咲-saki- 四葉編 episode of side-M 作:ホーラ
土日に書きだめ書いておこうとしたのに70万文字ぐらいの作品三作品読んでしまって一個も進みませんでした…
第68局[不穏]
4月5日、木曜日。新年度始業式の前日。
私たち4人は雫の屋敷で行われるホームパーティーに呼ばれていた。
この家に住んでいる雫の家族は祖母と両親、雫と弟の5人なのだが、家長である雫の父親の北山潮は5人兄弟。
富豪と呼ばれる富裕層ではこの程度の大家族はよくある話であるが、潮が晩婚だったため従兄弟はほとんどが雫より年上である。そのため半数が既婚者であり、未婚者もフィアンセや婚約予定のパートナーを連れて来たりしていて、ホームパーティーとは思えない人数に膨れ上がったーーという話を私は今雫からきいた。
パーティーが始まってすぐ、雫の母親に達也は連れていかれ、私はさっき雫の父親に救出され、今は私たち女子5人で話している
「咲、何回も言うけどよく来たね。来ないと思ってた」
「さすがに友人の雫の家のパーティに呼ばれて来ないほど薄情ものじゃないわよ、けど疲れたわ……」
雫は私がこういうパーティが好きではないことを知っている。
実は私はパーティが嫌いないわけではない。好きではない理由はパーティに行ったらならば、やらなくてはいけない挨拶や他の知らない人との交流が面倒くさいからだ。
今回はホームパーティだしそんなことはないと思ったのだが、そんなことはなかった。
私はいつも通り、大勢の大人にパーティーの最初囲まれていた。
ここにいる人達、特に家長と呼ばれる人たちは私に顔を売るのに必死であった。
『四葉』その名は魔法師に対して絶大な効果を誇る名である。一般社会には影響力は魔法師に比べて小さいがそれでも影響力がある。それをこの人たちはわかっている。四葉を味方につけることは日本で一番力(この場合の力は武力)を持つのと同義であるからだ。
しかし、四葉とコンタクトを取るのは企業単位では困難を極める。そこで珍しく秘密主義のくせに公にされている私たち(特に私)にこういう売り込みが多いのだ。
四葉の名にビビってそれほど長い時間拘束されることはないが、いかんせん数が多い。水波も幾らかはガードしてくれていたが、敵意ではないので無下にはできない。
そんな囲まれている私をホストである雫の父親は救出してくれたのだ。
5人でしばらく喋っていると、達也と話している雫の母親がエキサイトし始めた。
「お母さん、達也さんに何言っているんだろう」
「叔母様どうしたんでしょうかね」
「まあどうせ達也さんが悪いから気にすることないわよ、雫」
私はそういうのだが、雫は乏しい表情の中に羞恥をのぞかせている。自分の母親が友人に因縁つけたように見えて恥ずかしいのだろう。私の母親も外で見せるには恥ずかしい人なので長野の山奥でずっと引きこもっててほしい。
そんなことを喋っているとそれを良くないと思った潮が達也達の仲裁に入り、一言二言喋ると、達也がこちらに歩いて来た。
達也が大声をあげなくても声が届く距離になると、雫がペコリと頭を下げる
「達也さん、ごめんなさい」
「いや、お母さんの気持ちもよく分かる。娘に四葉の男が近づいているとなれば心配して当然だろう」
達也はこの件はこれで終わりという風に首を振って笑う。
やっとパーティを楽しめると思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。5人で話していると1人の青年が近づいて来た。
「雫ちゃん、久しぶり」
向こうの馴れ馴れしい態度と雫がペコリと頭を下げた点から、たぶん従兄弟。軽薄な印象を受けるが、身なりは少なくとも安っぽくはない。
しかし雫は、その隣にいる女性を見て訝しむ顔に変わった。ルックスもスタイルも良く、ドレスもアクセサリーもTPOを弁えたものだ。雫が浮かべる表情は彼女が少なくとも親族ではないということを示している。
