軽文ストレイドッグス   作:LUNARCLOWN

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拾參章

 

 

 桜場と二人揃って鷹橋に叱られて、事務室迄引っ張っていかれた後、買い出しを終えた蒲池さんも帰ってきた所で簡単な自己紹介をする流れになったが、其れは割愛させて貰うことにする。各々の想像にお任せしよう。兎も有れ、こうして僕の探偵社員としての初日が始まった訳だ。

 事務室内の扉から会議室に移動すると、桜場、鷹橋、蒲池さん、僕の順に大卓子(テーブル)を囲む様に腰掛けていく。四人で使うには少し大き過ぎる会議用の机を小柄な人間が多い此の面子で囲むと、少々間の抜けた感じになる。人数が少ない事も、其の印象に拍車を掛けているのだろう。少数精鋭と言えば聞こえは良いが、只の人手不足である事は事務員の山田さんから聞いている。

 

「……さて、此処数日は大した依頼もなく暇なので、前々から市警連中からせっつかれていた『横浜連続暴徒事件』について調査を進めたいと思う」

 

 僕や警察組織が持ち込んだ案件は、暇潰し程度の扱いなのかよ。そうツッコミたくなるが、話の腰を折る訳にはいかないので黙っている事にする。空気を読むのは大人として必要な事と昔誰かが言っていたが、僕も二十歳を過ぎているのだから其の技術を身に付けておくべきである。……実際に読めているかどうかは此の際置いておくとしてだ。

 僕がそんな自分の役割(ポジション)から来る衝動を抑えている間に、桜場が目配せし、其れを受けた鷹橋が持っている封筒から数枚の資料を配ってから、隅にあった白板(ホワイトボード)を引いて来た。白板には横浜一帯の地図が貼り付けてあり、「『横浜連続暴徒事件』について」の文字も書かれている。文字が少し掠れているのが、此の案件に関して長らく放置をしていた事を窺わせた。其れ以外は綺麗な物で、余り使われてはいないのではないかと思われる。実際、桜場の推理を間近で見た所、細かい仕事では匆々(そうそう)と使う事は無さそうだ。

 資料を捲り乍ら、山田さんの用意してくれた紅茶を啜る。砂糖も何も入れていない筈の其れは、何故か甘酸っぱくて、微かに果実の様な香りがした。

 

「ローズヒップティーだよ」

 

 角砂糖を二つばかり入れ乍ら、蒲池さんが教えてくれる。先日も話したが、僕は紅茶と言う物をパックか缶でしか飲まない為、こう言ったお上品な物を飲む事は無い。小説等の創作物には良く出てくるので、存在を知ってはいたのだが、こうして口にするのは初めてだ。初めて飲む其の紅茶は、僕の口には合うのだが、個人的な好き嫌いは分かれるだろうと言う感想を抱かせた。因みにローズヒップのヒップは別にお尻と言う意味ではなく、薔薇科の果実の総称だ。つまりはローズヒップと言う言葉を直訳すると、薔薇薔薇(バラバラ)の実と言う事になる。何だか赤鼻の海賊になれそうだな。そんな下らない事を考え乍ら資料に目を落とすと、どうやら其れは此れ迄の事件の容疑者と被害者の目録(リスト)らしかった。

 ざっと容疑者の一覧に目を通していく。五十音順に並べられた其れは年齢と生年月日、性別、血液型、職業及び所属等が記入されていたが、此れと言った共通点は見当たらなかった。僕程度では思い当たらない事も、桜場なら分かったりする物なのだろうかと彼女に視線を向けると、彼方も僕の方向を見ていたらしく、視線が()つかり合う形になった。一瞬驚いた様な表情を見せた桜場だったが、直ぐに何故か不機嫌そうな表情に変わり、視線を逸らされる。そんな僕等を見ていた鷹橋と蒲池さんの反応は二者二様で、鷹橋は不機嫌そうに半目で僕を睨み、蒲池さんは何故だか苦笑していた。

 

「それじゃあ、始めるわね」

 

