軽文ストレイドッグス   作:月詠之人

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 今回は早めに書き終わりました。まあ、早かった理由は色々とありますが、まずは本編を読んでください。


拾捌章

 

 ーー谷河流(たにがわながる)。高校時代、友人を作らなかった僕の……唯一とも言える友人の名前である。彼女と僕の出会いは舞台的(ドラマティック)ではなく、運命的でもなく、極めて現実的で普遍的な物である。と言う導入をしてしまえば、察しの良い読者諸氏ならば気付いていただけるだろう……そう、過去編である。

 過去編と言う物は、語り部の自己満足(エゴイズム)と言う特性を持っている。種明かしをしたがったり、自分の考えた設定を(つまび)らかにしたがる作者の心根が透けて見えるので、僕も剰り好きでは無いのだが、今の今迄散々に思わせ振りな態度を取ってきたのだから、今更にして口を噤むと言うのも可笑しな話だろう。

 (さて)、其れでは物語るとしようじゃないか。普通で一般的で普遍的で(しか)し何処までも異常な僕ーー西緒維新と、異常で逸般的で不変的で然し何処までも普通な女の子ーー谷河流が、手も無く失い、為す術も無く(うしな)い、啻々(ただただ)(うしな)っただけの、そんな僕達の失物語(うせものがたり)

 

 

 

 

 

 三年前、高校三年生に進級して少ししてからの僕は、周囲から不良の標票(レッテル)を貼られていた。勿論、事実としてはそんな事は全く無かったと断言できる。煙草は未だに吸った事は無いし、今でこそ嗜む程度には行う飲酒も、当時は一切口にはしなかった。髪も染めていなかったし、耳飾(ピアス)等の装飾品の類いに到っては所持すらしていなかったし、偶に居眠り等をしてしまう事はあったが、其れでも授業態度は比較的真面目だったと言えるだろう。そんな品行方正な僕が、不良等と呼ばれていたのかは理解に苦しむのだが、予想がつかない訳では無い。当時僕は、とある理由で生傷が絶えず、学校を欠席する事も多かった。其処で、まあ、想像してみて欲しい。学校を欠席する事が多く、周囲から勉強が遅れ気味で、一匹狼な級友(クラスメート)が偶に出席したと思ったら彼方此方に怪我を負っているのだ。其処に、後ろ暗い事情があるのではないかと、根も葉も無い噂が流れてしまうのも分からなくは無いのだ。とは言え、理解は出来ても納得は出来ないと言うのが思春期の精神性で、周囲から腫れ物扱いを受け続ける剰り僕も悉皆(すっかり)やさぐれてしまい、集団で行動する彼等を同調と言う思考停止に陥った怠け者と、少数派を排斥し安寧を得ようとする悪と、多人数で固まらなければ何も出来ない弱者と断じ、そう言った彼等を“人間強度が低い”と蔑んでいたのだった。そして、他者との馴れ合いを“人間強度が下がる”行為だと忌避していた。今でこそ鼻で(わら)ってしまう様な思考だが、当時は割と本気でそう思っていて、言動も其の価値判断基準に則った物になっていたのだ。少し遅めの中二病だったのだろう、僕も若かったと言う訳だ。兎にも角にも当時の僕はやさぐれていた。余談だが、『やさぐれる』と言う言葉は本来家出を指す言葉だったらしい、其れが転じて不良行為を行う様や投げ遣りな態度を取る事を指す言葉に変わっていったそうだ。