「あ、オレ婚約したんだ。とはいっても、まだエンゲージリングは受け取ってもらってないんだけれどさ」
雫の視線を受け、雫が疑問を投げかけるより先に青年の方から紹介があった。
「おめでとうございます」
雫が儀礼的に祝辞を述べる。
「初めまして、雫さん。小和村真紀です。よろしくお見知りおきください」
「あの、ひょっとして小和村さんって、女優の小和村さんですか?『真夏の流氷』でパン・パシフィック・シネマ賞の主演女優部門にノミネートされた」
「あら、あの映画、観てくださったの?」
ほのかの問いかけに、やや得意げだったが上品な笑みを浮かべたまま彼女は答ていた。
確か流氷は前世の世界では夏では見れなかったはずだが、過去の寒冷化により北海道の北端では確か夏でも見えると何かの本で読んだことがある。
芸能事情に全く興味のない私は映画の名前すら知らないのでそれを聞いてこんなことを考えていたが、達也と深雪の反応を見る限りどうやら有名作品らしい。
私の興味はそれで尽きた。映画より原作の小説を私は好むので、映画を観に行くことはほとんどない。そしてマスコミと密接に関係する有名人と知り合いとなるのは四葉にとってマイナス面が多いだろう。
興奮しているほのかには悪いが早くどこかに行ってくれないかなあと考えていると、彼女の目が私を捉えた。
「すみません。違ったら申し訳ないんですが四葉咲さんではありません?」
「ええそうですが。失礼ながら以前お目にかかったことが?」
「いいえ、彼に雫さんが出ているということで、九校戦の中継を見せてもらったんです」
あんな派手なパフォーマンスしたら流石に目立っていただろう。知っていてもおかしくない。けど、何だろう。キナ臭さを感じる。
例えるなら、2000のイーシャンテンを24000にまであげた咲さんの手牌か。
「あの歌声は簡単に忘れれるものではありませんよ。私のお友達もみんな同じ意見でした」
「ありがとうございます」
「そうだ!来週、よろしければ私たちのサロンにいらっしゃらない」
無邪気な表情で無垢な雰囲気と搦めとるような色気を混ぜ込むあたり、流石女優ってところか。女優が四葉の力を借りたいのだろうか。
「せっかくですがご遠慮させていただきます」
当然面倒くさいのでパス。エステに行っている間に本を一冊読める。
「そうですか」
彼女の視線から一瞬、怒りに似た波動が放たれたのは見逃すことはなかった。枕神怜もこいつなんやねん、と言ってる始末。
まあこの人に興味はない。私を本気で誘うならゲストとして太宰治とか三島由紀夫とか呼んでほしい。どちらも死んでるのだけど。
私たちは小さく礼をし、その場を立ち去る。
彼女の私たちを見る厳しい目つきは、枕神怜で観察していた。
新学期が始まる4月6日
第一高校では今年度からシステムが変わる。
入学定員は変わらず一科生ニ科生それぞれ100人ずつであるが、2年生の進級時に魔法工学コースが選択できるようになる。無論、選抜制であり試験に合格しなくてはいけないが。
魔法大学から専門の講師が来たり、魔法工学技術にカリキュラムの重点が置かれているなど、達也のような技術者を目指す人が多数を占めている。
そして一科生がこのコースに選抜されると足りなくなった一科生の分はニ科生成績優秀者が一科に繰り上がるシステムになっている。
これは明らかにニ科生なのに四葉でありなおかつ九校戦で大活躍した達也を学校側は持て余したのであろう。
登校時、横を歩く達也の胸には八枚歯のギアを意匠化したエンブレム。これは美月のブレザーにも付いており、このエンブレムは魔法工学コースのエンブレムである。
そして吉田君の胸には一科生の証の八枚花弁の校章。吉田君は繰り上がりで一科生になった生徒だ。
そんな何人か昨年度と違う制服を纏った私たち9人で登校していると、精霊達が警戒し始め私はその視線に気づいた。
私に向けられる強い意志を伴う、好意的ではない目。視覚同調で気づかれないように見ると、その視線の主を私は写真で見たことがあった。それは今年の新入生総代の七宝家の長男であったからだ。
