「これは……」
高エネルギー反応を追って林に入ってすぐ、思わず立ち止まると数十人の死体が転がっていた。
金属製の黒いスーツを着たスキンヘッドの男たち。共通点は全ての男たちが急所を切り裂かれて死んでいること。男たちの血が林の一角を赤く染め上げている。
「……」
その場に
「これは……機械主体のバトルスーツか。サイボーグというのはあの警官の見間違えか。どうやら桃源団は
ここに来る前から感知していたが、林の奥からは未だに高エネルギー反応がしている。サイボーグが戦闘中であることが同じサイボーグのジェノスにはわかった。
桃源団員の外傷から見て、サイボーグがおおよそ使わないような刃物による切り傷だ。サイボーグたちはこれをつけた相手と戦っている?
そう判断し、検分を終え、林の奥へと走る。レーダーを最大にして感知していると、どうやらサイボーグ2体が何者かと戦っているようだった。
「---着いたな。奴がサイボーグと戦っていたのか……速いな」
戦闘を藪の中から観察する。
姿の異なる人型サイボーグ2体が刀を持った黒い姿の人間と戦っている。人間としては尋常ではない速度である。あまりの速さにサイボーグたちはその姿を追い切れていないものの、その装甲から刀を持った男も攻めあぐねているようだ。
「? あいつは何をしている?」
目を横に向けると、そこには桃源団員の着ていたスーツ姿の男が倒れていた。後頭部に投げダガーが刺さり、倒れたままその場を動かないものの生命反応が感知できた。巻き込まれた桃源団員だとあたりをつける。
そこまで考えたところで隙を窺い。藪から男を回収する。
「なっ、誰だテメエ!」
「静かにしろ。ヒーローのジェノスだ。お前たちは何者だ?」
小声で叫ぶという器用なまねをする男の顔に手のひらの焼却砲を向ける。男はその危険性がすぐにわかったようで一気に顔を青ざめさせた。
「わ、わかった。話す!俺はハンマーヘッドで、刀のがゼニールに雇われた殺し屋、サイボーグがスーツをつくった奴らだ!」
「ハンマーヘッド……B級賞金首のか。サイボーグの奴らについて詳しいことを教えろ」
「知らねえ!あいつらの所からスーツを盗んだだけだ!……頼む!助けてくれ!あいつらに殺される!」
どうやら悪人同士の小競り合いだったらしい。頭を殴りつけてハンマーヘッドの意識を刈り取ると、藪から出てサイボーグらと相対する。このサイボーグたちはある組織の一員らしい。ならば、奴の情報を持っているかもしれない。
「む……目撃者が増えたな」
「だから言ったのだ」
「ふん。お仲間か?」
「お前たちに聞きたいことがある」
サイボーグの方に指をさす。
「町を破壊するサイボーグに心当たりはあるか?」
「……知っていたとして、言うとでも?」
「そうだな。なら、お前たちを破壊した後にデータを抜き出すとしよう」
「貴様ら俺を無視するな!」
炉を稼働させる。とりあえず全員戦闘不能にしてしまえば問題ないだろう。
「---焼却!」
辺りに閃光が瞬いた。
(頭蓋骨が固くて本当によかった……母ちゃん、俺働くよ……)
頭蓋骨の固さから気絶を免れ、爆発音を尻目にひた走るハンマーヘッドだった。
◇◇◇
周囲を囲むヒーローたち。こちらにカメラを向けるテレビ局員。その後ろにいる野次馬。その全員があっけにとられたような表情で固まっている。さもありなん。唐突に
「……この人は桃源団じゃないです。私の知り合いのヒーローです」
サイタマに乗りながら宣言する。遠くからの爆音が聞こえてくるほど周囲が静まりかえっているからか妙に声が響き渡った。
「は?いや、そいつハゲだし……」
「たまたまハゲのヒーローです」
「そんなヒーローいたっけ?」
「新人なんです」
「えぇ……」
困惑から復活した周りのヒーローの声に答えていく。おっと、向こうのアナウンサーも復活したようだ。
「あ、あれはクレイモア!?えぇっと、あの桃源団員がヒーロー?と言っているようですが……?」
「彼は新人ヒーローです!ネットの協会ページにも載っています!」
ざわめきが大きくなってきたので声を張る。誰もが半信半疑のようだったが、しばらくしてスマホをいじっていた野次馬の中から「本当だ!」とか「見てみろよ!C級のサイタマだって!」という声が聞こえてきた。
「なあ。そろそろいいか?」
「ああ、すまん」
「起き上がった!?」
「何者だアイツ……?」
「なあ、あいつ桃源団じゃないなら俺らは何のために……」
「言うな。……帰るか」
「そうだな……」
足下からの声にサイタマの上からよけると、平然とした様子でサイタマが立ち上がった。その様子に周囲からは驚きの声が上がっている。もう帰り始めているヒーローもいるし、もうこれなら大丈夫そうだ。
「おお、クリスか。誤解といてくれたみたいだな。助かったぜ」
「いや、いいさ」
「あれ、ジェノスは?」
「桃源団の方に行かせた。そうだサイタマ、お前早いところB級になれ。このままじゃ耐えられん」
「オメ-俺に
「お前の弟子だろ?」
「待て待て待て!お前クレイモアさんとどういう関係だ!?」
サイタマと話す横からベジタリアンさんが割り込んでくる。サイタマは私の恩人だが、強いて言うならどういう関係だろうか?
