狂女戦記 作:ホワイトブリム
当たり前だが軍刀を片手に持っているデグレチャフ。
今まさに切断された手が地面に落ちる様子を見る事になるエステル。そして、何がしかの異常事態に気づく周りの面々。
これで騒ぎにならない方が不思議だ。
落下した拍子に引き金が引かれる事は無く、周りへの被害が無かったので安心した。
「きゃ~!」
最初に気付いて叫んだのは後ろに居たセレブリャコーフ。
「ふぅおっ!」
続いて腕を切断されたエステル。
いきなり切断されたにも係わらず平然としていられる人間であれば凄いのだが、常識的な反応はむしろ安心した。
銃を持つ腕。ほんの一瞬の間に何が起きたのか。それを知っているのはデグレチャフのみ。だからこそ弁明が出来ない。
目撃者がたくさん居るはずなのに
オイレンベルク中尉と他の将校連中が銃を抜いてデグレチャフに向ける。
「なっ、何が起きた!?」
「デグレチャフ少尉! これはいったい……」
「……小官の弁明はあまり意味をなさないと思いますが……」
「痛い……。痛い痛い、ああ……。クソっ、気持ち悪い……」
エステルは止血を試みようとしているのか、痛みをこらえる為にしゃがみ込み、脇の下を掴む。
地面に転がる腕は銃を握っている。それは何故か。
混乱する頭でもトランス状態に陥り、デグレチャフに銃を向けた、とは思った。だが、切断するほどなので事態はもっと深刻だった、というところまでは考えられた。
それにもましてエステルを苦しめるのは腕の痛みと共にやって来た激しい頭痛。
吐き気も凄く感じる。
全身に何がしかの異物が混入したような気持ち悪さだった。
切り口から流れ出る血で地面に赤い水溜りが出来つつある。
「……ぐぅう……」
いくらトランス状態とはいえ味方を攻撃するはずが無い。
理由の無い
ならば、考えられるのは身体を乗っ取られた事くらいだ。
「〈
精神を回復させる魔法が思い出せない。
気持ち悪い感覚を消したい。
エステルは苦しみながらも様々な事を考えた。
かなりの血が流れてしまった。あと、無駄に体力も消費した。
これから戦闘だというのに満足に戦えなくなるのは
邪魔したら殺すって言ったよね。
エステルは苦悶の吐息を吐きつつ魔法を唱える。
「〈
低位階だが、存在が大きければ何かに反応するはずだ。そして、エステルはただ黙って立ち尽くしはしない。
すぐに自分の拠点に向かい、相棒である『スティレット』を探し当てる。その間に腕は再生しつつあるがまだ完全ではなかった。
血を流しすぎた為にエステルが持つ
多少の理性は維持されているけれど、彼女の中に噴き上がる『怒り』は止められそうに無い。
事実、誰一人として疾走するエステルを止められた者は居なかった。
「……
二本のスティレットを携えてエステルは空に飛び上がる。
★ ★ ★
地上に残された中尉と伍長達は唖然としていた。
デグレチャフも現場から動けなかったが地面に落ちているエステルの腕に顔を向けていた。
突発的とはいえ切断はやりすぎだったかもしれない。
再生出来る、という事に甘えてしまったツケはきっと大きい。
腕一本で済むのならば甘んじて受けるが、全く存在Xという邪神は行く先々で邪魔をしてくれる。
「……しょ、少尉……。なぜ、凶行に走ったのですか?」
と、心配そうな眼差しで問いかけてくる『ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ』伍長。
「小官は正当防衛を主張いたします。銃口を向けられて黙って撃ち殺されたくはないので。もし、エステル少尉が小官を傷害で告訴したい場合は甘んじて受ける所存であります」
少なくとも銃殺は無いとしても降格は覚悟しなければならない。
昇進が遠退いても安全な後方勤務に就けるのならばこれ以上の弁明は無意味だ。
黙って撃ち殺される選択は元より無い。
「……小隊長殿は何処へ……」
敵を迎撃しに行ったのだろう。
その戦いには少し興味があるけれど、姿無き相手とどう戦うのか。
出来れば