赤き謡精、白き雷霆   作:エステバリス

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 バケモノどもは神の御許に送ってあげよう!




願望

 

 

 私がオカ研の皆さんに守られて、半日もしないうちに怪我は半分以上が治った。

 小猫ちゃんとかがビックリした風に私を見ていたけど、先輩達は「神器の力だろう」と特に気にしてもなかったようです。

 ……とはいえ、私の憶えているか限り何もせずに傷が勝手に治る、という現象はモルフォの力ではできなかったハズで、実は内心小猫ちゃんより私の方が驚いていたりしました。

 

 先輩方にもう帰っても問題はないと認められた朝、私は一旦に家に帰ることになりました。

 お風呂も済ませて、お母さん達には昨夜にちょっとした事故に巻き込まれて怪我をしたから、大事を取って休ませてほしいと頼みました。

 よくよく考えてみれば、それは結構穴のある論理だったのですが、お母さんとお父さんは何も言わずにわかった、と言ってお仕事に向かって行きました。

 

 そうして私は凝りもせずに外に出て、今先日出会ったシスターのアーシアさんと一緒にいます。

 

「……はい、アーシアさん。オレンジジュースでよかった?」

 

「あ、ありがとうございます、イッセーさん」

 

 アーシアさんはジュースを貰うと、私が自分に買った紅茶を飲んでから遠慮がちにちび、と一口つける。

 

「……おいしいです」

 

 理由はよくわからないけど、この顔は無理をしている顔だ。私もそういう顔を作っていたからわかる。

 あんまり踏み込むのはよくないんだろうけど、私はとても踏み込みたい。困っているアーシアさんを見過ごしたくない。

 ……が、とはいえ。生憎なことに私はこんな状況で自然にお悩み相談に誘導できるほど話術が得意なわけではないのです。

 

(短い期間だったけど恋心をマトモに表せられないくらい私は不器用な女なのでした……)

 

『彼も大概だった気がするけど』

 

 心のモルフォ、容赦のないツッコミ。確かに、確かにそうなのだ!

 GVは朴念仁だった。

 あ……あんなにアプローチしても彼は気付きませんでした! というか意識が朦朧としていた時のことだけど、私彼にハッキリ告白した覚えはあるのです! 感応波で!

 

 ……そういえば! 結局二人纏めて死んじゃったからお流れになっちゃったけどGVとは旅行の約束もしていました! 反故とは言わないけどあれは実質反故なのでは!?

 

「……あのー、イッセーさん? さっきから表情が二転三転としていますが……」

 

「ひゃわ!? あ、ご、ごめん!

 変なこと考えてた!」

 

「ふふ、よろしければ相談、乗りますよ? これでも私はシスターなんですから」

 

 ……あれ、私の方が相談してもらう側……?

 

「い、いいです! どうせもう叶わないことなので!!」

 

「いいえ、よくはありません! 迷う人を見捨てることを神は致しません!」

 

「いえその! あまり人に言うような話でもなくってですね!」

 

「でしたら尚更! 私達だけのことと思って!」

 

 誰か助けてーっ!!

 

◆◇◆

 

 はい、それからどうにかしてアーシアさん本人の相談の方に話を繋げられた私は、アーシアさんが教会のやってることが正しいことなのかがよくわからなくなってきた(意訳&意図的に伏せられた部分を照合した推測)ということを知りました。

 え、私の話ですか?

 

「えっとですね……なんていいますか、私は昔……三年くらい前かな? に好きな人がいました」

 

「はい、はい!」

 

 こうして絶賛事情説明という名の恋愛暴露の刑を受刑しているところです。

 代償というのでしょうか、これを。嗚呼神様。私は何か罪を犯してしまったのでしょうか。と実在するとわかった今文句の常套句のように神様を引き合いに出してみました。

 

「その、ですね……その人は昔、悪い人達に利用されていた私を助けてくれた人で、なんというか……一目惚れ、でした……」

 

「それで、それで!?」

 

 このシスター、完全に神様の赦し云々を言い訳にしています。個室ではありませんが、即席で「ここを懺悔室とします!」と用意された公園の一角は年頃の女の子トークルームです。ただの。

