狂女戦記   作:ホワイトブリム

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#003

 act 3 

 

 強姦が日常茶飯事の修道院生活も半年が経過したが私はまだ生きていた。あと、処女ですよ。

 とにかく穴なら何でもいいのか、同じ体勢に飽きたのか。様々な方法に挑戦する悪童共。

 ある女は眼球を引っこ抜かれた上で突っ込まれていた。もちろん、数日後に死にました。

 殺されなければ行為を受け入れる女は二週間くらい後で自殺している事が多い。どうにも病気になって錯乱状態に陥るらしい。不衛生な環境なので男も後を追うように死んでいく。

 それでも次から次へと同じ事が繰り返されてしまう。

 生き残った子供達は労働に従事してまともそうな食事を食べる。その中にあって私は肉が全て人肉に見えて身体が受け付けないようになってしまった。食べたら美味しいんだろうけれど。いくら飢えていてもどうしても口には入れられなかった。

 夜間の奇襲で(ひたい)を割られてしまったが何とか逃げ延びた。

 慢性的な睡眠不足で集中力が減退したせいか、頭が思うように回ってくれない。

 全く、野獣()共め。抵抗する力もここ最近は衰えている気がする。

 圧倒的に栄養が足りない。

 

「……戻らなければ他の子が襲われる(犯される)か……」

 

 手持ちの武器は石ころしか無い。

 そろそろ武技(ぶぎ)の一つも使えないと苦しくなってきたところだ。

 せいぜい三つか、五つが限界だと思う。

 不意を突かれたとはいえ、闇討ちとはいい度胸だ。

 数分間、瞑想する。

 久方ぶりの敵だ。美味しく調理しなければならない。

 

デウス様……。私にご加護を……」

 

 そして、少女()は走った。

 あまり殺傷力は発揮できないが二度と性行為が出来ないようにするくらいの力はある。

 残念ながら少女が好きな人殺しが出来ないほどに力が弱っていた。

 戦闘終了後には闇討ちされた男の子が転がりながら修道院を後にする。おそらく二度と戻っては来ない。

 返り血を洗い流し、身を隠す床下に潜む。

 貞操(処女)を守る為に独自に作り上げた隠し部屋だ。

 血を流しすぎた為に睡魔が襲ってきた。しばらくは平気だろうが、もう動けないかもしれない。

 苛酷な環境での戦闘は気が休まらなくて素晴らしい事だ。

 次に目が覚める頃、ベッドの上だった。

 

「気がついたかい?」

「………」

 

 私は口を開けたまま何も言葉を発しなかった。

 不思議と言葉が出て来なかった。

 側に居るのは医者だろうか。白衣のようだから。

 それから相手が何か喋っているようだが何も聞き取れなくなり、意識が遠退(とおの)いた。

 適切な治療とは言いがたいが意識がはっきりしたのは二週間ほど過ぎた辺りだった。

 治療費などを修道院が払えるはずが無い。では、なぜ治療を受けられるのか。

 

「神の(おぼ)()しですよ」

 

 と、修道女(シスター)は言っていたが、そんな筈は無い。

 きっと私の身体を目当てに何がしかの取り引きでもしたのだろう。

 とはいえ、今更抵抗しても手遅れのようだから諦めるしかない。

 身動きが取れないのは拘束されているからではなく、身体に栄養が行き渡っていないからだ。

 さすがに病気を恐れて裸の女の子で遊ぶ度胸は無いか。

 では、奇跡か。

 デウス様のお陰か。

 鍛錬にかまけて祈りを忘れた罰なのか。

 意識を保つのが難しい。

 

          

 

 今まで居た修道院が戦場になる為、軍が接収して中に居る子供たちを全員仮の施設に収容する事になったらしい。

 私は身動きが取れないが兵士達の監視があるため身の安全は最低限保障されることになったようだ。だが、その兵士も夜間に襲ってこないとも限らない。

 衰弱して病気持ちかもしれない女の子を襲うというのは考えすぎかもしれないけれど。

 軍の施設での生活が始まり一ヶ月が経つ頃には一人で歩けるまでに回復した。

 だが、兵士達の食糧事情は逼迫(ひっぱく)しているらしく、満足な栄養が得られないようだ。

 事態は既に子供たちだけの問題では無い。

 それを改善するには現状を打破するしかない。

 少なくとも戦場を一つでも減らさないと食糧生産に予算が回らない、と親切な兵士が教えてくれた。

 ターニャは熱心に兵士達から情報を集めているようだが私は満足に動けなかった。

 貧血と栄養失調。

 食糧事情の改善が急務だ。

 新しい修道院に移り、七歳になる頃まで目立った争いも無く平和を謳歌できていた。

 貧困が争いを生むのは何所も一緒のようだ。

 いつもの日常を送っていると軍関係者がやってきて身体検査を受ける事になった。

 戦いは激化しており、兵士は慢性的に足りない。とか言っていたが私にはよく分からなかった。

 栄養が脳にあまり行き渡らなくなったせいか、意識が散漫になり易くなっていた。

 

