咲-saki- 四葉編 episode of side-M   作:ホーラ

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間違えて変な投稿したり遅くなったりしてすみません


スティープルチェース編
第79局[変更]


6月末、定期試験を間近に控えた放課後。

そんな日にもかかわらず国立魔法大学付属第一高校の実験室では週に1回の咲の特別指導が行われていた

 

「七宝君、あと少しね。だいぶ形になってきたわよ」

「ありがとうございます、師匠」

 

特別指導というのは、弟子入りした琢磨に対して咲が魔法を教えるというものだ。

 

当初、咲は琢磨にここまで指導するつもりはなかった。深雪との試合を何度か見せればいいと思っていたのだ。

しかし、咲のお人好しというか優しさといえばいいのだろうか、だんだん咲は琢磨に魔法のアドバイスをし始め、次に自分の考えた魔法を教え、今は週に1回つきっきりで指導している。

 

咲は身近な人にとても甘いのだ。それも身近になればなるほど。逆にあまり好きではない人や知らない人にはあまり好意的に接しなかったり、もともと姿を見せなかったりする。琢磨は咲と似ているところが多く、琢磨に対して咲は親近感が湧いているので魔法を教えるようなことまでしているのだ。

 

琢磨がこの一ヶ月教わっているのは、空気の群体制御。普通空中には何もない存在しないようにみえる。しかし、空気中には窒素、酸素、二酸化炭素など様々なものが本当は存在している。酸素分子や窒素分子などを一つの物体と考え、それが群体となって空気となっていると咲はイメージしたのだ。

それを群体制御として操り、空気中の分布を偏らせることによって、窒息乱流のような効果を持つ魔法として使うことができたり、他にも空気を全て移動させることによる強力な収束・発散系のような風を引き起こすようなこともできるなど使い方は様々だ。

 

この技術と空気中の水を分解する技術があれば淡の超新星が使えるのだが、琢磨には魔法力的に無理があるし、そもそも咲は教えるつもりは流石になかった。

 

琢磨は自分の家のお家芸であるはずの群体制御でも咲の方が上と4月の対戦で理解していたので、咲に群体制御の魔法を教えてもらっているのだが、授業や家で今まで練習していたことよりはるかにハイレベルなことであるのでなかなか苦戦しているのであった。

 

「魔法はイメージよ、魔法の結果をイメージできないならイメージを鍛える訓練をした方がいいわ」

 

「いえ、イメージはできてるんですが…」

 

魔法の結果のイメージは七草戦で窒息乱流を目にしているからできているのだが、中々成功しない。それが魔法士にとって普通でありイメージだけで魔法を使える咲がおかしいのだが琢磨はイメージできているのに成功しないので悔しそうに手を握りしめた。

 

 

 

琢磨への指導が終え、2人で喋りながら実験室の片付けをしていると話題は自然と1年生が一番気になっている目前に迫ったものの話となる。

 

「師匠はテスト勉強しなくていいんですか?」

 

そう、目前に迫った定期試験の話となる。琢磨は咲が昨年度総合で学年トップであり、理論も2位であることを知っており大丈夫などと返ってくると予想した問いかけであったのだが

 

「そうだったわね…赤点ギリギリ回避できるぐらいは勉強しないと…」

「師匠は理論昨年度2位だったじゃないですか」

「合計はそうだし、勉強しなくても一科目を除いてほとんど2位は取れるわ。だけど応用魔法理論は全く理解できないのよね…」

 

咲ができないもの。二年生になって始まった応用魔法理論だ。去年の基礎魔法理論ですら全く理解できずにあやふやで乗り切ったイメージで魔法を発動する咲にとって、基礎の上の応用など理解できるはずがなかった。

 

「師匠でも苦手なものあるんですね」

「魔法を使えるのだから使えるでいいと思うのだけど。最近家で九校戦のメンバー選出もしているからあまり勉強してないのよね」

「こんなに早くからですか?」

「直前であわてたくないもの」

 

九校戦の種目が公式に発表されるのは7月2日。琢磨が言うように準備が早いように思えるが数年ルール、競技と共に変更はないので先に始めてても問題ないという咲とあずさの判断だ。

 

「師匠は去年と同じ種目ですか?」

「クラウドボールは出ると思うけどバトルボードは面白くないしあんまり出たくないとは思ってるわ。今のところは去年と同じ種目に出ることになってるけど」

 

バトルボードは対戦相手に気を使うので咲はあまり好んでいなかった。本当は九校戦自体がめんどくさいのだが生徒会長であるので出ないわけにもいかず、もし仮に出なかったら深雪が怖いので出るしかないのだ。咲は片付けを行いながら琢磨に隠れてため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

定期試験を終え(応用魔法理論は達也に頼ってなんとか乗り切った)、九校戦の種目が各魔法科高校に正式発表される7月2日。その日の放課後、達也と深雪はいつもと同じように生徒会室に向かった。達也が生徒会室の扉を開けた直後、部屋の中から漂ってきた暗く重い空気に達也は足を止めてしまった。

 

「どうかなさいましたか?お兄さ…」

 

達也だけではなく深雪も簡単なセリフを言うことができなかった。2人の視線の先にはこの世の終わりのような絶望感を放ちながら頭を抱えているあずさと机に金髪を広げ突っ伏している咲がいたのだ。

 

