ソーリー、いつも遅くてすまんな
爪痕
少し、昔のお話をすることにする。
小さな頃の
一人は紫藤イリナ。同い年の男の子。それで名前がイで始まるからお互いにイッくんって呼んでいました。
もう一人はイッくんのお兄さんの……お兄さんと言っても、イッくんのお父さんが拾った孤児だったらしくて苗字が違って苗字はわからない。
拾われた子というのもつい最近本人に聞いた話だから、苗字も同じだとずーっと思っていたので。
そんなお兄さんの名前は曹操。なんと三国志のあの曹操とまったく同じ名前。
そんな話をしたのだから当たり前というか、帰結としては自然というか。ワタシは今、ソーくんと電話をしているところなのでした。
時間はだいたい五分くらい遡って、休日の朝。お父さんもお母さんもいない我が家に突然電話が掛かって来た。
寝起きで少し気分の波が揺らいでいるばかりか、知らない番号だったから「セールスならお断りですよ」と言って切ろうと思っていたのだけれど……
『電話番号に変わりはないようだな、十年近くぶりか……イッセー』
「……へ、あの、どちら様で」
『む、声変わりしたせいでわからないか? オレだ、曹操だ』
「え、曹操って……あのソーくん!?」
それが今のちょっと長めのお電話の始まりです。
『父さん……イリナの父からの仕事の手伝いを何年か前に始めてな。今日本にいる』
「もしかして電話してくれたのって……」
『ああ。無償にお前の声が聴きたくなった』
そ、ソーくん……その発言は結構アレなのでは……
「今どこ? 会える場所にいるなら予定立てて合いに行くよ?」
『いや、それが実はもう向こうの家に戻るところだ。すまん』
「あ、そうなんだ……あ! じゃあイッくんは!? 今いる?」
『いない。だが……イッくんか』
「……どうしたの?」
『なんでもない。今度はイリナも一緒に来るかもしれん。時間が合えば会おう。
オレも仕事をしている身だ。食事の奢りくらいはできるぞ』
「ご飯は賛成。でもわたしだってお金に困ってるわけじゃないから奢りじゃなくていいよ」
『……お前、昔はボクじゃなかったか?』
「さ、流石に高校生にもなってボクって言う女の子はないかなーって……」
頭のおか……お恥ずかしい限りだが、中学校に上がる少し前までわたしは彼……GVの口調を作為的に真似ていた時期があった。
モルフォにすら『似合わない』『ダサい』と非難轟々だったからきっとわたし自身もどこかで無理をしていたんだろうと、今では反省して歴史の海へとポイしました。
「ともかくっ!ご飯なら今度都合が合えば三人でね!
それと口調の話終わり!」
『お前がそういうなら掘り下げはしないが……今度はイリナも一緒で来る』
「うん、お母さん達も楽しみにすると思う」
そう言ってソーくんとの電話はこれで終わり。
わたしはいつ会えるのか、十年も経ってきっと大きく変わったのであろう二人を想像しながら二度寝を敢行――
「おはようイッセー。悪魔じゃないんだから朝は健康的に早起きしましょう?」
「お、おはようございます部長」
そうしてわたしは部長に家から追い出されたのでした。
◆◇◆
「
五十メートル走はせめて平均の九秒台に乗りなさい」
「そ、そんなこと、いわれても、ぉ……!
わたし運動苦手なんですぅ……!」
悪魔の人達と嫌が応にでも付き合わなければならなくなったわたしは堕天使レイナーレの戦いの翌日からこうして部長やオカ研の人達に身体作りを手伝ってもらうことになりました。
関わるしかなくなった私よりもどっぷり世界に浸かっている皆が私に構ってくれること自体に引け目を感じている事実があったりもしますが、一度それを部長に漏らしてこっぴどく叱られてしまったのでこれはもう言わないようにしていたり。
「だらしのないことを言わない。あなたの赤龍帝の力は倍加の繰り返し。いくらスペックそのものの高さと“
「うう……わかってますけどぉ……」
皆がわたしに優しくしてくれていることは骨身に染みているのだけれど、キツイものはキツイ。
特に部長は本当に厳しく指導をするから、訓練が終わる度に身体が悲鳴を上げるまでがお約束。
筋肉痛の類は慣れたせいなのかもう滅多に起こらないけれど。
部長が曰く、「私に教えを乞うのなら相応の覚悟はあるのでしょうね?」との事。その言葉に違わないくらい最高にスパルタしているのが部長なのです。
わたしが50メートルを走り終えると水分の補給だけ済ませてさっさとシャトルランへ。この流れを毎朝繰り返してその度にこれまでの記録と見比べっこ。その後体幹を鍛える諸練習をこなせば朝練の時間は終わり。
この朝が日常になるまで続いてなんとなく
記録を見比べて自分の成長を確実に実感できるように仕立てる。「平均」「〇〇が足りない」といった言葉選びも絶妙で、わたしにもできるかもしれない、とその気にさせる。
多分、わたしが一人でこれをやり出したら三日となく投げていたかもしれない。辛すぎて。
