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過去編と言う物は、語り部の
三年前、高校三年生に進級して少ししてからの僕は、周囲から不良の
扨、何時も通りに閑話休題をするとして、其の日の僕は
辿り着いたのは夕方には未だ少し早い時間だったのだが、何をする訳でも無く
そんな美少女が、夜の学校にいる。歳上らしく心配する気持ちと相反する様に、非日常染みた光景に心踊らずにはいられなかった。件の美少女はどうやら僕には気付いていないみたいで、辺りを少し窺う様な素振りを見せた後、閉じられた柵門を
ーー扨、人と関わる事を良しとしていなかった僕だった訳だが、雰囲気に当てられたと言うか、惹き付けられる物を感じたと言うか、好奇心に負けたと言うか、言うなれば魔が差してしまった僕は彼女を追って校内に侵入してしまったのだった。
暗がりを歩く彼女の後ろを気付かれない様に着いていくと、中等部の敷地に辿り着いた。中等部の校舎は高等部の校舎や総合棟と比べると
そんな中等部の校庭に辿り着いた少女は、其の隅にある用具入れに向かって行った。何かしらの方法で鍵を入手していたのか、扉は呆気なく開き、彼女は其の中へ消えていった。しかし、其れっきりである。遠目から見ていた僕は、何時迄経っても少女が出て来ない事に不安を感じ始めていた。実際は其れ程時間は経っていないのだろうが、暗がりの中に一人でいると、狐にでも化かされたのではないかと言う気持ちにもなってくるのだ。其れに、若し幽霊でも狐狸の類いでも無いのであれば、少女が出て来ない事が心配である。
(中で何かあったのかもしれない)
そう考えた僕は倉庫に近付いた。
人との関わりを極力避けている僕ではあったが、問題が発生した時に相手の心配をする程度の良識は持ち合わせていたので、其の足取りは若干駆け足である。近付いて見ると、
「……………………」
「……………………」
沈黙。無言。静寂。閑静。無音。
気不味さや安堵やらで言葉もない僕と、驚きで声が出ない様子の少女。御互い見詰め合う事数十秒、先に動いたのは少女の方だった。じろりと不審気に僕を睨むと、溜息一つ吐き捨ててから口を開いた。
「あんた何、不審者?」
出会って直ぐに不審者扱いとは途んでも無い誤解である。確かにこんな時間に
「いきなり不審者扱いはやめてくれないか? 一応僕は、この学園の生徒なんだが」
「あら、そうなの? にしても、見たこと無い顔ね」
「一昔前の不良みたいな物言いだな。お前は中等部だろ? 僕は高等部だから、見たこと無いのは当たり前だ」
「なんで高等部の人間が中等部の敷地内にいるのよ」
「お前が入っていくのが見えたから、着いてきたら此処にいた」
「夜中に女子中学生の後を着いてきたの? やっぱり不審者じゃない」
「……………………」
正論だった。一連の流れだけを聞けば間違いなく其の通りだった。しかし、其処には好奇心や憂慮等の感情はあれど、彼女に何かしよう等といった邪な感情は抱いていなかった訳で、行動は兎も角も精神性に関しては一般的な常識に乗っ取っている物であると言い切れる。とは言え、悲しいかな此の現代社会に於いては客観的事実のみが取り沙汰されるので、僕の老婆心ながらの行動は僕の
「オーケー、ならば身分を明かそうじゃあないか。僕は西緒維新、西狩獲麟の西に千緒万端の緒、維新志士の維新で西緒維新だ。この第三穂綿学園の高等部三年生で、部活には所属していない」
急に自己紹介を始めた僕に対して、少女は怪訝な視線を向ける。其の儘、数秒程の時間を掛けて僕を観察するように見ていたが、漸く“へ”の字に結んでいた口を開く。
「何のつもり?」
何の