 扨、何時も通りに閑話休題をするとして、其の日の僕は(すこぶ)る機嫌が悪かった。理由としては単純で妹と喧嘩をしたからなのだが、別に妹に対して腹を立てていた訳では無い。其の理由の下らなさに、自分の人間性の小ささに辟易していたと言った所だろうか。時期は黄金週間(ゴールデンウィーク)が過ぎた次の日曜日、皐月(ごがつ)の第二日曜日、所謂母の日である。此処で今更な情報を伝えておくと、当時の僕は両親との折り合いが悪かった。今でも仲良し小好しと言う訳では無いが、当時は特に不仲で、生活態度や成績に関して御小言を戴いては其れに反発していた物である。まあ、遅れて来たの反抗期と言う奴なのだが、そんな僕が母の日に何かをする訳も無く、部屋で休日を満喫していた所に妹達が来襲。母の日の御祝いをすると言う彼女達を疎ましく思い、ついつい減らず口を叩いてしまったのを皮切りに大喧嘩へと発展してしまったのだった。妹の最後の言葉ーー『そんなんだから兄ちゃんは、いつまでたっても大人になれないんだよ』と言う台詞に何と返したかも覚えていなくて、不貞腐れて部屋を飛び出して自転車に跨がって漕ぎ続けていたら、何時の間にか第三穂綿学園に辿り着いていた。習慣とは真に恐ろしい物で、二年と一ヶ月一寸(ちょっと)通い詰めた道は無意識の内に僕の足が向かう場所になっていたのだ。

 辿り着いたのは夕方には未だ少し早い時間だったのだが、何をする訳でも無く(ただ)単に呆けていたら、知らぬ内に日は傾き、夕日すら沈み、星が瞬き始めていた。雨止みを待つ下人の様な感傷主義(センチメンタリズム)に侵された訳では無いが、取り留めの無い事を考えては打ち消して、風に吹かれる木々の音を聞くとは無しに聞いていたーー詰まりは、途方に暮れていたのである。其れもそうだろう、突発的に部屋を飛び出した所為で財布も携帯電話も置き去りだし、家に帰ろうにも其処には眥裂髪指(しれつはっし)の妹が待ち構えているのだ。()いでに言えば、家出をする様な度胸も当時の僕には無かった。別に今なら有ると言う訳では無いのだが……兎に角、謝る気には未だなれず、家出をする勇気も無い僕は(まさ)しく途方に暮れていたのだった。

 不図(ふと)、風に(そよ)ぐ木々の音以外の草音が大きく響いた。がさがさと木陰が揺れ、飄然(ひょっこり)と黄色い飾紐(リボン)が現れる。どうやら何者かの頭部らしい其れは暗がりに紛れて良くは見えないが、恐らく少女の其れであるらしかった。頭帯(カチューシャ)に付いた飾紐が揺れるのは風の所為か、彼女が動く所為か、将亦(はたまた)其れ自体が意思を持っているのか……等と有り得ない想像を交えながら少女の動向を窺っていると、(やが)てそろそろと藪から這い出てきた。其の姿は背徳的で冒涜的で名状しがたい……と言う事は当然無くて、茶色掛かった黒髪を腰まで伸ばした幼さの残る小柄な少女だった。少女の見た目は控え目に言っても美少女で、強気そうな眼も、固く結んだ唇も整っていて、解語の花と称しても差し障りの無い程の美少女だった。

 そんな美少女が、夜の学校にいる。歳上らしく心配する気持ちと相反する様に、非日常染みた光景に心踊らずにはいられなかった。件の美少女はどうやら僕には気付いていないみたいで、辺りを少し窺う様な素振りを見せた後、閉じられた柵門を()じ登って校内に侵入していった。

 ーー扨、人と関わる事を良しとしていなかった僕だった訳だが、雰囲気に当てられたと言うか、惹き付けられる物を感じたと言うか、好奇心に負けたと言うか、言うなれば魔が差してしまった僕は彼女を追って校内に侵入してしまったのだった。

