森と丘のベースキャンプに到着する直前の頃には二人もある程度落ち着き、互いが互いをガン無視しつつ焚火の周りに座りながらそれぞれの得物の簡単な手入れをしているのを横目に、テントを組んでいるフィリスは内心安堵の溜め息をつく。
自分の狩る分が無くなる、と言うのも少しは気になるけれど、それ以上にすぐ横や後ろでケンカをされていると流石に気が散ってしまうし、何よりランポスが声に釣られて大量に来たらたまったものでは無い。
テントをサクッと組み終えたフィリスは、ランポスと言えば、と改めてらんらんに視線を向ける。全身ランポスのような恰好――道中のケンカの中で聞こえて来たのが正しければ、ランポスーツという防具の一種らしい――をしており、ゼクスがランポスキチ、と呼んでいた彼女は、ゼクスが腕は確か、と言うだけあって実際優秀ではあるのだろう。少なくとも私よりは。
しかし、初めての人と組むとなると、彼女が邪魔する事は無いにしても、自分が邪魔をする可能性が高いのだ。それに、彼女の武器――――
「らんらんさん」
「はい?」
「それ、なんていう武器なんですか?というか、その武器ってどの種類の武器なんですか?」
トサカが潰れたドスランポスの頭のような部分が大きいのを見るに、そこが武器として恐らく重要なのだろうし、それを考えると打撃武器ではあるのだろうとは思うのだけれど。
そう思いながら訊ねると、らんらんは軽く首を傾げ、合点が言った、と言わんばかりに手を合わせた。
「成程、そういえば確かにこの辺ではあまり見かけないかもしれませんね。これはランポスバルーンと言いまして、狩猟笛、という武器の種類になります」
狩猟笛。そういえば、旅の途中に村に寄ったらしいハンターがそんな物を持っていた事があったような気がする。先端が大きく膨らんだような形状といい、言われてみれば似ていなくも無い。
「この武器種は、音で仲間をサポートする事がメインの仕事になりますね。音の組み合わせで人間の脳や体に影響を与え、狩りの効率を上げる事が出来ます。その他にもどの音でこう動く、などざっくりとでも予めパーティ内で決めておくと、連携がとりやすくなります」
らんらんさんは、まぁ、慣れは必要ですけどね、と続ける。
「音を聞き間違っただけで、もしかしたら死んでしまう事だってあり得る訳ですから。余程信頼し合って、経験を積んだ人たちでも無いとあまりお勧めはしない、とは言っておきます。その方法で連携が取れればそれはそれで利点はあるんですけどね」
「まぁ、そこまで慣れてニャいなら、大人しく声で連絡するのが無難だニャ。実際、それで狩りをしてるのが大半だし、先人たちもそうして来たんだしニャ」
「ま、そういう事ですね。それに関しては正論なので何も言うつもりは無いです。そう言った方法もある、と言う程度に覚えておいて下さい」
さも当然と言う顔で言うらんらんさんと師匠。流石は熟練したハンター、狩りに関係する真面目な話を挟めば、仲も元に戻――
「まぁ、狩猟笛自体昔は使ってなかった訳ニャし?無くたって何の問題も無いんだけどニャ?」
「おーっとゼクスさんそう言う煽り方しちゃいます?いくら私のメインが狩猟笛じゃないとは言え、その煽りは捨て置けませんねぇ・・・・・・!!」
「大丈夫ニャ。お前以外にはこんな事言わニャいからニャ」
「・・・・・・狩場では後ろに気を付ける事ですね」
「お前如きにニャんとか出来るもんならしてみろニャ、ランポスキチ。文句があるなら狩りで語るニャ」
「いーいでしょう!私のランポスへの愛をなめない事です!!」
らなかった。すぐに寧ろ元に戻った。
「あの・・・・・・」
「ことランポスに関して、私に敵うと思わない事です!」
「ハン、お前みたいな若造が俺に敵うと本気で思ってるのかニャ?」
駄目だコレ。
「よぉんッ!!」
「6、だニャ。随分のんびりしてるニャァランポスキチ?」
「こ、のぉぉぉぉぉぉ!!」
ランポスの身体や頭に向けて大きく振り回して狩猟笛を叩きつけ、ランポスを吹き飛ばしていくらんらんさんと、すばしっこく走り回っては首を断ち、或いはブーメランを投げて仕留めていく師匠。
ランポス狩りの練習に、とこのクエストを下さった村長さん、お元気でしょうか。私は今、二体目のランポスを狩っているところです。私の練習、という師匠の発言はどこへやら、師匠とらんらんさんの二人だけで既に半分を狩猟してしまいました。この短時間でこれだけの数を狩れるのだから、流石は熟練のハンターという事でしょう。
でも、
「・・・・・・一緒にいても、狩りが進まないしなぁ」
あんまり一人での行動はしたくないのだけど、かと言ってこのままじゃ練習――やる気は兎も角、一応そういう事で来た訳だし――にはならないし。隣のエリアならすぐ助けも呼べるし、多分一人でも大丈夫かな・・・・・・?
