東方交換録   作:シンP@ナターリア担当

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第17章 涙の理由~ただ一人の、かけがえの無い『人間』~

~輝夜Side~

 

「輝夜!左だ!!」

「そういうアンタは上よ!!」

「へぇ・・・なかなか粘るじゃないかい・・・っと。こっちもちょっと目を離すと撃たれるからねぇ」

「姫様!可能な限り小町は抑えます!!もう少し頑張ってください!!」

「わ、私も援護します!!」

 

 先ほどの状態から3分が経過した。そう、たった3分しか経過していないのに、こちらはかなり消耗させられている。私が作った設置型の弾幕を、弾幕同士の距離を操りこちらの進路を塞ぎ、そこに自らの弾幕や鎌で攻撃をする。もちろん、そこから逃げた先にも操った弾幕を配置する。そんな攻撃がずっと続いている。まだスペカの時間は少しある。まったく・・・こんだけ長く生きてて、たかだか3分がここまで長く感じるだなんてね・・・。

 

「妹紅?まだ行けるかしら?」

「こいつを倒した後にお前もぶん殴らなきゃならねぇんだ。まだまだ余裕に決まってんだろ」

「その前に私がアンタをダウンさせてやってもいいんだけど?」

「この状況でやれるんならやってみろよ」

「ホントにアンタ達はずっと言い合ってるねぇ・・・。いっそ放っといた方が速く終わるんじゃないかい?」

「あら、そう思うなら攻撃を止めてくれてもいいのよ?」

「そうすりゃさっさとお前をぶっ倒してコイツをぶん殴れるんだ。しっかり感謝してやるぞ?」

「まだそんな元気があるんだねぇ・・・とんでもないお姫様達だよ」

「そういう貴女も、私の矢を軽々避けてるじゃない」

「いやいや、避けるのに必死で怖いのなんの」

「そういう事は私の目を見て言って見なさいっての」

「その『狂気を操る程度の能力』を持った赤い目を見ながら、かい?」

「チッ、やっぱりばれてるか・・・」

 

 こんな会話をしながらも、戦況はずっと動き続けている。こちらから攻撃をしようにも、弾幕は距離を操られる可能性があるのであまり出せず、接近しようにもこの状態だもの。せめてこの結界が切れるまでは、回避に徹しないとね・・・。

 

「輝夜!後何分だ!」

「焦んじゃないわよ。もう2分もすれば消えるわ」

「その2分がとんでもなく長いんだがな!」

「おやおや、そいつは困るねぇ。それまでにアンタ達を倒さないと、また面倒なことされそうだよ」

「もちろん。面倒なことをさせてもらうわ」

 

 そう、攻めるチャンスは・・・その瞬間しかない・・・。

 

「妹紅、よく聞きなさい」

「なんだ」

「この結界が切れたタイミングで、私はアイツに攻撃を仕掛ける、そして、一瞬でもなんでもいいから、絶対に隙を作る。アンタはその隙を逃さずに、確実にそこで一撃で決めなさい。私ごとでもいいわ」

「またどんな無茶を言うかと思えば・・・出来んのか?そんなことが」

「えぇ、やってみせるわ。アンタこそ、しくじるんじゃないわよ?」

「お前じゃねぇんだ。そんなことするかよ」

「敵の目の前で作戦会議とは、恐れ入ったねぇ・・・それを聞いたアタイが、隙を作ると思うかい?」

「アンタが作るんじゃなく、私が作らせるのよ」

「おっと、こりゃあ一本取られたねぇ」

 

 ほんの一瞬の勝負になる・・・私がしくじっても、アイツがしくじっても、そのまま負けに繋がる・・・。でも、やらなかったらもうチャンスは無い。こちらが負けずにいたとしても、コイツに勝つタイミングが無くなってしまう・・・。やらないといけない。

 

「そうこう言ってる間にもう残り1分も無いくらいか・・・じゃあ、本格的に攻めさせてもらうよ!」

「姫様!!」

「永琳!貴女はちゃんと援護をしなさい!イナバ!私の能力を持ってるのはアンタよ!役目をしっかり果たしなさい!」

「で、でも使い方が・・・」

「感覚でなんとかなさい!!」

「輝夜!しゃがめ!」

「分かってるわよ!!!」

「お姫様にしとくにゃ勿体無い指揮っぷりだね」

「月の軍隊はこれよりはるかに多いもの、この程度扱えて当然なの・・・よ!」

「っと、こっちのお嬢さんもよくやるねぇ。死ぬのが怖くないのかい?」

「何年生きたと思ってる。死にたいなんて思わねぇが、それを怖がってちゃ何も出来ねぇんだ・・・よ!」

「ほんと、女にしとくのが惜しいもんだ・・・ね!!」

 