 一通り資料に目を通した後、白板の前に立った鷹橋が会議の開始を告げる。此処から会議の内容を(つぶさ)に語っても構わないのだが、長くなるし、正直な所で面白味に欠けるので、僕が掻い摘まんで話すと言う遣り方でお茶を濁してしまうことをご容赦願いたい。

 まずは事件概要の説明からだ。此れは此処迄読んでくれた読者諸君なら既知の事だろうが、今一度説明させて頂くと、善良なる一般市民が急に凶暴化し、周囲の人間や器物を攻撃し始めると言った事件だ。個々の事件では容疑者は確保されているものの、同じ様な事件が相次いで起こっている為、一連の事件として扱われている。そして、此処からが僕の知らなかった情報なのだが、事件は全て平日の十六時から十八時の間で起こっていると言う事と、容疑者は一様に事件当時の記憶が曖昧である事も共通点として挙げられていた。また、報道されている事件はごく一部で、小さな傷害・器物損壊事件も合わせると百を越えると聞いて驚きを隠せなかった。僕も気付いた事として被害者に学生が多い事を挙げてはみたのだが、鷹橋の「時間帯が時間帯だからでしょ?」と言う一言で一蹴されてしまった。

 次に事件の発生場所だが、事件の全てが横浜市街地に集中しており、 沿岸部にある港や倉庫街では事件は起こっていなかった。鷹橋が白板に貼り付けてある地図の事件の発生場所に、赤い封緘紙(シール)を貼っていくと、僅かな曲線を描いた一帯が浮かび上がってきた。桜場曰く、何かを中心に円形ないし、扇状に広がっている様に見えるとの事。目立った事件だけを挙げてみてもこの状態である。全てを調査し、地図に記していけば何かが分かるのではないかと言う事で僕と鷹橋、蒲池さんの三人が聞き込みに行くと言う事が決定して会議は終了となった。

 此れが僕の探偵社員としての初日の活動である。特筆すべきは他には無く、読み手としては退屈で欠伸の一つや二つ出てしまいそうだが、探偵稼業何て物はそう言う地味な所が多いらしい。だから、申し訳無い事に、もう暫くは此の退屈に付き合って貰う事になってしまうのだが、割り切って戴くしかない。

 

 

 

 翌日、土曜日と言う事で講義の無い僕は、朝から鷹橋、蒲池さんの二人と待ち合わせをして聴き込みをしていた。実際は個別に聴き込みに言った方が効率が良いのだが、今回は僕が初の聴き込みになので先輩二人に付いて回る形になったのだ。両手に花の状態は大歓迎なのだが、仕事なので浮わついた気持ちではいられないと、集中しようとしていた……のだが。

 

「物凄く見られているな……」

 

 呟く様に口から出た僕の言葉は、どうやら二人には届かなかった様だ。鷹橋は言わずもがな、蒲池さんもかなりの視線を集めている。

 鷹橋は煌めく程の美少女だ。整った顔立ちに意志の強そうな瞳、艶のある長い髪が風に揺れる度に光の粒子が迸っている様に錯覚する。対する蒲池さんも、髪型や服装は男性の様だが、整った顔立ちには大人の女性の魅力が溢れている。鷹橋と対称的に無気力な眼は、見ようによっては(うれ)いを帯びている様に見えなくは無い。そして何より、其の世の男子全てを、いや、女性すら魅了しかねない抜群の身体付き(スタイル)は道行く男性の視線を釘付けにしている。そんな美女と美少女が連れ立って歩いているのだ、目立って仕方がない。お陰様で一緒に歩いている僕にも視線が集まる。二人の様な好意的な視線ではなく、訝しげな、時には敵意すら籠った視線である。まあ、美人二人が連れているのが、僕の様な冴えない男では其れも仕方がないだろう。()し逆の立場だったら、僕だって嫉妬心から、そう言った視線を向けるだろう。そんな視線の針の(むしろ)を通り越して、視線の槍衾(やりぶすま)に曝され続けた僕は、夕刻を迎える前に精神的に疲れ果ててしまっていた。だから、