「あのー・・・・・・私エリア10に行きますねー?」
「あいよ、気を付けるニャー」
・・・・・・まぁ多分大丈夫でしょ、ランポス狩りなんだし。
エリア10。
前回、師匠とランポスの出没エリアの一つとして挙げたエリアの一つで大きな水場があり、この狩場に出没する飛竜種がよく水を飲みに来る結構開けた場所だ。前回は特に何も無かったし、村長は特に飛竜種や中~大型モンスターについても言っていなかった。
ま、大丈夫でしょ、と未だに少し感じる不安を誤魔化すように軽く独り言ちながら、エリア8から10へと向かう。
太陽の光が殆ど木で遮られ、一応は明るい、という程度にしか入らない森の小道をのんびりと歩く。エリア10までのこの道は、行ってしまえばエリア6よりかは少し狭いくらいの広さだ。人が二人並んで余裕をもって歩ける程度には広いし、割と平らなので歩くには困らなくて、かと言って木の根や倒れた木などの影響もあって、ランポスのような肉食モンスターが通るのは少数なら兎も角集団ではまず難しいという、安全度が高めの場所と言える。
「あ、モスだ」
ふごふご、と鼻を鳴らしながら歩き回るモスを見つけ、そーっと足を忍ばせながら後ろを追いかける。モスはキノコが好きで、モスが立ち止まっている場所には結構な確率でキノコが生えているのだ。もぐもぐしてたらもう確定である。
「さーって、特産キノコはあるかなー?」
モスが立ち止まっている場所を後ろから覗き込んで見てみると、結構な量のキノコが生えているのが眼にとまった。パン、と手を鳴らしてモスを脅かし、逃がして代わりにキノコを漁る。
爆薬等の調合に利用できるニトロダケ、毒テングタケやマヒダケ等のその名の通りの毒を持つキノコ、そして香りや味はとても良いけれど、小さくて見つけ辛いキノコ――
「ん、あったあった」
この特産キノコ、初心者ハンターにとっては中々に便利な小遣い稼ぎだったりするのだ。そこまで高くは売れないし、一度に採っていい数は限定されてはいるものの、あまり危険を冒さずにお金を稼げるのは何気に大きい。
「キムチにしたら同じように買い取ってくれないのが気になるんだけどねー・・・・・・」
美味しいんだけどなぁ、特産キノコキムチ。
パッと見で見当たる特産キノコを採取し終わったので、改めてエリア10へと向かう。いい加減ランポス狩りをしないと、本格的に何をしに来たのか分からなくなってしまうし。
エリア10への道を、時々盛り上がっている木の根に足を取られそうになりながら歩いていく。そして、もう直ぐという距離にまで近付いた時。
――――聞こえた。
ランポスよりも大きく、より鳥に近い、甲高く何処か鋭さすら感じられるような、咆哮と呼んだ方が相応しい鳴き声。
私がこの大きな鳥のような鳴き声で思い出したのは、ついこの前に村長との会話にも出て来たモンスター、飛竜種の登竜門とも呼ばれる鳥竜種――《大怪鳥》イャンクックだった。
この時の私は、油断していたのだ。
分類的にはランポスと同じ鳥竜種だという事や、イャンクックは飛竜狩りの登竜門というくらいだしあまり大したことは無いだろうという楽観視、そして、ジーグが一月で狩猟に成功したという事実から来た、私でも何とかなるのでは無いかという甘い見通し。
――――そう、私は油断していた。
だから、あわよくば、という欲を持ってエリア10に踏み込んでしまい、
『ソレ』と出会った。
鋭く尖った大きな嘴、片眼が傷付いており凄味を感じさせる顔、身体全体を覆う刺々しい紫色の甲殻、先端が膨らんだ形で、棘が付いた尻尾。
聞いていたイャンクックとは何か違う気がするとは思いながらも、普通とは色が違う亜種というものが居ると聞いた事があったので、亜種なのかも知れないと考えながらもっと良く見てみようと近付く。
イャンクックは音に敏感でちょっとした音も聞き取るという話は聞いていたので、極力音を立てないように一歩、一歩と慎重に歩き――――そして、
ペキッ
と、足元にあった枝に気付かずに踏み折った音が聞こえた瞬間。
ぐるりとこちらに顔が向き、目が合った。
――――――――――ッ!!!!