 小町が鎌を手に走る。永琳、イナバに檄を飛ばしつつ、振りかぶるその鎌をしゃがんでかわし、そこから切り返しの袈裟切りを横に飛んでかわしながら弾幕を撃つ。避けた先に妹紅がさらに弾幕を飛ばし、横に身体を反らしたところに妹紅が近づき蹴りを放つ。それは鎌の柄の部分に止められ、そのまま押し返される。

 

「残りも少ないねぇ・・・一気に行くよ!!」

「チッ!ここに来てまだ速度が!」

「耐えなさい!後少しよ!」

「言われなくっても!!」

「アタイから逃げられるなんて思わないことだね!!」

「ぐっ・・・!まだか・・・!」

「後10秒よ!!」

「逃げられないって言ったろう?」

「な!?」

 

 一気に倒しに来る小町と、それを必死で避ける私たち。たった数秒のやり取りの最中、あろうことか小町は妹紅の周囲数メートルを弾幕で包囲した。逃げ場を完全に失うほどに・・・。そしてご丁寧にちょうど小町を挟んで妹紅の対角線にいる私側、つまり自分の背中付近にも、壁のように弾幕を張っている。見つけた・・・今まで一切見せなかった小町の隙を・・・ここしかない!!

 

「チッ・・・後数秒だったのにな・・・」

「さぁ、今度こそ・・・一人目だよ」

「妹紅!準備しなさい!!」

「残念、後数秒遅ければねぇ」

「残念ね、計算通りよ!!」

「ど、どうなってんだい!?壁が!?」

「妹紅!今よ!!」

「任せろ!!」

 

 妹紅に詰め寄る小町に向けて走り、そのまま羽交い絞めにする。そう、この瞬間のためだけに注意を向けさせて来たのだ。このスペカの残り時間に。私はあえて、ほんの数秒だけ時間を長く伝えた。そこから細かく小町にも聞こえるように時間を伝え、この瞬間を待った。間に合うと信じきり、こちらから完全に注意を逸らすその瞬間をね!!『永遠と須臾を操る程度の能力』の持ち主を舐めるんじゃないわよ!!さぁ、これで後は!

 

「これで・・・っ!!」

「忘れてたかい?アンタの左肩はまだ治ってないんだ。そんな状態で羽交い絞めなんて出来るわけないだろう?」

「輝夜!!」

「残念だったね。でも、これで終いだよ!!」

「姫様ぁ!!」

 

 しくじった・・・!こんなしょうもないミスで・・・!ごめんなさい、妹紅。後は任せたわよ・・・。そして・・・小町がその鎌で、私を薙ぐ・・・。

 

「ぐっ!!あぁっ・・・!!」

「え・・・?」

「な・・・何やってんだいアンタ!!」

「も、妹紅・・・?」

 

 次に私が目にした光景は、私を過ぎ去るはずだった鎌の軌道上に立ち、その腹に深々と鎌を刺した妹紅の姿だった・・・。

 

「あ、な・・・」

「い・・・だ・・・」

「妹紅・・・?」

「今だ!!やれ!!!!」

「!!?」

「何を!?っ!?鎌が動かない!!?」

「ああああああああああああああ!!!!!!!」

「チッ!でもガードくらいは・・・ぐあっ!?」

「やっと・・・隙を見せたわね・・・!」

「永琳の矢か・・・こいつは・・・まいったね・・・」

 

 永琳の矢が肩に刺さり、小町は永琳の方を見やる。ありったけの力を込めた一撃を小町の後頭部に打ちつけ、小町はそのまま横たえた・・・そして、妹紅もまた、支えが無くなったかのように倒れた・・・

 

「妹紅!!しっかりしなさい!!妹紅!!」

「へへっ・・・上手く行ったな・・・やっぱりお前がやるより、私がやるほうが・・・」

「喋るんじゃないわよ!!アンタは今不老不死じゃ無いのに!!なんでこんな無茶なことを!!」

「それは・・・お前だって一緒だったろ・・・?」

「永琳!!早く!!何か薬は無いの!!?」

「私だってなんとかしたいわよ!!でも・・・それがあったら、今頃姫様の肩だって治してるわよ!!」

「っ!!なんで・・・なんで庇ったの!!私がやられる時にだって隙は出来たはずよ!!なんで!!!」

「こんくらい・・・どうってことねぇよ・・・。ちょっと一寝入りしたら、お前をぶん殴らなきゃ・・・だからな・・・」

「いいわよ!!何発だって殴られてやるわ!!その分こっちだって殴り返す!!だから起きてなさい!!まだ眠っちゃだめ!」

 

 なんで!!なんでこうなったの!?ただ異変が起きたから、いつものように解決されて、またいつも通りに戻るって・・・!そう思ってたのに・・・なんでコイツが・・・!!

