赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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モルフォがちょっと疑心暗鬼気味なのはシアンが未知の環境に晒されて不安になっていることの表れです。




出会

 

 

結局、悪魔云々の話は置いておいて、私は保護対象というカタチで落ち着いた。

 

グレモリー先輩はいっそ自衛のために悪魔に転生する事も一つの選択肢だと提示した。それもあくまで一つの道ではあるという程度で。

 

未だに確信は得られない、憶測の範囲でしかないけどこの世界でも電子の謡精(サイバー・ディーヴァ)は危険な力だという事もわかってしまった以上はそうなってしまうのも仕方ない、と私は納得している。

 

だけどモルフォは違う。

 

『反対よ』

 

「反対って言われても……実際私は堕天使に殺されそうになったわけだし、グレモリー先輩はそこらへんをちゃんと教えてくれたからしょうがない所もあるんじゃないかな……」

 

『それよ。そのしょうがない、がいけないの。しょうがない、それしか道はない。そうやって物事を考えてたら昔みたいになるわよ』

 

「……昔」

 

それは……嫌だな。でもだからって、頭ごなしに否定するのもいけないと思う。グレモリー先輩の言っている事もわかる。モルフォの主張も理解できる。

 

「……考える時間が欲しかったから一旦保留にしてもらったんだから、この話はもっとゆっくり話そう、モルフォ」

 

『そうね……私も貴女も考える時間は必要。第一、木場 祐斗やリアス・グレモリーは友好的だったけど、悪魔よ?』

 

確かに。自分達は悪魔なんだ、と言ってその証拠まで見せてもらった以上私はグレモリー先輩達が嘘を言っているとは思わないけど、悪魔って。ようするに悪いヒト達と言っているようなものなんじゃないだろうか。

 

「それに、仮に悪魔になってしまったとして。私お父さんとお母さんに顔向けできる自信ないし……ん?」

 

話の途中でモルフォの視点がブレていた事に気付いた私はそちらに視点を移す。

 

そこには、この町の地図だろうか。イヤホンを紙を広げて疑問符を頭に浮かべている女の子の姿があった。

 

「外国の人……?」

 

『なんだかね、無性に気になるの』

 

うーん、確かに。なんだか放っておけない空気感を漂わせているというか……

 

『いえ、あれは……あ、こけた』

 

うーん……発音からしてイタリア辺りの人だろうか。

 

なんて思っているうちに私の足はひとりでに少女の所に向かっていた。何故? と問われるとそれは一つしかあるまい。

 

「……あ、あのー……大丈夫ですか……?」

 

決して流暢ではないが、はっきりとした語感で女の子に話し掛ける。すると彼女はとても驚いたように私のほうを見て───

 

「え……え?」

 

「あれ……イタリア語ってこうじゃなかったっけ……」

 

「あ、あってます……」

 

ああ、よかった。これで間違っていたら恥ずかしいなんて次元じゃない。恥ずかしさで死んじゃえそうだ。

 

『歌詞探し~、なんて言って外国語に少し触れた甲斐はあったみたいね』

 

それいわないでよ恥ずかしい。

 

「えっと……何かお探しですか? 私、この町に住んでいるので、よければ案内しますけど」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

ぱぁ、と表情を明るくする女の子の姿を見てよかった、と思うのと同時に間違ってなくてよかったとも思った。

 

「えっと……旅行ですか? あんまり観光する場所はないですから、退屈かもしれませんよ?」

 

「い、いえ! そうじゃなくて……私、今日この町に赴任することなったシスターなんですが、どうにも日本の言葉や文字が難しくて……」

 

「あ、それわかります……」

 

私も()() ()()()に転生してからというもの数年は必死で日本語を覚えたものだ。その分、流暢に日本語を使えるようになった時の爽快感と言ったらなかった。

 

因みににモルフォは私の本心の具現だからなのか、私が日本語を必死に覚えたのに楽々と覚えていた。こういうのを横暴っていうのかなぁ、と思う。

 

しかし、教会かぁ……つい最近あんな事があったせいか、思う所がある。

 

「……教会ならわかりますよ。案内しましょうか?」

 

