なんだかんだでアスロック……じゃなくてアキラさん……でもなくアキュラくんが好きだから早く白き鋼鉄のX発売してほしい今日この頃
部屋の奥には十字架に磔とされたアーシアさんの姿がある。
一瞬、あまりの物量と殺意に気圧されて竦んでいた意思は彼女の姿を見た途端、目覚めるように声を出していた。
「……アーシアさんッ!!」
彼女もまた、わたしの声に呼応するように閉じていた瞳を開き、私に応えてくれる。
「イッセー……さん?」
「助けに来た! 助けるから!」
わたしはできるだけアーシアさんを不安にさせないように微笑みかける。彼女はそれに安心したように微笑む――が。
「感動の御対面のところを邪魔するようだけど……もう儀式も終わりなのよね」
儀式が終わる……? それってどういう――
疑問を浮かべるよりも早く、アーシアさんの身体は不自然に光を帯び始めた。
「――う、あ、あぁぁああああぁあぁぁぁあああああッッ!!!??」
まるで何かに心臓を鷲掴みにされている。そんな気さえする根っこから響く声が聞こえる。いや、これは誇張表現でもなく……文字通り引き抜かれようとしている!?
『見えるわ、あの子の心臓と同化している神器が。本当に似ている……第七波動の奔流に』
神器と
第七波動は因子だと聞いたことがあるけど、それでさえも摘出処置にはかなりの無理が祟るらしい。……全て
第七波動ですら摘出に危険が伴うんだから、魂と繋がった神器を強引に摘出されれば、その人がどうなるかだなんて一つしかない……!
歯噛みをしながら突撃しようとすると、木場くんが後ろから現れる。
「ごめん、待たせた!」
「させないっ……!」
「邪魔はさせんぞ、悪魔の信奉者が!」
わたしが動くのに神父達が反応し、魔法陣を展開する。
邪魔だけは一人前な!
「どいて!」
苛立ちを隠すこともなく赤龍帝の力を解放させる。早くしないと籠手の力で倍増できる力の限界が来る。それを過ぎてしまえばあの堕天使を殴り飛ばすどころか、いつもの弱っちいわたしに逆戻りになってしまう。
時間が惜しい。一分一秒だって無駄にはできないというのに――!
ブーストされた力を振り回すようにスタンドマイクで神父達を薙ぎ払う。
塔城さんも全力で応じてくれているけれど、足りない。アーシアさんに届かない……!
「あ、ああああああ……!」
嘆き続けたアーシアさんの声が一際大きくなった瞬間、彼女の心臓のある部位から大きな光が飛び出してくる。
感覚で理解できる。あれが、アーシアさんの
「これよ! これこれ!
この力を求めていた! この力が、悪魔さえも癒す光が我が物と為れば! あのいけ好かない龍も関係ない!
私が、私だけの愛を頂戴できるッ!!」
堕天使が恍惚とした表情で光を抱きしめる。人を蠱惑するかのような美貌を持った彼女が周囲への注意も、恥じらいも投げ出して歓喜に震えている。
……きっとわたしが男の子だったら軽率に惚れてしまっていた。それほどにあの堕天使は、人を人と思わない天使のようで悪魔よりも悪意に塗れた女は魅力的に笑っていた。
……でも。でも。
「レイナーレ! それを返して! それはあなたがあなただけの愛を貰うための力じゃない!」
「……なぁに? もう私のものなのに、未だにこの魔女の力だって言うの?」
「魔女じゃない! アーシアさんはアーシアさんだよ!」
「へえ、
レイナーレはそう言って、磔にされていたアーシアさんをおもむろに掴んでわたしに向けて投げてきた。無論、私が吹っ飛ぶくらいの力で。
「ッ……! アーシアさん、アーシアさん……!」
「……イッセーさん?」
「助けるって言ったよ。来たよ。次はちゃんとわたしが助けるから……!」
「………、はい」
アーシアさんの返答には力を感じられない。魂と直結した神器を引き抜かれたんだ。今こうしてわたしと喋れていることさえ奇蹟に等しい。
「先輩、その人を庇いながら戦うのは無理があります。
道を作るので上に」
「………わかった」
木場くんと塔城さんの補助と籠手によって上がっている力のお陰で特に苦も無くアーシアさんを運び出すことに成功する。
後ろを確認するまでもなく二人の「ここは通さない」という強い意志を感じた。
ありがとう。ごめんね。