 

「おいおい・・・お前、何泣いてんだよ・・・。勝ったんだぜ?私たちはよ・・・」

「えぇ、そうよ!!勝ったのよ!!だからアンタが倒れてるのもおかしいのよ!早く立ちなさい!!永遠亭に行けば薬だってあるわ!!今ならまだ!!」

「姫様・・・!」

「わりぃな・・・どうにも疲れちまって・・・今はめちゃくちゃ眠たいんだ・・・すまねぇけど、送ってってくれよ・・・」

「ダメよ!!起きなさい!!!眠るなんて許さない!!許さないんだからぁ!!!!!」

「案外泣き虫だな・・・輝夜・・・起きたら笑いまくってやるから・・・」

「妹紅・・・?」

 

 ぴたりと・・・妹紅の声が途絶えた・・・。

 

「妹紅・・・?ねぇ・・・まだ起きてるでしょ?ほら、返事しなさいよ・・・」

「姫様・・・」

「私と殴りあうんでしょ・・・?さっさと異変を止めるんでしょ・・・?何寝た振りなんてしてるのよ・・・」

「姫様・・・!」

「アンタは・・・蓬莱の薬を飲んだんでしょ・・・!?だったらこんな場所で死ぬはず無いじゃない・・・!起きなさいったら・・・!!」

「姫様!!」

「なんで!!なんでなのよ!!!どうしてこんなことになったのよ!!」

「あ、あぁ・・・」

 

 ずっといがみ合ってる相手だった。何度も何度も殺しあった。お互いが顔を見合わせる度に、どちらかともなく言い合いが始まって、どちらからともなく殴りあったりもした。何百年・・・いや、もっと過ぎていたのかもしれない・・・そんな長い時間の中で、ずっと変わらずにい続けた相手・・・。殺してやりたいなんて何度も言ってたのに・・・なんで、涙が止まらないの・・・?

 

「・・・にが・・・」

「姫様・・・」

「何が『人間を幸運にする程度の能力』よ!!!私も!!あいつも!!!他の皆も!!誰一人幸せになってないじゃない!!私も永琳もイナバも、皆月の民!!小町は死神よ!!でも!!!アイツは!!!!!!アイツは今は何の能力も無いのよ!!普通に老いていくし普通に死ぬ!!どこにでもいる、普通の人間なのよ!!!!私に本当に人間を幸運に出来るっていうんなら、今すぐここにいる一人の人間を幸運にしてみなさいよ!!!!」

 

 当て付けるように叫ぶ。涙を流し、周りの目も気にせず、大声で叫び、そして泣き喚く。まるで駄々っ子のような私を、永琳はそっと抱きしめてくれる・・・。いっそ、この鎌で私もこのまま・・・。

 

「おーーーーい!!!レイセーーーン!!師匠ーーーー!!お姫様ーーーーーー!!!」

「てゐ!?貴女、なんでここに!!」

「出来たんだよ!!」

「落ち着きなさい、こっちは今それどころじゃ・・・」

「『能力を元に戻す薬』が!奇跡的に一人分だけ出来たんだよ!!!」

「それは本当!!?」

「はい!!間違いないです!!」

「よし、これで私が飲めば、すぐに他の皆の分も作れるわ!」

「ダメです!!!」

「うどんげ?何を言ってるの、急がないと・・・」

「姫様、これは姫様が使ってください。まだ、間に合いますから!!」

「イナバ・・・?」

「私は、貴女の家来として長年永遠亭でご一緒して来ました・・・だからこそ、妹紅さんの大切さは、とてもよく分かってるんです」

「うどんげ・・・気持ちは分かるけど、これはもうそういう問題じゃあ・・・」

「私には今!貴女の能力が入ってるんです!!」

「っ!?イナバ・・・!貴女まさか・・・!!」

「間に合います!!だから!!!」

 

 てゐが持ってきた薬・・・。能力を元に戻す薬・・・。本来、これは永琳が飲み、すぐに人数分を調合すれば、一気に解決に繋がると思う・・・でも・・・ごめんなさい・・・私は・・・わがままな姫なの・・・自分の欲しい物は、何でも手に入れる・・・。イナバから受け取った薬を一気に口に入れる。そして、そのまま口移しで妹紅へとその薬を飲ませる。お願い・・・間に合って・・・!

