小説の説明的な。
読むのめんどい方は後書きでざっとまとめてあるので、それだけ読んでもらえれば……
調査員が操作するPCのキーボードが、部屋の中にカタカタと鳴り響く。
検査台の上で眠る俺の身体の周りを、病院のCTのような機械が忙しなく前後する。
とりあえず目を瞑ったまま、検査の結果をただひたすらに待つ。
正直、検査の結果を聞くのが楽しみで仕方が無かったし、後述するがとある理由のせいで周りからの期待も凄かった。
勉強も運動もからっきしで、取り柄といえば料理位しかなかった人間がいきなり注目され始めたのだ。多少天狗になるのは仕方のない事だろう。
ましてや「世界を救えるかもしれないヒーロー」扱いともなれば尚更である。
「…………え?」
いつの間にか結果が出ていたようで、キーボードの叩く音も機械の動作音も止まっていた。
そしてそれに加えて、調査員の驚いたような声が聞こえた。
しかし、どこか調査員の反応がおかしい。ある程度驚く結果が出るとは思っていたが、予想していた驚きとは別のベクトルな匂いを感じる。
そう、言ってしまえば「いい意味」では無く「悪い意味」の驚き方。
いきなり不安になる俺をよそに、何度も何度も検査結果を確認する調査員。そして納得のいかなそうな表情を浮かべたまま、こう言い放った。
「結果が出ました。あなたに適正のある艦は……」
「適正のある艦は……?」
「…………「給糧艦 間宮」……です」
「………………は?」
今ここに、給糧艦「間宮」は進水することとなった。
少し昔話を。
俺は元々この世界の人間じゃなかった。だけどこの世界の事を知っていた。
ここは、ブラウザゲーム「艦隊これくしょん」の世界。
どうやら元の世界で交通事故によって死亡し、何の因果かこの世界へと転生してきた……らしい。
らしいなどと曖昧などと曖昧な言い方をするのにも理由がある。
というのも、よくある転生モノの小説にある「神様や女神様」が出てきた訳でも無ければ、「転生特典」を与えられた訳でも無く、「気付いたらこの世界で子供になっていた」からだ。
元の世界では、うだつの上がらない営業サラリーマンだった。
「総合商社勤務」と言えば聞こえは良いかもしれないが、下っ端の営業にしてみればそんな肩書は何の役にも立たない。
とりわけ営業成績も下の上~中の下レベル、また頭の出来が良いわけでも無いので仕事も遅い。となれば一日の仕事の殆どが「上司に頭を下げる事」になるのも時間の問題で。
そんな俺の唯一のストレス発散が「ゲーム」と「料理」だった。
休日になる度に凝った料理を作り、それを食しながらゲームをする。これが俺にとってのストレス発散法だった。
これは学生時代から続けて来た習慣であり、もはや切っても切れない生活の一部になっていた。
だが、歳を取るごとに疲れが抜けなくなり、料理は変わらず凝ったものを作るものの、いつしかゲームはブラウザでできるような簡単なゲームへと移っていった。
その中で出会ったのが「艦隊これくしょん」である。
運よくサービス開始直後からプレイすることができ、万年中将止まりだがずっと飽きずにプレイしている。
ゲームは好きだが飽きやすい性格だったのだが、余程自分の好みにマッチしたようだ。
それこそ数年単位で料理+艦これという生活を送ってきていたワケだが、終わりは突然やってきた。
営業のため外回りをしている時、不運にも信号待ちをしている自分の所へトラックが突っ込んできたのだ。
その時の映像は鮮明に覚えている。
スローモーションのように見える風景の中で、自分に突っ込んでくるトラックをどこか他人事のように見ている。
続いて凄まじい衝撃と共に後方へ叩きつけられ、見事電信柱とトラックに挟まれつつ、目の前が真っ暗になった。
そして次の瞬間、俺はこの「艦隊これくしょん」の世界で中学生となっていた。
最初は何が何だかさっぱりわからず、走馬燈でも見ているのかと思った。
見たことの無い街並みではあれど、元の世界と何ら変わりのない文化、言葉、文明。
だが、自分が中学生になっており、それまでどうやって生活してきたのか、自分がどういう人間なのかといった知識だけがスッと頭の中に入ってきた。
そこまで来ても最初は走馬燈か、もしくは即死だと思っていたがギリギリ一命を取り止めて明晰夢でも見ているのかとも思った。
だが紛れもなく現実なようで、頬を抓れば痛いし、食事をすれば味も匂いも感じることが出来るし、眠くなりもすれば人並みの性欲もあった。
そんなこんなで、いつしか自然にこの変化を受け入れていた。
そんなこんなで記憶を持ったまま若返りを果たした訳だが、最初はただ若返っただけかと思った。その位元の世界と変わらないからだ。
(外見に関して言えば、元の世界の時に比べて遥かに良くなっている訳だが……)
だが、生活していれば元の世界との違いに嫌でも気付いてしまう。