 

「近くに良い喫茶店を知っているんだが、休憩がてら寄っていかないか?」

 

 僕がそう提案するのも無理からぬ事だろう。けして、美人二人とお茶をしたかった訳では無い。……いや、下心が全く無いと言ってしまえば嘘になってしまうのだが、時刻は既に十五時を回っている。食事も摂らずに仕事をしていたので、精神的にも肉体的にも限界が近かったのだ。

 

「喫茶店?」

 

 首を傾げて訊ねてくる蒲池さんに僕は頷いて見せる。朝から聴き込みをしている割りには大した成果が上がっていない所為か、鷹橋は少し渋っていたが、休憩も大事だと蒲池さんに諭されて、溜息交じりに了承してくれた。

 現在地から五分少々歩くと、三角屋根の上でクルクル回る風見鶏が特徴の純喫茶が見えてくる。其の喫茶店の名前は『風見鶏』。名は体を表すとは言うが、其の儘過ぎる名付け方である。色硝子の嵌め込まれた木製の扉を開くと、カランコロンと小気味の良い鐘の音が出迎えてくれる。其の鐘の音と共にパタパタと誰かが小走りに近付いてくる。

 

「はーい、いらっしゃいま……なーんだ、アラタか」

 

「なんだとはなんですか、一応は客ですよ? 神様扱いをしろとは言いませんが、歓迎くらいはしてほしいですねマスター」

 

「コーヒー一杯で何時間も粘る子を歓迎しろって言われてもね……」

 

 苦笑交じりに話す彼女は叢山由佳さん。此の喫茶店の女主人(マスター)で、年齢不詳の美女である。初めて会ったのは五年程前で、僕が中学を卒業しようかと言う頃だ。喫茶店と言う物に妙な憧れがあった僕が、格好付けで此の店に入ったのが切っ掛けなのだが、此の方、其の頃から見た目が全く変わっていないのだ。当時は歳上のお姉さんと中学生と言った感じだったが、今は並んでしまえばどちらが歳上か分からない位だ。一度、興味本意で年齢を訊ねた事があったが、穏やかで、しかし、強烈な威圧感を伴った笑顔で「女性に年齢を訊ねたらいけません」と言われたので、それ以来訊いてはいない。

 

「あら、今日は女の子連れ? しかも二人だなんて、やるじゃない」

 

揶揄(からか)わないでください。職場の同僚ですよ」

 

「職場? 大学辞めて就職でもしたの?」

 

「いやいや、辞めてませんよ、色々あって……」

 

 不意に服の裾が引かれる感覚。振り向くと、鷹橋がじっとりとした眼で僕を睨み付けていた。対する蒲池さんは苦笑い。

 

「お七が、早く座りたいってさ」

 

「ああ、それもそうですね。待たせて悪かったな鷹橋」

 

 僕がそう言うと、何故か拗ねた様に外方(そっぽ)を向く鷹橋。

 

「……別にいい」

 

 ……何だ此の可愛い生き物は。しかし、何が「良い」のかは分からないが機嫌を損ねた儘と言うのも問題だ。仕事の連携に支障が出るかもしれないからな。と言う訳で、僕は飴を取り出して高橋に渡す。

 

「子供扱いしないで」

 

 と言いつつも確り飴を受け取る鷹橋を見て、頬を少し緩ませる。(ついで)に物欲しそうにしていた蒲池さんとマスターにも渡す。

 

「いつもお菓子を持ち歩いてるのか?」

 

 受け取りながら質問してくる蒲池さんに、僕は首を横に振って答える。

 

「妹をあやす為に使ったやつの余りですよ」

 

「アンタの妹、いくつなの?」

 

 変わって質問してくる鷹橋は、少しだけ機嫌が治っているみたいだった。

 

「ああ、たしか今年で十八になる」

 

「十八!? 逆に怒られない?」

 

「いや、そんなことはないぞ。『兄ちゃんに飴もらったー!』って大喜びだったさ」

 

