていなかった。常日頃から貼り付いている爽やかな顔は今の祐斗には存在しない。あるのはただ、目的を果たすだけの悪鬼――

 そんな祐斗の豹変にボクが驚愕していると、ぞろぞろと多くの気配が校庭に集いだしていきていた。

 

「ここね」

 

「あれ? イザベラお姉ちゃんは?」

 

「もしかしてやられちゃった?」

 

「ッ……! これは……!」

 

 ライザーの眷属悪魔達が集まってくる。『兵士(ポーン)』が二人、『僧侶』が一人、『騎士』が一人。

 ライザーの眷属悪魔はこれで全員。朱乃と戦っている『女王』とライザー本人を除いて全員、この戦場に総動員されている。

 

「この状況。本陣の防御を捨て去ったボク達二人だけへの対抗策……! まさか、まさかリアスとアーシアは――!!」

 

『先輩! ヴァーリ先輩、聞こえますか!?』

 

「そのまさか、ですわ」

 

 通信機からアーシアの怒号が響く。それしか考えられない。二人は、いや()()()()()!!!

 

「アーシア! まさか二人は!!」

 

『はいっ……! 今私達は屋上にいます。ライザーさんが一騎打ちを申し出され、部長がそれに応じました。おかげで私達は何事もなく校舎内に突入できました。できました、けど……!』

 

 なんて……なんてことだ……!

 リアス……そんなにボク達が信用なかったのか!? いや、わかっている。キミの誇りがライザー・フェニックスから逃げることを良しとしなかったことくらいわかっている。

 だけれどそれは……! その判断は……!

 

「お兄様ったら、意外にリアス様が善戦なさるものですから高揚したのかしら?

 普通に戦えば此方側の圧勝ですもの。お兄様なりの慈悲なのでしょうね」

 

 レイヴェルが「ホホホ」と口元に手を当てて笑う。

 断じて慈悲じゃない。ライザーはリアスの性格を知っていて策に組み込んだんだ。

 

「リアスの心を従僕にするつもりか……ライザー! 彼女自身の意思で!」

 

「随分と人聞きの悪いことを仰いますのね。お兄様はそちら側に『一縷の望み』を与えてあげたというのに」

 

 ライザーの眷属悪魔達がボクを囲う。行かせないつもりか!

 ここで脂を売っている間にもリアスは、二人は――!

 

「アーシア! リアス! 今すぐにそっちに向かう!」

 

 通信機越しにそれだけ伝えると、ボクを囲む眷属悪魔達を一瞥する。

 ――今この時ほど、普段シアンにGVの戦っている姿を見せたことがなくて良かったよ心底思ったことはない。

 私生活からメンテナンスに取り出していて、使い方の理屈も説明したことのある避雷針(ダートリーダー)とは違って、『蒼き雷霆(アームドブルー)』のスキルは私生活の用途なんてない。

 任務の時に聞こえてくるシアンの歌で見えるモルフォもまた、その姿が『蒼き雷霆』と『電子の謡精(サイバーディーヴァ)』の感応によってそこにいるように見えるだけだ。ボクに歌い掛けているのは確かだが、ボクとコミュニケーションを取っているわけではなかった。

 

「邪魔をするなら容赦はできないんだ……! 迸れ、『白き雷装』!!」

 

  ――閃く雷光は反逆の導

   轟く雷吼は血潮の証

   貫く雷撃こそは万物の理――

 

 青白い雷光を纏った鎖がボクの周囲から現れる。それらは校庭を張り巡り、やがて鎖の網を形成していく。

 

「これは……!? まさか、全員今すぐ逃げなさい! その鎖は!」

 

 遠方で校庭の戦況を俯瞰していたレイヴェルと『騎士』の二人が即座に反応して飛び退く。それに一歩遅れたように『兵士』と『僧侶』が動き出すが、もう遅い。

 

「ヴォルティックチェーン!!!」

 

 鎖から大量の雷が流れる。射程圏内から逃げられなかった三人を鎖は捉え、強烈な電撃を浴びせる。

 

「きゃ、ああああああ!?」

 

 雷は彼女達を焼き、瞬く間に膝を付かせる。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』二名及び『僧侶』一名、撃破』

 

 うつ伏せや仰向けになって倒れると共に、アナウンスが響いて眷属悪魔達は倒れる。

 攻撃後、大技を使うことはできないことが難点だが、短時間で複数人の敵を一掃できることはやはり心強い。

 

「そんな、バカなことが……!? 広範囲の殲滅は『雷の巫女』の専売特許だった筈……ッ!?」

 

 新に現れた方の『騎士』が驚愕している隙に彼女へと肉薄する。ボクの元々の機動力は多くの『騎士』に見劣りしない。『騎士』と見合えば大抵が瞬殺に終わる――

 

「降雷波!」

 

「ぎゃ、うぎあ!!」

 

 雷を込めた掌底を叩き込み、『騎士』を倒す。遅れてグレイフィアさんのアナウンスが響き、これで残るはカーラマインとレイヴェルだけ。

 

「シーリス!? ニィ! リィ!」

 

「余所見をするなッ!!!」

 

「ガ、ァ!?」

 

 カーラマインもまたその同様に付け込まれ、祐斗が一撃でのす。これで高みの見物を決め込んでいたレイヴェル以外全員だ。

 

「……驚きましたわ。まさかここまで善戦なさるなんて」

 

 それでもやはりレイヴェルの余裕は消えない。

 強がりではないことくらいはわかるが、それにしても豪胆と言わざるを得ない。まるで彼女は未だに自分達の勝ちを確信して疑わない、そんな目を――

 

『リアス・グレモリー様の『女王(クイーン)』一名、戦闘脱落(リタイヤ)

 

 その瞬間、響き渡るアナウンス。

 

「なっ……朱乃が!?」

 

「まさか……!?」

 

 朱乃が、負けた……!? いやそれよりも、『爆弾女王(ボム・クイーン)』を抑えていた朱乃がやられたということは――!

 

「祐斗! 早くそこから離れろ! 女王の爆弾は恐らくもう既にッ!!」

 

 瞬間、祐斗のいた場所から爆音が響く。聞き覚えのある爆音だ。嫌なことに、その音が聞こえた時は小猫が脱落した。考えたくもないが、今回もまた……!

 

「ッ……祐斗!」

 

 祐斗が爆心地の中心で突っ伏していた。制服も身体もボロボロに焼け爛れ、戦える状態ではないことは明白だ。

 すぐに祐斗の姿はこれまで倒し、倒されていった悪魔達同様に消えていく。駆け寄る暇もなく、また駆け寄るという思考すらも警戒を優先してしまっていたボクには許されず、祐斗の姿はやがて跡形もなく消えてしまった。

 

『リアス・グレモリー様の『騎士』一名、戦闘脱落(リタイヤ)

 

 ただ淡々と、誰が倒れたかを教えてくれるこのアナウンスが恨めしい。

 

 






 夏までに二巻終わらせたいなー!
 終わるかナー!?

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