 暗がりを歩く彼女の後ろを気付かれない様に着いていくと、中等部の敷地に辿り着いた。中等部の校舎は高等部の校舎や総合棟と比べると(やや)古く感じる。此れは(かつ)て当学園が旧制高等学校だった頃の名残であり、中等部は其の頃の校舎を其の儘利用している為、旧時代的な古臭さを感じるのである。とは言え、旧制高等学校が廃止され現在の中等部に移り変わる際に、建て直しと迄はいかないが大規模な補修工事が行われている為おんぼろと言う訳では無い。しかし、中等部設立から高等部・大学部設立迄は十数年の空きがあるらしくて、時の流れに()って流行り廃りが移り変わり、お蔭で懐古風(レトロ)な雰囲気の中等部と近代風(モダン)な見た目の高等部と大学部と言う値遇反遇(ちぐはぐ)な印象を与える結果になった訳だ。

 そんな中等部の校庭に辿り着いた少女は、其の隅にある用具入れに向かって行った。何かしらの方法で鍵を入手していたのか、扉は呆気なく開き、彼女は其の中へ消えていった。しかし、其れっきりである。遠目から見ていた僕は、何時迄経っても少女が出て来ない事に不安を感じ始めていた。実際は其れ程時間は経っていないのだろうが、暗がりの中に一人でいると、狐にでも化かされたのではないかと言う気持ちにもなってくるのだ。其れに、若し幽霊でも狐狸の類いでも無いのであれば、少女が出て来ない事が心配である。

 

(中で何かあったのかもしれない)

 

 そう考えた僕は倉庫に近付いた。

 人との関わりを極力避けている僕ではあったが、問題が発生した時に相手の心配をする程度の良識は持ち合わせていたので、其の足取りは若干駆け足である。近付いて見ると、混凝土(コンクリート)製の壁と重厚な鉄製の扉は薄汚れて(くす)み、奇妙な存在感を放っていた。実物を見た事がある訳でもないが、伏魔殿と言う物は此の様な雰囲気を纏っているのではないかと思えた。ごくりっと生唾を呑み込んで、意を決し取手に手を掛けた其の瞬間、ゆっくりと其の扉が勝手に開いた。いや、勝手にと言うのは正しくないだろう。内側から少女が其の扉を開けたのだ。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 沈黙。無言。静寂。閑静。無音。

 気不味さや安堵やらで言葉もない僕と、驚きで声が出ない様子の少女。御互い見詰め合う事数十秒、先に動いたのは少女の方だった。じろりと不審気に僕を睨むと、溜息一つ吐き捨ててから口を開いた。

 

「あんた何、不審者?」

 

 出会って直ぐに不審者扱いとは途んでも無い誤解である。確かにこんな時間に彷徨(うろつ)いていたらそう言う輩に遭遇する事も有り得るだろうが、中等部と高等部の違いはあれど僕は此の学園の学生であるし、不審者と言える程に怪しい格好はしていなかった筈だ。とは言え、うら若き乙女が人気の無い暗がりで歳上の男性に遭遇すれば、警戒してしまうのも致し方無い事でもあるのだろう。そう言った理由を察した僕は、頬が引き攣りそうになるのを抑え乍ら少女に声を掛ける。

 

「いきなり不審者扱いはやめてくれないか? 一応僕は、この学園の生徒なんだが」

 

「あら、そうなの? にしても、見たこと無い顔ね」

 

「一昔前の不良みたいな物言いだな。お前は中等部だろ? 僕は高等部だから、見たこと無いのは当たり前だ」

 

「なんで高等部の人間が中等部の敷地内にいるのよ」

 

「お前が入っていくのが見えたから、着いてきたら此処にいた」

 

「夜中に女子中学生の後を着いてきたの? やっぱり不審者じゃない」

 

「……………………」

 