まず大きな違いとすれば、「艦隊これくしょん」の世界だけあって深海棲艦や艦娘が存在するという事。
少し前までは深海棲艦の噂こそあれど、艦娘の存在などは軍の機密事項という事で公では伏せられていたようだ。
だが貿易や漁で生計を立てている民間人からの目撃情報が絶えない事や、最初こそ優勢だった戦況が今や新型の深海棲艦が続々と現れ劣勢気味となり、軍部も資金集めに躍起になっている事もあり、敢えてメディアに露出させている節がある。
まあ資金不足の一番の大きな理由としては、諸外国との国交が途絶えてしまった事だろうが。
噂によれば、発展途上国はほぼ滅亡、先進国も軒並み劣勢を強いられているらしい。
最初こそゲームの世界に転生出来た事を喜んだものだが、元の世界では語られなかった裏の設定が、まさかこんなに厳しいものだとは思わなんだ。
ちなみにこの世界の「艦娘」というのは、ゲームのように建造出来るわけでは無く、また同じ艦娘がダブって存在するという事もないようだ。
要するに、現在日本を支えているのは200人足らずの艦娘だけなのだ。
じゃあどうやって艦娘が生まれるの?という疑問が残るが、若い女性のほんのごく一部に生まれつき適性があり、中学3年生になった際に各学校で行う全員適正検査で判明する。
その際一応男性も検査対象にはなるのだが、今の所適性のあった男性は1人もいないようだ。
そして適性のある女性は半強制的に艦娘にさせられるのだが、適正を持ちつつも艦娘になる事を嫌がる女性はおらず、むしろ進んで艦娘としての道を歩むらしい。
この辺りは大本営発表なので、正直なところ本当かどうかも怪しいのだが……。
もう1つ、元の世界と大きく違う点がある。それは「男性は人間全体の1%に満たない」という事。
要するに、この世界は男性が極端に少ないという事だ。
もしかすると、艦娘という存在がある点に因果関係があるのかもしれないが、とりあえず無造作に100人集めたら、その中に男性は1人いればいい方という事だ。
なので、下手するといい歳になるまで父親以外の男性は見た事無いという人もいるらしい。
そしてそんな世界だからか、男性はどこに行っても好待遇を受ける。……生まれた子が男の子というだけで、国からかなりの額の支援金が出る位には。
そんな世界に転生し、尚且つ外見もかなり良い男子中学生となっていた俺は、既にだいぶ良い生活を送っていた。
親にも愛され、周りにも愛され……その割には浮いた話は無かったようだが。
あれか、みんな箱入り娘すぎて男と付き合うという発想に至らないのか、それともまだ中学生だからか。
まあそんな事は良いとして。
転生してから約1ヶ月後、中学3年になった年の4月に艦娘適正検査が行われた。
そしてそこで驚愕の事実が判明する。どうやら俺には男ながらに適性があるようだった。せっかく艦これの世界に来れた訳なので、海軍の提督になる目標を立てていたのだが、まさか艦娘側になるとは思わなかった。
さて、男性として初めて適性がある人間が出てきたとなると、途端に大きな騒ぎになる軍部。
俺自身も深海棲艦と戦う恐怖こそあれど、艦娘としてでも艦これの世界に絡むことができて喜んだりもした。
残念ながらこの段階では何の艦としての適性があるか分からず、その後1年もの間軍での訓練に精を出すことに。
そこでの訓練の日々は非常に辛いものだったが、そこでも1つ驚愕の事実が判明し、それが俺のやる気にさらに火をつけた。
俺は唯一、全ての艦種の艤装を扱う事ができたのだ。
先述の通り、最初は何の艦としての適性があるか分からないのだが、訓練の段階で扱える艤装は通常、適性のある艦が装備可能な物に限られる。
駆逐艦なら小型の主砲や高角砲、空母なら副砲や艦載機、潜水艦なら魚雷など。
なので訓練を行ううちにある程度艦種までは絞れるのだ。
だが俺だけは、どの艤装も扱うことが出来た。
大口径の主砲、流星や彗星などの艦載機、そして酸素魚雷や甲標的を同時に装備し、それを扱う事もできた。
一瞬頭の中に、敬礼ポーズのとある理不尽な深海棲艦がよぎったが、イメージ的にはモロにそんな感じであった。
そのせいもあって周りの期待は凄く、艦娘になる前にメディアに露出しまくりの広告塔としての役割も担わされた。
その分全ての艤装を扱う訓練も行ったので、他の候補生の数倍訓練に時間を費やす事になるのだが。
長々と説明はしたが、以上が俺の過去と今の概要である。
そしてそんな期待を背負った俺の適正艦は、まさかまさかの「給糧艦 間宮」だったという訳だ。
……なんだこれ、俺の知ってる給糧艦と違う。
3行でまとめると以下の通り。
「サラリーマンが、男女の価値観があべこべの艦これ世界へ転生」
「男ながら艦娘適正あり」
「何故か全ての艤装を扱える給糧艦 間宮になった」
こんなトンデモ設定ですが、評価気にせずのんびりと進行していきます。