「あ、2人とも。ご苦労様」

 

そんな2人がいる机から途方にくれた顔の五十里が2人に話しかける。それがきっかけで達也はこの重苦しい部屋に入る決心がついた。ちなみに達也は生徒会ではないのだが五十里には生徒会メンバーと変わらないと思われている節がある。

 

「お疲れ様です、五十里先輩。一体何があったんですか」

 

机に突っ伏している咲のケアには深雪が向かっているので達也は五十里に事情を訊ねた。

 

「いや、それがね…」

「九校戦の運営委員会から今年の開催要項が送られてきたんです!」

 

歯切れの悪い五十里や突っ伏している咲のかわりにあずさが質問に答える。

 

「確かに、今日でしたね」

 

達也は咲が家で今日発表されると言っていたことを思い出す。

 

「それで何が問題だったんですか?」

「「何もかもです(よ)!」」

 

あずさと咲、2人が同時に顔をあげて呪詛のような愚痴をこぼし始めた。

 

「開催要項は競技種目の変更を告げるものでした!」

「何が変わったんですか?」

咲が家で去年と変わらないことを前提に準備しているということを達也は咲自身から聞いていた。達也は競技が変更されるということを考えていたが、近年競技種目の変更をされていないのでこの2人は考えていなかったようだ。別に今日種目変更の通知があったのはルールどおりの手続きであり、種目を変更しないというルールはないのだ。

 

「三種目よ…」

 

咲の怒りと落胆が入り混じったような声で返した答えには、達也も驚かずにはいられなかった。

 

「スピードシューティング、クラウドボール、バトルボードがなくなって、新たにロアーアンドガンナー、シールドダウン、スティープルチェースクロスカントリーが追加されました!」

 

咲の回答にあずさが付け加えるようにこう言った。全6種目中半数が入れ替え、そして必要魔法の種類がかなり異なる。これでは最初の選手の選考からやり直さなければならないだろう。

しかし、ここまでの話で決めつけるのは早計すぎた。あずさの回答に付け加えるように再び咲が口を開いた。

 

「しかも今回は掛け持ちできるのスティープルチェースだけなのよ。その上今回追加されたものとピラーズはソロとペアに分かれてるのが面倒なのよね…」

 

咲が無気力状態で言った言葉にあずさは大きく頷いている。ここまで至って達也は妙に納得感を覚えた。今回のルール変更は九校戦の戦い方に劇的な変更を強いるものである。戦略も戦術も一から見直さなければならないだろう。

早めに準備してたことが裏目に出たのだ。咲とあずさが落ち込むのも無理はない

 

「あの、お兄様…」

 

咲とあずさをどうやってなだめようかと考えている達也に、後ろから深雪が遠慮がちに声をかけた。

 

「新しく追加された3つの競技とはどのような競技なのですか?」

 

深雪は咲のあの状態を戻すのをひとまず諦め、九校戦の選手としての興味を優先したらしい。

 

「俺の知ってるルールとは同じとは限らないが…ロアーアンドガンナーはロアー、漕ぎ手とガンナー、狙撃手がペアになって無動力のボートを走らせながら水路脇に設置された的や水路上を動き回る的を狙撃する競技だ。ゴールまでのタイムと命中したマトの数で競う。ソロがあるということはどっちも兼ねる競技形態もあるのだろうな。」

 

深雪からの質問がないのを見て達也は続けた。

 

「シールドダウンは盾を使った格闘戦だ。一段高くなった試合場で行われ、相手の盾を破壊する、奪う、または場外に相手を落とせば勝利だ。相手に身体的物理的な攻撃を加えることは禁止されているが、盾に対する攻撃は可能。つまり魔法、自分の盾、自分の身体で相手の盾を攻撃するか、魔法で場外に落とすのが戦い方だな」

「お姉様が好きそうなルールですね…」

「深雪?」

「なんでもありません、お兄様」

 

深雪が小さく呟いた声を達也は聞こえていたが聞かなかったことにして話を続けた。

 

「スティープルチェースクロスカントリーは名前の通りだな。障害物競争をクロスカントリーで行う競技で走破するタイムを競う競技だ。各国の山岳・森林訓練で取り入れられてる軍事訓練の一つで、障害物には物理的な自然物や人工物の他、自動銃座や魔法による妨害も用いられる」

 

「随分とハードな競技ですね…」

 

「前二つはともかくスティープルチェースクロスカントリーは高校生にやらせるものじゃない。運営委員会は何を考えているんだ」

 

詰るように達也が呟くと五十里から驚愕の情報が追加された。

 

「しかもスティープルチェースは2,3年生なら男子女子全員エントリー可能。実質、全員参加だね」

 

「余程しっかり対策を練らなければドロップアウトが大勢でますよ」

 

達也の言うドロップアウトは競技ではなく魔法師人生からのドロップアウトという意味だ。

 

「そんな……!」

 

「女子の部は上位独占、ドロップアウトなしでいけると思うけど問題は男子ね」

 

絶望して再び突っ伏したあずさと対照的に咲は顔をあげて何か考えるポーズをしていた。

 

「どういうことだ咲?」

「だってこの競技、簡単にいうと『山を走る』競技なんでしょ?だったら女子のスティープルチェースは任せといて」

 

謎の咲の自信に達也と生徒会メンバーは頭に疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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