「どういう関係って……どういう関係だ?」
「家主、とかじゃないか?」
「あ、それだ」
「家主……?それならまだチャンスが……」
考え込むベジタリアンさん。そういえば、巨人の時以来に顔を合わせたし、挨拶をしといてもいいかもしれない。
「前以来ですねベジタリアンさん」
「あっ!そ、そうですね!あの後大丈夫でしたか?」
「はい」
「あ、えと、俺の方はですね……」
ベジタリアンさんの言葉を遮るようにポケットから電子音が鳴る。
「あれ、お前電話って持ってたっけ?」
「協会に貰ったんだ」
「へぇ~」
「出ても?」
「あ、はいどうぞ」
(こいつ、C級のくせしてクレイモアさんにあんな口の利き方を……)
(タダで携帯くれるとか太っ腹だな。俺も貰おっかなー)
何も考えてなさそうなサイタマを何故か睨むベジタリアンさんに許可を取ったので通知を見ると、担当だった。
『やっほークーちゃん!テレビ見てたよー!お手柄だったねー』
「ああ。その呼び方を止めろと何度も」
『それで、詳しい状況を教えてくれる?』
こいつ、遮りやがった……。
まあいいかと気を取り直し、新人ヒーローのサイタマが桃源団に間違われていたこと、同じヒーロー同士なので倒すわけにもいかずにサイタマが困っていたことを伝える。
『えぇー?でもそいつってC級ヒーローでしょ?A級のタンクトップベジタリアン相手に手加減できると思えないんだけど?むしろ周りが手加減してたんじゃない?』
「いや、サイタマは私より強いぞ」
『……マジ?』
「ああ、マジだ」
疑わしげな担当に念を押して説明する。C級だからと言うが、そもそもサイタマがC級スタートなのがおかしいのだ。私ならともかくサイタマならばS級スタートでもいいくらいだというのが私とジェノスの言だ。
「桃源団の方はどうなっているかわかるか?」
『あ、うん。連絡が入ってるね。桃源団は全滅。他にも何か色々いたみたいだけど戦闘は終わったみたい』
「そうか」
『そうそう、クーちゃんが桃源団に行かせたのってS級のジェノス君?クーちゃんの場所を教えてもいいかな?』
「ああ、構わない」
『そっか。それじゃまたねクーちゃん』
「いや待て、呼び方を---」
言い切る前に切られてしまった。
にしても桃源団とやらの方は終わっていたのか。道理で爆発音が聞こえなくなったと思った。
「あ、電話終わりました?」
「ああ」
「誰だ?」
「ヒーロー教会。ヒーローの小競り合いを止めてくれって頼まれてたんだ」
「へー」
(こいつまた……!)
どうしてベジタリアンさんはサイタマを睨むんだ?
「あの」
「あ、はい!そうだ!そういえばクレイモアさん携帯持ってたんですね!俺も持ってるんですよ!ほら!」
「なあアニキ、ベジタリアンさんは何を……むぐっ」
「とりあえず今は黙ってベジタリアンさんの応援をするのだ、弟よ」
「それでですね……その、番号の交換でも、な~んて……」
「いいですよ?」
「え、い、いいんですか!?」
それくらいなら別に構わない。やったぜ私!アドレス帳が増えるよ!
「私、操作方法がわからないのですが……」
「大丈夫です!俺がやります!」
「お願いします」
「そ、それでは今からクレイモアさんへのインタビューを試みたいと思います!」
ん?何だって?
女性の声に横を向くと、アナウンサーがテレビカメラに向かって何事かを言っているところだった。
「こんにちはクレイモアさん!そちらの彼とはどういう関係で?」
「こんにちは……」
まずい。私は喋るのは苦手なんだ。しかし携帯がベジタリアンさんの手元にある以上逃げるわけにもいかない。最低限の受け答えでどうにかするしかないな。
「クレイモアさんのその大剣術はどこで学んだもの何ですか?」
「これは……」
「何故それほどの力を持っていてC級スタートだったのでしょう?」
最低限の受け答えで……。
「どうやって怪人を見つけているんですか?」
「普段は何をなさっているんですか?」
「やはり甘いものがお好きですか?」
最低限の……。
「出身は?」
「趣味は?」
「好きな色は?」
「好きな食べ物は?}
「普段は何を?」
「テレビは見る?」
「親しいヒーローは?」
「家族構成は?」
無理。
誰か助けて……。サイタマたちをちらりと見る。
「おい、困ってんだろ。そこら辺に」
「誰ですかあなた。黙っていてください」
「だっ」
しょうがないとばかりに出てきたサイタマが一蹴される。アナウンサーの「誰ですか」の一言にショックを受けたようで、固まってしまった。怪人以外には弱いなお前。
「え~と、ここをこうして?いや、こうしてこうか?」
「ベジタリアンさん!気づいて!」
「アニキ、あれ何やってんだ?」
ベジタリアンさんは携帯と格闘中だ。それよりもこっちに気づいてほしい。タンクトッパーはダメだな。
「ちょ、ちょっと、クレイモアさん引いてるから!」
「クレイモアさん!お願いします!」
カメラマンの静止も聞かずにアナウンサーがマイクをこちらに向ける。アナウンサーの目を見るとあちらこちらを向いていて、あわあわと言っている。矢継ぎ早な状況の変化について行けず、混乱しているようだ。それでこんなに強引なのか……。と、そこで
「おい」
「え、きゃっ」
いきなり横から手を出しマイクを払いのけた人物がアナウンサーから庇うように私の前に立つ。この特徴的なメカっぽい腕、金髪は……!
