狂女戦記 作:ホワイトブリム
低地での実験の準備の為にちょっとした休暇が出来た。
高高度での落下から意識を回復したエステルは魔力の回復と食事療法に努め、鍛錬も無理の無い範囲で
どの道、次の内示が来るまで身動きが取れないのだから勝手に施設を飛び出すことは出来ない。
「回を重ねてきて思ったんだけど……」
エステルが食べる肉をデグレチャフが細かく刻んでいた時に言った。
「んっ?」
「爆発しなくなったよね」
「する前に落ちているからな」
エステルの言いたい事は理解出来る。
毎回、花火を打ち上げていたのがここ数日はとても静かになった。
それは単純に新型に供給する魔力がお互いに減っているからだ。
連日のように飛べば出力が低下するのは自明だ。
それほど激しい消費を伴なう演算宝珠は長い戦闘には不向きではないだろうか。
小型化に
当然、逃げているこちらは次第に疲弊してくる。
充分に休んでしまえば爆発力が戻ってしまうかもしれない。
我々は
演算宝珠という名前の着火剤ではないのか、と疑いたくなる。
「そもそも爆発するようなものを作ってほしくない」
高高度で活動して酸素欠乏症にならなかったのは防御術式のお陰かもしれない。
身体だけは意外と丈夫というか、しぶといというか。
エステルは意外と前向きなので感心する。
そんな彼女も回を重ねる実験に
理解は出来る。あれは誰でも怖いだろう。私も怖い。というか、やりたくない。
児童虐待装置と名付けて他国に売ればいい。
次の実験が再開されるまで一週間。どんなおぞましい結果に仕上がるか想像はしたくないが
少なくとも高高度の実験ではないので落下は回避される筈だ。
低地の実験となると様々な攻撃や回避などの運動だろうか。
デグレチャフとエステルは幼女の見た目らしい戦々恐々とした日々に恐れを抱いた。
幼女どころか開発スタッフですら爆発を伴うような実験はやりたくない筈だ。そして、これが大人の兵士であっても辞退を願う。二階級特進を進んで願う勇者が居れば会ってみたいものだ。
★ ★ ★
エステルは食事の後に鍛錬と称する筋肉増強の訓練を続けた。
人一倍の努力は小さな身体から
それでも栄養が足りないのか、何年も続けているはずなのに華奢な体型に変化が見られない。
少しでも食事を改善しなければ身体を壊す事態にしかならないのではないだろうか。
牛乳や卵も取り寄せて試してはいるようだが。
慢性的な食糧不足は兵士の育成の妨げだ。
デグレチャフも健康の為に運動をするのだが、エステルの三分の一ほどで限界を迎える。それほど
あの
自分の記憶にあるのはエステルが三歳くらいの時だが、既に驚異的な運動能力を保持し、並みいる男子を撃退していたのは覚えている。
いつも血に染まっていた悪魔のような幼児。第一印象としては最悪だった。
思えば既に
狂気を
普段は人当たりの悪くない普通の女の子。別段、悪童の頂点というわけでもない。
自分は普段から外に出かけて食料を求めていたせいで施設の中の暮らしから避けていた
男子に対する敵意は殺意と同等。あの歳で殺しを覚えていても不思議はないかもしれない。
疫病で死んだ子供を平然と解体し、小さくまとめて墓地に埋めていく。
そんなことを十歳に満たない子供に出来るだろうか。
明らかに不自然だ。
そんな人間でも病気になり、人並みに弱点があるところは普通の人間に見えてしまうのだが、それは果たして彼女の本質なのか。
戦争が日常茶飯事の国の少年兵というものは殺人に抵抗が無い。あまりにも身近にありすぎるからだ。
そんな危険物を内包した人間が今まで軍内部で問題行動を起こした、という噂をデグレチャフは全く聞いた事が無い。逆に暴力を受けている、という噂はよく聞いていたが。
悪い印象を聞かない、というのは素直に驚くべき事だろう。そうだとすると自分の噂に語弊が出る気がするけれど。
武器を持たずに単独で敵兵を撃退したのは信じられない事だが、死体や捕虜が居るので疑うべくもないし、戦闘力は本物だろう、と。