今日も私は斬殺者   作:zenjima7

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夢幻の中で

武術は全からく脱力柔軟、

 

腕力に頼りしは無駄な力みが起き、滑らかな四肢の動きを削ぐばかりか、

 

対手に技を読まれることになる。

 

威力は刃そのものにこそあり。

 

脱力から生まれる速さは切っ先に気を込める。

 

気が入れば刃筋が立ち、

刃は本来の威力を無尽に発揮する。

 

上体に一切の揺れ無く、

 

力み無く、

 

水面を滑るような重心移動で…

 

 

「ふふ」

 

「あら、どうしました?」

 

「…すまん、気にしないでくれ」

 

 

隣の大井が怪訝な顔で私を見ている。

まあ、そういう奇異の目で見られるのは慣れてるけど。

 

 

それにしても、

水面を滑るように、か…

 

今、

実際に海面を滑っている、

 

笑いもしよう。

 

先人により、極意とされ抽象的に表現されたことだが、

当たり前みたいに現実にやっている。

 

あー、これが《現実》と言えるかどうかは難しいところだな。

 

 

ただ一つだけ確かなことがある。

 

ここでは、

 

仮面を外し、

 

本性をさらけ出すことができる…

 

 

 

今日の艦隊には長良がいない。

その代わり、というわけではないが菊月がいる。

 

艦隊はいつもランダムに決まる。

編成に理由があるのかは解らないが…

 

そういえば私は駆逐艦、軽巡洋艦と組むことが多い。

 

水雷戦隊役ということか?

 

長良は戦艦や空母とも一緒になったことがあると言っていた。

 

その長良、菊月とは縁があって10回以上同じ艦隊になったことがある。

 

明るい性格の長良とはよく話をするが、もともと無口らしい菊月とは殆ど話したことがない。

 

菊月が他の誰かと雑談しているところも見たことがない。

 

知らない仲でもあるまいし、

一度話をしてみるのもいいかもしれない。

 

 

「菊月」

 

 

私の声に反応してチラリと赤い瞳をこちらへ向ける彼女。

 

 

「また、一緒だな」

「そうだな」

 

 

彼女の返事は手短か、というか簡潔に過ぎ、

しかもその表情からは何の感情も読み取れない。

 

言葉はそれ以上続かず、

ただ気まずい沈黙だけがそこにあった。

 

私は後悔する。

一体、何のつもりで彼女に話しかけたのだろう。

 

よく考えたらいつも長良に話しかけられてそれに応じていただけで、自分から他人に話しかけたことなんてなかった。

 

 

「何故だ?」

「え」

 

 

以外にも沈黙を破って先に言葉を口にした菊月。

赤い瞳がジッと私を見つめている。

 

しかし、何故、とは何に対してなのだろうか?

 

 

「君が長良以外に話しかけてるのを見たことがない、何故私に声をかけた?」

 

 

コイツ…

 

 

「長良がいなくて寂しかったか?」

「黙れ」

 

 

大きくはないが怒気を含んだ私の返事に、

少しだけ菊月の瞳が大きく開かれ、その後は肩をすぼめて溜息をついていた。

 

コイツ、私に呆れてやがる!

 

クソ…

 

グツグツと胸焼けを起こしそうなくらい感情が沸騰している。

 

けど、

たぶん菊月の言うことが正しい。

図星を指摘されてカッとなりかけた。

 

 

「天龍、一つ忠告しておく。

あまりこちらの者たちと仲良くなり過ぎないことだ」

 

「何だそれは?」

 

「《現実》を、もっと大事にしろ」

 

「!」

 

 

一瞬、

呼吸が止まるかと思った。

 

現実といったか!

 

何なんだ菊月、

 

おまえは何なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「全艦、砲戦用意!」

 

 

敵…

 

敵か。

 

砲戦用意?