 にゃじぇ……どうしてシスターの懺悔を聞くハズが私の懺悔を晒さなければならない……

 

「それから、二人暮らしが始まって……紆余曲折を経て彼とはどうしても別れなくちゃいけなくなりました……」

 

「………」

 

「……あ、えっと……変な空気にしちゃってごめんねアーシアさん。お詫びにお昼奢りますので! お詫びと懺悔料代わりに私は今日一日アーシアさんのやりたいことのお手伝い、するよ?」

 

「え……いいんですか?」

 

「い、いいの! うん! そうと決まったら善は急げ! さあアーシアさん行こう! どこか行きたいとこある!?」

 

 変な空気と、恥ずかしい初恋話を一掃するために私は強引にそう捲くし立ててアーシアさんの手を掴みました。

 私に引っ張られて足をもたつかせてしまったアーシアさんは少しだけ逡巡するような表情を見せながらも、どうやら私の意図を汲んでくれたみたいですぐに最初に会った時……とは言い難いけど、笑顔を作って私に応えてくれた。

 

「で、でしたら! 私、はんばーがー? っていうのを食べてみたいです!」

 

 そこからはなんともあっという間で、私はその日は日が暮れるまでアーシアさんと遊んでいた。

 ハンバーガーの食べ方を教えたり、ハンバーガーを上手く食べられなくて手や鼻の頭がケチャップまるけになったり、迫りくるゾンビにいちいち十字を切ったり、バスケットボールをマトモに投げられなかったり。

 ともかく、楽しく過ごした。

 

 時折アーシアさんは教会の人としての癖が変なカタチで発露されて、それでもニコニコと笑っていて。ある時は初めて会った時みたいに泣いている子供に優しくしていたり、ともかく、充実していた。

 多分、兵藤一誠の人生で一番満たされた日なのではないでしょうか? そう思っても違和感はないくらいに楽しかった。

 

「……あっそんだー!」

 

「あはは……ちょっと疲れちゃいました」

 

 お廻りさんに見つかったらきっと即補導だったんだろうなぁ、と内心で思いながらも遊びつくした。クタクタです。私もアーシアさんも、揃って。

 兎角、アーシアさんの反応はそのどれもが新しいものを見て目を輝かせる子供そのもので、今や先日の子供の親探しも大きな子供が小さな子供達にお世話を焼いていたような感覚に風変わりしてしまったのです。

 GVとの旅行の時に備えて色々と雑多な知識を蓄えていたものですが、それがまさか女の子のために発揮されるなんて意外も意外だった。

 ……今にしてみればGVは本当にダメなこと以外は何をやっても「シアンがそういうなら」と受けいれていたろうし、お出かけの知識が彼に役立ったのかは定かではない。

 

「っ、とっと」

 

 ズキ、と鈍い痛みが脇腹を襲う。

 先日襲われた時の傷が開きかけているのかもしれない。最初に堕天使に襲われた日ほどではないけど、かなり全力で身体を動かし続けていたのだから当然なのかもしれない。

 

『今日の完治は無理っぽいわね』

 

(かも……)

 

 そんな風に思っていると、アーシアさんはそんな私の様子に気付いたのか、心配そうに私の方を覗き込んでくる。

 

「あの、イッセーさん……間違っていたら恐縮なんですが、どこかお怪我をしていませんか?」

 

「……あはは、隠せなかったや。この前ちょっとね」

 

 脇腹を軽く擦りながら答えると、彼女は「失礼します」と言って私の服を脇腹のところまで捲ると、そこに手を当てる。

 するとアーシアさんの手からは綺麗な光が溢れ出す。アーシアさんの瞳と同じ翠玉の光。

 シスターとか、聖母とか、そういう概念に包まれているような気さえする。あったかくて、優しくて、享受したくて、不思議と眠たくなってしまうような、そういう感覚。

 

「……はい、終わりました。どうですか?」

 

 アーシアさんに言われたままに身体をひねったり腕を回したりする。

 すごい、本当に何事もないように動く。

 

「すごい、すごい! 痛みも全然ない! すごいよアーシアさん!」

 

 大袈裟かもしれないが、本気も本気で驚いたのは事実で、アーシアさんの手を握って、ブンブンと振って嬉しさを前面表現する。

 とんでもなく、すごい!

