赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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神器も第七波動も原作においては誰かしらの手によって人為的に疑似再現する事が可能でした。

ようは、そういうお話です。




欠片

 

 

「一誠」

 

「え? なに、お母さん」

 

あのよくわからない1日の翌日、いつものように朝ご飯を食べていた私にお母さんはほんの少しだけ、真面目な雰囲気を纏って話し掛けてきた。

 

「……何かあった?」

 

「……うん、昨日ちょっとビックリした事が沢山あって。疲れてるのかも」

 

おかげで今日寝不足なんだ、と言いながら目の隈を注目させる。まあ普段から隈こそないもののゲームのやり過ぎで寝不足だからお母さんは冗談と受け取って貰えたようだ。

 

「そう……わかったわ。でもあんまり無茶して倒れるとお父さんもお母さんも心配するからね?」

 

「わかってるよ。今日松田達とカラオケ行くつもりだから夕御飯はいいからね」

 

「はいはい」

 

そういう何時も通りのなんでもない会話。それが今、私が幸せなんだと教えてくれるのと一緒に昨日の出来事の異質さを際立たせる。

 

私は極力、お母さん達を心配させないようにしながら学校に向かった。

 

ただ思い出せないのは、何が異質だったのかを全く思い出せない事。

 

◆◇◆

 

何処ぞの劇作家が曰く。うわさになるより悪いのは、うわさされないことだけである。

 

あんなものは嘘っぱちなのだと、うわさをされれば身をもってわかる。嘘だ、立派な人の言う事なんて8割がた嘘で構成されている。

 

「……あの、木場くん。私に何か用があるんじゃなかったの?」

 

「そうなんだけどね。兵藤さん可愛いからついね?」

 

「ついじゃないよ……」

 

「いいじゃないか別に。見て褒めても減るものじゃないでしょう?」

 

「減るよ? 私の神経とか周りの人の心とかが」

 

木場 祐斗くん。2年生で一番有名な男子生徒で文武揃った天賦の才能を持つ生徒……って何時か職員室での女性の先生達の会話を聞いた覚えがある。

 

「って、そうじゃなくて。告白なら何度も言ってるでしょ? 今はそういう人を作るつもりないって」

 

で、去年の暮れに何故か告白された。

 

そうなったのは一度ボロボロだった彼と遭遇して手当てをした事……だと思う。確かその時に彼と何かの会話をしたのが切欠なのかもしれない。

 

「残念、またフラれてしまったな……まあ今回はそれじゃないんだ。リアス部長の事でね?」

 

「グレモリー先輩……? ん、じゃあ木場くんも()()()()()なの?」

 

「そういう事。ついて来てくれるよね?」

 

「まあ、うん。そういう事なら」

 

今日のお昼ご飯はおべんとうと何ラーメンにしようと悩んでいたが、呼び出されたとなるとラーメンは食べられないかな、なんて思いながら木場くんの後に続く。

 

「オカルト研究部ってわかる?」

 

「名前だけなら。入学した時に少し気になって部室探したんだけど見当たらなかったの。あっ、グレモリー先輩の事部長って言ってたけどもしかしてオカルト研究部って悪魔の集会……的な?」

 

「察しいいね兵藤さん。その通りだよ」

 

勿論僕もね。と木場くんは言う。非日常(昔の日常)って案外近くにあるものなんだなぁ、と思いながら暫く木場くんと談話をして、林を抜けた旧校舎の二階に辿り着く。

 

「うわ、綺麗」

 

「部室だからね。掃除くらいはするさ……と、ここだよ」

 

木場くんがどうぞ、と扉を開けるとそこにグレモリー先輩の姿はなかった。

 

代わりにいたのは羊羹を食べている私くらい小さな女の子と、大和撫子という雰囲気を持つ黒いポニーテールの女性。

 

この人を私は知っている。塔城(とうじょう) 小猫(こねこ)さん。私達二年生の一つ下の後輩で、有名な子。

 

「こちら、兵藤 一誠さん」

 

「ど、どうも」

 

「……どうも」

 

ペコリ、と一礼。塔城さんはそのまま羊羹にまた執心する。

 

