劣等生の婚約者   作:どーる

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入学編4

 

「さて、そろそろ帰りましょうか」

 

 

どうやら入学早々、上級生、しかも生徒会役員の不興を達也が買ってしまったようだけれどそれよりも生徒会長である七草先輩の意味ありげな視線の方が気になってしまった。

もとより達也も私もこの程度のことでクヨクヨするほど順風な人生を送ってきたわけでもない。

ネガティブな強さだと自覚はあるものの、それだけの経験をしてきたという証だ。

 

 

「すみません、お兄様。私のせいでお兄様の心証を…」

 

 

「お前が謝ることじゃないさ」

 

 

「そうそう、あんなこと気にしてたらキリがないわよ深雪」

 

 

そう言いながら私が頭をなで、達也が髪を梳くようにすれば沈んでいた表情が陶然の色を帯びる。

 

 

 

「ねえ栞、」

 

 

呆然と、私たちのやりとりを見ていたエリカが我に返って美月の肩を叩き現実世界へと戻らせる

 

 

「なに、エリカ」

 

 

「いつもそんななの?」

 

 

「そうだけれど、何か変?」

 

 

「…かなりね」

 

 

 

そんな冗談を交わしながら話の流れで美月とエリカを含む5人でカフェに寄り、高校生らしい会話をして夕方に帰宅した。

まぁ、高校生らしいというのも私から見たらということであって美月とエリカがどう思ったのかは分からなかったけど、それでも家や周りのしがらみになにも関係なく話せるというものは私も達也も深雪にとっても大きなことで楽しく時間を過ごせたと思う。

 

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

 

 

 

平均を大きく上回る広さのこの家は、今まではほとんど達也と深雪の二人暮らしの状態だったがこの春からは栞も含めた3人暮らしへとなった。

名義は達也と深雪の御父上のものなので栞は居候という形になる。

 

栞の実家が京都にあり、高校も実家から通える高校の方がという声ももちろんあったが本人の希望と現当主の栞の父、そして先代の祖父の意向で第一高校に通うこととなった。

その際に、住む場所もどうするかという話し合いをしたが結局のところ達也のところが一番安全だということになり家同士の話し合いの結果現在に至る。

もちろん東京に安倍家が所有している物件がいくつかあるのでそちらを自由に使っていいということになっているが、なにもなければ達也と深雪とこの家にこれからも帰ってくるつもりだ。

 

 

 

夕方に帰宅してから深雪のいれてくれたコーヒーを飲み、着替えのために部屋に戻って制服を脱ぎ家の中でも恥ずかしくない程度の軽い洋服を着て一息をつく。

 

 

『栞さま、春とはいえそのような姿をしていてはお風邪をひきますよ』

 

 

ベッドに腰掛けて少し休憩をしていた私の部屋は間違いなく他に人はいない

そんな私しかいないはずの部屋から女性の声が聞こえた。

かといって驚いた様子もなく部屋の主はその声がする場所へと、何もない、なにも居ないはずのその場所を普通に視た

 

 

「大丈夫よ、空調管理されているし下へ降りる時には上着を着るわ」

 

 

『ならばよいのですが…』

 

 

「本当に天一は心配性なんだから」

 

 

そう笑って言えばせっかくお前のことを思って言った天一になんてことをと咎める視線がその隣から向けられた

 

 

『栞、そんなこと言うと朱雀に怒られるわよ』

 

 

「そうだったわね、太陰。心配してくれてありがとう天一。

ほら、そんなに怖い顔をしないでちょうだい朱雀」

 

 

謝罪の姿勢を見せれば朱雀は、まだ納得のいっていないであろうその視線を栞へと向けるのをやめた。

彼女、天一の前で私に食って掛かることはしないと分かってはいたが、落ち着いてくれたようで良かった。

 

 

 

コンコン

 

「すみません、お姉さま。入ってもよろしいですか?」

 

 

他愛もない話をしていていつまでも降りてこない私を心配してか深雪が部屋へと迎えに来てくれたようだ。

深雪の声がしたと同時に先ほどまであった気配がさっと薄れた。

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 

「失礼いたします」

 

 

恐る恐るというわけではないが、ゆっくりとした動作で室内に入ってきた深雪は私がまだ着替えの途中かも知れないと気を聞かせてくれたのかも知れない

 

 

「お姉様、お夕食の準備がもうすぐ出来ますよ。

いつもより降りてくるのが少し遅く感じたので心配になって見に来てしまいました。お邪魔でしたか?」

 

 

「ありがとう、疲れていたつもりはなかったんだけど入学式でやっぱり気をはっていたのかベッドに腰掛けたらゆっくりとしてしまったわ」

 

 

「あら、後でマッサージでもしてあげましょうか?」

 

 

「大丈夫よ、深雪の作ってくれたご飯を食べるだけで元気になれるわ」

 

 

お世辞でもなんでもなく素直にそう言えば深雪は照れたように少し頬を赤くさせ、きっと世の男の人が見たら一瞬で心を奪われるような笑みを見せた。

 

義理とはいえ小さい頃から一緒に過ごしてきたこの妹が私は本当に可愛くてしょうがなく思う。

 

 

「すみませんでした、お声がしていたので式の方たちとお話しをしているのだろうと思ったのですが。きっとお姉様は私が扉の所まで来ていたことに気が付くだろうと思いそのまま下へ行くのも失礼かと思いまして。」

 

 

「本当に気にしなくて大丈夫よ、そんな薄着をするなと怒られていたところだったから深雪が来てくれて助かったわ」

 

 

「まぁ、そうでしたか。でもお姉様、下に降りる時は上着を羽織ってくださいね。深雪もお姉様が風邪をひいてしまったら心配です。」

 

 

「ええ、そのつもりよ。」

 

 

「ではお姉様、私は夕食の準備の続きをしてきますね。もう出来ますからそろそろ降りてきてくれると嬉しいです」

 

 

「じゃあ上着を着たらすぐに降りるわ。わざわざありがとう深雪」

 

 

「いえ。では下でお待ちしおります。」

 

 

 

最後に私に可愛く笑ってからパタパタと音がしているわけではないがその表現が一番しっくりくるような浮かれた足取りで深雪は部屋を出て行った。

 

 

深雪にもああ言われてしまったことだし、クローゼットの中から上着を取り出し羽織る

 

 

「…玄武と太陰は居る?」

 

 

やはり何もない、なにも居ないこの部屋へと声をかければ小さな風が吹いた

 

 

『なに?』

 

 

『呼んだか?』

 

 

しっかりとそこに居ることを目でとらえて、私は二人に視線を合わせる

 

 

 

 

「今日の夜、少し使いに出て欲しいの」

 

 

 

玄武と太陰と言われた二人が頷いたのを見届けて、私は深雪と達也と夕食を取るべくリビングへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もう少し長くとは思いつつもキリが良いので今回の更新はこの辺で。
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