しかし、私の脳裏にある教会といえば今はもう使われていないものだったはずなのだが、私の知る限りこの辺りにある教会といえばそこしかない。

 

「ほ、ほんとうですか!? あ、ありがとうございます! これも主のお導きのお陰ですね!」

 

彼女はそう言うと両手を重ねて何処かしらへと祈りを捧げている。

 

「え、えっと……こっちです」

 

そうして私はシスターを連れて教会に向かう。

 

道中、公園を横切った時、それは起こった。

 

「うええぇぇぇん!!」

 

聞こえてきたのは子供の泣き声だった。

 

「大丈夫、よしくん」

 

お母さんもついているようなので私は早くと泣き止むといいなぁ、程度に思いながらシスターを連れてその場から離れようとしたのだが。

 

「え、あ? シスター?」

 

シスターは男の子の方に一直線に向かって行ってしまったので私も慌ててあとを追う。

 

「大丈夫? 男の子ならこのくらいの怪我で泣いてはいけませんよ?」

 

 

 

言葉は通じてないだろう。だけどシスターは優しく微笑むと手を男の子の方に向けて───

 

「え……?」

 

『これは……よろしくないわね』

 

男の子の傷が見る間に無くなっていく。私は茫然としていたが、すぐにそれが何なのかを理解した。

 

神器(セイクリッド・ギア)だ。見間違えようがなかった。

 

彼女の光を見ていると身体が疼く。それは左腕であり、また私の心でもある。

 

────共鳴している、と表現すればいいのだろうか。ともかく、アレを見ていると身体の節々に心地よさを感じる類の違和感を感じてしまう。

 

「はい、これでもう大丈夫ですよ」

 

シスターはそういうと男の子を一撫ですると、茫然とする男の子と彼のお母さんを置いて私の所に戻ってくる。

 

「ごめんなさい、つい」

 

「う、ううん。大丈夫」

 

私が何とかそう答えると、男の子は我に返ったようで、シスターに向かって

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

と言った。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。だそうですよ」

 

彼女はニッコリと微笑んだ。その顔を見てしまうと私はどうにも今の力について追及する気力は起きなくなった。

 

部長曰く、神器とは異質な力。その異常性が故に一般社会から疎まれている場合が多いらしい。

 

それを考えてもシスターの神器について追及するのは彼女の過去を覗き見るような気がして。どうにも私はそこからしゃべる言葉を失っていった。

 

「……あの、今の力について聞かないんですか?」

 

「……え? 聞かなきゃダメだった?」

 

「い、いえ。そういう訳じゃないんですが……」

 

「私は気にしないよ? だって、シスターのその不思議な力はとても優しかったもん。危険だったら私もちょっと怖いけど勇気を出して聞いてたけどね?」

 

全部GVの受け売りに過ぎない。彼は聞かねばならない事と聞いてもいい事、きっと聞いちゃいけない事の線引きがしっかりしていた。

 

「……優しいんですね」

 

「……そんな事ないよ。私に色々教えてくれた人がたまたま優しかっただけ」

 

事実だ。嘘は言っていない。GVがそこまで思慮深くなければきっと私も無遠慮にシスターに接していたに違いない。

 

だというのに、シスターは。

 

「それでも、貴女は優しい方です」

 

なんて言うのだ。

 

それからは二人とも話す事が無くなり、数分間何も言わずに歩き続ける。

 

「……あ、ここ、ここです」

 

やはり例の教会だったようだ。しかし今は使われていないはずなのにどうしてここなんだろうか。何か事情があって左遷されたとも考え辛いし……あるいは、神器に関するなにかか。

 

ともかく、悪魔に関わっている私がここに長居するのは多分よろしくないのだろう。そうと決まれば早めにここから去った方がいいかな……

 

「じゃあ、私はこの辺りで」

 

「あ、待ってください! せめて何かお礼をさせてください!」

 

「い、いえ。構いませんっ好きでやったことなので」

 

「で、でも……申し訳がありません。せめてお茶でも」

 

シスターは善意で言ってくれているのだろうが、その善意に応えてはいけない。絶対にしてはいけないという訳ではないのだけど、それが原因でグレモリー先輩達に迷惑をかけるわけにもいかないのだから。

