狂女戦記 作:ホワイトブリム
身体の次に頭も洗ってやったが如何わしい事はされなかった。
次の日も同じような事があっては
女性に興味が無いわけではないのだが、幼すぎる。前世の記憶を持っているせいか、倫理観に囚われているのかもしれない。とはいえ、
身体が綺麗なだけで襲う理由にはならないが、自分は性格的に歪んでいると思っていたのが嘘のような気がしてきた。
仕返しとしてエステルの乳首を吸ったり、尻を撫で回せばいいのか。
せいぜい首筋を舐める程度しか出来ない気がする。
よくよく考えたら変態ではないか。
男女の営みにケチを付ける気はないけれど、当事者となると色々と頭の中がもやもやしてくる。
風俗で一通りの経験でも積めば良かった、と自分は後悔しているのか。
「……全く……、なんでこんなことに……」
トイレで排泄しながら女の身体を呪う。いや、性別に責任は無い。
エステルの前世は女性のようだが、存在Xは何を考えてあの女を転生させたのか。
まあ、私を殺せと命令したんだろうけれど。
神への祈りを捧げない事で暗殺者を差し向けられるとは想定していなかった。それも同じ転生者で。
しかし、今にして思えば疑問が残る。その
エステルの
全く良く分からない自称、唯一神様だな。
★ ★ ★
最終日を控えた日も暇なので鍛錬に付き合うわけだがエステルはいつもと変わらないハードなメニューをこなしていた。
小さな身体から滴る汗。
それだけ見れば立派なアスリートだ。
「貴官は……、処女だよな?」
「たぶんね」
質問しておいて何を言っているんだろうとデグレチャフは自分に呆れた。
非処女だったらどうするというのか。
それを確認する意味は分からない。
昨日の出来事が強く印象に残っているせいで正しい判断が出来なくなってきたのではないか、と。
人生でそうそう女に襲われる事はないと思っていた。しかも幼女に。
以前の身体なら喜ぶべきことだろうか。会社の人間に知られれば人生設計が崩壊する事は確実かもしれない。
少なくとも自分は幼女趣味は無い、はずだ。
前世が男性というのが問題かもしれない。
「……貴官はあれか……、同性愛者というやつなのか?」
「んー、そんなことないよー。ただ……、可愛いものはどちらも好きってだけ」
悪戯っ子の笑みを浮かべるエステル。
明るい場所で見れば本当に可愛い娘だ。だが、内に隠された本性は本物の獣。
唇からこぼれ出る舌が今は恐ろしい。
エステルは直立した状態から上半身だけ地面に向かって倒す。普通は逆に屈んだ状態から尻を上げるものだ。
「〈疾風走破〉」
そう言った後、突風を発生させて前方に突進していく。それは普通では出せない突進力を伴なっていた。
「だいぶ
「前世は女性なのだな」
「そうだよ。うっかり殺されちゃってね。そしたらデウス様に転生されられたってわけ。別に死んだままでも良いかなって思ったけど……。〈能力向上〉」
小さな身体が少しだけ膨らむが数分後に元の大きさに戻る。
「私を殺せと言われて取り引きしたわけだ」
「その時はカンカンに怒ってたみたいだけど……。後で冷静になって後悔とかしたんじゃないかなー。あんまり積極的に催促とかされなかったし。まあ、私としては今の暮らしに文句は無いから殺しに関してはどうでもいいんだけどねー」
「どうでもいいのか?」
「私は戦士として戦えればいいんで。殺しは趣味みたいなものだよ。趣味だからやりたくないことはしない」
潔いというのか、正直者というのか。実力があるから平気なのか。
あまりに邪気の無い言葉にデグレチャフは拍子抜けする思いだった。
質問に普通に答えている点でも改めて不思議な人間だと感じた。
★ ★ ★
命令を受けたからにはデグレチャフをいずれは殺すことになるかもしれない。それは殺される予定の本人も何となくは感じていた。
命令を遂行しなければエステルの身が危なくなる、かもしれない。
これは私怨ではなく、存在Xが下した命令だ。だから、責任は存在Xにある。
今のところ拒否権が無いだろうけれど、忘れてはいけない問題として覚えておく事にした。
「命令に失敗したらどうなるか、考えた事はあるのか?」
「銃殺刑とかじゃない? 私とて簡単に殺されたくないから多少の抵抗はするよ」
「私怨は無いのか? 転生に不服とか」
「少しくらいはあるだろうけれど……。転生しちゃった今はこちらの世界でどう暮らすかが大事だと思ってる。デグレチャフ少尉はデウス様のことが嫌いみたいだけど……」
「好きではないな。いずれは倒したいと思ってる」
「それについては私からどうこう言うつもりは無いけれど……。あまり反発すると催促が来るかもしれない」
「……う。……それは厄介だな」
「私は別にデグレチャフ少尉に強制したいとは思っていない。どんな神に祈ろうが自由だと思う。けれど……、神様自身が強制してくるとは思わなかったし……。面白いよね」
「面白くない!」
笑うエステルに対して憤慨するデグレチャフ。
神への信仰心の為に
「現時点でデグレチャフ少尉を殺せば、どの道、銃殺刑かな。案外、切り捨てられる結果になりそうだね」
都合のいい駒の替えくらい神様はたくさん持っている、かもしれない。
捨てられるまでは自由に過ごしたい。従順な
それは元の世界に愛着が無くなったとも言える。
向こうの世界に居た『クレマンティーヌ・ハゼイア・クインティア』は死んだのだから。