軽文ストレイドッグス   作:LUNARCLOWN

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久しぶり……というレベルではないくらいに久しぶりの投稿です。文章レベルは酷いものですが、読んでいただけたら幸いです


貮拾壹章

貳拾壹話

 

 

 

 さあ、長くて永い回想の廻廊の果てに(ようや)く今現在に戻って来た訳だ。伏線を回収しに掛かったと見せ掛けて、更に伏線を散播(ばらま)くだけの引き延ばしの時間に辟易としてしまった方も多いだろう。(しか)し、()れももう終わりである。目の前の何とも言い難い表情をしている按田(あんだ)教諭に視線を向けると、短い嘆息と供に口を開いた。

 

「……谷河(たにがわ)(ながる)ね……一応、復帰はしているよ」

 

 一応、と言う前置きに若干の引っ掛かりを覚えはしたが、彼女が学校に来ている事を素直に喜ばしく感じる僕がいた。僕なぞがいなくても、彼女は立ち上がり、自分の脚で歩き出したと言う事実に(かつ)ての友人として誇らしく思う反面、一抹の寂しさの様なものも感じていた。当然、誇らしさも寂しさも、受け取る権利は僕には無いのだが、其れでも感情と言う物は止めようがなかった。

 

「一応……というのは?」

 

 然し(なが)ら、理性と言う物は(しっか)りと仕事をするもので、引っ掛かりを疑問として口に出していた。『一応』ーー前置きとして使われる事の多い言葉で、大体の場合は言外に不利な内容を含ませる場合に使用される。今回の場合も、其の例に洩れないであろう事は容易に想像出来る。故に、僕の声は不安から震えていた。然し、嘗ての彼女の境遇を知っているからこそ、言外に含まれた不利を、不安を、不穏を聞き出さずにはいられない。

 

「いや、なに、ちょっと問題児というかな……ちょうど昔のお前みたいだよ」

 

「僕? 僕は品行方正で真面目な生徒だったでしょうに」

 

「嘘を()け嘘を。学校をサボるような奴が品行方正な訳があるか」

 

 呆れた様に白化(しらけ)た視線を向ける按田教諭に、愛想笑いを失敗してしまった様な苦笑いを浮かべる僕。其の後ろでは鷹橋(たかはし)が教諭と同じ様な白い目をして、蒲池(かまち)さんが僕と同じ様な苦笑を浮かべていた。四者ニ様の奇妙な集団となった僕達は歩みを止めずに空教室に向かう。其の途次(みちすがら)も言葉は尽きる事無く会話が続く。其れは宛然(まるで)会話が途切れる事を恐れている様で、沈黙が訪れたら死んでしまうとか、そう言う小学生染みた自分達だけの規則(ルール)を科しているかの様だった。当然、会話が途切れた所で死にはしないのだが、沈黙に対して恐怖に近い何かを感じていたのかも知れない。()しくは、胸を締め付ける様な不安を言葉に乗せて吐き出さなくてはいけないという衝動に駆られていたのかも知れない。其れは、僕だけが感じていたのか、それとも此の場の全員が感じていたのかは、精神感応能力者(テレパス)でもない僕には判らないが、少なくとも僕の心中にはそう言った焦燥の様な物が燻っていた。

 ――だからだろうか、やたらと……無駄に饒舌になってしまうのは。

 

「あれはあれで、色々あったんですよ。学問も大事ですが、僕の人生に関わる重大事件だったんですよ」

 

「そんな重大事件が度々起きてたまるか。よしんばそうだったとして、そんなことが起きていたんなら、少しは周りの大人を信用して相談をしろ」

 

 ……正論である。正論ではあるが、そうは簡単には行かない物だ。

 当時の僕は周囲の人間をあまり信用してはいなかったし、信用出来る人間がいなかった訳では無いが、其れは其れで巻き込みたくは無かったのだ。其の時、僕の関わっていた事件は『異能力』関係の事件だった訳だが、当然誰にも相談出来なかった。特に本筋に関係がある訳ではないので、詳しく話す事は今はないが、其の事件の際に(ようや)く僕は少し(ばか)りだけ自分の『異能力』の操作(コントロール)が出来る様になり始めたのだ。

 

「まあ、それはそれですよ。そんなことより、谷河の話です。学校にはあまり来てはいないんですか?」

 

「そんなことよりって……まあ、そうだな。来るときは来るし、授業態度なんかも問題は無いんだが……無断欠席や無断早退が多くてな」

 

