東方交換録   作:シンP@ナターリア担当

29 / 31
第29章 最後の選択~二つの約束~

~OUT Side~

 

「勝負・・・ありです・・・」

 

 数分の攻防の後、決着は着いた。どちらも譲れないものを背負った戦い。幻想卿をかけた戦い・・・。その勝者は・・・

 

「ははっ・・・ここまで・・・かな」

「ったく・・・手間かけさせるんじゃないわよ・・・」

「あいにくと、こちらも引くに引けなくてね。でも、それもここで終わりみたいだ」

「ミクスさん・・・何故・・・ここまで・・・」

「言っただろう?力を持たない者への復讐だって・・・。虐げられた者達のための・・・な」

「本当はアンタみたいに異変を起こそうと、この世界で受け入れ、あいつらみたいにこの世界で生きていく・・・。でも、アンタは力を持ちすぎている。この世界を統括する者達の力を超えるほどにね」

「れ、霊夢さん!!」

「私だって!!!本当はこんなことはしたくないわよ!!でも、私にはこの世界を守る使命があるの!!今ここでこいつを逃がして、二度目があった時、こいつを止められる保証は無いのよ!!」

「で、でも!!」

「いいんだ。博霊の巫女、君の言うとおりだ。もしここで生き延びれば、俺はまた何度でも同じように異変を起こすだろう。とどめを刺すなら今だ」

 

 霊夢の珍しく熱を帯びた叫ぶかのような声が響く。動けぬさとりからも声が飛ぶ。それを受けてのミクスの声はとても淡々としたものであり、まるで、自分は危険な存在だと知らしめるような、そんな物言い。

 

「ミクスさん!まだ間に合いますから!!今からでもきっと!!」

「ダメなんだよ、さとり。俺は、ここで死んでおかなきゃいけないんだ」

「そう・・・アンタがそう言うのなら・・・せめて、あのミドリって子と同じ場所に行けるように、映姫に頼んでやるわ・・・」

「あぁ・・・ありがとう・・・」

「だめ・・・ダメです!!!」

 

 さとりの悲痛な叫びが響く中、淡々とした声で行われる会話。そして、霊夢の札を持つ手が、ミクスに向けて振るわれる・・・

 

「っ!何を・・・してるのよ・・・」

「どいてくれ・・・」

「どかないよ」

「お願いだ・・・そこをどいてくれ・・・」

「どかないったら」

「そういう約束だっただろう・・・どいてく・・・」

「どかない!!!!!!」

「なんであんたがそいつを助けるのよ!萃香!!」

 

 振りかざされた霊夢の腕が届く前に、ミクスの前に立ちはだかったのは、先ほどまで姿を見せていなかった萃香であった。ミクスのどいてくれという頼みを大声で遮り、霊夢を睨むように立つ。

 

「萃香・・・さん・・・」

「萃香、どきなさい。そいつは負けて、自分から消えることを望んだのよ」

「嫌だよ。絶対にどかない」

「萃香・・・もういいんだよ。約束しただろう?俺は一人で戦う。そしてどんな状況であれ、負ければそれで終わりだって。俺は、退治されるべきなんだよ」

「そんな約束なんかどうだっていい!!ミクスが死ぬことなんてない!!霊夢たちは!!ミクスの本当の・・・本当に本当の気持ちを知らないから!!」

「本当の・・・気持ち?」

「萃香・・・今さらもういいんだよ。命乞いをしたいわけでもなければ、真実を知ってもらいたいわけでもない。俺は自分のやりたいようにしただけだ。だから・・・」

「なんでそうやって全部隠すんだよ!!その全部を知ってもらったらもっと違ったかもしれないじゃないか!!」

「ちょ、ちょっと!どういうことなのよ!!ちゃんと全部説明しなさい!!」

「それについては、私から説明するわ」

「「「っ!?」」」

 

 ミクス、そして霊夢の言葉に真っ向から反発し、頑なにミクスを殺させまいとする萃香。そしてその萃香の口から出た本当の気持ちという言葉。白熱するやり取りを止めたのは、どこからともなく聞こえてきた女性の声だった。そして、渦中の3人のすぐ近くの空中に、突然線が引かれ、その線を境に口のように広がり、その中には無数の目が出口を覗いている。そんな中から一人の女性が出て来る。

 

「ハロー、霊夢」

「紫っ!!アンタ!!今までどこに・・・っていうか!!コイツに能力封じられてたんじゃないの!?」

「いや、俺はこんな人物は聞かされていない・・・何者だ・・・?」

「あら、紹介が遅れましたわ。私は八雲紫。霊夢と同じく、この幻想卿を統括する者の一人よ。以後お見知りおきを」

「っ!!とんでもない力だな・・・万全の状態でも勝てるかどうか・・・」

「あらあら、こんなか弱い女性にそんな風に言うだなんて。失礼じゃありませんこと?」

「おっと、これは失礼。それで、萃香に口止めまでして、今さら出てこられて、いいとこ取りかな?」

「ええ、そういうことね。まずは霊夢。彼にとどめを刺すことは私も許さないわ。しっかりと理由も説明するから、少し待って頂戴」

「ったく・・・どいつもこいつも自分勝手過ぎるのよ!!」

「ごめんなさいね。それから、萃香。大変な役だったけどよくやってくれたわ。ありがとう」

「いいよ。私だって好きでやってたんだから・・・」

「ふふっ。それじゃ、順を追って説明しましょうか。まず第一に、貴方がこの世界に来たのは私の能力によるものよ」

「その変な空間か。世界をも超えられるほどの能力・・・ほんと、この世界はとんでもないのばっかりだな・・・」

「私は幻想卿のため、他の世界も含め、力を持つ存在を常に把握しているの。もちろん貴方も例外じゃなかったわ。そして、貴方が倒れた後、私はこの世界に貴方を送った。貴方のことを、萃香に全て話してね。」