 正論だった。一連の流れだけを聞けば間違いなく其の通りだった。しかし、其処には好奇心や憂慮等の感情はあれど、彼女に何かしよう等といった邪な感情は抱いていなかった訳で、行動は兎も角も精神性に関しては一般的な常識に乗っ取っている物であると言い切れる。とは言え、悲しいかな此の現代社会に於いては客観的事実のみが取り沙汰されるので、僕の老婆心ながらの行動は僕の為人(ひととなり)を知らない者からすれば不審者の其れと相違無いのだろう。其処で僕は、対話によって警戒心を解くと言う方法に出る事にした。要は話を逸らす事なのだが、其の時の僕は家出少年と差異が無いので、冤罪で通報等されてしまっては面倒此の上無い事になってしまう。通報を免れる為と言う何とも情け無い理由ではあったが、必要に駆られて再び彼女に声を掛けた。

 

「オーケー、ならば身分を明かそうじゃあないか。僕は西緒維新、西狩獲麟の西に千緒万端の緒、維新志士の維新で西緒維新だ。この第三穂綿学園の高等部三年生で、部活には所属していない」

 

 急に自己紹介を始めた僕に対して、少女は怪訝な視線を向ける。其の儘、数秒程の時間を掛けて僕を観察するように見ていたが、漸く“へ”の字に結んでいた口を開く。

 

「何のつもり?」

 

 何の心算(つもり)とは何だろうか? と言うのは野暮だろう。要は急に自己紹介など始めてどう言う訳だと言うのだろう。

 

「何も大した事じゃあないさ、僕が怪しい者ではないと言う証明に自分の名前と所属を明かした訳だ。これで少なくとも“不審”者ではなくなった訳だ」

 

 自慢気な表情の僕に向ける視線が怪訝な物から、段々と白けた物に変わっていく。どうやら僕の理論を彼女は気に召さなかった様だ。

 

「じゃあ、不審者じゃなくて変質者ね」

 

「悪化してるじゃないか!」

 

 真逆(まさか)の格下げに声を荒立てる僕だったが、彼女の冷ややかな視線は変わらず、寧ろ呆れた様な溜息も追加で吐いてきた。随分と不躾な態度ではあったのだが、下手に刺激をしても良くないと我慢し乍ら黙っていた所、白眼視は其の儘に少女が口を開いた。

 

「……谷河流よ」

 

「え?」

 

 急に言われた所為で脳の処理が追い付かず、思わず変な声が漏れてしまった。すると少女の視線が少し(ばか)り鋭くなる。どうやら、僕の返答が気に召さなかった様だ。とは言え、出会ってから彼女の気に召された事は未だ無いのだが。

 

「だから、谷河流よ! あたしの名前! あんたが名乗ったんだから、あたしも名乗らないと不公平でしょう!?」

 

「あ、ああ、そういうことか」

 

 こんな事に公平性が必要なのかと言う疑問が浮かんだのだが、少し機嫌が斜めになってしまった彼女を見て余計な事は言うまいと当たり障りの無い返事をした。其の返答に、何が面白いのかニヤリとした不敵な笑みを浮かべた少女ーー谷河流は、月夜の下に有り乍らに太陽の様な熱と光を発している様に僕は錯覚してしまっていた。

 此れが、後に僕の友人となる美少女ーー谷河流と此の僕ーー西緒維新の初邂逅なのであった。

 

 

 

 そして、其の谷河との邂逅を果たした僕が何をしたかと言うと、白線引きを片手に校庭に謎の図形を(えが)かされていた。因みに、当の谷河は朝礼台の上に立って右だの左だの捻りを加えろだの指示を出すだけで一切手伝う素振りを見せなかった。

 

「なあ、これになんの意味があるんだ?」

 

「黙って手と足を動かしなさい」

 

 此の調子である。気難しそうな表情で何かを考える様な格好(ポーズ)を取り乍ら指示を出す谷河と、言われるが儘に校庭を縦横無尽に走り回る僕と言う光景は、僕らが出会ってからの時間の短さや年齢差とか其の時の時間帯等を差し引いても異様であったろう。古びた白線引きが、きぃきぃと耳障りな音を立てるのを聞き乍ら谷河の指示通り走り回る事数十分、僕達の目の前には立派な………………何だろうか? 秘露(ペルー)に在ると言う某地上絵も斯くやと言う謎の図形が画かれていた。

