~ミクスSide~
「まず始めに、俺は1000年以上は生きている」
「だろうねぇ。そうじゃなきゃここまでの強さは納得いかないよ」
「妖怪にはたくさんの種族がいる。鬼、天狗、吸血鬼、魔女、その他にも動物なんかから化けたものなんかもいる。だが、俺はそれのどれにも属さない・・・。というよりも、自分自身の妖怪としての種族が分からないんだ」
「この世界にだって似たようなのはいるけど・・・」
「多分そいつらも同じなんだろう。人間達からただただ畏れられるモノとして生み出された、形の無い恐怖。それらが妖怪として形を成し、恐怖の対象として生まれた者たち。それが、
俺達のような種族を持たない妖怪なんだろう。あくまで推測だがな」
「アンタの生まれについてはよく分かったわ。私達が聞きたいのは、何故アンタがさとりにそこまで感情移入するのかってところよ」
「せっかちなお嬢様だ。まぁいい。確かに今のはあまり関わりはないようなものだからな」
「無いんだ・・・」
「厳密に言えば多少はあるが、まぁ誤差だろうな。さて、お待ちかねの昔話だ」
この話は協力者になってくれたあいつらにも話したが、さて、こっちにはどれほどの意味があるかな?
「話はそれほど遠くはない。ほんの数年前の話だ。俺は1000年近くの内の大半を、その世界を周りながら過ごしていた。妖怪として生まれながらも、こんな風に人と変わらない姿だったから、人間達の世界にも時折混ざったりしたよ」
「この幻想卿にも、何人かそういう妖怪はいたりしますね」
「そうだろうな。そういう物好きってのはどこにだっているもんだ。そうして旅のような生活を送る内、俺は人間という種族を好きになっていた。弱いながらも強く生きようとし、独自の発想で生きていく術を見出していく。そんな人間達を見ているのがとても楽しかった」
「確かに、人間達は頑張っているわね。それはきっと、どの世界でも同じ事ね」
「そして俺はある時、一つの村に着いた。この世界の人里よりも一回りほど小さいくらいで、人口も100人程度だ。その村の人々はとても優しく、見ず知らずの俺を暖かく迎え入れた。特に困っていると言ったわけでもないのに、だ」
「素敵な村ですねぇ・・・。今の人里では外から人が来ることがほぼありませんから、絶対妖怪だと疑われるでしょうし」
「いつもなら2ヶ月ほどで次の地へと動いていたが、そこはとても居心地が良く、気付けば3年の月日が流れていた。俺にとっては1000年以上生きた中のたった3年だったが、とても充実した生活を送れたと、今でも思っている」
そう、あの村は本当にすばらしいところだった。小さな揉め事こそ起こったりするものの、村人達の仲もとても良く、無闇に自然を破壊したりもしない。その小さな村の中で、日々の幸せを感じ、自然とともに生きていく。そんな村だった。
「そのまま黙って過ごし、もう少しした後、またいつものように流れていく。そうしようと思っていたのに、何故だかふと、ここの人たちに申し訳ない気持ちになった」
「申し訳ない気持ち?」
「見ず知らずの流れ者にここまで良くして、その村で生活することも許してくれるような人たち。そんな人たちに、妖怪であることを黙ったままで行くのが、その人たちの好意への裏切りになるんじゃないか・・・そんな風に思った」
「もしかして・・・それが原因で・・・?」
「と、普通なら思うだろうな。俺だって、『今まで騙していたのか』『出て行け』と、言葉を投げかけられるだろうと思っていた。そんな風に言ってもらえれば、後ろ髪引かれることなく次の場所に行けるだろうと・・・。だが、村の人々の反応は『それがどうした』『妖怪だろうと人だろうと、アンタはアンタだろう』『これからも仲良くやろうや』こんなものばかりだった」
「ずいぶんと人が良いというか、もはや馬鹿だな」
「あぁ、俺もそう思うよ。俺がずっと気にしていたことを、たかだかそんなことと流されたんだからな。だけど、嬉しかった・・・。妖怪と人間の共存・・・。出来るわけが無いと思っていたのに、こんないい人たちもいるのだと知れたのだから」
あの時は本当に驚いた・・・。もう村から出て行こう。そんなつもりで話したのに。村の連中は気にも留めなかったんだからな。そりゃあ内心は少なからず驚いてるんだろうが、あの時のあの笑顔は、偽物なんかじゃなかったと。今でも思う。
「それから俺は、妖怪としての力をあまり隠すこと無く、そのままその村で過ごすことになった。力仕事なんかを手伝ったり、子どもの遊び相手なんかをしたり、どこにでもあるような、とてものどかな生活だった」
「でも、それも長くは続かなかった・・・よね?」
「あぁ、お察しの通り、俺が妖怪として過ごし始めて1ヶ月ほど経った頃、事件が起きた」
「事件・・・?」
「その村の人間の一人が、妖怪に殺された」
「まさか・・・その濡れ衣を・・・?」
「いや、流石にそこまで単純じゃないさ。村の人たちはすぐに俺じゃないと言ってくれた。そして、俺にその妖怪と話して、なんとか襲うのを止めるように説得してくれないかと依頼してきた」