 

「え、えっと……急用があるの。だからまた今度にでも。今日は名前。名前だけでいいかな?」

 

「え、は、はい」

 

「私はイッセー。兵藤 一誠。イッセーでいいよ」

 

「はい、イッセーさん。私はアーシアです。私もアーシアで構いませんから」

 

「はい、よろしくねアーシアさん。また今度会おうね」

 

そうしてアーシアさんは去り際の私を姿が見えなくなるまで見届けてくれた。ああ、本当にあの子は優しいんだな、と自分が隠し事を沢山していたみたいで恥ずかしくなってくる。

 

ひとまず彼女の事は黙っておこう。別に打ち明ける義務もないのだし、グレモリー先輩達に限ってそれはないと信じているけれど彼女を脅威と断じて殺しに来る可能性もなくはない。

 

「もし、そうなったら私は……」

 

きっと無理をしてでもアーシアさんを助けに行く。それが私の知っている天使(ヒーロー)がしてくれた事だから。

 

『………』

 

モルフォはそんな私を見て、何を思ったのだろう。あんまり自分の本心というものはわからないものだから。

 

◆◇◆

 

その夜、私はグレモリー先輩から来て欲しいという連絡を貰った。なにやら悪魔というものを知ってもらうためとか、何とか。

 

「はぐれ悪魔、というヤツがいてね。とある理由で主の悪魔の下を脱した悪魔がいるんだ」

 

私に説明をする木場くんは心なしか少し嬉しそうだ。

 

……告白されて断る度によく聞いているんだけど、果たして私にそんな好意を向けられる要素なんてあるんだろうか。人付き合いだって学園でも煙たがられている頭のお恥ずかしい松田と元浜にちょっと変な桐生さん。うーん、ダメだ。わからない。

 

『私もてんでわからないわ。今のところ一誠(シアン)がオリジナル曲投稿者のシアンだって知ってる人なんてお父さんとお母さんくらいだし』

 

私にだけ聞こえるようにモルフォが言う。シアン目当てでアプローチしている、というのもなさそうだ。

 

聞いても聞いても木場くんは「そういうとことかかな?」なんて言ってはぐらかすんだ。まったく、私をペットか何かのように見ていないだろうか。

 

「それは言ってみれば主の拘束を離れて自由になったって事でもあるからね。その力でひと暴れしてみたくなる悪魔もいるのさ」

 

木場くんの言葉を聞きつつ整理する。

 

「要するに、そのはぐれ悪魔っていうのがこの町に来たからグレモリー先輩達がその対処をする、って事でいいんですか?」

 

「そうだね。誓約という枷が外れた悪魔程厄介なものはないからね。見つけ次第始末する。これは天使も堕天使もおなじ、暗黙のルールみたいなものさ。それにキミを呼んだのは……キミに見て、知って欲しかったからなんだ。キミが関わる事になってしまった世界というのがどんなものなのかを……」

 

そう言っていると不意に、塔城さんが左手を私の前に差し出してきた。

 

「先輩。危ないので下がっていてください。血の臭いがします」

 

血の臭い? って言うと……

 

『臭うわ。敵意、悪意……それから、これは殺意?』

 

モルフォが少し怯えながら呟く。私の本心を投影したアルターエゴなのだ。私でも理解できない動物本能があるのだろう。

 

「さて、イッセー。いいタイミングよ。悪魔の特性というものについて教えてあげるわ」

 

グレモリー先輩がそう言う。気丈な人だ。私なんて、こんなに本心が怖がっているというのに。

 

「詳しくは省略するけれど、私達悪魔はその絶対力を大きく落とした時に人間を悪魔に変質させること以外にも一つの機能を追加したのよ。……それが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

 

「ピース……?」

 

「そう。悪魔は人間界におけるチェスをシステムに組み込んだの。主の(キング)、そして下僕の女王(クイーン)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)騎士(ナイト)、そして兵士(ポーン)。大軍を持てなくなった代わりに少数に強大な力を持たせる事にしたの。これが意外と悪魔には好評でね……まあ、その話はおいおいね」

 

グレモリー先輩がそういったと同時に、全身に寒気が迸った。

 

