咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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第63局[交錯]

昨日のパーティから帰り、ベットに入った時間も真夜中近くだったにもかかわらず、日が昇りきらない時間に目を覚ましたのは習慣である。

目を覚ますためにカーテンを開け、ついでに空気を入れ替えようと窓を開ける。

潮の香りがする磯風を吸い込み、大きく伸びをしながらふと下を見ると、下の砂浜のパラソルの下でお姉様が本を読んでいらっしゃる。

その格好は白く裾の長いワンピースにアームカバーを付け、朝にもかかわらず完全に日差しを遮るために肌を露出しない格好だ。本当にお美しい。上品な姿なのに、そこはかとなく色気も持ち合わせており、わたしはそんな姿に目を離せないでいる。

 

お姉様は本を閉じ、ある一点を見ている。その視線を辿っていくと兄がトレーニングをしていた。型はよくわからないが、わたしの知らない空手か拳法なのであろう。

一つ一つの動作を丁寧に決めていくそれは、稽古というより、一種の舞であった。

 

兄が動きを止めるとお姉様は近づいていく。

お姉様に話しかけられた兄は昨日のパーティで浮かべたのと同じ笑みを浮かべる。

なんで…

そんな笑顔を、妹であるわたしには浮かべてくれたことはない。なんで…なんで…

 

そんな昨日と同じモヤモヤした感情を打ち消すために慌ててカーテンを引き、窓際から離れる。大きな音はしたが、2人とも一度も顔を上げることはなかった。わたしの姿は見られていないはずだ。しかし、2人に気づかれてしまったような気がしてならなかった。

 

 

その日の午前中はビーチでのんびりすることとなったが(お姉様も誘ったが当然断られた)、特筆することはなかった。寝てた間に風が砂を飛ばしたのか、シートの上で寝ていたはずなのに手足が少しザラザラするぐらいか。わたしはそう思っていた、昼食後のある会話を聞くまでは。

 

 

「こんな酷い痣をほうっておくなんて!」

 

わたしがお姉様に魔法の練習を見てもらおうとお姉様の部屋に向かい廊下を歩いている時、桜井さんの叱りつける声が聞こえる。

多分、相手は兄であろう。

痣……?

 

「たいしたことはありません。骨には特に異常ないですから」

「骨折してなければ良いというものじゃないでしょ!痛くないの!?」

「痛みはありますが、自分がへまをこいたペナルティーです」

 

痛み?

ペナルティー?

まるで意味がわからない

 

「はぁ、いつもいつも…達也くんの意識の改革はもう諦めましたけど…。治癒魔法をかけるから服を脱いでください」

「必要ないです。戦闘行為に支障がでるなら、自動的に治ります」

「私たちボディーガードにも日常生活はあるんですよ。戦闘マシーンじゃないんですから。だいたいさっきだって、深雪さんを連れて逃げればよかったんですよ。お昼寝を邪魔しないためという理由で他人の喧嘩に巻き込まれる必要はなかったんです」

 

え?わたし?

 

「反省しています」

「本当に反省して下さいね?次こんなことあったら、咲さんにきつく言って貰いますよ」

 

桜井さんがため息をつき、入り口のドアに向かってくる気がしたので、ドアに張り付いて聞き耳を立てていたわたしは、慌てて自分の部屋に戻った。

 

 

 

夕方、桜井さんが手配したクルーザーでセーリングを楽しんでいた。

 

「みてみて深雪、帆よ帆。初めて見るわ」

 

わたしはセーリングは初めてではなかったが、お姉様は初めてなようでとてもテンションが上がっていた。こういうところは年に似合って少女らしい可愛さだ。

そんなお姉様と喋っている時、いきなりお姉様の顔が引き締まった。

 

「達也さん」

「ああ」

 

兄と桜井さんも厳しい表情で沖の方を睨みつけている。舵をとる助手の人が必死に無線に話している言葉は潜水艦と聞こえる。

あの様子は、国防軍じゃないわよね。ということは外国の?ここは日本なのに。まさか侵略!?

 

「お嬢様前へ」

「わかっています!」

 

いつものことなのに、他人行儀な呼び方に哀しく思うのと同時に腹がたち高圧的な態度を取ってしまう。

船尾には兄と桜井さんが立っている。

お母様はとても強力な魔法師だけど、魔法の出力に身体がついていかなくなってきている。強力な魔法の使用は体力を使うことは経験から知っている。

お母様に魔法を使わせてはならない。

横のお姉様を見るとどうやら神依をしていないようだ。誰かを信用しているような顔をしている。

 

沸き立つ泡の中から二本の細長い影、魚雷がこちらへ向かってきた。

 

「大丈夫よ、深雪」

 

驚きで硬直してしまったわたしにお姉様は優しく声をかけてくれる。そうだ、あのお姉様がいるのだ。心配ないだろう。

 

そのわたしの予想は外れた。お姉様や桜井さんが魔法を発動するより早く、兄からお姉様の神依時のような強力な魔法が放たれた。それにより魚雷はバラバラに分解され二本とも海の底へ沈んでいく。

 

その魔法は一瞬であり、あれが絶対安全圏の攻略法の息をするように魔法を使うということであろうか?

 

そんなことを兄ができるわけない。あの人は術式解体ぐらいしか目立った技能を持たない。しかし目の前で起こったことは事実。

そして船尾で桜井さんや兄と喋っているお姉様は当然という顔をしている。

 

もしかしてわたしは、兄について何も知らない?