「簡単に人間を襲うような妖怪が、同じ妖怪とはいえ人間と共存してるようなやつの言葉を素直に聞くわけが無い、ってとこね」
「そう、まさにその通りだ。しかも性質の悪いことに、その妖怪は一体じゃなく複数で行動していた。そいつらの親玉はむしろ俺にこう言ってきた『お前が俺達をあの村に引き入れてくれよ。こいつらはもう大丈夫だからっつってな。なぁに安心しろよ。分け前ならしっかりとくれてやるからよ』ってな。もちろんその時点で交渉は決裂し、俺はその親玉の首を掴み『もし次にあの村を襲えば容赦はしない』そう言って村に戻った」
「殺さなかったんですか・・・?同じ妖怪とはいえ、村の人は殺されたのに・・・」
「たしかにそれは悲しかったが、誰も死なないに越したことは無いと、そう思ったんだ。だが、その判断が悲劇の引き金だったのかもしれないな・・・」
「切れた親玉が群れを率いて村を襲い、村人が多大な被害を受け、何故殺さなかったと村を追われた、この辺かしら?」
「惜しいといえば惜しいが・・・違うな。ここからは少し断片的になるが、当時の俺の視点をここのやつら皆に共有してもらおうか」
「どういう意味?」
「俺の能力を使い、お前達に俺の過去を直接見せてやる。俺の立場、俺の視点、俺の感情までな」
「なっ!?そんなことが!?貴方の能力っていったい・・・」
「詮索は後にしてもらおう。じゃ、いくぞ」
~ミクス(過去)Side~
あいつら・・・力の差をある程度見せたけど、もしかしたらまだ襲ってくるかもな・・・。村長には警戒を解かないように言うとして、俺も警備に回るか。あいつら程度ならなんとでもなるが、村に被害が出るのは避けたい。っと、見張りさんに挨拶しないとな。
「どうも、戻りましたよ」
「おぉ!あんたか、無事でよかったよ。それで、どうだった?例の妖怪は諦めてくれそうかい?」
「いや、分からないな・・・。相手は俺みたいな人型の妖怪で、一人じゃなくて複数の妖怪の群れだった。ざっと15人くらいだったか」
「じゅ、15人!?そんなにいたのか!?よく無事で帰って来れたな・・・」
「俺だって長生きしてるんだ。身を守る術なら相応に持ってるさ。それで、一応止めるようには言ったが、難しいかもしれない。一応警戒は緩めないように今から村長に言いに行く。見張りさんも気をつけて」
「こ、怖いこと言うんじゃねぇやい!まぁ、分かった。しっかりと警戒しておこう」
「頼みましたよ。じゃあ、俺はこれで」
「おう!出来れば村長さんにこの騒動が終わったら宴会で良いもの振舞ってくれるように言っといてくれや!」
「了解」
見張りさんも相変わらずだな。さて、さっさと村長のところに行かないとな。通りを歩く人たちに挨拶をしながら村長の家を目指し、10分ほど歩いたところで村長の家に到着。そこまで大きい村でもないし、当たり前か。さてと。
「村長さ~ん」
「おお、帰って来たか!で、どうじゃった?」
「一応脅しはしましたが、効果があったかは分からないですね・・・警戒は解かずに、1週間以上は様子を見るのがいいかと」
「そうか・・・わしらはただ、静かに暮らしていたいだけなんじゃがな・・・。やはり共存というのは無理なのか・・・」
「人間は一部の妖怪からすれば食料という位置になるでしょう。全員が共存を選ぶことは、無いでしょうね・・・」
「だが、君のような者もいる。そうじゃろう?」
「はい・・・そう思いたいものです・・・」
人間と妖怪の共存・・・。昔からの理想論として言われてるが、この村の人たちはそれを支持している。俺もたくさんの場所を回り、いろんなものを見てきたが、ここまで共存を意識していた場所は数えるほどしかない。むしろ、妖怪は淘汰すべきという風潮すら強まっているほどだ。それのあおりを受け、妖怪側でも人間と敵対する意思が広まってしまっている・・・。このままでは人間と妖怪との戦争なんてことも・・・。
「大丈夫さ。敵意を見せず、友好関係を築こうという意思を見せれば、きっと相手も分かってくれるさ」
「そうだといいのですが・・・」
「ところで、いつまで敬語で話すんじゃ?アンタだって妖怪ってことは、わしなんかよりよっぽど年上じゃろう?」
「たしかにそうなんですが・・・人間の真似をしてた頃の癖というか、そんな感じです」
「はっはっは!そんなもん気にせんでもええと言ったじゃろうに。まぁ、そのうちにな」
「あはは・・・。っと、そういえば見張りさんから伝言です。この騒動が終わったら、宴会で良いものを振舞ってくださいとのことですよ」
「そりゃあいいな。もちろん、あやつにも金は出させるがの」
「あ~らら、言いだしっぺだから逃げられないぞ~見張りさん」
「大変なのは皆一緒じゃ。どんな時でも苦楽をともにする。それがこの村じゃよ」
「やっぱりいい村ですね・・・。さて、それじゃ私も警備に・・・」
そう言ってその場を離れようとした瞬間、けたたましいまでの鐘の音が村中に響き渡った。これは村の半鐘の音!?まさかもう来たのか!?
