ち、違う! 白き鋼鉄のXが手を放してくれなくて……!!
先輩とライザーさんの戦いは熾烈を極めていた。
不死のフェニックスと、半減の白龍皇……どちらも長いスパンで戦い続けることが得意分野だというのに、お互いに後がない状況なのだと吐露するかのように戦っている。
短いスパンでの息切れをまるで勘定に入れていない。
苛烈。
凄絶。
炎と雷が飛び交うこの戦場には、そんな表現こそが似合う。
『案ずるなよ相棒。白龍皇はかつて神に反逆せし二天の龍が一翼。
たかだか不死の一つ二つ、ものの敵ではあるまい』
「……そう、なのかな」
どうにも、先輩の放つ白龍皇の力には圧倒的な強さを感じない。二つの神器を解放してもそれだけじゃライザーさんに勝てないのではないか、という不安が拭えない。
落ち着いて、『
電子の波に意識を傾ける。
0と1が世界を象り、距離も、隔たりも、
「………? これは……」
『綻び……? ヴァーリ・アシモフの魂と直結している筈の神器が、僅かに乖離している。
もしかしてこれ? 魂とリンクしている神器との繋がりが少しでも離れたというのなら、確かにこの力の違和感はわかるけど』
『なに?』
魂と密接にリンクした神器は、僅かにでも魂を離れた途端にその力は本来あるべき輝きを失う。それはアーシアちゃんの神器を奪ったレイナーレが、モルフォの存在を知覚できなかったことから予想していた。
あの時はアーシアちゃんの神器が完全に定着していなかったから、今回は先輩が白龍皇の神器との繋がりが隔たれているから。条件は少し似ていて、少し違う。
『……恐らくはその隔たりが、俺達に存在を知覚させなかった要因なのだろう。
今、ヴァーリ・アシモフとアルビオンは、完全に繋がってこそいないが神器の力を表出できる程度には明確な結びつきを持っている。だから白龍皇の力の波動を、相棒達は知覚できるのだろうな』
「……先輩」
先輩は今、何を思っているんだろう。
◆◇◆
ライザーの炎を避ける。去り様に右手を突き出すが、当たらない。
「……ちィッ」
一撃を当てられない。ライザーの攻撃に当たっていないことも確かだが、一撃を当てるまでは無尽蔵の耐久能力を持つフェニックスに分があるようだ。
「まさか……ここまで一撃たりとも当たらないとはな、雷撃の白龍皇!
だが! 同様に貴様攻撃の一撃たりとて俺に届いてはいない!
聴こえるぞ、貴様の力が消える音、俺の炎から脱する度に力の源が削がれていく音が!」
「調子に乗ってくれて……!」
一撃当たればオシマイであるライザーは確実に、肉体面とは違う精神の均衡が崩れそうはじめていることはわかる。持久戦を続ければ当てられる。だが……
『ヴァーリ、悪い知らせだ。「
「……僕も条件が五分ということだ……!」
ボクの神器の状態を知ってか否か、ライザーはボクが白龍皇の力を解放した時と比べると目に見えて表情が生き生きとし出している。恐らく理屈はともかく、状況は理解しているのだろうが。
「どうした白龍皇!? 貴様の動きがなまっちょろいッ! その程度の力で俺を倒すと嘯いた挙句にこの体たらくか! 不格好にも朝焼けのように輝く雷翼は飾りと見るが!?」
「ピカピカ光って不格好なのはお互い様じゃないか……劫火を纏う不死鳥の割には、兄妹揃って乾かない舌でよく喋る!」
「皮肉を言うには力が伴わなければさぁ!」
ライザーの炎が襲い来る。一瞬の一撃を叩きこむためにも無駄な被弾は一切許されない。大仰に避けて不用意な攻撃を誘発したりすることはできないから、確実かつ、追撃の猶予を与えない回避行動が強要される。
「こいつならどうだッ!」
ライザーが隙に付け入ってくる前に、翼膜を形成する薄緑のエネルギー体に雷撃のエネルギーを籠めて乱射する。超広範囲にばら撒いた、あまりにも無様な一撃を当てるだけの殺意を欠片も感じない攻撃だが、それを当てるだけでいいのだから関係はない。
だが――
「……なるほど、これが貴様の
ライザーの姿が炎に揺らめく。存在をブラして攻撃を回避した……まさか!