 

3人のその姿を見て、わたしは椅子の上で居すくまっていた。

 

 

 

 

 

 

国防軍の沿岸警備隊が駆けつけた時には潜水艦はもう既に消えていた。事情聴取は精神的疲れがあったので別荘に着いてから、ということになり今は別荘に戻る道中だ。

 

「対潜水艦に関しては海自は世界最高水準だったはず。この世界では違うのかしら。それか100年もあったら追いつかれるってことかも。あの潜水艦は偵察だと考えると次来るのは本隊、なんでこんな大事なところに靄がかかってるの…」

「お姉様?」

「なんでもないわ深雪」

 

お姉様はぶつぶつと独り言をつぶやいていた。海自や靄などよくわからないことを呟いていたがよくあることだ。お姉様はわたしなんかと比べるのがおこがましいほどの知識量をもっている。わたしが知らないことを話すなど日常茶飯事なのだ。

 

 

別荘に着き、自室に戻ると考えることは兄が見せたあの魔法。わたしの感覚が間違いなければ、対象物の構造情報を直接改変することによる分解。

しかし、構造情報に対する直接干渉は魔法として最高難易度なはずだ。わたしは真似できないし、お母様や叔母様も無理だろう。お姉様は……できそうだけど例外よね。だって神様の力を使うんだもの。

そんな力を兄は、CADも使わずに…。

魔法を上手く使えないから四葉の姓を与えられず、身体能力と術式解体の魔法を活用することでわたしの護衛となったのではないの?

 

わからない。

知らない。

 

お姉様は全てを知っているのだろうか。兄への態度を見たら、知っていてもおかしくはない。お姉様の部屋に行こうとしたその時、ドアがノックされる。

 

「お疲れのところすみません。国防軍の方が、お話を伺いたいとのことで…」

 

桜井さんが躊躇いがちにわたしに声をかける。ドアを開けるとものすごく恐縮そうにしている桜井さんがいる。

桜井さんが悪いわけではない。そんなに恐縮されるとこちらまで心苦しくなる。

承諾の旨を伝え、着替えてからすぐにリビングに向かった。

 

 

 

 

「では、潜水艦を見つけたのは偶然だったんですね」

 

事情聴取に来た軍人さんは風間大尉というらしい。数個質疑応答を続けているが、桜井さんは相手の何か余計なことをしたんだろう、という言い草にかなりイラついていた。

そんな中、わたしの横に座っている姉が右手をあげる。

 

「風間大尉。質問よろしいでしょうか?」

「なんでしょう」

「80年前、海自…いえ国防軍は第二次世界対戦の潜水艦の日本軍の被害から、世界最高水準の対潜技術を持っていたと記憶しています。ですが領海への侵入を許すとは、我が国の対潜ソナーやレーダーの技術は衰えたのでしょうか?」

 

お姉様の言葉に皆、目を丸くしている。第二次世界対戦なんて150年前である。学校で習うのは50年前に起きた第三次世界対戦のことであり、それも核兵器の使用を防ぐために魔法師が活躍したということぐらいしか学校では習わなかった。12歳の女子生徒が普通知っているようなことではない。

 

「よくご存知だ。我が国の対潜技術が衰えた訳ではなく、どちらの技術も日進月歩であり、いたちごっこになっているのだよ。魔法によるソナー探知の無効化なども増え、遠距離では探知できなくなっているのは事実でもある」

「なるほど、お答えありがとうございます」

 

お姉様は納得したようだ。しかし、この質問だけではなく何か違うものも解決したように思える。そんな顔であった。

 

「君は何か気づかなかったかね」

 

話を戻すために、大尉さんは兄に話を振る。その行動はただそれだけの理由だったはずだ。

 

「目撃者を残さぬよう、我々を拉致しようとしたものではないかと思われます」

 

しかし兄の回答は、はっきりとしたものであった。

 

「拉致?」

 

大尉さんも意外そうにしている。

 

「クルーザーに発射されたのは、発泡魚雷でした」

「なるほど」

「はっぽう魚雷とはなんなの?」

 

先ほど大尉さんに質問したお姉様も知らないようで兄に質問する。わたしも桜井さんもわからなかったので兄の回答に耳をすませる。

 

「化学反応で泡を大量に作り出す薬品を仕込んだ魚雷です。スクリューを止め相手を足止めして、乗組員を捕獲することを目的とする兵器です」

「目撃者を残さないためなら、普通の魚雷で皆殺しにすれば良くないかしら?」

「あのな咲….…そうしてしまうと領海に侵入しているとバレるだろう?」

「確かに、それもそうね」

 

相変わらずお姉様の考えはゴリ押しというか強引というか……

兄がお姉様を呼び捨てにしたところでお母様がぴくっと反応した気がしたが気づかなかったふりをしておいた。

 

「兵装を断定する根拠としてはいささか弱いとは思うが?」

「無論それだけでありません」

「他にも理由があると?」

「はい」

「それというのは?」

「回答を拒否します」

 

兄の黙秘の表明に1人を除いて絶句した。

 

「大尉さん、そろそろよろしいのでは?私たちは有用な情報を持っていないと思いますよ」

 

最初の自己紹介から黙っていらしたお母様がそうおっしゃった。

退屈そうで、しかし抗いがたい声。すぐ、その意味に大尉さんは気づいてくれた。

 

「そうですな。ご協力感謝します」

 

ソファーから立ち上がり、敬礼しながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




確か、今の海自は対潜技術世界2位です。
第二次世界大戦でアバルコアにボコられたから仕方ないね
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