 

「ホントに、すごいよアーシアさん……私、こんな力そのものが優しいだなんて初めて見た」

 

「……この前見た時にも驚かれませんでしたよね、イッセーさん」

 

「うん。私もそうだから。ある程度知ってるよ。悪魔とか、天使とかも」

 

 その言葉に呼応するようにモルフォが現れる。アーシアさんは驚いたように目を丸くしてらっしゃる。

 

「全然気づきませんでした……」

 

「アーシアさんみたいに優しい力じゃないからね……私達がどう思っていても、この力は沢山私達の嫌なことに使われたから」

 

 優しい力と、嫌なこと。その二つに反応するようにアーシアさんの表情が崩れ出した。

 

◆◇◆ 

Point of View

Morpho

 

 アーシア・アルジェントの力は優しい力ではない。彼女の力は、無垢の力だ。

 その癒す力が発覚した時、彼女は偶然カトリック系の孤児院に引き取られていた身であり、あっという間に聖女とあがめられたのだという。

 曰く、彼女の力は人や犬を癒す力があるのだ、と。

 トロい、とアーシアは自虐するが、そんな彼女でも気付く程に『アーシア・アルジェント』が人間ではなく人を癒す生体ユニットとしてしか見られていないような感覚はあったのだという。

 それでも彼女は自らに役目があり、自らが必要な存在であることを糧に、従来の優しさで人を癒し続けた。

 転機は突然起きた。ある日、教会の前で倒れた男を、彼女は癒したのだ。

 それは悪魔だった。彼女の力は本来教会の者とは相反する悪魔ですら癒す力があった。

 そうしてこれみよがしに弾劾されて、アーシア・アルジェントという名は魔女の名となった。

 捨てられたアーシアを拾った者こそがはぐれ悪魔祓い。

 少女は信心を捨てた覚えなどなく、それでも世界は少女に冷たく、少女から正しく信心する自由を奪い去った。

 アーシア・アルジェントは一人、虚空に溶け行くようではあったが理不尽な糾弾にも気丈だったのだろう。

 それでも彼女は自分の信じたものを捨てなかった。

 

 そしてそれは――経緯は違っても、一人で生きる力のない彼女の姿はアタシ達に重なったのだ。

 

「……アーシアさん、友達になろう?」

 

 あーだこうだと悩んで、遊びつくして時間がかかったのだけれど、結局一誠(シアン)の言いたかったことはこれだった。

 私ならもっとこう、最初に見かけた時点でそう言ってたのだけど。それはきっとよくないことで。

 私があの子の本心ならば、あの子は私の理性で。

 私達は一心同体で。

 

「……あの、私、お友達のなりかたとか、よくわかりません」

 

「私もよくわかんないんだ。でもこれから探せばいいんだよ」

 

 わからないのは本当だ。今だってアタシ達が何故松田や元浜と一緒にいるのかも謎だし、どうしてアタシ達に友達がいるのかとか謎すぎる。

 でもきっと友達のなりかたって、そういうものなのだろうと思う。なろうと思ってたらもうなってる。それ以外の理由なんて……多分いらないんだ。

 

「私、世間知らずです」

 

「私も大概だった」

 

 カップ焼きそばでシンクをボゴってさせたこともあるぐらいは。

 まあ、それだけだとスケールが小さく見えるけど、アーシアと同じくらいの頃があったのは本当だ。

 

「日本語、わかりません」

 

「教える! 私でも憶えられた!」

 

「……ふふ、まるで自分が外国人みたいですよ?」

 

「ぅぐ……い、いやー、その、ジョークだよ。うん。友達っぽくね」

 

 一誠(シアン)がそう言うと、アーシアはくすくすと笑った。

 

「絶対、今の友達っぽい会話じゃありませんよね?」

 

 笑いながら差し伸べられた手を取る。二人がお互いに再確認するように両手を握り合い、見つめ合っている――

 

「無理、よ」

 

 いると、数日前の声が聞こえてくる。

 反射的に一誠(シアン)が顔を向ける。

 そこにいたのは数日前、私達を襲ってきた堕天使だった。

 