◆◇◆
時を少しだけ遡り、深夜。
駒王町にあるマンションの屋上に
なんのため? と問われると彼は決まって「星を見る為」という。
奇特な悪魔だ。彼の唯一の趣味だと、何度か一緒に星を見た木場は言うが、同時にヴァーリの眼には星を見ている感じはしないとも木場は言う。
実際のところ、ヴァーリは星を見ていない。かつて存在した世界での出来事を追想しているにすぎない。
高いところに現れるのは単に、あちらの世界での思い出が深夜と高所に偏っていたからでしかない。
昔の世界では趣味らしい趣味もなく、趣味を作るような暇もなかった。
シアンとの僅か半年の生活はその一種灰色の思い出の中でも燦然と輝いたものだ。ネットゲームに興じることになった彼女に一日で禁止宣言を勧告したり、色々あったが。
『GVよ。何度も聞くが、お前のいた世界は頻繁に郷愁に浸れるほど素晴らしい世界だったのか?』
「……いや、決して素晴らしい世界とは言えないだろうね。差別が横行していたし、テロリズムだって頻繁に起こる。そんな世界、そんな時代さ」
『………』
「今の悪魔や天使達の縮図とそう変わらない世界だ。もしかしたらあの世界にも悪魔や天使がいたのかもしれないな」
『柄にもない冗談を言うな。似合わんぞ』
「ごめん。でもこうやって毎日考えるくらいは愛着があるんだよ。酷い世界でも生きた世界だったから」
『そうか……なあ、ヴァーリ』
白龍皇アルビオンがまた問う。
『この世界はどう映る?』
ヴァーリは固まった。そういう質問の答えを用意していなかったのだろう。
暫く考えるように右手を顎に当てた後、彼は少し笑うように言った。
「そんなに変わらないかな。今のボクも、今いるこの世界も」
『そうか……なら最後の質問だ』
「?」
『同じような郷愁を毎日して、リアス・グレモリーからの招集をサボってもいいのか?』
「今週はアザゼル達の方の任務に出張ってこっちは何もやってないから行かなくてもいいとボクは思う」
『……アザゼルみたいな言い訳の仕方をするようになってきたな、お前』
◆◇◆
「最近リアスの様子がおかしい?」
ヴァーリがその報告を聞いたのはオカ研の部活(という体の悪魔活動)に入る直前のことだった。
目の前にいる少女、兵藤一誠は偶然行き道で一緒になったヴァーリの横を歩きながらかつての
(堪えるなあ、この眼は)
彼女なら無条件で受け入れてくれる。そんな都合のいい事を思っていたわけでは決してない。
だけれども、今のヴァーリの態度はかつての家族に接するそれではなく。共通の友人がいる知り合い程度のものだ。
一重に彼が
「そうなんです。時々、ですけど。
私の鍛錬見てくれてる時もオカ研活動してる時も……なんというか、集中してない時? ぼーっとしてるっていうか……浮かない顔もよくして」
少しだけヴァーリが他所を見るような顔をした後ふむ、と顔をしかめる。
「……同じ高校生っていう立場に身をやつしてるから時々忘れるかもしれないけど、リアスはアレで公爵だから。
身分特有の悩みっていうのはあるんじゃないかな。悪魔、若干時代感覚が古いところもあるし」
「古い?」
「そう、例えば――」
扉を開ける。そこで一つの違いがある事に二人は気付く。
部室の中にいつもあるグレモリー家の紋章が別物に変化していたのだ。
「――フェニックス」
ヴァーリがそう呟くと、そこからまばゆい光が放たれる。光を嫌う悪魔にとって害ある光ではない。むしろ心地良さをどこか感じるもので、それがヴァーリにとっては少し嫌になるところがある。
光が止む。
だがそれは目を焼く感覚が消えたことを意味してはいない。
心地良さを覚える光帯は消え、身を焦がす赤い光源が部室それそのものを包んだからだ。
赤い光――炎の中に見える男のシルエット。だがどんな男までかはわからない。その身は炎の持つ生存本応を脅かす強烈な圧と陽炎の揺らめきでその姿を不確かなものにしているからだ。
熱気が集まる。一誠は思わず額に浮かべた汗を拭いだしたまさにその時、まるで彼女の動きとシンクロしているかのように炎の中の男が腕を振るった。
目を焼かんばかりの光に圧されていた一誠が瞳を開けると、そこに炎は既になく、代わりに男の姿が明確なものとなっていた。
「ふぅ、人間界も久しぶりだな」
ニヒルな声だ。まるで事の為す事ほぼ全てを斜に構えたようなダーティな雰囲気を男の存在そのものから感じられる。
悪魔だから、というものではない。これは『そういう存在』という前提を抜きにしてもそういう感想を抱かなくてはいけない恰好をしていたからだ。
はだけたスーツに緩んだネクタイ。そこはかとなく悪さを感じる顔と逆立った金髪。
有体に言って、ホストだった。
「愛しのリアス、
投稿を三つ目の人格に丸投げしてたらサボられたので仕方なく二つ目の人格を解放させて書きました
離The裂苦死ョNさえあればこんな遅れることなかったのに……!