 チョロいと言うか、単純と言うか、馬鹿と言うか、まあ、扱い易いから僕としては構わないのだが、我が妹乍ら、将来が心配になる位の阿呆さだった。でも彼奴、学校の成績は結構良いんだよな。

 

「流石はアンタの妹ね……」

 

 呆れた様に呟く鷹橋にどう言う意味だと問い質したかったが、注文を取りに来たマスターに遮られてしまった。

 

「ご注文は?」

 

 店内に流れる古い洋楽を聴き乍ら、僕は珈琲と三明治(サンドイッチ)を注文した。鷹橋は珈琲だけ、蒲池さんは珈琲と一緒に洋麺(パスタ)を大盛で頼んでいた。「……お腹空いちゃって」と含羞(はにか)む様にして笑った蒲池さんが、滅茶苦茶可愛かった事を追記しておこう。

 各々食事を摂り乍ら、暫し歓談に興じる。話の内容は様々で、蒲池さんが飼っている猫の話から、先日解決した事件の話まで多岐に渡り、話題が尽きる様子はなかった。愛しい人に傍に居てくださいと歌い続ける有名な古い洋楽と、彼女達の楽しげな声、そして、飲み馴れた美味しい珈琲が僕の心に安らぎを与えてくれた。

 

「そういえば、マスターが言ってた『アラタ』って?」

 

「初めて彼の名前を聞いたとき、漢字が分からなくて訊いたら、『これあらたって書きます』って言われて、それがなんだかツボにハマっちゃったのよ」

 

 小首を傾げつつ訊ねてくる鷹橋に答えたのは、僕では無く、何時の間にか近くまで来ていたマスターだった。僕としては漫画の登場人物(キャラクター)みたいで恥ずかしいので、()めていただきたいのだが、今の所聞き入れてくれる様子はない。恐らく、今後付き合いが有る限り呼ばれ続けるであろう事は、想像に難くない。そうして、会話にマスターも加わり、僕の昔話とかも穿(ほじく)り返される事になった。それから半刻ほど経った頃だろうか、鷹橋の携帯電話から呼び出し音が流れる。軽快な電子音を発する携帯端末を取り出して「ちょっと失礼」と断りを入れてから席を立つと、店の外に出ていった。

 暫くして戻ってきた鷹橋は、少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべていた。何と無くだが、自分が頑張って考えていたなぞなぞの答えを、横にいた人間が勝手に答えてしまった時の様な表情をしている。分かり辛いか? 僕は良く見るぜ。妹がテレビのクイズ番組を見ている時に、考えてる妹の横で僕が答えを言うからな。其れはさておき、不服そうな表情を隠しもせずに戻ってきた鷹橋は、椅子に座って珈琲を啜ってから口を開いた。

 

「聴き込みは中止よ」

 

「何故だ?」

 

 短く告げた鷹橋に短く聞き返すと、険しい表情の儘で溜息を吐いた。

 

「……情報屋と連絡がついたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……此処だな」

 

 そう蒲池さんが呟いたのは港の近くにある廃倉庫の前だった。此処に鷹橋の言っていた『情報屋』がいるらしい。あの後、『風見鶏』を出た僕達は件の『情報屋』の下に向かおうとしていたのだが、鷹橋が同行を拒否した。鷹橋曰く、自分が着いていってもやることが無いし、何より其の相手に会いたくないとの事だった。後者の方が語調が強かったので、恐らく其方が本音だろう。何故其処まで嫌がるのかと訊ねると、鷹橋ではなく蒲池さんが「まあ、会えばわかるさ」とだけ答えた。と言う訳で、蒲池さんと二人で廃倉庫に入ると、埃っぽい臭いが充満しており、人の気配は微塵も感じられなかった。

 

「本当に此処にいるんですか?」

 

「……嘘を吐く奴じゃないよ。だから、アイツが此処にいると言ったら此処にいるんだ」

 