「村長!!村人の皆さんの避難を!!私は入り口に向かいます!!」
「わ、分かった!無茶をするんじゃないぞ!!」
村長に避難をお願いし、すぐに村の入り口へと引き返す。迂闊だった!まさかここまで早く来るとは思わなかった・・・。いや、悩んだり後悔するのは後だ!今は急いで向かわないと・・・!思案を巡らせながらも急ぐこと数十秒、たどり着いた俺が見たのは、首を掴まれもがく見張りさんの姿と、先ほどの妖怪の群れだった。
「その人を離せ。今無事に離せば、命までは取らない」
「ぐっ・・・!あんた・・・!」
「はっ!ヒーローの登場ってか!?確かにてめぇは俺なんかよりもつえぇみたいだ。でもな、てめぇのその甘さじゃ俺には勝てねぇんだよ!」
「3度目の忠告は無いぞ。その人を、今すぐ、無事に離せ」
「後ろを見てもそれが言えるか?」
「何を・・・っ!お前・・・!」
「あの人数が全員と思ったのか!?んなわけねぇだろ!!すでに村は包囲してあったんだよ!!」
やつの言葉を聞き振り返った先で見たのは、村長を含む村人皆が、妖怪の群れに囲まれ、一箇所にまとめられている姿だった。甘く見ていた・・・!こんなことになるとは・・・!
「・・・俺への復讐が目的なら、好きにしてくれていい。だから、その人達には危害を加えないでくれ・・・いや、ください」
「へっ!分かってんじゃねぇか!おい、こいつ持っとけ。さてと・・・お前はすぐには殺さねぇよ・・・こっちをコケにしてくれやがって・・・ボコボコにしてから殺してやるよ!!!」
「ぐっ!」
「気にくわねぇんだよ!!俺達ゃ妖怪なんだぜ!?人間なんてただの餌でしかねぇんだよ!!それを守るだぁ!?それと一緒に生活だぁ!?舐めてんじゃねぇんだよ!!」
「っ!」
「人間だって同じだろうがよ!!そこらの野生の動物を狩って食ってるだろうが!!動物を飼育して食料に育ててるだろうが!!自分達が生きるために、他の命を食ってるんだろうが!!それと一緒だ!!それを止められる筋合いなんざねぇんだよ!!」
「がっ!」
「この世界は弱肉強食だ!!弱いやつは強いやつに食われる!!強いやつが生き残る!!妖怪は人間よりも強い!!だから生き残るんだよ!!俺の言ってることが何か間違ってるか!?俺達だって生きるのに必死なんだよ!!必死に生きることに何が悪いってんだ!!!ただの偽善なんかで・・・必死で生きる俺達を止める権利が、お前にあるのかよぉ!!!」
「ぐぁっ!!」
言葉を発しながらも、殴る、蹴るの攻撃を加えてくる。そうだ、こいつらだって必死に生きようとしている。俺がやろうとしていることはただの偽善に過ぎない。たとえこいつらをここから追い払ったとしても、こいつらは別の場所を襲うだろう。その時俺はそっちを止めに行くことは無い。自分とは関係が無いから・・・。だとしても・・・。
「たしかに・・・」
「あぁ!?」
「たしかに、止める権利は無いな・・・でもな、お前達をむざむざ見逃し、ここの人たちが食われるなんてこと、そんなことがあれば、俺は自分自身を許せない」
「あんた・・・」
「俺をやりたければ好きにやれよ。だけどな、ここの人たちに危害を加えれば、たとえもう死んでいたとしても貴様らを殺す。義務でも権利でもない。今俺が決めた、俺の意思だ」
「てめぇ・・・よっぽどさっさと死にてぇらしいなぁ・・・。そんならさっさとぶっ殺してやるよ!!!」
「っ!!」
今度は拳ではなく、鋭い爪が肩口に突き刺さる。痛みに顔をしかめるも、この程度ならまだまだ耐えられる。俺が絶え続けている限りは、こいつらは村の皆には手出ししないだろう。あわよくば、諦めて帰ってくれれば・・・。
「もういい・・・」
「見張りさん・・・?」
「もういい!!もう止めてくれ!!なんであんたがそこまで苦しむ必要があるんだ!!妖怪であるあんたが!俺達人間のために!!」
「黙ってろ人間」
「俺達のことなんか気にしなくていい!!だからこいつらを追い払ってくれ!!殺さなくたっていい!!だから・・・もうこれ以上あんたが傷つかないでくれ!!」
「黙れと言った」
「俺は死んだって構わない!!だから!!あんたが村の皆を守ってやってくれ!!!!!」
「黙れぇぇ!!」
こいつは・・・何をした・・・?
