狂女戦記 作:ホワイトブリム
戦場は広範囲に広がっているので時間差で砲台の着弾音が聞こえたりする。
既定の時間になれば開戦の合図が出るようなものではない。
各CPを束ねる
直接狙われれば自己判断で迎撃や撤退をしなければならない。今のところエステル達が待機している場所は主戦場からかなり離れているので比較的、安全だった。
「諸君。起床早々で悪いが機動防御戦の用意を整えてくれ。新たな砲兵が追加されたようだ。余裕があれば叩いておくように」
中隊長が待機している拠点に集められたエステル達はそれぞれ姿勢を正して話しに耳を傾ける。
疲弊具合では他の小隊も似たようなもので、目の下に隈が出来ていたり、服や顔が汚れたままだったりしていた。
「了解しました」
「エステル少尉は威嚇射撃を
「はい」
一般魔導師の広域射撃はあまり効果が薄いがエレニウム九五式は数倍規模の
装備の確認作業をしている間、戦場にかけていく歩兵達の声が聞こえてきた。それが開戦の合図のように感じた。
エステルは先行して規定の場所に向かい、狙撃銃を構えて九五式に
「……我が祖国を犯さんとする
散弾術式を広範囲にばら撒く。
空中から撃ち出された術式の弾丸は目標地域に次々と撃ち込まれていく。
着弾の規模から
「……んー。魔力反応……」
恍惚状態とはいえ魔力反応は感知出来た。
かなり遠距離からエステルに向けて敵意をぶつける存在が居た。
すぐに索敵術式を展開し、遠視術式を併用する。
「……こちらロビン01。……敵魔導師……。中隊規模を確認……」
『こちらCP。情報を送れ、オーバー』
「了解」
演算宝珠を起動したまますぐに情報をCPに送る。それはほんの数秒間の出来事だった。
九五式を起動している間は驚異的な索敵能力などが発現し、通常の数倍の処理能力を叩きだす。
『おそらく観測者狩りの魔導師だろう。迎撃が可能ならば接敵戦闘を許可する』
「了解。敵魔導中隊を撃滅します」
報告を終える頃にはトランス状態から脱し、意識がはっきりしてくる。
まだ新型宝珠に慣れない為に自分で何を言ったのか分からず、耳に聞こえてくるCPからの言葉に驚いてしまう。
「CP。こちらロビン01。……私は何を報告した? 新型宝珠の影響下では意識が散漫で把握が難しい。オーバー」
『敵性魔導師の存在をこちらでも確認した。報告の不備は無い。任務を継続されたし』
「……りょ、了解」
敵魔導師がどうしたというのか。
脳内に浮遊感のある演算宝珠の使用は何かと不安だ。とにかく、遠視術式を展開し、改めて索敵を
つまり自分はそれを報告した、という事だ。
二度手間になる作業では今後の戦闘に影響する。早く慣れなければ、とエステルは頭を振りながら思った。
エレニウム工廠製九五式の起動はただ出力が上がるだけではなく、人知を超えた能力と引き換えに使用者の意識を汚染するもの、とデグレチャフは言っていたがエステルには窺い知れない。
実際に使って学んでいくものだ。
確かに自分で報告したことも覚えていないのでは今後の活動に支障が出る。
なにより
罵詈雑言だったら後が怖い。
使わないよりは使い続けてコントロールするしかない。
「……敵魔導師の存在を認める。これより掃討戦に移行する」
と、部下に指示を飛ばすエステル。
敵の規模を伝えるとユースティス・ベルリッヒ伍長達は驚いたようだ。
無謀もいいところだ。
英雄願望を持つ新兵も大勢の敵を前にすれば常識人になるようで、エステルは少し安心した。無謀な部下ではない事が分かったので。
「撃墜スコアを私が稼いでも良いのか? 新兵諸君も敵を多く倒したいだろう?」
地上の兵士を空から撃つ事は出来ても自分たちと同等以上の相手には腰が引けるようだ。
『CPよりロビン01。オーバー』
「こちらロビン01。オーバー」
『敵魔導師は第二〇五強襲魔導中隊に任せて貴官の小隊は任務を継続されたし』
「……二〇五……。了解した」
一人で突貫する事にならなくて安心し、同時に折角の戦闘が出来なくなって少しだけ勿体ないな、と思った。
とはいえ、あまり目立つ事をすると敵に狙われやすくなると聞いていた。
エレニウム九五式を起動した時点で充分に目立っている気はするけれど。