 一仕事終えた僕は谷河と並び、朝礼台に腰掛けて一息吐いていた。謎の地上絵を眇め乍ら僕は、図形の設計者(デザイナー)である谷河に声を掛けた。

 

「なあ、さっきも訊いたけど、これには何の意味があるんだ?」

 

「………………教えない」

 

 少しの躊躇いの後で、谷河はそう答えた。此れだけ苦労したのだから、僕にも知る権利くらいは有りそうな物だが、横目で見た谷河の表情を見て、抗議の声は引っ込んでしまった。何とも言い難い、哀惜とも憤慨とも取れる、しかし何方とも言えない複雑な表情をしていたからだ。事情の知らない僕が言える事は、其の表情からは達成感等の肯定的な感情を読み取れなかった事くらいであろう。

 

「………………ねえ」

 

 歯を噛み締める様にしていた口を開いた彼女は、僕や折角画いた地上絵を見る事なく、星空を見上げながら声を掛けてきた。其の表情は依然として複雑な儘である。

 

「どうした?」

 

 事も無げに返した僕を、矢張彼女は見る事も無く、僅かな逡巡の後に口を開いた。

 

「……あんたは、宇宙人っていると思う?」

 

 ………………深刻そうな顔をして何を言うかと思えば、随分と馬鹿馬鹿しい問い掛けが来たものだ。そんな物の答えは決まりきっている。質問自体が無意味(ナンセンス)だと言えるだろう。

 

「いるんじゃないか?」

 

 谷河が驚いた様な表情で此方を向いて来る。信じられない様な物を見る眼で僕を見ながら、(やや)震えた声で問い掛けてくる。

 

「なんで……どうして、そう思うわけ?」

 

「だって、見たことがないからな」

 

 訳が分からないとでも言いたげな谷河に、僕はニヤリとした笑みを浮かべて見せる。

 

「普通は逆じゃない? 見たことがないなら信じないと思うけど」

 

「それこそ“逆”だよ、見たことがないから否定が出来ないんだ。この目で見て、偽物だと暴いたのであればともかく、確たる証拠も無いのに存在ごと否定するなんて酷い話じゃあないか」

 

 それに、と僕は付け加える。話の続きを真剣な眼差しで待つ谷河。其の視線に僕は、奇妙な居心地の良さを感じてしまっていた。何時くらい振りであろうか、他人と言葉を交わすのが此れ程楽しく感じられたのは。此の頃の僕は家族以外だと担任の按田教諭か『風見鶏』の女主人(マスター)の叢山女史くらいしか殆ど会話をしていなかった様に思う。だからこそ、年の近い、年下の此の少女との会話に愉しんでいると言う事に少々の驚きと、新鮮さを感じていた。

 

「それに?」

 

 焦れた様に聞き返してくる谷河に僕は笑顔で言ってやる。

 

「ーーその方が面白いじゃあないか」

 

 僕の言葉に面食らった表情をする谷河。お互いに無言の儘に数秒が経ち、眼をぱちくりさせていた彼女は、不意に柔らかく微笑んだ。

 

「そうね、そのほうが面白いわ」

 

「ああ、面白いことは大事だ」

 

 お互いに然も可笑しそうに笑い合って、朝礼台の上で立ち上がった。僕と彼女の距離は先程迄と比べると、幾らかは近くなっていた。少しは心を通わす事が出来たのだろうか? 少なくとも、今の彼女は僕の事を不審者扱いはしないだろう。変質者扱いについては……まあ、誤解は(いず)れ解けるだろう。そんな事を思いながら谷河を見ると、先程の柔らかい笑みではなく、悪戯をする子供の様な笑顔を浮かべていた。

 

「ねえ、ニ砂糖」

 

「“しお”の所だけ拾って器用に間違えるな、僕の名前は西緒だ」

 

