咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
3月25日
授業も終了し、私も深雪も生徒会の用事がない日。
私たち3人は今、ショッピングモールに来ている。なぜ私が珍しく休みの日に家から出ているのかというと今日は深雪の誕生日であるからだ。
深雪が3人で出かけたいと言ったので、ショッピングモールに出かけることになったのだ。
その深雪は私の腕に抱きつきながら私とともに歩いている。まるでカップルみたいだ。そんな光景を見て私たちの近くを通りかかった人たちは動きを止める。この世界では同性同士の結婚が認められているが、一定数それを批判する人もいる。
しかし、私たちに批判の目を向ける人はいない。立ち止まった人の中には批判意見を持つ人もいたが、のどっち風にいうと「ありですね」となったのだ。
達也は私たちに対し危害を加えようとしている目がないかということを監視している。私も精霊で周りを見てるので襲われることはないだろう。
まず最初に入ったのはブディック。春物の服が見たいらしい。深雪は店内をぐるりと周り、数着の服を指差して試着させてほしいと店員さんに依頼した。その店員さんは満面の笑みで頷いたが、単なる営業スマイルに留まらないかもしれない。
深雪が試着してる間、私たち2人は店内のベンチで待つことにした。私は持って来た本を広げると達也がその厚みに驚いたようだ。
「咲、何を読んでいるんだ?」
「日本書紀」
こいつ大丈夫かみたいな目を向けられたが、これは重要なことなのである。神代小蒔の能力は日本書紀の伝説からきているので、こうやって定期的に読まないとイメージできなくなってしまうのだ。
そんなことをしていると店員さんが私たちの顔色を伺うように立っていた。
「何か?」
達也がそう声をかけた。
「お客様にご相談が…」
達也が首を縦に振る。この話は達也に任せとこう。面倒くさそうだし。
「もしよろしければお連れ様がお買い上げ頂きましたお洋服を」
「まだ買うと決めたわけではありませんが」
「もちろんでございます!もしお買い上げいだいた場合ですが」
「もちろん、気に入った服があれば買うつもりですが」
「ありがとうございます!」
「達也さん、店員さんをいじめるの可哀想よ。それで、店員さん。何の御用なのかしら?」
本当は口を出さないつもりだったのだが、意図せず達也が店員をいじめているのが見ていられなかったので思わず助け舟を店員にだしてしまう。
「もし、お買い上げ頂ける事があればそのままその服をお召しになってはいただけないでしょうか?」
え、それだけ?達也に虐められる労力に見合っていない気がする。
「こちらの服を着て歩き回ってほしいということでしょうか?」
「はい、その分値引きさせていただきますが」
「撮影はNGですよ」
「もちろんです」
「店頭に出ていない商品も見せていただきますか?」
「当然です、全商品見ていただきたいです」
服屋さんにも図書館の閉架図書のように店頭に出していない商品があることに少し驚いた。
深雪の着替えが終わったとのことで、試着室向かう。その道すがら小さく達也が言うには、深雪にこの店の服を着せることでこの店の歩く広告にしたいらしい。店員さんも賢いものだ。
「お兄様、お姉様どうでしょうか…?」
深雪が身につけているのは紺色のチュニック。うん、相変わらず深雪は何を着ても可愛い。
「可愛いわよ」
「上品なデザインが良く似合っているよ。でももっと派手でもいいかな」
小学生並みの感想しか出ない私に比べて、次の着る服のアドバイスまでする達也。格の違いを見せつけられる。
その後も深雪の試着という名のファッションショーが続く。毎度毎度、私たちは深雪を褒め称え、その度ごとに嬉しそうに恥ずかしがる。
何着も試着を繰り返すうちと時間がそれなりにたっているわけで、遠まきに人垣が形成されている。
まあいつものことなので仕方がない。
もう何着かわからないほど試着したところで深雪は一着の服を手に取った
「これにしようと思っているのですが…」
「俺もそれが一番可愛かったと思う」
「それも可愛かったわ」
深雪は達也の細かなニュアンスを感じ取って、一番好評であったその服を選んだのだ。
「それでは…これを買って頂けますか?」
「いいとも」
深雪のおねだりに金を使うのは最も有意義な金の使い道くらいには考えていそうな達也が即答する。
「では、これと四番目と二十一番目を。咲、お前は二番目と五番目と十六番目だろ?」
「よくわかったわね、だけど自分の分は自分で払うわ」
深雪の試着のイメージで自分のものもだいたい決めていた私は自分で払うと提案する。
「今回は俺に払わしてくれ。この前のお詫びだと思って」