「何も大した事じゃあないさ、僕が怪しい者ではないと言う証明に自分の名前と所属を明かした訳だ。これで少なくとも“不審”者ではなくなった訳だ」
自慢気な表情の僕に向ける視線が怪訝な物から、段々と白けた物に変わっていく。どうやら僕の理論を彼女は気に召さなかった様だ。
「じゃあ、不審者じゃなくて変質者ね」
「悪化してるじゃないか!」
「……谷河流よ」
「え?」
急に言われた所為で脳の処理が追い付かず、思わず変な声が漏れてしまった。すると少女の視線が少し
「だから、谷河流よ! あたしの名前! あんたが名乗ったんだから、あたしも名乗らないと不公平でしょう!?」
「あ、ああ、そういうことか」
こんな事に公平性が必要なのかと言う疑問が浮かんだのだが、少し機嫌が斜めになってしまった彼女を見て余計な事は言うまいと当たり障りの無い返事をした。其の返答に、何が面白いのかニヤリとした不敵な笑みを浮かべた少女ーー谷河流は、月夜の下に有り乍らに太陽の様な熱と光を発している様に僕は錯覚してしまっていた。
此れが、後に僕の友人となる美少女ーー谷河流と此の僕ーー西緒維新の初邂逅なのであった。
そして、其の谷河との邂逅を果たした僕が何をしたかと言うと、白線引きを片手に校庭に謎の図形を
「なあ、これになんの意味があるんだ?」
「黙って手と足を動かしなさい」
此の調子である。気難しそうな表情で何かを考える様な
一仕事終えた僕は谷河と並び、朝礼台に腰掛けて一息吐いていた。謎の地上絵を眇め乍ら僕は、図形の
「なあ、さっきも訊いたけど、これには何の意味があるんだ?」
「………………教えない」
少しの躊躇いの後で、谷河はそう答えた。此れだけ苦労したのだから、僕にも知る権利くらいは有りそうな物だが、横目で見た谷河の表情を見て、抗議の声は引っ込んでしまった。何とも言い難い、哀惜とも憤慨とも取れる、しかし何方とも言えない複雑な表情をしていたからだ。事情の知らない僕が言える事は、其の表情からは達成感等の肯定的な感情を読み取れなかった事くらいであろう。
「………………ねえ」
歯を噛み締める様にしていた口を開いた彼女は、僕や折角画いた地上絵を見る事なく、星空を見上げながら声を掛けてきた。其の表情は依然として複雑な儘である。
「どうした?」
事も無げに返した僕を、矢張彼女は見る事も無く、僅かな逡巡の後に口を開いた。
「……あんたは、宇宙人っていると思う?」
………………深刻そうな顔をして何を言うかと思えば、随分と馬鹿馬鹿しい問い掛けが来たものだ。そんな物の答えは決まりきっている。質問自体が
「いるんじゃないか?」
谷河が驚いた様な表情で此方を向いて来る。信じられない様な物を見る眼で僕を見ながら、
「なんで……どうして、そう思うわけ?」
「だって、見たことがないからな」
訳が分からないとでも言いたげな谷河に、僕はニヤリとした笑みを浮かべて見せる。
「普通は逆じゃない? 見たことがないなら信じないと思うけど」
「それこそ“逆”だよ、見たことがないから否定が出来ないんだ。この目で見て、偽物だと暴いたのであればともかく、確たる証拠も無いのに存在ごと否定するなんて酷い話じゃあないか」
それに、と僕は付け加える。話の続きを真剣な眼差しで待つ谷河。其の視線に僕は、奇妙な居心地の良さを感じてしまっていた。何時くらい振りであろうか、他人と言葉を交わすのが此れ程楽しく感じられたのは。此の頃の僕は家族以外だと担任の按田教諭か『風見鶏』の女
「それに?」
焦れた様に聞き返してくる谷河に僕は笑顔で言ってやる。
「ーーその方が面白いじゃあないか」
僕の言葉に面食らった表情をする谷河。お互いに無言の儘に数秒が経ち、眼をぱちくりさせていた彼女は、不意に柔らかく微笑んだ。
