軽文ストレイドッグス   作:LUNARCLOWN

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肆章

 本題に入る前に、章を跨いでしまった事を御詫びしたい。超物語的(メタフィクション)な台詞になってしまうが今更だろう。何せ寡黙で冷静(クール)で通っている僕は余り口数が多くないのだが、頭の中では色々と考えている事が読者諸兄には伝わっているだろう。なので、会話より思考の方が長く、ついつい脱線した内容を語ってしまう事についてはご容赦願いたい。さて、此れ以上次元を越えた(メタ)発言を続けると苦情になりかねないので本編に入ろうではないか。僕は某蝸牛の少女やmerc with a mouth(お喋りな傭兵)ではないのだから。

 

 

 

「それで『横浜連続暴徒事件』についてなんだが」

 

 一通り志蔵との雑談を楽しんだ僕は、漸く本題に入った。こうして他愛も無い会話をした僕達は、多少はお互いの事を知った筈だ。だから、今現在志蔵が僕に呆れた様な表情を向けているのは、心を開いているからこそなのだと思いたい。

 

「貴方、本題に入るまでどれだけの時間を使えば気が済むのよ」

 

「いや、僕は情報を得る側と与える側には何かしらの信頼関係が必要だと思うんだよ。しかし、僕と志蔵は出会ったばかりだ。そこには信頼も何もない。ならば、まずは話をして多少なりともお互いの事を知る必要があると思ったんだ」

 

「驚くほど口が減らない人ね……」

 

「失礼な。これでも僕は寡黙で硬派な人間で通っているんだぜ」

 

「貴方が寡黙で硬派ならリ○ァイ兵長は一言も喋らないわよ」

 

 可笑しいな、○ヴァイ兵長なら声は似ていると、亘なんかには良く言われるのだが。しかし、僕から寡黙さと硬派な所を奪ったら、冷静(クール)な所と知的(クール)な所と格好いい(クール)な所しか残らないじゃないか、全く失礼な奴だ。しかし、そう言った歯に衣着せない言い方は気を許している証拠だろう。そうに違いない。そう思うと少しばかり嬉しい物だ。そうして笑顔を浮かべる僕を、志蔵が気味の悪い物でも見るかの様な目で見ていたが、冷静で格好良くて知的(クール)な僕は狼狽えたりしない。ドイツ軍人並みに狼狽えないのだ。

 さて、閑話休題。

 

「とは言っても、私の方でも知っていることは多くはないわ。事件に黒幕がいて、横浜を混乱に陥れようとしているみたいな、ネットの書き込みや、街中の噂話と変わらないわね」

 

 なるほど、噂以上の事は知らないか。志蔵曰くネットの噂も大差無いらしいので、此れ以上調べて回るのは無駄足かもしれないな。

 

「そうか、ありがとう助かったよ」

 

「え? 私、大したことは話していないと思うのだけど……」

 

 素直に礼を言う僕に、志蔵が目を丸くする。美人と言うのはどんな表情をしていても映える物なんだな。男女の違いはあれど、正直に羨ましく感じた。

 

「いや、()()()()()()()()()も一つの情報だ。少なくとも無駄足をなくせるしな」

 

 其れだけでは無く、志蔵はネットの情報も大差ないと提示してくれた。つまり、インターネットで検索する手間も省けた。となると、後は帰って情報を纏めて自分なりの考察を書けば終わりだ。

 そんな事を考えていた僕に、志蔵が微笑みを向けていた。そういえば、志蔵の笑顔を初めて見た気がするな。先程お喋りに興じてた時は、終始呆れ顔だったような気がするし。

 

「意外と頭が回るのね。少し見直したわ」

 

「僕は知的(クール)な人間だからな」

 

「いいえ、貴方は愚か者(フール)よ」

 

「おいおい、僕の事をそんな風に呼んでいいのは水橋ボイスの後輩美少女だけなんだぜ。それに、僕はそんな評価を受けたことはないぞ。常に最高(オール)な評価だ」

 

「妄想乙。食屍鬼(グール)のように気味が悪いから誰も近寄りたがらなくて、結果として評価される事がなかったのでは?」

 

「おいおい、人形(ドール)のように愛される僕に対して言ってくれるじゃあないか」

 

「はあ、随分と自意識過剰ね。自分の役割(ロール)を分かってないんじゃない?」

 

「よし分かった。これ以上言われると僕の精神が辛い。そろそろ終わり(ゴール)としようじゃないか」

 

 山も意味も無い会話だった。此れで落ちまで無いと、一部女子から人気が出てしまうな。会話だけなら構わないが、話の流れがそうなってしまわないように気を付けなくてはならない。……(あら)ゆる意味でだ。西緒総受とかコメント欄なんかに書かれたら、僕は語り部を誰かに譲って引きこもらなくてはならなくなる。

 山も意味も無い会話の後に、山も意味もない思考を繰り広げた後、ふと思い立った事を言葉にしてみた。

 

「占いで噂の真相とか調べられないのか?」

 

 我ながら良い考えじゃないかと思ったのだが、其の考えは今日だけで見飽きる程見てきた志蔵の呆れた様な目に否定されてしまった。

 

「テレビの特番の見すぎよ。占いや霊能力で事件が解決するならこの世に未解決事件なんてないし、警察もいらないわ」

 