「あ、あなたは……!?」

 

「……数日前の兵藤一誠。まあいいわ。今日の目的はあなたじゃないから」

 

 若干周囲を警戒するように言う。堕天使を見たアーシアは怯えたように彼女を見ている。

 

「レ、レイナーレ……さま……?」

 

 レイナーレ。それがあの女の名前なのだろう。

 

「この子に何か、用ですか」

 

「そうって言ったでしょ? 人間風情が堕天使に話し掛ける権利があると思って?」

 

 レイナーレは心底嫌なものを見るような目で一誠(シアン)を一瞥すると、目線を再度アーシアに向ける。

 

「その子はウチの境界の飼い犬なのよ。さっさと渡してくれる? アーシア。あなたも逃げても無駄よ」

 

「……逃げ、る?」

 

「……嫌です。私はもうあの教会には戻りません。

 人を殺してしまうような場所にはいられません。それに、あなた達は私を……」

 

「そんなこと言わないで頂戴アーシア? 

 私達の計画にはあなたの力は必要不可欠なのよ」

 

 近寄ってくる堕天使。身を竦ませるアーシア。

 ……とはいえ、アタシ達にも戦う手段など毛頭なくて――

 

『――いや、あるかもしれない』

 

 あの男の言葉を鵜呑みにするなら。だけど。

 

 ――電子の謡精だけじゃない……いや、もしかすると堕天使達は、それ以外の力を狙っていて、謡精の力そのものは全く知覚していないんじゃないかな?――

 

 それがどれだけ役立つのかはわからない。それでも、賭けるならそれだ。

 

『シアン! 集中しなさい!』

 

「え、モルフォ!?」

 

『ヴァーリ・アシモフに言われたことを思い出すの! あなたには――アタシ達にはまだ力があるかもしれないっていう!』

 

「あ、あの話!? でも」

 

『いいから! イメージするの、シアン。神器(セイクリッド・ギア)保持者が第七波動(セブンス)であるアタシを知覚できるのなら、その原理も大体が共通している筈よ!』

 

「イ、イメージって急に言われても……!」

 

 間違っていたら死ぬ、間違ってないなら生きれるかもしれない。そういう賭けだ、これは。

 

 シアンが促されるままに目を瞑る。

 右手を左の頬辺りまで引いて、腰を軽くひねる。

 間違いなく彼の動きそのもの。

 

 イメージとはすなわち、思い描くこと。心身が持つ『強き己』を想像し、創造することに他ならない。

 だからこそシアンはその構えを取った。彼女が知っている、私達が知っている一番強い人を思い描いた。

 

『イメージができたら後はアタシ達がどうやって戦うか。アタシ達が戦うのは初めて、ぶっつけ本番だから……やりやすいように!』

 

「私のやりやすいもの……!」

 

 じわり、じわりと傷みが溶け込むように、想像という偽りを創造という現実に、(とき)放つ――!!

 

 ――その時、アタシ達の脳裏に(モルフォ)とも(シアン)とも異なる声が聞こえた。

 

『……求めるか、力を』

 

 姿は見えないが、成熟した男の声だった。

 だけど、そんなものはどうでもいい。

 

『騒々しい歌声が十余年聞こえ、こちらのクレームも十余年応じず終い……

 どうしてやろうかと思ったが、こうして呼び掛けられるとなかなかに心地の良い声だ。

 我が相棒、そして心象の翼よ! 求めるならば、力をくれてやる!』

 

「『――うん!』」

 

『いいだろう! 壊れそうになる思い出も、震え眠る夜も覚悟するがいい!

我が力、貴様達にくれてやるッ!!』

 

『それでも、この先のことなんてわからなくてもッ!!』

 

「私は、行けるのなら何処までだって! 手を取るよッ!!」

 

 言葉と共にシアンの身体は赤い光に包まれる。

 でも、それは一瞬の些末事。

 そうだよシアン。弱い自分には今日でさよなら。

 守られるだけは、嫌だったよね。

 

 






 作品コメントがなかったらまた投稿するなんてなかったと思います。
 読者様方のコメントはモチベーションの天地すらもくつがえすッ! 無限の愛ッ!!
 これぞ、愛・絶技ッ!!

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