「失礼、噛んじゃったわ」

 

「違う、(わざ)とだ」

 

「そんなことはどうでもいいのよ」

 

 よくねえよ。不平を口にしようとした僕だったが、先に口を開いた谷河に遮られてしまう。

 

「あんたには、あたしの目的を教えてあげるわ!」

 

 ぐいっと顔を寄せてきた彼女に対して、僕は少し許り(たじろ)ぐ。そんな此方の様子等気にも留めずに、輝く瞳に星を写し、然も愉快だと言わん許りの笑顔を浮かべた。

 

「あたしの目的はね、この世界の何処かにいる宇宙人、未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、呼吸が止まった。理由は何だろうか? 彼女の愉しげな笑顔の所為か、突拍子の無い発言の所為か、将亦(はたまた)彼女の台詞にあった()()()()と言う言葉の所為か。恐らくは全てだろう。

 

「…………超能力者ではなくて、異能力者じゃあ駄目なのか?」

 

「ダメね」

 

 即答。

 

「超能力の方が、何て言うか、そういう限定的なのじゃなくて、万能な感じがするじゃない? なんでも出来そうな感じ」

 

 要領を得ないが、取り敢えず、僕では彼女の期待には応えられないらしい。残念な様な安堵した様な複雑な気持ちで彼女を見ると、相手も僕の方をじっと見詰めていた。

 

「という訳で、あんたも協力しなさい」

 

「…………まあ、乗り掛かった船だしな、暇潰し程度には付き合ってやるよ。代わりにといってはなんだが、この地上絵の意味を教えてくれないか?」

 

 僕の言葉に眉を(ひそ)めた彼女は、短い溜息を吐く。

 

「そんなに知りたいの?」

 

「ああ、気になりすぎて今夜は寝られなさそうなくらいだよ」

 

 大袈裟ね、と苦笑してから谷河は大きく手を広げて見せた。

 

「これはね、メッセージなの」

 

「メッセージ? もしかして宇宙人にか?」

 

「察しがいいじゃない」

 

 ふふんと上機嫌に鼻を鳴らすと、谷河が夜空を見上げる。釣られて僕も満天の星空を見上げると、改めてその迫力に息を呑む事になった。山の中腹に建てられた此の学園は、どうやら天体観測には絶好の場所(スポット)のようだった。

 

「あたしはこの宇宙の何処かにいる誰かにメッセージを送ったの」

 

 星空を見上げ続ける谷河の横顔を見る。それは、先程迄の笑顔ではなく、最初に図形の意味を尋ねた時の複雑な表情だった。

 

「あたしは此処にいるって」

 

 そういった彼女の言葉に何処か湿り気を感じた僕は、何も言えずに彼女の横顔を見詰めているだけになってしまっていたのだった。

 

 

 




 まずは謝辞を。

 七刀さん、ばんぐらすさん、花蕾さん最高評価ありがとうございます!
 じょんがりさん、妄想枕さん、クッキー&バニラさん、本気さん、ませうさん、お昼ご飯さん高評価ありがとうございます!
 ちはやふうさん、mattaroさん、ライオギンさん、このよさん評価ありがとうございます!

 前回の更新の際にも言いましたが、お名前が変わっただけと言うかたは言っていただければありがたいです。
 評価をくださったかた以外にも、お気に入り登録してくださった方、しおりを挟んでいてくれる方、読んでくださった方、誤字脱字報告をしてくれる方、色んな人のお陰で細々とですがやれてます。ありがとうございます!

 さて、今回書くのが早かった理由は、読んでくれた方は大体察していただけるかも知れませんが、内容が「化物語」つばさキャットと「涼宮ハルヒの退屈」笹の葉ラプソディのパク……オマージュだからですね。ですので、次回はもうちょっと掛かるかも知れませんが、気長にお付き合いください。それでは、また次回会いましょう!

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