「電磁結界……いや、
まさかこの戦闘の中で、見様見真似で会得したっていうのか……?
これが若手注目ルーキーの実力だとでもいうつもりなのか。
「完全に形成が出来上がったぞ白龍皇! 俺は貴様と違ってフェニックスの無限の力を持っているッ!
この、貴様からいただいた永劫回避の力に制限などないッ!! 最早片手で数えられる程度にしか回避能力を使えない貴様とは雲泥の違いを持つ!! さあ、消化試合に付き合ってもらうぞ……そうら!」
調子を完全によくしたのか、ライザーはそれまで抑えていたような嘲笑を浮かべて炎を撃ち出す。
ライザー・フェニックスの力の根源こそはその圧倒的な生命力。そこに無制限の回避能力が加わってしまえば、誰でも悲観をしてしまいたくなる心がある。
だからとて、簡単にリアスの望みを投げ出す理由にはならない。
「ふはははは!! いい気分だ! 二天龍とまで呼ばれた白龍皇――その現代が今こうしてフェニックスの威焰に這い蹲り、逃げ回るッッ!! 悪魔としてこれほどの悦びは他に多くはあるまいなぁ!?」
「ッ……!」
『耳を貸して熱するなよヴァーリ。アレはまさに溺れている。己の実績と、我らに勝てるという思い込みにだ。
ならばいくらでもやりようはある。落ち着いて、熱くなれ』
脳裏に響くアルビオンの声。ありがたい、落ち着く。あちらの世界で何度となく聞いたオペレーションに近い助言が、ボクの頭をスッキリさせてくれる。
ああ。大丈夫。アルビオンの言う通りだ。
「大仰なのはいいが……一撃も与えられていないのはお互い様だろ? 上から見下す割には、随分とお粗末な掃除風景だな」
「……ふ、ははは!
――言ってくれるッ!!!」
炎の勢いが二割増しで増える。そうだ、それで来い。それでいいんだ。
見せつけるように、広範囲へ炎を薙ぐ。ボクの電磁結界を雑に、一撃で剥がす腹積もりなのだろう。
「それを待っていた……!」
超範囲へと繰り出す攻撃、そしてさっさと攻防に決着をつける、『当てるためだけの攻撃』――!!
「さあ無様に柔肌を晒せッ!! 竜鱗を剝いて我が力の前に屈しろッッ!!!
白龍皇ォォォォオオオオオオオッッッ!!!!」
流すつもりの挑発を流せず、注意力が散漫になるその一瞬、いくら本気になった攻撃だとしても、当てるという一点だけに注力した攻撃ならば。
「耐えてくれよ、アルビオンッ!」
『誰にモノを言っている……俺とて二天龍だ! 物理的な力こそドライグには劣るが、逆さ鱗を悟られぬ厚さ程度は持っているとも! 貴様こそ能力の調和に気を取られて、肝心の防御を疎かにしないことだ!』
白龍皇の翼が再び、雷光に覆われる。一瞬、翼の輪郭が見えなくなるほどの雷に覆われたそれは、すぐに姿を元に戻す。
ただ違うところがあるとするならば、白翼が蒼白く輝いていること。
「ッ……うぅ……! 神器適合率上昇……! 宝剣の神器因子の隔離機能、70%までカット……ッ!」
互いの相乗強化に加え、
分断する白龍皇の力と、分散する雷撃の力。分断の力を乗せた雷撃をばらまくという意味ではいいように見えても、これはボクの身体能力を活性化させる作用や細かい応用にも干渉してしまう性質を持っているらしい。白龍皇としての力を大きく使えば使うほど、ボク本来の戦い方には大きな支障が生じてしまう。
だからこそ、今のボクではただの頑丈さ、翼のはためきであろうとアルビオンの力を使えるのはできて30%。それも、全力で二つの力の波を拮抗させながら。間違いなく、ボクは彼女よりも二天龍の力を扱えていない。
だとしても……ッ!