 

「姫様・・・そこまで・・・」

「うご・・・かない・・・」

「そんな・・・!もしかしてもう・・・」

「なんで・・・ここまでしても・・・ダメなの・・・?」

 

 妹紅は起きる気配が無い。心臓の音も聞こえない・・・。やっぱり・・・遅すぎたんだ・・・。後少し・・・あと少し早ければ・・・。

 

「妹紅・・・!」

「なんだよ・・・うるせぇなぁ・・・」

「「「「え・・・?」」」」

「何泣いてやがんだよ・・・うるさくっておちおち寝てらんねぇじゃねぇかよ」

「「っ!!」」

「妹紅!!!!」

「ちょ!!馬鹿!!止めろ!!抱きつくなよ!!!」

「ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!!私が!!!」

「ったく・・・お前がいなきゃ・・・私はこうして起きてないだろ?」

「なんで・・・!」

「分かるに決まってるだろ・・・?何百年お前と殺しあって来たと思ってんだよ・・・。その・・・ありがとな」

「良かった・・・本当に・・・」

 

 間に合った・・・。幸運が・・・本当に起きたんだ・・・!イナバに私の能力が行ったことも、てゐに永琳の能力が行ったことも、そして、私にてゐの能力が来たことも・・・全てが幸運だったんだ!!あぁ・・・本当に・・・

 

「いい話じゃないか」

「「「「「!?」」」」」

「おっと、待っておくれ、もう敵対する意思は無いよ」

「それを言われたって・・・!」

「本当に、すまなかった」

 

 突然の小町の声に驚くと、小町はすでに起き上がっていた。どうやら浅かったらしい・・・。そして、小町は私たちの前で、深々と頭を下げていた・・・。

 

「そんな風にするつもりは無かった・・・なんて、言い訳にしか聞こえないだろうね・・・。でもね、本当にそんな気は無かったんだ・・・」

「でも!!実際コイツは今こうして大変な目に合った!!私だって怪我を負わされて、何度も死に掛けたわ!!」

「この鎌は特殊な作りになっていてね。こんな風に・・・」

 

 そう言いながら小町はその鎌を振り上げ、自分の腕に向けて一気に振り下ろした。

 

「きゃああ!!」

「「え!?」」

「なるほど・・・そういうことだったのね・・・」

「そう、この鎌に刃は付いてない・・・殺傷力があるのは先端の刺さる部分だけで、どれだけ振ったって切れやしないんだよ」

「じゃ、じゃあ・・・」

「あぁ、あの時、何もなければそのまま姫様の方に当たって、そのまま気絶してもらうつもりだった」

 

 なんか・・・どっと疲れた・・・。

 

「だから、事故だったとはいえ、私は危うくアンタを殺しちまうところだった・・・本当にすまなかった・・・」

「一つ・・・いいか?」

「あぁ、なんだい?」

「なんでそうまでして・・・アンタはそっち側に行ったんだ・・・?」

「さぁてね・・・忘れちまったよ」

「おい!!」

「そんなに聞きたきゃ、あいつから聞きな。出来ればの話だけどね」

 

 そう言って小町が目を向けた先・・・二人の神と対峙する謎の男・・・本当に何者なのよ・・・あいつは・・・。

 

「よし、それじゃあアタイは一足先に帰るよ。これ以上いて映姫様に怒られるのも怖いからね~」

「ほう・・・怒られるのが怖いのでしたら、最初からこんなことしなければ良かったとは思いませんか?」

「いやいや、仕事をサボる口実にもなるし・・・」

「・・・」

「・・・」

「「「「「・・・」」」」」

 

 あぁ・・・これはなんというか・・・ご愁傷様?

 

「い、いつからいらしてたんですかね・・・?」

「この戦いの初めから見ていましたよ。ここに来たのは先ほどです」

「わ、わざわざこんなところまで来ていただくほどのことじゃ・・・」

「小町」

「はい!!!!」

「お説教は帰ってからゆっくりとします。まずは」

「まずは・・・?」

「この戦いの全てを、見届けなさい。それが、今の貴女に出来る一番の善行です」

「映姫様・・・」

「貴女が何を思い、何をもって加担したのか、私も、この戦いを見届けることをもって、見極めます」

「はい・・・」

 

 どうにか丸く収まったようね・・・さて、あの神様二人に任せててもいいけど、手が空いたんなら、手伝ってあげましょうかしらね。

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