この前とは喧嘩をしたあの一件であろう。
そう言われては引き下がるしかない。
店員は思い掛けない上客に顔をホクホクさせ笑顔で私たちを送り出した。
午前中に服を買った私たちは、お昼ご飯を個室のある店で食べ、午後はウィンドウショッピングをして回った。その間深雪は私と達也の間に挟まれ、両方の手をそれぞれと繋ぐことでご満悦な様子であった。
「深雪は部屋で待っていてね」
「わかりました、お姉様」
帰宅した後、深雪にそう声をかける。
今日は私が料理するからだ。神依するのは当然キャップ。咲で一番の家事力を持つキャラであるのが理由だ
「で、いつも通りよろしくね」
「まったく…何度もやってるんだからいいかげん覚えろよ…」
機械が発達したこの世界では、料理にも多少機械を使うこととなるので、達也の助けが必要なのだ。助けが必要な理由、それはパソコンで服が作れる(注文ではなく文字通りの意味)と勘違いするぐらいキャップは機械オンチであるからだ。
2人で料理をつくること一時間。高級料理店のフルコースとまではいかないが、家庭的でなかなか美味しそうな料理を作る事ができた。
深雪も美味しいと大層気に入ってくれたので私と達也はホッとした。
夕食の後は私の誕生日と同じようにちょっとしたパーティとなる。深雪が歌を聞きたいというので雀明華の神依をして歌ったり、それに達也も混ぜたりなど楽しい時間を過ごした。
「深雪、私からのプレゼントよ」
「ありがとうございます!開けてもいいでしょうか?」
「もちろん」
私が送ったのは三月の誕生石、アクアマリンが散りばめられた髪飾り。これに私がネリーとかおりんで運を全力で注ぎ込んだので、幸運バフ効果のおまけ付きだ。
「とても綺麗です…大切にします」
深雪も気に入ってくれたようだ。よかった。
達也はアンティークの懐中時計を送っていた。懐中時計は実用的な部分がこの時代ほとんどないが、美術品として好まれている。
とてもお洒落なので私もほしいぐらいだ。
翌日の午前中、呼び鈴が家に鳴り響いた。カメラを見ると四葉の家の者であったので、私が出る。
「お久しぶりです。咲様」
「水波ちゃん久しぶりね、正月ぶりかしら?」
私が出た後に続いて玄関を出た深雪は驚きで口を抑える。達也も顔には出していないが驚いているのがわかる。この2人は四葉本宅に帰ることがほとんどないので、本宅にいた水波のことを知らないのであろう。
水波をリビングへ案内し、深雪達也の対面に水波と2人でソファーに腰を下ろす。
「この子は桜井水波ちゃん。深夜叔母様のボディーガードを勤めていらっしゃった穂波さんの遺伝子上姪にあたるそうよ」
「桜井水波と申します」
水波が一礼しながら自己紹介をする。
自己紹介した水波は何度見ても穂波さんにそっくりであった。初めて会う達也と深雪が驚くのも無理はない
そしてその水波は私に一通の封書を手渡した。差出人は四葉真夜。この時点で嫌な予感しかしない。
いつもの愛してるみたいなことが書いてある挨拶の後にこう書かれていた。
「この春、水波ちゃんを第一高校へ入学させることになりました。ついては貴方達のお家に水波ちゃんを住まわせてあげなさいな。彼女は家政婦として、十分な技能を持っています。彼女には住み込みのメイドとして働くように言ってあるので、家のことを何でも言いつけてください
あと彼女は咲さんのボディーガードに任命してあります。ミストレスとしての練習を少ししなさいな」
私は達也と深雪に手紙を回した。しばらくして、深雪の喉から息を飲むような音が発せられる。深雪と達也が手紙から目を離すのを待っていたかのように、水波が私の横で立ち上がった。
「未熟者ですが、よろしくお願いします。奥様の言いつけ通り、できる限り精一杯務めさせていただきます」
深々と頭を下げながら水波が言う。
彼女は私に打ち込まれた楔とわかっていても、穂波さんと似た顔をした彼女を拒絶することは、私にも達也にも深雪にもできなかった
四月からの新年度はより波乱に富んだものになる、そんな未来が見えた気がしたが、怜を神依してるわけではないのでそんなはずはないと思うことしかできなかった。
この話は3月25日深雪の誕生日の日に書きました。
毎日読んで頂いている人には申し訳ないのですが、2〜3日お休み貰います。書きだめもうほとんどないんで…
アンケートたくさんの方にコメントいただきありがとうございます。まさかすこやんがこんなに人気だとは思わなかったぞ…教師枠か生徒枠か、どこかの十師族の魔法師にさせるか、またはvs咲さんやらせるか、こーこちゃんと一緒に実況させるか迷いどころですね。
いつになるかはわかりませんけどご要望あったキャラは全員書こうと思います。