わたしはそう言おうとしたけれど、きっとそれが二人の求めているものじゃないから。わたしは二人を巻き込んだ責任を取ることにした。
「もうすぐ……もうすぐでアーシアさんは自由だよ。もう籠の中の鳥じゃない。自由でいていいの」
アーシアさんの意識がトんでしまわないように声を掛け続ける。
アーシアさんは、律儀に一言一句に笑みを返してくれるけど、どんどんと反応するまでの時間に間が生じてしまっている。
「……アーシアさん。わたし、日が沈むより前にアーシアさんに好きだった人の話したよね」
わたしはふと、アーシアさんにしつこく相談された彼との話を蒸し返す。
……正直、どうしてそんなことを言い出したのかは私にもわからない。
「わたし、もうアーシアさんも好きなんだよ? また私、好きな人をなくしたくないよ」
懇願するような、猫撫で声だった。みっともないことを言っている。
自由だと言っておきながら、わたしは楽になってもいいはずの彼女に苦しんで欲しいと、そう言っているんだ。
……それでも見過ごせない。わたしの言葉がアーシアさんを困らせてしまっても。だとしても。
「わたし、アーシアさんにもっと綺麗なものを沢山見て欲しいの……! 世界がこんなにアーシアさんに優しくないまま、アーシアさんに死んでほしくないよ……!」
「……イッセーさん……」
ひゅう、と空気の通りが悪くなっていることを嫌でも思い知らされる音を奏でながら、それでもアーシアさんは気丈に笑っていた。
「ちょっとの間だったけど……友達ができて、すごく……嬉しかったです」
「もっといいこと沢山あるよ! だからもっと欲張って!」
「じゃあ……生まれ変わっても、友達になってくれますか?」
「そんなこと言わないでよ……これからだよ。ゲームセンターでも、カラオケでも、海でも山でもいいよ。まだ見ぬ運命がある!
他に、他にだって!」
言葉に詰まると、アーシアさんがしょうがない子供を見るかのように笑ったのを感じ取る。
笑わないでよ。
でも、認めたくないよ。
「きっと、もっと早くに会えていたら、ううん……あの時逢わなかったら……こんなことにならなかったのに……」
その言葉が悲観の言葉じゃないことを私は識っている。
「出逢ってしまったから泣いてしまうんじゃないよ……出逢えたから泣けるんだよッ!」
アーシアさんは困ったように。
彼女を負ぶったわたしの頭を弱々しく撫でて。
小さく、確かに聞こえる言葉を紡ぐ。
「私のためにそんなに泣いてくれて……ありがとう。ごめんね、イッセーちゃん」
そうして、微笑んだまま事切れた。
聖母の微笑みを遺して、アーシア・アルジェントという個人に遺るものなど何も亡く。
「………ッ!!」
『悲観に暮れ、咽び泣く場合じゃないぞ、相棒』
『
赤龍帝が冷静にわたしを諭す。
モルフォが心の奥底にある焼き付くような感情とは違う、冷えた本性を代弁する。
「戦う……戦わないと」
「へえ、誰と戦うと?」
その言葉と共に堕天使レイナーレが現れる。
身体のあちこちに傷はあれど、それでも堕天使は余裕を崩さない。
「見なさい、あの騎士にやられた傷」
レイナーレが傷口を手で覆うと、その傷は見る間に消えていく。
それを見ると、頭が冷えていくのが理解できる。
かつても今も、怒ることはあった。例えばいつかの思い出の中での出来事。例えば少し前、理不尽なゲーム。
「堕天使を治療する唯一無二の絶対存在! それに私はなった!
ああアザゼル様! シェムハザ様!
レイナーレは御二方のお力になってみせましょう! これ以上ないくらい、素敵なことよ!」
でもそれは、幸せの中にある怒りで。
「……アーシア・アルジェントが優しい人だったって、知ってる?」
「ええ、知ってるわよ。あんなに優しくなれけば……今こうして私に神器を奪われるわけがないじゃない!」
「『その口を閉じなさい、木っ端堕天使』」
「え……ぎゃッ!?」
気づけばわたしは、コレを籠手で殴り飛ばしていた。
モルフォとわたしの言葉が
アレの御大層な自分語りが、籠手の力が溜まるには十分な時間をくれたみたいだ。
「な、何、この力……!? 兵藤一誠の神器は凡百でどうしようもない、『
心が問いかけてくる。
――如何にして力を使う? なんのために、力を振るう? 間違った道を、在り得ざる道を。どうやって征く?