「ジェノスか」
「はい、ただいま戻りました。『担当』とやらからクリスさんが困っていると聞き、前に出ましたが何か問題はありましたか?」
「いや、助かった」
本当に助かった。ジェノス、厄介払いしたり、面倒くさい奴だと思ってごめんなさい。体に傷が付いているのは手傷でも負ったのだろうか?後で
「おい、クリスさんは取材には応じない。失せろ」
「ひっ」
前言撤回。ただのアナウンサーに凄むなジェノス。お前やっぱり面倒くさいわ。
「よし!登録できましたって誰だテメエ!?」
「お前は……A級のタンクトップベジタリアンか」
「そういうお前は……S級のジェノス!?何故ここに!?」
「私を呼びに来たんだ。そうだろジェノス?」
「……ええ、そうですね」
「ジェノス。どうした?なんか傷だらけだぞ?」
「桃源団を倒す際に少しありまして……」
「え、あいつらお前が倒しちまったのか?」
「いや、そういうわけではないのですが、解決はしたようです」
「なんだ、じゃ、帰るか」
「はい先生」
「ああ」
「ちょ、ちょっと待て!あんたらどういう関係だよ!」
サイタマの号令で帰ろうとすると、ベジタリアンさんがまた割り込んできた。
「ベジタリアンさん。携帯を返して貰ってもいいですか?」
「あ、はい」
丁度いいので携帯を返して貰う。横でサイタマとジェノスが「邪魔だ、どけ」「いいじゃねえかそれくらい」「はい先生」ともめている。もめてるのかこれ?
「俺らの関係だっけ?え~と」
「先生が俺の師匠で、俺が弟子です」
「S級が弟子!?」
「私にとっては家主だな」
驚きの声を上げるベジタリアンさん。サイタマの強さは肌で感じていただろうに、何を驚いているのだろうか。
「俺とクリスさんは……」
「何だろうな?」
ジェノスと顔を合わせる。居候先の家主の弟子とかか?わかりづらいな……あ、そうか。
「ジェノスとは同居人だな」
「そうですね」
「同居人!?」
さらに驚くベジタリアンさんが膝から崩れ落ちる。
「なんだこいつ……」
「さあ?」
サイタマとジェノスと同感である。
「同居……同棲……?ヒーロー同士……ゴールイン……」
ぶつぶつとつぶやき続けるベジタリアンさん。まあいいかと私たちはZ市に帰るのだった。
「あ、ちょ、待ってくださーい!」
テレビから逃げたとも言う。
◇◇◇
『特集! クレイモアとジェノス!』
『クレイモアに同棲相手!? 相手はS級ヒーロージェノス!!』
『もう既に名前で呼び合う仲!?』
手元の雑誌にはそんな見出しが大きく載っている。
『いやー、ショックですねー』
『ジェノス様に相手がいたなんてー!』
『まあお似合いなんじゃないっすか?』
つけっぱなしのテレビからはそんな声が聞こえてくる。画面右上のテロップには『クレイモアとジェノスが同棲!?』という文字が。
「どうしてこうなった……」
「知らねーけど」
「お互いにこれが初のプライベート情報だったのが大きいんでしょうね」
ため息に反応するジェノスとサイタマ。本当に、どうしてこうなった。
・主人公ちゃん
深く考えずに返事をしたら勘違いをされ、しかもテレビで生放送されていた。どうしてこうなった。肉体的にはわからないが精神面はアラフォーなのでジェノスとはかなりの年の差がある。
・ジェノス
今回の勘違いを予期していたが、主人公ちゃんに考えがあるんだろうと放置していたものの、そんなことはなかった。勘違いの内容については主人公ちゃんに迷惑がかからなければどうでもいいと思っている。
・サイタマ
いきなりテロリストに間違われ、先輩ヒーローに睨まれ、アナウンサーにぞんざいな扱いを受けても文句1つ言わなかった。今回の被害者。
・タンクトップベジタリアン
主人公ちゃんのアドレスゲットだぜ!と喜んだのもつかの間。絶望の縁に落とされてしまった。後日メールで主人公ちゃんに確認を取ったところ誤解だとわかり、転げ回って喜んだ。
・担当ちゃん
ヒーロー同士の争いを個人的なツテで収め、桃源団にも対処したということで協会内の立場を上げた。クーちゃんと呼ぶ相手が自分より年上だと言うことは一切知らない。