狂女戦記 作:ホワイトブリム
現れたのは獅子の頭部を持つ人型の天使で背中に鳥のような白い翼が四枚あり、一対は普通に背中で広げられ、もう一対は腰の部分を覆っていた。
光り輝く重厚な鎧をまとい、左腕には目の模様がある盾を装備している。
この天使型のモンスターは『
大きさは7から8フィートほど。成人男性より少し大きいくらいだ。
伝え聞いた
上位天使とは思っていたがスレイン法国出身の自分が天使と戦う事になるとは滑稽な話しだ、と愚痴をこぼす。
姿を見せた事で兵士達からどよめきが広がる。
「な、なんだ、あの化け物はっ!」
「子供が戦っているぞ!」
範囲魔法を使わないのは人間への殺生が禁じられているのか、それとも気にする価値のないゴミと思って無視しているのか。
どちらにせよ、逃がす気の無いエステルは自分に活を入れる。
貰った制服は焼け焦げていて、しかも血まみれ。
制服に付けていた『銀翼突撃章』は溶けてなかったが危ないので、外して近くに居た兵士に投げ渡す。
「あんまり近くに居ると死ぬよ」
そう言って突撃するエステル。
手に武器は無いが盾で防いでくる
「……その盾も相当な硬さがあるな」
少なくとも
神の世界の貴金属はとても希少で魅力的だ。だからこそ、光り物が好きな女の子としては
さすがに鎧は装備できそうにないので諦めるが。
男物で無骨であまりかっこ良くなかった。
「……時間を止めたらどうお?」
「………」
エステルの挑発に無言を貫く
天使自身は分かっている。
時間を止めていられる期間に限りがある事を。
再度の時間停止でもエステルはきっと追いついてくる。ここで倒しきる以外に天使に選択肢は無い、と。
かといって天使はエステルを殺害する動機が無い。しかも神の信徒でもある。
迂闊に彼女の身体を使用したのが間違いであったのかもしれないが、人間風情に自らの過ちを認めるのは天使の沽券に関わる。
そのようなジレンマで身動きが取れなくなってしまった。
神の恩恵を持って挑んでくる以上、これは神が自らに課した罰かもしれない。
★ ★ ★
と、
柔軟な身体捌きで
ズボンが多少破れてしまったが、気にしてはいられない。
「ウラァ!」
と、叫び声を上げて新たな
〈疾風怒濤〉
二刀流の攻撃
千切れた部位は光りの粒子を放ちながら消滅し、高速治癒で再生が始まっていく。
天使型のモンスターはどれも人間離れした容貌で、血などを流すのかも不明だ。
今のところ光りの粒子のような物がこぼれている以外は赤い液体は見当たらない。
赤でなければならない理由は無く、青でも構わないけれど。
この場合、相手に血を流させる
分からないものは仕方ないとすぐに脳裏から追い出して攻撃を続行する。
いくら高速治癒とてダメージは受けているし、体力も減っている気がする。
このまま倒しきれるのかは分からないけれど。
しかし、それでも上位天使は侮れない。
素手による攻撃を受けてはいるが肋骨は一撃でへし折られている。まともに相手の攻撃は受けられない。
とはいえ捨て身でもない限り勝機が掴めないのは
エステルの中ではまだ倒しきれないのか、という焦りもある。
気がつけば両腕が復活していた。だが、剣と盾は奪い取れた。
使える
「……力の差が開きすぎか……」
攻撃は通っている。それは演算宝珠の恩恵だと思われる。普通ならばまず太刀打ちできない。
攻撃した本人だからこそ分かる。
ただでさえ小さな身体で相手をしているのだから余分な体力を消費している気がする。
もし、相手が十全な攻撃を仕掛けてきたら敗走しか無い。たぶん逃げ切れないと思うけれど。
相手の武器で起死回生はおそらく無理だ。
そんな気がするだけだ。
そもそも
その上位である
「ならば……」
ここと自分の世界の融合技だ。
「……我が神デウスよ。今一度の
エステルの両目が赤から黄金に変わる。
「我は疾風……。風となりて天を駆ける者なり。……ああ、偉大なるその御名を
視界が流水加速を使ったようにゆっくりとしたものに変わる。
エステルは再度、上半身のみを地面に倒し、駆ける。
今度は今の自分が
「〈超回避〉、〈能力超向上〉」
二つの
「〈明王閃〉っ! 〈明王閃〉っ!」
左右のスティレットで天使の肩を破壊。
ただし、打ち込むたびにエステルの手首がへし折れる。
骨が見えるほどのケガも上位治癒魔法で強引に治して行く。
相手から攻撃を受けず、尚且つ適切に攻撃を当てる手法は向こうが全体攻撃をしてこないからこそ出来る、のかもしれない。
この期に及んで天使が本気を見せないのはわざとなのか、それともバカなのか。それは分からないけれど、この機会は逃さない。
ズドン。
下を見れば天使の太い足が見えた。それからすぐにエステルは尋常ではない量の血を吐き出す。
なんだ、今のは。
頭の中で混乱するエステル。
目の焦点が合わなくなってきた。
「……うあ……」
前に進みたいのに身体は後退していく。それを止めたいのに止まらない。
いや、足に踏ん張りがつかない。
だけれど風景はとてもゆっくりとしたままだ。
もう一撃、天使の蹴りが飛んで来た。それが見えた後に意識が飛ぶ。