 ごもっとも。実に正論である。お恥ずかしい限りだ。

 志蔵の言う通り、超能力や占い、霊能力といった物で事件が解決するなら、此の世に未解決事件なんて存在しないし、未来を予見する能力でもあれば事件を未然に防ぐ事ができる。然し、世の中で事件や事故が無くなる事はなく、未解決事件も未だ未だある。そう言った事件は警察が解決に向けて尽力しているのだ。先程の僕の様な浅はかな考えは、解決に向けて努力をしている警察の人達、被害に遭われた方々、そして、其の関係者諸氏に失礼と言った物だろう。

 だが、可能性が無い訳では無いのだ。世の中に、そう言った()()()()()は確かに存在するのだから。

 

「試してみたのか? 試しもせずに否定するのはいただけないぜ」

 

「確かに、試してはいないのだけれど……」

 

 少々歯切れの悪くなる志蔵。良く考えれば、仕事でも無いのに、高が噂話の真相を占おうとする占い師などいやしないだろう。そんな物は余程の物好きだ。そう考えると、先程の言葉は志蔵に失礼だったかもな。

 

「では、僕からの依頼と言う形を取るのはどうだ?」

 

 謝罪の代わりに、僕はそう提案した。仕事であるならば、高が噂話でも、占う事に可笑しいところはない。

 

「でも、さっきもいった通り、占いって何でも分かる訳じゃないのよ? 言ってしまえば、ヒントを出すだけ」

 

「構わないさ、やってみることに意味があるんだ」

 

 かの近代五輪(オリンピック)の父と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン氏も「参加することに意義がある」と仰っているではないか。因みに此の言葉、現代では「準備が万全でなくとも、とりあえずやってみろ」といった使われ方をするが其れは誤用であり、本来の意味は「重要なのは勝ち負けではなく、参加するまでに培ってきた努力こそが素晴らしい」と言う物である。抑々(そもそも)、前者の様な無責任とも投げやりとも取れる言葉に、感銘を受けるはずが無いと思うのは僕だけだろうか。もう一つ言うなれば、此の言葉は氏が考えた分かる訳では無く、聖公会のペンシルベニア大主教であるエセルバート・タルボットという人物が倫敦(ロンドン)五輪の際に米国(アメリカ)の選手たちに対して語った言葉であり、其の挿話(エピソード)に感銘を受けた氏が演説の中で使った物である。とは言え、氏の演説に因って有名になった所が大きいので、彼の功績はやはり偉大だとは思う。

 再び、閑話休題。

 

「じゃあ、占ってみるわね」

 

 そう言って志蔵が数枚の紙札(カード)を取り出した。其の数は九枚。点対称の幾何学模様が描かれている所をみると占い札(タロット)の様にも見えるが、表面は白紙で、占い札特有の寓意画(グレゴリー)は描かれていなかった。

 そんな物でどうやって占うのかと訝しんでいたのだが、目があった志蔵が唇に人差し指を当てて片瞬き(ウインク)をした。黙って見てろと言う事なのだろう。然しあれだな……何今の!? 超可愛い! もう普通に好き! 出会ってから無愛想な表情を見る事が多かっただけに、其の威力は計り知れない。生真面目な話し方と反するような、其のお茶目な仕草は僕の(ハート)を盗むには十分すぎる物だった。何だろう、此の高揚感は? 此れがギャップ萌えという奴なのだろうか? 左藤、坂木、藍空、お前らの言っていた事が、僕は漸く理解できた気がするよ……。

 萌えの入り口に立った僕が気付くと、準備は着々と済まされていた。等間隔に円形に並べられた九つの白紙の紙札の、其の円の真ん中に、志蔵が手を広げて置いている。ふと、空気が変わった気がした。そう、志倉の前で初めて『横浜連続暴徒事件』の名前を出した、其の時の空気に似ていた。ピリピリと肌に染みるような、張り詰めた空気。

 

「Mihi te est aequum parere

In mysterium novem nomine…」

 

 志蔵の口から淀みなく言の葉が紡がれていく。祝詞に当たるのか呪文に当たるのか、抑々何語なのかも、言語知識に乏しい僕には分からなかったが、其れを口にする志蔵は、とても神秘的に僕の目に映った。

 僕が雰囲気に飲まれている間に言葉は終わり、気付けば九つの紙札に、何やら絵が浮かび上がっていた。僕の目の前、志蔵から見れば一番遠い紙札には女の子が描かれていた。

 何時の間にか配置も少し変わっていて、志蔵の目の前の紙札と僕の目の前の紙札を頂点にして、僕から見て右側に四枚、左側に三枚と少し歪な楕円形になっていた。

 左側の三枚の内一枚には灰色狼。残る二枚は子供の手を引く女性と占い師が描かれていた。右側の四枚は具象的に描かれていた左側と違い、とても抽象的だった。暗い紫と赤で塗り潰された物、炎と煙に見えなくも無い赤と白、荒野、そして真っ黒に塗り潰された物。何れも少し不気味に思える。

 顔を上げると、最後の一枚。目の前にある紙札を取って、微笑む志蔵と目が合った。

 

「やっぱり貴方は、未知数(フール)だったみたいね」

 

 そう言って穏やかに笑う彼女の手にあった紙札には、旅人の様な姿をした――僕が描かれていたのだった。

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