「お兄様、お姉様?」
深雪が訝しげに声をかけたのはそのすぐ後。どうやら達也もその視線に気づいたらしい。私たち2人は深雪に対して何でもないと言っている間に、七宝は裏路地に姿を消した。
登校して構内無線で通知されたクラス分けによると私と深雪とほのかがA組。雫とエイミィがB組。エリカとレオはF組でまた同じクラス。
私と同じクラスとわかった時の深雪の喜びようはすごかった。一緒のクラスとわかった瞬間抱きついてきたのだ。去年は違うクラスであったので嬉しさもひとしおだったのかもしれない。
今日の1時間目は選択教科の履修登録に当てられたが2時間目から通常通りのカリキュラム。また魔法理論に追われる日々が戻ってきた。
そして放課後の生徒会室。
「紹介します。今年度の新入生総代を務めてくれる七宝琢磨くんです」
中条先輩に紹介されて七宝君はペコリと頭を下げる。中条先輩が先日、先に七宝君と顔合わせをしておいてくれたのだ。本当は私がやるべきなのだが、咲さんはいつも仕事をたくさんやってくれているからということで、中条先輩が引き受けてくれたのだ。
五十里先輩に続いて私が自己紹介する。
「会長の四葉咲です。よろしくね、七宝君」
私が微笑みながら自己紹介すると七宝君の態度が一変した。
「七宝、琢磨です。よろしくお願いします」
不自然に苗字を強調した言い方だった。同じ十師族だぞと言いたいのであろうか。しかし、まだ言葉遣いは許容範囲内。
問題なのは七宝君は私をどこか軽蔑してる様子であった。しょっちゅう達也に頭大丈夫かみたいな目で見られているし、軽蔑されてもおかしくない行動に心当たりはたくさんある。
私的には問題ないのだが横の深雪がそんなことを許すはずがなかった。私との挨拶が終わり、七宝君は深雪を見るとたじろいだ表情を見せる。
なぜならそこには氷雪の女王が降臨していたからだ。
吹雪の姫(ブリザードプリンセス)などとそんな生易しいものではない。そのプレッシャーは流石四葉家直系と思わせるもの。私もちょっと怖い。
七宝君が平静を失ってもおかしくないのだが、そうは思わなかったようだ。悔しげな表情が浮かび上がる。すぐに笑みを浮かべ直すがあまり上手くいっていない。
「副会長の四葉深雪です」
深雪を軽蔑する様子は見られないので、四葉全体を見下しているのではないようだ。
七宝君は別に私を軽蔑するのは結構なのだが、後で機嫌をとらなくてはいけない私の身になってほしい。助けを求める3人の目に気づかないふりをしながら、私はため息を吐いた。
夕食後、ボディーガードの傍ら家政婦も兼業で勤めている水波以外は皆、リビングのソファーに座りコーヒーや紅茶を飲んでいる。
「深雪、七宝君と喧嘩しちゃダメよ?」
「私は喧嘩などしませんよ」
深雪の機嫌は帰宅時に直しておいたが、これからの学校生活のことも考え、深雪を注意しておく。
「咲に軽蔑の目が向けられるのは珍しいな」
達也はちょっと不思議に思うようにそう言う。達也はしょっちゅう頭大丈夫かという目を向けてくるので、お前が言うなと私は言いたい。
「私は別に深雪が軽蔑されなければいいのだけど。別に七宝君は四葉全体を憎んだり軽蔑しているわけじゃなさそうなのよね。私単体というか」
深雪に向けられる目は普通であったので、私を軽蔑し敵視していると考えるのが妥当であろう。
「七宝は咲に婚約を申し込んでない数少ない家だ。四葉とライバル心もあるだろう。やはり九校全体で大人気の咲の活躍を妬んでいるんじゃないか?」
「まあ妬まれ軽蔑されるようなことに、結構心当たりがあるのが問題よね…」
「そんなことありません!お姉様は素晴らしいお方です!少し解決方法が強引なだけで…」
私が脳筋と深雪たちに思われているのは仕方がないと思うしかなかった。
他の人の作品みたいに投稿頻度落ちるけど1万文字一気に投稿するか、今みたいに2000〜5000文字ぐらいで頻度高めの投稿どちらがいいんだろう。