 ……確かに、嘗ての僕の様だ。然し、僕は前述の理由があるが、谷河には何が有るのだろうか? 僕の知る限り谷河には異能力者ではない筈だ。可能性は(ゼロ)では無いが、異能力関係の事件に巻き込まれている確率は低いと思われる。()らば、単純に怠業(サボ)りだろうか? とも思ったが、滅茶苦茶に思えても意外と常識的な彼女が理由もなく怠業るとも思い難い。――但し、其れは僕の知る()()()彼女であり、現在の彼女にも当て嵌まるかは分からない。抑々(そもそも)、今思い描いている彼女の姿と言うのは全て僕の思い込みで、実際の彼女とは異なる可能性だってあるのだ。……だって、そうだろう? 誰だって他人の全てを()る事など出来ないのだから。其れは多くの物語で語られ、多くの人が経験してきた事であろうから、今更僕が語る可ではないのだろうが、()えて無知で無学な無明たる僕は口にさせて頂くことにしよう。(ただ)、別にそんな在り来たり(ベタ)な話をしたい訳ではないので閑話休題といこう。

 

「今日も学校には来てないようでな……」

 

 珍しく気難しそうな表情をうかべる教諭を見て彼の善性を感じる。其れは嘗て僕にも向けられた事があった気がする表情で、ちゃらほらとした性格に見える彼が其の実生徒想いであることを思い出させた。湧き上がってくる申し訳無さと罪悪感と共に、教諭を巻き込むことが無くて本当に良かったと心から思うのであった。

 

 

 

 旧交を温めた後、按田教諭と別れを告げて僕達が向かったのは控え室ともなっていた空き教室である。僕と蒲池さんでさっと配置(レイアウト)を変えると、今にも三者面談でも行うかのような見た目に変わった。其れも其の筈、此れから行う事は、事件発生時に近くに居た若しくは実際に目撃した生徒への聞き取りだ。

 名目は事件発生時近くに居た生徒への心理相談(カウンセリング)となっているが、当然そうではない。此方(こちら)選出(ピックアップ)した生徒を呼び出し、情報を取り、蒲池さんの異能力『禁書目録(インデックス)』に登録されている異能の一つ『ダーク・バイオレッツ』でその相手が異能力者かも探る。此の面子(メンバー)対話(コミュ)力の関係で蒲池さんが主軸(メイン)で話を進めていく事になる為、彼女の負担がどうしても重くなってしまうが、僕の様な凡庸な男に話を聞かれるよりも、見目麗しい蒲池さんの様な女性に話し掛けられる方が相手も嬉しかろう。そう言って心の中で自分に言い訳をしていると、扉から戸を叩く(ノック)音が聞こえてきた。

 蒲池さんが返事をすると、少し気怠そうな雰囲気を(まと)った少年が顔を覗かせた。少しだけ不審げな表情と臆した様子を気怠げなそうな雰囲気に紛れ込ませながら少年が会釈する。何故か学校指定の物では無い緑色の運動着(ジャージ)を着ているが、正直彼が運動部には見えなかった。いや、失礼な話だが。

 其の彼は僕達の前の椅子に座ると、此方を窺う様な表情を浮かべて口を開く。

「あ、あの〜、俺、なんかしちゃいましたかねぇ…………?」

 彼のおどおどとした態度と此の場所でなければ異世界転生した反則(チート)能力を持った主人公の様な台詞だ。そんな彼に蒲池さんが優しげな笑顔で話し掛ける。

赤月(あかつき)なつめ君……であってますかね?」

「あ、ハイ、赤月です」

 素直に応じた赤月少年は蒲池さんの態度に少し弛緩した雰囲気になる。元々はこういう雰囲気の少年なのだろう、緊張感の無いと言うと失礼だが、其の緩さは人好きする様な雰囲気としても受け取れる。

「大したことじゃないよ、さっきも体育館で話していただろ?」

「へ、体育館?」

 ……何やら既視感のある光景である。

「聞いてなかったのか?」

 僕がそう尋ねると少年は冷や汗を掻きながら視線を逸らす。

「いや、その……腹が痛くて、あの、保健室にいたんで聞いてなかった、っす」

 嘘を言っているのが一目瞭然である。先程の按田教諭と言い目の前の彼と言い、どうも今日は不真面目な人間と当たり易い日である。……僕? 僕程に真面目な人間は居ないだろうと自負しているさ。何せ大学に通い(なが)らこうして仕事(まで)しているんだぜ?