ニタリと笑みが零れる。
復讐心を否定はしない。
『悪魔』が優しかったように、堕天使だって優しい人がいる可能性を、手を取り合う可能性を否定はしない。
でも、今は。今この瞬間は。
――SONG OF DIVA――
霧時計
「――虚構の夜空浮かぶのは緑色の霧煙る」
『誰の影?始まっていた証』
「『もう戻れない針は刻みながら進んでいく』」
「な、今度はなに……!?」
歌う。これが鎮魂歌になることなんてありはしない。
彼の力になった歌。わたしの
……だけど、そこには一つだけ気になることがあった。
今のわたしは『電子の謡精』と『赤龍帝の籠手』、第七波動と神器という極めて近しい性質を持つ力を持っている。
そしてわたしは今私自身の身体に私とモルフォと赤龍帝、三つの魂を宿している。
大本こそ同じであるわたしとモルフォは『異なる同一人物』だけれども、わたしと赤龍帝は明確に『同じ魂に宿った別人』だ。
「照れた時伏し目がちに笑う癖も」
『左利き整えられた指先も』
「首元の軽いグリーンティも」
『静かな寝息熱い体温さえも』
「離さないと誓った」
『[霞む慟哭]』
「確かめたいよ愛の行方を――」
それなら、謡精が赤龍帝に歌い掛けることだってできる。
『Boost‼』
そして、引き上げられる回数に限度があったとしても、一度の強化でその強化する幅そのものを更に強化してしまえば。
本来できる強化の水準を軽く凌駕することだってできる。
「っ、あああああああああああああああッッッ!!!!!」
「一人でハミング一つ口ずさんだ程度で! 所詮ただの人間如きが堕天使に敵うと思うなああああああ!!!」
その言葉を聞いて安心した。『一人で』と。
つまりコレは今、モルフォが見えていない。
アーシアさんの『聖母の微笑み』を取り込んで神器使いになったハズのアレは、未だ神器使いと呼べるほどアーシアさんの神器と適合していないことを証明してくれた。
完全に魂に溶け込んでいないのなら奪い返せる。それがアーシアさんの生死に最早関係がなかったとしても、アーシアさんには聖母の微笑みがお似合いだから。
『永遠を欲しがる君と永遠を生きたかった
思い出す
「でああああああああ!!!!」
「消えてしまえ!!!」
光の槍が投擲される。悪魔は光の濃度が濃いと致命傷らしいが、それもただの人間であるわたしにはただの槍と遜色のない弱っちいものでしかない。
籠手で振り払うとアレは顔面を蒼白とさせ、翼を翻す。
「傷ついたとしても構わない素顔のまま」
――あ、それは一番やっちゃいけないことだ。
『熱くなる両の手に掴む星
冷やす涙乾いて』
籠手をおもむろに投擲し、翼膜を突き破る。
突然の出来事にバランスを崩した瞬間、わたしは一瞬でヤツに肉薄して胸倉を掴む。
「い、嫌! 離しなさい、劣等種!!」
「『時は今も進んでいる』ぅううううううううううううううううううう!!!!!!!」
全力で殴り飛ばす。龍の力の強化を右腕と、身体が崩壊しない程度に下半身に込めて。
顔面に、一直線に。
殴られたヤツは錐揉みしながら豪快に吹き飛ぶと、ステンドグラスに頭から突っ込んでいき聖堂から姿を消した。
「……ハァッ、ハァッ……」
『時間切れだ相棒。心象の力で俺の強化そのものを更に強化する連携、ぶっつけ本番だったが予想通りに動いてくれたな』
『アタシも久しぶりに全力で歌えて満足。強化はまたし直しになるけど、もう一か二回分くらいの強化で十分なくらいの痛手を与えられたハズよ』
「う、うん……早く追い掛けないと、アーシアさんの神器で回復されちゃう」
籠手を拾いなおす。またわたしへの強化を与える声を聴いてからステンドグラスの先へ行くと――
「がッ……あ……?」
堕天使レイナーレは明らかに奇妙な姿を見せていた。
「か、回復できないっ……!? あ、あの悪魔ッ……!」
堕天使は近寄ってくるわたしにすら気付かないそぶりで、一心不乱にアーシアさんの力を使おうとしている。
でも、光は無情なことに、一瞬のうちに霧散していく。
「あ、あの男ッ!!! 私に何をしたッ!?