 そう言って薄暗い廃倉庫の中を、奥へ奥へと進む蒲池さん。時刻は既に逢魔ヶ時で、今にも異形の者が物陰から飛び出してきそうである。内心、少しびくつき乍ら、鎌池さんの後を着いていくと、急に蒲池さんが首だけ振り返って此方を見てきた。

 

「大丈夫だ。何が出てきても、キミは俺が守ってやる。そう言う約束だからな」

 

 どうやら心中の不安を見透かされていたらしく、思わず赤面してしまう。何だよ此の人、格好良過ぎるだろ! 僕が女の子だったら一発で惚れてるぞ! しかし、蒲池さんは気にした様子もなく、先に進んでいく。こうして、勇ましく暗がりを進む女性と、赤面しながら其の後を着いていく男子と言う彼辺此辺(あべこべ)な二人組が完成した。別に男尊女卑を唱える訳ではないが、こうした時に男子が女子を勇気付け、護ると言う形であって欲しいと思うのは僕だけでは無い筈だ。

 暫く歩いていると、倉庫の最奥に来てしまったらしく、壁と割れた硝子窓が見えてきた。但し、一つだけ可笑しな点を挙げるとしたら、其の壁に赤色の塗料(ペンキ)で大きな矢印が書いてあった事だろうか。其の矢印が指し示すのは下方。明らかに割れた硝子と床しかない。まさか、隠し階段でもあるのだろうか? と馬鹿馬鹿しい考えを浮かべていると、蒲池さんが壁の近くの床を叩き割った。

 

「な、何してるんですか!?」

 

「え? ああ、此処に隠し階段があるんだよ」

 

 ……あるのかよ、隠し階段。どうやら相手方は、演出と舞台装置には拘る性質(タイプ)の様だ。少し呆れ気味の僕を促して彼女が階段を下っていく。地下へと続く階段は、等間隔に吊るされた電球に照らされていて暗くは無かったが、 先を見通せる程に明るくは無く、精々足元の安全が確認できる程度の物だ。其の為、奥の方は真っ暗で、まるで地下に巣食う魔物の口腔に足を踏み入れてしまっているのではないか、と言う錯覚に陥ってしまう。

 地下への階段を進むこと数分。漸く終わりを迎えた階段の先には。煉瓦造りの広い空間が待っていた。『三匹の子豚』と言う絵本をご存知だろうか? あれの末弟が建てた煉瓦の家を想像して戴ければ、大体は今現在、僕と鎌池さんのいる空間と合致する。但、彼の家と違うのは、此の場所が、家だとか部屋だとか呼ぶには些か殺風景に過ぎると言った点だろうか。事務机と本棚が一つずつあるだけで、他には卓子(テーブル)や椅子すらも存在しなかった。

 其の空間の奥、事務机の近くに車椅子の男性が一人いた。此れと言って特徴の無い黒髪と、驚く程に整った顔立ちに貼り付けた不気味な……いや、不吉な笑顔が僕達に向けられていた。其の男性は、車椅子を自分で動かすと、少しだけ此方に近付いてきた。そして、僕と蒲池さんの両方の表情を確認するかのようにじっと見てから、少しだけ軽い調子で口を開いた。

 

「やあやあ二人とも、待ちくたびれたよ」

 

 ゾワッと全身の肌が粟立つ感覚が襲う。

 

「まあ、とは言ってもお得意様だからね。邪険に扱うつもりもないよ。歓迎しよう蒲池さん、西緒君」

 

 軽い調子で紡がれる其の言葉達は、発せられる度に僕の全身を(まさぐ)り、怖気(おぞけ)を誘う。

 

「特に、キミは初対面だったね。だったら自己紹介が必要だ」

 

 鋭い視線が僕を射抜く。其処に敵意、悪意、害意、殺意、犯意は無い。しかし、其れでも僕は彼の声に気味の悪さを感じた。

 

「俺の名前は鳴田良悟。職業はファイナンシャル・プランナー、巷では『情報屋』だなんて呼ばれているよ」

 

 其の男――鳴田良悟は、()()()()()()()()()()()

 

 

 

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