音爆弾の様に甲高く、短い大音量の咆哮。思わず両手で耳をふさいでしゃがみ込むと、イャンクックがこちらに走って来ていると思われる音が聞こえて、咄嗟に横に出来る限りの全力で半ば転がるように跳ぶ。ギリギリでレザーライトグリーブに足が掠っただけだと言うのに結構な衝撃を感じる事に驚きを感じながら、何とか体勢を立て直して片手だけツインダガ―を構える。
体勢を立て直して改めて向き直すと、その大きさ、威圧感を改めて感じる。その嘴は、全開に開かなくても私の身体の大半を飲み込んでしまいそうなほどに大きく、甲殻はランポスの鱗等とは違い、生半かな武器では碌なダメージにならないだろう。ツインダガ―ではなおさらに。
――――これ、師匠に頼んだ方が良いかな・・・・・・
ランポスまでしか相手にしていなかった身としては流石に手に余るし、相手をするにはそもそも装備も整っていない。アイルーとは言え、師匠の方が装備は整っている事も考えると、狩る、狩らない問わずに師匠に相談する方が良いだろう。ペイントボールならば臭いも届くだろうし、場所を知らせるにも丁度いい。
ツインダガ―を持ったまま、無駄に刺激して先制攻撃が飛んでこないように、空いている片手をゆっくりと腰のポーチに伸ばしてペイントボールを手に取る。丁度、イャンクックは威嚇するように鳴いていて隙があるので、その巨体に向けて投げつけ、そのまま何とかエリア移動して逃げる為に走り出す。
べしゃり、というペイントボールが命中した音を確認した私は、イャンクックの様子を確認しながら狙いを付けられないようにジグザグに走り続ける。
すると、グッ、と頭を持ち上げ、半ばのけぞる様にしているのが眼に入った。
見た事は無かったけれど、分かった。あれは、ブレスの『溜め』だ。
けれど、何かおかしい。確かに、イャンクックはブレスを吐く。けれど、イャンクックのブレスは炎液ブレス、と言うべきブレスで、大した溜をせずに暴れるように吐くはず。つまり、
――――普通のイャンクックは、ブレスの時にこんな風な溜めは入らない・・・・・・!!
なら、このイャンクックは、イャンクックの亜種かと思っていたモンスターは何なのか。
――――来る!!
位置は正面、ブレスはどう飛んでくるか分からない。なら、
「虎の子の閃光玉ぁっ!!」
念のために、と持って来ていた閃光玉をイャンクック擬きの前に投げつけ、少しでもブレスに当たる確率を下げる為に、横に向かって直角に全速力で走る。どこか悲鳴のような鳴き声を上げながら暴れ回る巨体を横目に、何とかエリア8への道に滑り込み、息を大きく吸い込んで、
叫ぶ。
「師匠――――――ッ!!!!」
「良く持ちこたえたニャ、フィリス」
「ここからは、私達が相手をします」
すれ違う様に、声が聞こえた。
MHPで最初に遭った時は、意味分からん硬さと強さに発狂した記憶。