 

 

違うな、

砲撃じゃない。

雷撃じゃない。

 

それじゃ私の戦いの意味がない。

 

私は…

 

 

 

「あ、ちょっと…」

「て、天龍?」

 

 

私は私の戦いをするだけだ。

 

剣の赴くままに。

 

 

 

 

敵影見ゆ、

 

駆逐3、軽巡2、

今日はほぼ完全な人型、重巡が1体いる。

 

それでもやる事はいつもと同じ。

 

剣であろうが、

銃であろうが、

砲であろうが、

必ず予備動作、即ち《おこり》が現れる。

 

おこりを見切れば、技を読むのは容易。

達人になればなるほどおこりは少なくなり、技が読めなくなるものだが…

 

コイツらのはまるで素人、

弾道から着弾位置まで殆どまる解り、回避は容易い。

 

…が、

もう一手、

 

無造作で迂闊を装い《誘い》を促せば、

 

敵の砲撃は一点のみに集中し、更に最低限の動きで回避できる。

 

斉射、

弾道の見切り、

回避、

 

次弾装填まで時がかかる。

船速を一杯にして一気に距離を詰める。

 

ここで味方の砲撃、

命中弾は無いが至近弾による敵艦隊に乱れ。

水柱が立ち、潮吹雪が発生。

 

…好都合だ。

 

敵の目を眩ませ、

接近を容易にする。

 

 

 

太刀を頭上に構え、

標的はまず駆逐艦。

 

青く輝く一つ目と目が合う。

彼我の距離は驚愕の表情まで読み取る程に。

 

斬撃は、

腕で振り切るのではなく、

体の移動と共に刃を押し出す。

 

最短、

頭上からの一撃《雷刀》

 

 

 

「ギャフッ…」

 

満足に断末魔さえ上げられず、絶命する敵駆逐艦。

 

切った後は即移動。

それまでいた所を、赤い火線が通り抜けていく。

 

敵は既に私を包囲、

全ての砲門が私に向いている。

 

うん、

 

今斬った敵駆逐をあっさり切り捨ててこの布陣を敷くとか。

 

敵の旗艦はなかなか思い切りの良い指揮官らしい。

無傷で包囲を破るのは不可能だな。

 

先ずは一角を崩して…

 

敵の軽巡の足元から爆発、

注意が私から逸れる。

 

視線の先にいるのは…

 

 

「菊月!」

 

 

菊月も艦隊から離れて接近してきてたか。

 

雷撃による攻撃で敵の軽巡は大破、包囲に隙が生まれた。

 

大破した軽巡に接近、

当然、軽巡は私に砲弾を放ってくる。

 

峰を立てて、体を坐らす。

弾丸は刀身に当たり火花を飛び散らせ、後方に逸れていく。

 

魚雷を放とうと腕を伸ばすが、

密着するくらいに接近した私には当たらず明後日の方向に飛んでいく。

 

伸ばされた腕の脇下に手を入れ、

引っ張り込んで彼我の体を入れ替えると、

 

軽巡の背中が爆ぜた。

大量の血を吐き、絶命する彼女(?)

 

敵の撃った弾丸を、

軽巡の身体を盾にして防いだ。

 

遺骸を棄てて疾駆、包囲の輪から抜け出す。

 

 

旗艦と思われる敵重巡が何か喚き、私を追跡しようとしたところで、

 

敵艦隊に砲弾の雨が降り注いだ。

 

轟音、

悲鳴、

怒号、

 

命中弾多数。

敵艦隊は阿鼻叫喚…

 

血塗れになり、

よろめきながらもまだ沈まないのは敵の重巡洋艦。

他は今ので残らず轟沈したようだ。

 

目が合う。

 

そこに殺意も敵意も無い、

 

無いはずなのに、

潰れかけた砲門を向けてくる…

 

本能か。

 

己の意思ではなく、

戦う本能のみでそうするのか。

 

切っ先を突き立て、

とどめを刺す。

 

ゆっくり沈んでいく彼女…

 

 

(まろばし)か、見事だ」

 

「菊月、おまえには聞きたいことがある」

 

 

見えたのは銀髪が靡く後ろ姿。

 

何も話すことはないとでも言うのか?

 

 

待て、

 

待ってくれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識の混濁から目を覚ます。

 

携帯電話を取って時刻を確認すると、午前三時半…

 

無性に喉が乾く。

 

 

 

全ては夢の筈…

 

あの海も空も、

 

敵も味方も、

 

長良も、

菊月も、

 

天龍も。

 

 

全ては、

 

 

人を斬りたい、

殺したいという、

 

この私、

 

上田光の暗い欲望が生み出した、

 

 

 

夢幻(ゆめまぼろし)の筈なのに。

 

 

 

 

違うのか?

 

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