「お、ああああああああああああ!!!!!!! うううううううううううううおあああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!!」
ともすると、その姿は暴走しているといえるのかもしれない。だがボクは今リアスが、アーシアが、朱乃が、裕斗が、子猫が切り開いて、萌芽させた逆転の芽を眼前に置かれている。
だったらどうして、負けを認める必要があるのだろう。
「ッッ……!! 疑似宝剣”
言葉と共に、ライザーの炎の中へと身を沈めていく。一瞬、されどもその炎に身を焼かれないように。
電磁結界を停止した状態の炎熱はさすがに、身を焦がす感覚とはこういうものだ、と教えられる。
だが、フェニックスの炎に白龍皇の龍鱗が屈するわけがない……!
「迸れ、
ボクの翳した手は、炎の渦を振り払っていた。
◆◇◆
刹那。時が止まったように、雷鳴と炎の弾ける音に包まれた戦場は音を失った。
「白龍、皇……ッッ!!」
「フェニックス……!」
不意をついて放ったヴァーリの拳はしかし、ライザーの会得した
「貴様はッ……! ここで倒さねばならない!!」
ライザーはヴァーリの一撃を避けてすぐ、反撃に回る。紅蓮の炎を纏った拳を、彼の鼻っ柱に寸分の狂いもなく放つ。
だが、ヴァーリもまた最後の
「なっ……」
「焦ったなライザー……ボクを一刻も早く倒さねばならないという、己への避けられない敗北の可能性からくる焦り……お前が不滅のフェニックスでなかったなら、『負けるかもしれない攻防』に必要以上の焦りを覚えなかっただろうに……」
ライザーは必死の形相でヴァーリを振りほどこうとする。だがその手が離れることはない。陽炎によるすり抜けを試みようとしても、もう遅い。
「必殺の一撃も必要ない……お前を倒すには、これだけで十分だ」
「やめろッ……! 離せッ!! 地上の薄汚れた転生悪魔が、俺にただやられる以上の恥辱を与えるというのか!?」
「……雷撃麟」
一瞬、二人の周囲に蒼白い電光が迸る。
”蒼き雷霆”と”白龍皇の光翼”の神器の力が融合している今のヴァーリは、電撃に白龍皇の半減の力を付与することもできる。
電撃そのものに半減の力が掛かり、単純な威力そのものは低下してしまうが、半減し続ける力が発動さえしてしまえば関係はない。
「………」
一瞬、安堵する。だがしかし、次の瞬間にヴァーリの身体はライザーの下から噴き出た爆音とともに吹き飛ばされていた。
「ライザー様ッ!! 彼を、白龍皇にトドメさえ刺してしまえば恐らく半減の力はそこまでの筈! 確実なトドメを!!」
ライザーが思わず向けた視線の先には、彼の命でこれまで勝負に手出しをしていなかった
「っ……恩に着るぞユーベルーナ!」
ライザーは即座にヴァーリの方へと向き直り、炎の螺旋を構える。即座に炎を飛ばすが――
「行きなさいアーシア!! あなたの悪魔になってからの訓練、その成果を見せる時よッ!!!」
「はい部長!! アーシア・アルジェント、全力で飛びます!!!」
リアスの指示よりもコンマ早く、アーシアが黒い翼をはためかせて飛び出した。
アーシアの魔力量は非常に多く、ただ翼で移動するという一点においては新人ながらにグレモリー眷属の中でも指折りの
ライザーの炎がヴァーリを掠めた瞬間、アーシアの手が間に合う。ヴァーリを庇った影響で彼女の制服には火が付き、柔肌が露わになるが、アーシアはそんなことをまるで意に介さず、運動場のさらに奥を超え、グレモリー眷属のスタート位置であるオカルト研究部部室に衝突してようやく止まる。
「……リア、ス……」
朦朧とする意識の中、ヴァーリはただリアスのことを想う。
任せてほしい、倒す。そう言った手前でこんな失態を犯した自分を、彼女は許してくれるだろうか。
ただヴァーリはリアスの無事を祈りながら、耳も目も不確かな状況で自分が退場しないように、意地で意識を保ち続けた。
《ライザー・フェニックスさま、『
そのアナウンスと共に、ヴァーリは緊張の糸が抜けたように意識を手放した。
アキュラくんに地獄を背負わせた淫帝を許してはおけぬ。