い、嫌! 死にたくない! 私はまだ死にたくない! 生きてアザ」
ボンッ、という警戒な音を立ててレイナーレは消滅した。その場にアーシアさんの持っていた、優しい緑色の光を遺して。
「……え?」
今のは? わたしがこの堕天使を殺したわけがないことだけは理解できる。
だって殺すつもりがなかったから。堕天使の処遇をきっと殺されかけただけのわたしが決めるのはよくないんじゃないかと思っていた。
でも事実として堕天使レイナーレは死んだ。アーシアさんの神器を遺して。
「……驚いたわ。あなたの力が電子の謡精だけじゃないだろうことはヴァーリから聞いていたけど、まさか単独で堕天使を撃破するだなんて」
「……あ、リアス部長」
気づくと、わたしの傍にはリアス部長がいた。
いや、部長だけじゃない。木場くんと塔城さん、姫島先輩にヴァーリ先輩もいる。
「ちょっとごめん」
ヴァーリ先輩がそう言うと、わたしが手に持っていた籠手(マイクだけど)を手に持つ。
「……うん、思った通りだ。原型がないくらいに変形してるけどこれは凡百の神器とはワケが違う。
間違いなく、『
「えっ、え……わかるんですか?」
思わず素っ頓狂な声を出すわたしに木場くんはクスリと笑って答える。
「先輩は神器、『
正直僕にはピンとこない話なんだけど、その力の応用で神器がどういうタイプのものなのかをざっくりと把握できるんだって」
「強化系統の神器パターンに、龍の力が持つ特有の反応。それでいて龍の手とは比べ物にならないポテンシャルるのなら、答えは一つしかないよ。
けど、未だに彼女の神器が赤龍帝の籠手だとはボク自身信じられない」
はいこれ、と籠手を返される。そのまま籠手はわたしの中に入るように消えていく。
「っと、無駄話が過ぎてしまったわね。この神器はアーシア・アルジェントさんに返すとしましょう」
突然、部長がそんなことを言い出した。
「え……? で、でも部長。アーシアさんはもう……」
「さて、兵藤一誠さん。これ、なんだかわかる?」
わたしの言葉を遮るように、部長は紅色に染まったチェスの駒を見せてきた。
「え、えっと……ビショップの駒? 確か、
「そう。
いつか言ったし、あなたにも提示したわよね? 悪魔に転生するか、と」
「は、はい……ってまさか――」
「そのまさかよ。アーシア・アルジェントの持つ堕天使や悪魔をも癒す力は祐斗達から聞いています。
そんな稀有な力を持つ彼女をこのまま神の御許に送られることは我慢がなりません。故に、彼女はこれから私の
リアス部長はそう言うと、何かの呪文を唱えだす。それがわたしにとって望むものであることは想像ができる。
話が美味しいような気がしてならないけど。
『それでも、アーシアの力を悪魔が欲するというのは事実よ。彼女の力は死ぬかもしれない悪魔達を生き永らえさせる力。
絶対数が激減したという悪魔にとっては喉から手が出るほど欲しいでしょうね』
『当然、それは俺達もだ。ただの人間が堕天使を始末できてしまうレベルにまで引き上げる神器はそれだけで脅威だ。天使や堕天使達に引き込まれるならと……邪な画策をされてしまっても不思議ではないだろうな』
……確かに。実際にレイナーレを殺したのがわたしじゃないにしてもそれを証明する手段はなく、打倒したということ自体は嘘じゃない。
ちょっとお腹痛くなってきたかも。
そんなことを考えていると、アーシアさんの瞼がふいに開く。
神器の光と同じエメラルドの翡翠をした瞳は一度死んでしまった身であることをまるで思わせない潤いを持っていて。
それまでの緊迫とした雰囲気を一切感じさせないきょとんとした表情で彼女は口を開いた。
「……イッセーさん?」
きっと、感極まるとはこういうことを言うのだろう。
多分、今わたしは人に見せられない顔をしている。
だから皆は笑っているんだ。絶対。人に見せられない顔をしているわたしを見て笑っているんだ。よかったねって。
決めたよGV。わたし決めた。
わたし、幸せになる。
こんな風に人に見せられないような顔を沢山して、人に見てほしくないような笑顔を沢山見て、わたしはこの世界であなたに証明するから。
わたしは今、幸せだよって。
新世界の
了
どうしておおまかな道筋が確定していた単行本一巻が終わるのに一年以上かかったのか、コレガワカラナイ