『喋らない子ねぇ、噂通り』

 

モルフォが意識だけで話し掛けて来る。私の抑圧された本能、というだけあって彼女は私に隠れてものを言おうとしない。

 

それで、もう片方の人もとても有名人。姫島(ひめしま) 朱乃(あけの)先輩。グレモリー先輩と一緒に二大お姉さま……とか、なんとか言われている。

 

「はじめまして、兵藤さん私は」

 

「あ、いえ、存じ上げています姫島先輩。こちらこそはじめまして」

 

姫島先輩の持つ独特の雰囲気に思わずワタワタとしながら頭を下げる。女性としてのオーラが違うような、そんな感じの。

 

そういえば。

 

「グレモリー先輩が見当たらないけど」

 

「少し待っていて。さっきもう一人の先輩を連れて来ているところだから」

 

「もう一人?」

 

「そう……あ、来たね。部長、アシモフ先輩。お疲れ様です」

 

木場くんの声に釣られて後ろを振り向くと、そこにはグレモリー先輩と、白い髪に眼鏡を掛けた男の人がいた。

 

━━━何処かで、見た事があるような?

 

「祐斗もご苦労様」

 

「いえ、幽霊部員のアシモフ先輩を連れてきた部長程では」

 

「幽霊部員って……酷いな祐斗。月イチで顔は見せてるだろ?」

 

そう言いながら彼は部室に備え付けてあるソファに座って栄養調整食品を咥える。

 

()()()()()()、兵藤 一誠さん。ボクはヴァーリ。ヴァーリ・アシモフ」

 

「はじめまして……兵藤 一誠です」

 

にこやかに挨拶をするアシモフ先輩に軽くお辞儀をする。

 

それを見たグレモリー先輩はうん、と確認する。

 

「これで全員よ。それでは兵藤 一誠さん」

 

「あ、はい」

 

「私達は貴女に話さねばならない事があります」

 

「えーっと、それはやっぱり?」

 

「そう、悪魔について」

 

GV、お父さん、お母さん。やっぱりこの世界も結構危険な感じみたいです。

 

◆◇◆

 

Point of view

Morpho

 

この世の中には人間の知覚外に天使、悪魔、堕天使というお伽噺に記されるような存在が実在しているらしい。

 

リアス・グレモリーの属する悪魔と先日私達が遭遇した堕天使は冥界━━━所謂地獄の領土を巡って争っているという。

 

「えーっと、つまりグレモリー先輩はその堕天使? っていうのと争っているわけで……あれ、それなら尚更なんで私は先輩達に呼ばれたんですか? てっきり悪魔がいる事を教えてくれるだけだと」

 

「━━━いえ、そうじゃないの。貴女が生きている事にそもそも疑問があったのだけれど、これは」

 

「多分、彼女は記憶操作を受けているんじゃないかな」

 

リアス・グレモリーに答えたのはヴァーリという男の人だった。いつの間にか眼鏡を外してコンタクトレンズを目に着けようとしながら「そう、記憶操作」と言う彼に私達もリアス・グレモリー達も彼を注目する。

 

「記憶、操作? 私が?」

 

「うん。例えば先日部長の言っていた『この町に潜伏している堕天使』が元々目的だった兵藤さんに接近して、それを正体不明の第三者が迎撃した。そして第三者は彼女に自分の顔を見られる事が不都合で彼女の記憶を操作した。とか」

 

「なるほど……そうね、その可能性もあるわ。でもそれにしては少し彼女の記憶の消え方が大雑把だったわ。それはどうしてだと思う?」

 

「部長の接近に気付いて焦った結果大雑把になったか、根本的に消したかった記憶が別にあったのか、あるいは彼女自身に何かあるか。それが主な仮説だと思う」

 

「そう……それも彼女の神器(セイクリッド・ギア)の為せる技なのかもしれないわね」

 

「……え、えっと、神器……とか、よくわからないんですけど……」

 

私達の知覚外の話を知覚外のまま進められてしまっては理解が追い付けない。一誠(シアン)があたふたとしていた事に気付いたヴァーリは「ごめん」と言うと補足の説明をしてくれる。