「ちっ・・・黙ってれば良かったものを・・・おい、そっち側から一人連れて来い」
何故、見張りさんは動かない・・・?何故、見張りさんの周りに血があんなに付いてる・・・?
「悪いな。もう一人殺しちまったよ。で?危害を加えたらなんだって?」
何かが切れる・・・音がした・・・。
そこから先は、よく覚えていない。気が付けば、大量にいた妖怪達は、全て動かなくなっていた。村人達は、見張りさん以外、全員無事だった。
「良かった。皆さん、無事だったん・・・」
言葉が止まった。皆を振り返り、いつものように声をかけようした俺が見たのは、何かに怯えたような目をしながらこちらを見てくる全員の姿だった・・・。
「化け物・・・」
小さく、そんな言葉が聞こえたのは、沈黙から数秒のことだった。
「あいつは化け物だ・・・」
「あんなに大量の妖怪を一人で全部・・・」
「あんなのが近くにいたなんて・・・」
「あいつを怒らせたらすぐに食われる・・・」
「怖い・・・」
小さな言葉は広がっていき、やがて全員に行き渡った。
「出て行け・・・」
「そうだ、出て行け!!」
「お前みたいな化け物もう見たくない!!」
言葉が次々と俺に降りかかってくる・・・。そうか・・・結局は・・・。俺はそう思い、見張りさんの亡骸を抱え、村長の下へと歩く。
「村長さん・・・今までお世話になりました」
「すまんな・・・。確かにわしらは、あんたに命を助けられた・・・だが、もうあんたと同じ場所で生活は出来んのだ・・・」
「分かっています。最後にお願いが・・・。どうか、この見張りさんを、丁重に弔ってあげてください・・・。出来るなら、お供え物は豪華なものに・・・。彼の最後の楽しみだった」
「分かった・・・」
もう、言葉は出なかった・・・。疫病神、化け物、お前が最初から動けば見張りさんは死なずにすんだ。様々な言葉を投げかけられながら、俺は村を離れた・・・。人間は弱い・・・だから、より強いものを見たとき、恐怖し、それを集団で排除する。これも、今までいろんな場所で見てきた人間の習性の一つだ。だから・・・これも・・・仕方の無いことなんだ・・・
そこからは、また当ての無い旅が始まった。だが、今までと違うことが一つある。それは、俺が人間達に指名手配されたことだ。どうやら村の一人が大きな町へ行き、俺のことを妖怪退治の一団に話したらしい。その結果。次第に話は広がり、俺は人間を襲う強い力を持った極悪な妖怪となった。そんな状態でどこかの町なんかに入るわけにもいかず、森や山で過ごしていくことになった。
時折人間に見つかり、追われたりすることもあった。もちろん、こっちから攻撃したりすることは無かった。そんな生活が3年ほど続いたある日、数日前に人間に見つかり、住処を移動していた俺は、森の中に一軒の家を見つけた。近くの集落からも結構離れており、かなり不恰好な造りだった。時刻は昼を回った頃、疲れたというほどでも無いが、中に人がいないのを確認し、少し休んでいくことにした。
中に入ると驚いたのが、使われていないというほどではないものの、かなり汚れており、電気なんかも通っていないようだった。何故こんな場所にこんな家があるのか・・・悩んだところで分かりそうにないと思い、床に横になる。こうして家の中で眠るなんて、いつぶりだろうか・・・。俺はそのまま、意識を闇に溶かしていった・・・。