『これは……一誠(シアン)、気を付けて』

 

モルフォの注意喚起に一層身を構える。すると聞こえてきたのは────

 

「不味そうな匂いがするな……いや、美味そうな匂いもする。甘い? いや、酸い?」

 

それは、地底から囁かれる狂喜の声。不気味だ。少し前に桐生さん達と遊んでいたTRPGにも確かこういうのがあった。SANチェック、だっただろうか。

 

「はぐれ悪魔バイサー。貴女を消滅させに来たわ」

 

人の発するものとは明らかに外れた恐慌の声。

 

暗がりから現れたのは異様な風貌をした魔物だった。上半身が一糸纏わぬ姿の女性────いや。バケモノの図体の下半身がある。

 

陳腐な言い方をするが、これは女性でも獣でも、ましてや悪魔ですらない。

 

これは、キメラだ。四足の下半身だけでも5メートルはくだらない。果たして立てば何メートルになるのだろうか。

 

「主の下を脱しその力を思うように扱う姿は万死に値するわ。グレモリー公爵の名において貴女を消し飛ばして差し上げるわ」

 

「小賢しいいいい小娘如きがあああああ!! その髪のように貴様の肢体も紅に染めてくれるわあああああああ!!!」

 

「……雑魚程洒落の利いた台詞を吐くものね……裕斗」

 

「はい、部長」

 

木場くんが怪物に斬りかかる。速い。人間の目じゃとても追いきれない。

 

「裕斗は騎士。その力は高速化。裕斗は技巧派で、剣技に優れているのよ」

 

なるほど。特技と特技が嚙み合っている。まさにリアス・グレモリーの騎士といった感じだ。

 

「そして次は小猫とヴァーリ。二人は戦車。その能力は単純明快。力」

 

先輩がそういうと塔城さんとヴァーリ先輩が怪物の下に向かう。

 

怪物は塔城さんと先輩を踏み潰す。だが、二人は全く動じていない。

 

「小猫は単純な理屈によって力を。ヴァーリは電気を扱い、生体電流を活性化させて駒による強化を更に増やしているのよ」

 

「……電気」

 

彼も電気を扱っていた。それに確か彼も同じような理屈で身体を強くしていた。

 

二人が怪物を剛力で投げ飛ばすと、そのまま二人はその剛腕で殴り飛ばす。

 

もうすでにヤツは虫の息だ。

 

「最後に朱乃。彼女は女王。これもわかりやすいわ。戦車、騎士、僧侶、兵士のいいとこどり」

 

「そ、それって……」

 

電気。

 

電気。

 

電気電気電気電気電気電電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電気電電気電気電気電気電気電気電気電気電気気電気気電気電電気電気電気気電気電気電気電気電電気電気電気気電気電気電気電気電気。

 

「……グレモリー先輩。アレは?」

 

「朱乃の趣味よ。あの子、敵対者にはどうしようもないくらいSだから満足するまで止まらないわ」

 

そ、そうですか……そう、ですか……

 

朱乃先輩の電気地獄が終わると、グレモリー先輩はツカツカ、とはぐれ悪魔の下へと向かう。

 

「何か、言い残す事は?」

 

「……殺せ」

 

「そう」

 

そういうとグレモリー先輩ははぐれ悪魔を消し炭にしてしまった。

 

唖然、としているとヴァーリ先輩が私のそばにいつの間にかやってきていたようで、私に話し掛ける。

 

「悪魔がそばにいる生活をするのならこういう光景には早めに慣れた方がいいよ。……よくあるからさ」

 

それだけ言って彼は私から離れていった。

 

「……慣れろ、か」

 

GV()はいないのだもの。仕方ないわ』

 

モルフォの言葉にちょっとした違和感を覚えながら、私は夜更けに溶け込んでいく先輩達を追いかけたのだった。

 

 






彼が昔では絶対言わないであろう、悪魔の環境に慣れろという言葉を使ったのは彼女に彼だと気づかせないためと、立場上仕方ない現状にあるからです。彼女を連れて何処かへ行ったとして、自分と彼女を三勢力全てを敵に回す状況と多少危険でも環境に慣れさせるかを天秤に計った結果とも言えます。

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