 

神器(セイクリッド・ギア)というのは、まあ有り体に言えば人の血族に流れる特殊技能の事なんだ。人類史を遡っても本当に人間なのか疑わしい人って沢山いるだろう? 今世界の表舞台に立っている人や偉人なんかは大小あれどその多くが神器持ちだったと伝わっている」

 

「つまり、私にもそれがあるって事ですか……?」

 

「そう。察しが良くて助かるよ。大半は人類社会でしか機能しない程度のものなんだけどね。時々あるんだよ……キミのようなボクらを脅かしかねないものも」

 

世界を脅かしかねない……? 確かに電子の謡精(わたし)はあの世界では能力者を脅かしかねない存在だったけれど、それがこの世界でもそうだと言うの?

 

……いや、もしも仮に、電子の謡精のみならず、あらゆる第七波動(セブンス)が神器に相応する存在だとしたら━━━

 

『……一誠(シアン)

 

(……わかってる。もしもモルフォが、電子の謡精が神器なのだとしたら、やっぱりそういう事なのかもしれないって)

 

『わかってるならいいの。この人達を信じるかどうかは貴女に任せるわ。それでも、貴女の本能である私が判断するとしたら━━━』

 

(ううん。わかるから、大丈夫)

 

一誠(シアン)がそう言うと、彼女は一歩前に出て、リアス・グレモリー達に向かう。

 

「━━━心当たり、あります」

 

「……あるのね」

 

「はい。……生まれる前からずっと持っていたって言っても過言じゃない心当たりが。一つだけ」

 

ピクリ、と。ヴァーリの眉がほんの少しだけ潜まった気がした。あくまで私の勘だけど。

 

「……出て来て。モルフォ」

 

『……わかったわ』

 

一誠(シアン)の選択だ。私は文句もない。彼女の選択を尊重して彼女を守る。それがサイバー・ディーヴァ(わたし)

 

一誠(シアン)の意識の表層から離れて現実に実体化する。私が姿を表した事に反応を示したのは、木場 祐斗とヴァーリのみ。

 

『聞こえるならはじめまして。聞こえないから……まあ、どっちでもいいわ。アタシの名前はモルフォ。この子の第七(セブ)……貴女達の言うところの神器(セイクリッド・ギア)電子の謡精(サイバー・ディーヴァ)モルフォよ』

 

「……どうも、はじめまして」

 

「え、ええ……はじめまして」

 

私の姿を視認していないリアス・グレモリーと姫島 朱乃、そして塔城 小猫は突然虚空に挨拶をした二人を奇妙なものを見るように見つめ、それをすぐさま一誠(シアン)がフォローする。

 

「えっとですね、今ア……ヴァーリ先輩と木場くんが挨拶をしたのは私の神器です。存在自体が特別だから、きっとこの部で神器を持っているのは先輩と木場くんだけですよね?」

 

「ええ、今いる中ではそうよ」

 

「……そうですか。それじゃあ三人には私から説明します。私の神器(セイクリッド・ギア)電子の謡精(サイバー・ディーヴァ)と私は呼んでいて……多分、とても危険な神器です。それこそ確かに、手に渡った人が悪い人だったら世界が危険になるくらい」

 

神器と第七波動の関連性の予想はどうやら、当たってしまったようだ。

 

 






木場と一誠
昔一誠がボロボロの木場を助けた。その時一誠は事の理由を一切聞く事はなくただ木場の治療に専念していた。

ヴァーリ・アシモフ
当然偽名。ヴァーリ(GV)が諸事情によりルシファーの名を隠して駒王学園に忍び込む際に咄嗟に浮かんだ人物から来ている。
モルフォと一誠(シアン)がヴァーリだけ名前で呼ぶのはその人物を意識しているため。

記憶操作
ヴァーリ(GV)が一誠(シアン)に施したもの。ヴァーリは一誠の記憶から堕天使に襲われてヴァーリに救われた一部始終とシアンの記憶からGVの第七波動と彼に関する記憶を消去したものの、モルフォの存在による無意識の精神干渉がその記憶消去を不完全にしている。

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