 そんな少年の態度に苦笑し乍ら蒲池さんが体育館で話していた内容を掻い摘んで話す。其れに対して赤月は「はぁ……」と気怠そうな相槌を入れていた。

「という訳で、ちょっとしたカウンセリングと聞き取りだよ。別に格式張ったものじゃあ無いさ、気軽にしていてくれ」

 僕がそう言うと、赤月が本格的に身体の力を抜く。だらりと椅子に座る様子に其れは其れで如何な物だろうかと思うが、緊張しすぎて話が聞けなくても困るので気にしない事にする。

「良かったぁ、またアイツらが何かやらかしたのかと思ってハラハラしましたよ」

「アイツら……?」

「い、いやナンデモナイデス……」

 そんなに動揺して何でも無いも何も無いだろうとは思うが、どうやら事件とは関係なさそうなので捨て置くことにする。聞き取りをするのは彼一人ではないのだから無駄な時間は取れないのだ。

 其れから数時間、僕達は赤月を皮切りに生徒達から話を聞いていった。その会話を全て録音していく傍ら、鷹橋が手書きでも纏めていく。録音しているから別に要らないのでは無いかと思ったが、手書きには書いた人間の所感が残るから其れは其れで手掛かりになるのだという。但し、客観的な事実も必要だから録音も同時にするのだそうだ。探偵業は色々と大変なのだと思い知った僕だった。

「スケッチ用の道具を買いに行った時に……」

 困惑しながら僕達の質問に答える安野宗一郎少年。

「友達とゲームを作るための取材をしていたんですけど……」

 其の話に突っ込んで聞くと嬉々として語りだして止まらなくなった丸登史明少年。

「あの時はエレメ……いや、何でもないです……」

 良く分からない事を言って、何故か目を逸らしてしまう瑞沢夢女史。

「僕はお嬢様を送り迎えしていただけですが……」

 何故か執事服を着た浅野ハジメ女史。

 そうして何人かの面談が終わった後、疲れた様に――いや、実際に疲れているだろうが――蒲池さんが溜息を吐いた。

「凄いな、この学校は……」

 確かに、個性的な人間(ばか)りで驚きつつも辟易としてしまう。つい数年前まで自分も此処に通っていたというのにだ。先程話を聞いた日向奈津女史なぞ延々と毒物に対して語っていた。正直今回の事件とは関係なしに通報しようかと思った程である。

 そんな僕の冗談を聞いて蒲池さんは真面目な顔で首を振る。

「そうじゃないよ西緒……今面談した子達が全員異能力者だったんだ」

「なっ……ぜ、全員!?」

 驚きの余り大声を出してしまう。鷹橋も声こそ上げてはいなかったが驚愕の表情を浮かべている。嘗ては数少なかった異能力者という存在は、今では殆どの人間が認知する程には人数を増やしている。爆発的にと言う程では無いが、着実に昔より増えている。

 以前何かの胡散臭い心霊(オカルト)番組で何かの大災害の予兆で人類は其の大災害を乗り越えるために進化しているのだと眉唾物の話をしていた。

 (しか)し、其れは飽く迄も以前に比べての話である。依然として此の横浜、いや、世界的に見ても異能力者という者は少数派(マイノリティ)である。そんな少数派(マイナー)な存在である異能力者が集まっている学校など異常以外の何物でも無いだろう。

「まあ、事件に関係ありそうな能力の奴はいなかったけどな」

 少しほっとした様な表情を浮かべた蒲池さんが僕の方を盗み見るようにして見る。――気を使われた――そういう事なのだろう。僕としては卒業して暫く経ち、見知った後輩も殆どいない此の学校に容疑者が居たところで大して精神的な衝撃はないのだが、母校の人間が疑われているというだけで嫌な思いをする人間もいるのだろう。そういった彼女の優しさが感じられる視線であった。

 (ただ)、先述の通り僕は此の学園に大した感慨も愛着も持っていないので、其の気遣いは無用ではあるのだが、気遣って貰った事自体は非常に嬉しかった。

 大きく伸びをして再度目録(リスト)に目を通していく。

「…………で、これで最後なわけ?」

 そんな鷹橋の言葉を聞き乍ら僕は目録を捲る。そして、其の手が不意に止まる。そう、見つけてしまったからだ。

「まあ、大体は終わりかな? あとは今日欠席している子達ばかりだからね」

 そんな言葉を聞き乍ら、視線は目録に釘付けになる。

 嗚呼……何故其の可能性を頭から追い出していたのだろうか……。無意識的に、いや、もしかしたら意識的に其の可能性を排除していたのだろう。身近だった筈の、身近でなくなった彼女が事件に関わっている可能性を……。

 そう、【谷河流】……其の名前が目録には記載されていた。

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