「はーい。みんな並んでー」

 

 男女問わず裸になり身長体重などを調べていく。

 私は何度か気持ち悪くなって嘔吐していたせいか、肋骨が目立つ痩せた身体に絶望する。

 かつては鷲掴みできるほど豊満だった巨乳(きょにゅう)虚乳(きょにゅう)になっていた。それだけで死にたくなる。

 他にも栄養失調気味の子供が居た。むしろ、それが普通であるかのように誰も気にしない。

 ターニャは比較的、健康に気を使っていたのか不健康には見えなかった。

 彼女が病気になったところは見た事が無いから当たり前かもしれない。

 検査は滞りなく進み、私の番になった。

 ヘルメットみたいなものを被り、何かを検査するものらしいがよく分からなかった。

 

「これは魔導適性を検査するものだよ」

電気は使うけれど痛みを与えるものじゃないから安心するように」

 

 見慣れない検査器具だったが私は大人しく従った。

 ヘルメットには赤い石が付属していて、これが何なのかはもちろん分からない。だが、反応すると緑色に輝くのは見えた。

 ただそれだけだが。いや、よそ見していてあまり注意深く見てなかっただけだ。

 そのヘルメットを自分も被る事になった。

 そして、検査員が機動の為にスイッチを入れてすぐに頭を激しく締め付けるような痛みを感じた。

 それは物理的というよりは()()()()()で締め付けるようなものだった。

 頭の中にたくさんの文字や知識が躍り狂う。

 

「……あっ、痛い……」

 

 耐えられないほどではないけれど今まで抜け出た日常の記憶が逆回転で戻って来るような感じだった。

 頭の中を直接動かされているようで気持ち悪くなり、その場で嘔吐したり鼻血が出て来た。

 

「だ、大丈夫か!?」

「……機械が煙りを!? 検査は中止っ!」

 

 結構酷い状態だったらしいけれど午後には頭痛が止み、何故だが気分はすっきりしていた。まるで溜まっていた汚れが抜け落ちたかのようだ。

 あの後、ターニャも何かしらの反応を示して検査員を驚かせたらしいけれど、結局は何が起きたのか誰にも分からなかった。

 

          

 

 鼻の奥から大きな血の塊が出てびっくりしたが、それ以外は特に問題なく日々を過ごす事ができた。

 検査の後のお陰か、注意力も戻ってきたようだ。相手の話しが良く頭に入ってくるので。

 食生活はまだまだ改善しなかったが、寄付金は少し増えたらしい。

 寄付だけで運営出来るほどこの国は甘くないようで、豊富なのは戦争孤児や捨て子くらいだ。

 そして、死んだ子供の処理をしていたある日、また軍人が修道院に訪れた。

 目的は兵役志願者(つの)る事。

 ターニャの(げん)では帝国は兵士に事欠いている状況で女子供でも徴兵対象とするほどに追い詰められているという。

 圧倒的な武力を持つ帝国が危機に立たされている。

 ただ闇雲に徴兵しているわけではなく、先日の魔導の資質検査にお眼鏡が(かな)った子供たちを集めようとしている。

 もちろん、志願は任意で強制力は無い。それによって幾許(いくばく)かの寄付金が孤児院や修道院に入るならば子供を提供する事に目を瞑るのは、この世界の大人社会では一般的なのかもしれない。

 身寄りの無い子供の将来など修道女(シスター)にとっては神のお導き以外の何者でもない。

 

魔導適性のある子供達で志願兵となりたい者は前に出ろ」

 

 兵士の言葉に真っ先に進み出たのはターニャ。次に私だ。

 少なくとも現環境を変えたいと思っていたので渡りに船だった。

 あと数人が前に出た。

 即戦力として戦場に出るわけではなく、適性があるのか再調査を受けて(ふる)いにかけられるらしい。

 兵士達の車に乗った後、小さくなっていく修道院。

 毎日が狂っていた。それに対して大人は何も出来ない。

 貧困というのは倫理観の欠如した人間の生産工場のようなものだと思う。

 秩序のない集団は所詮、獣と同じ。生きる為に他者を食らい、犯し尽くす。

 この世界はとても()()なところだ。

 ありがとう、デウス様。

 


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