「そうね、そのほうが面白いわ」
「ああ、面白いことは大事だ」
お互いに然も可笑しそうに笑い合って、朝礼台の上で立ち上がった。僕と彼女の距離は先程迄と比べると、幾らかは近くなっていた。少しは心を通わす事が出来たのだろうか? 少なくとも、今の彼女は僕の事を不審者扱いはしないだろう。変質者扱いについては……まあ、誤解は
「ねえ、ニ砂糖」
「“しお”の所だけ拾って器用に間違えるな、僕の名前は西緒だ」
「失礼、噛んじゃったわ」
「違う、
「そんなことはどうでもいいのよ」
よくねえよ。不平を口にしようとした僕だったが、先に口を開いた谷河に遮られてしまう。
「あんたには、あたしの目的を教えてあげるわ!」
ぐいっと顔を寄せてきた彼女に対して、僕は少し許り
「あたしの目的はね、この世界の何処かにいる宇宙人、未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ!」
一瞬、ほんの一瞬だけ、呼吸が止まった。理由は何だろうか? 彼女の愉しげな笑顔の所為か、突拍子の無い発言の所為か、
「…………超能力者ではなくて、異能力者じゃあ駄目なのか?」
「ダメね」
即答。
「超能力の方が、何て言うか、そういう限定的なのじゃなくて、万能な感じがするじゃない? なんでも出来そうな感じ」
要領を得ないが、取り敢えず、僕では彼女の期待には応えられないらしい。残念な様な安堵した様な複雑な気持ちで彼女を見ると、相手も僕の方をじっと見詰めていた。
「という訳で、あんたも協力しなさい」
「…………まあ、乗り掛かった船だしな、暇潰し程度には付き合ってやるよ。代わりにといってはなんだが、この地上絵の意味を教えてくれないか?」
僕の言葉に眉を
「そんなに知りたいの?」
「ああ、気になりすぎて今夜は寝られなさそうなくらいだよ」
大袈裟ね、と苦笑してから谷河は大きく手を広げて見せた。
「これはね、メッセージなの」
「メッセージ? もしかして宇宙人にか?」
「察しがいいじゃない」
ふふんと上機嫌に鼻を鳴らすと、谷河が夜空を見上げる。釣られて僕も満天の星空を見上げると、改めてその迫力に息を呑む事になった。山の中腹に建てられた此の学園は、どうやら天体観測には絶好の
「あたしはこの宇宙の何処かにいる誰かにメッセージを送ったの」
星空を見上げ続ける谷河の横顔を見る。それは、先程迄の笑顔ではなく、最初に図形の意味を尋ねた時の複雑な表情だった。
「あたしは此処にいるって」
そういった彼女の言葉に何処か湿り気を感じた僕は、何も言えずに彼女の横顔を見詰めているだけになってしまっていたのだった。
まずは謝辞を。
七刀さん、ばんぐらすさん、花蕾さん最高評価ありがとうございます!
じょんがりさん、妄想枕さん、クッキー&バニラさん、本気さん、ませうさん、お昼ご飯さん高評価ありがとうございます!
ちはやふうさん、mattaroさん、ライオギンさん、このよさん評価ありがとうございます!
前回の更新の際にも言いましたが、お名前が変わっただけと言うかたは言っていただければありがたいです。
評価をくださったかた以外にも、お気に入り登録してくださった方、しおりを挟んでいてくれる方、読んでくださった方、誤字脱字報告をしてくれる方、色んな人のお陰で細々とですがやれてます。ありがとうございます!
さて、今回書くのが早かった理由は、読んでくれた方は大体察していただけるかも知れませんが、内容が「化物語」つばさキャットと「涼宮ハルヒの退屈」笹の葉ラプソディのパク……オマージュだからですね。ですので、次回はもうちょっと掛かるかも知れませんが、気長にお付き合いください。それでは、また次回会いましょう!