「じゃあ、あの出会った時、すでに・・・」

「うん・・・全部知ってたんだ・・・ごめんよ、騙して・・・」

「頼まれてたんだろ?それなら仕方ないさ。むしろ、知った上でそれを引き受けてくれたことの方が嬉しいさ」

 

 突然現れた紫に驚きながらも、話は進んで行く。何故自分がこの世界に来たのか。その事実を知り、助けてくれた萃香も、仕組まれたものであったことを知る。だが、彼はそんなことは異にも介さないかの如く、平然として笑顔を浮かべている。

 

「続けるわね。あんな出来事が起きた貴方が、どんな選択をするのか、それを見たくてこちらの世界に招き入れた。もしも幻想卿に害をなすと判断すれば、すぐにでも対処出来るということも考えてね」

「でも、現にこいつは幻想卿に害をなそうとしたわ!だからこそ私達はこんなにも必死になって・・・」

「話は最後まで聞きなさい。私が対処しなかったことこそが何よりも証拠でしょ?だって、彼の本当の目的は人間の恐怖による支配なんかじゃなかったんですもの」

「っ!もう良いだろう!!ここまでのことをしでかしたんだ!!許されるだなんて思っちゃいない!!」

「ふふっ、本当のことを言われるのが恥ずかしいのかしら?案外照れ屋さんなのね。でも、少し静かにしててもらえるかしら?」

「んっ!?んんん!!!!」

「貴方の口の境界を閉じさせてもらったわ。少しの間不自由かもしれないけど、待ってていただけるかしら?」

「んん・・・」

「お利口さんね。さぁ、さっきの続きだけど、彼の真の目的について・・・貴女たちに嘘をついて、敵対してまで、そして、最後の最後まで隠し通そうとした目的」

「その目的って、なんなんですか?」

「ふふ・・・本当に彼は優しい人なのよ・・・だって、自分が世界を統括し、本当に争いの無い、平和な世界を創る・・・それが彼の本当の目的だったんですもの」

「「えっ!?」」

「・・・」

 

 紫の口から告げられたミクスの真の目的。それは、彼が話していた恐怖を与えるなどというものとは程遠く、誰もが理想とする世界の形であった・・・。驚き、言葉が出ない二人に、さらに紫は続けて話す。

 

「力を横柄に振るう者を許さず、力を持たぬ者達を助け、抑圧もせず、各々が心からの笑顔を続けられる。そんな夢のような世界を創る。強制される喜びでも、押し付けられる幸せでもない。人間が安心して暮らせる、そんな世界を・・・それが、彼の本当の目的」

「・・・んで・・・」

「ん~?」

「なんでそんな大事なことを言わないのよ!!!そんな考えがあったんなら、もっと変わってたかもしれないじゃない!!!どうして!!」

「言えるわけないじゃない。だって貴女たちは皆、そんなことが必要ない力を持ってるんだから」

「っ!」

「今は倒れている彼女達が、戦う前にこの事実を聞いたら、その手を止めていたかしら?『そんなことをするのなら賛成する』と、言ったかしら?」

「そ、それは・・・」

「力持っている者は、誰しも知らず知らずの内に自分の尺度で物事を考えてしまうのよ。もしこの真実を伝えたとしても、貴女たちはきっと『この世界はそんなことを必要としていない』『自分達の力で生きていく』そんな風に返していたでしょうね」

「くっ・・・!」

「ですが・・・何故なんですか・・・?あんな酷い目にあったのに・・・人間が嫌いになってもおかしくないほどなのに・・・どうして・・・」

「それは、彼の心に直接聞きなさい。貴女にかかっている結界の効力を無効化してあげる。そうしたら力も自由に使えるでしょう?」

 

 力を持つ者、力を持たない者。たったそれだけのことが、とても大きな壁となっているのだと、改めて認識させられる。当たり前だと思っていたことを、その『当たり前』こそが普通ではないのだと・・・。そして、紫の力により、結界の効力が消えたさとりは、彼のすぐ傍まで近付き、小さく『ごめんなさい』と呟き、彼の心を覗く。

 

「っ!!!・・・そんな・・・」

「さとり!?どうしたのよ!!コイツは何を考えてたのよ!!」

「彼がそこまでする理由・・・それが・・・あんな目にあったのに・・・『人間が大好きだから』・・・ただ、それだけなんです・・・」

「え・・・」

 

 肩を大きく震わせ、目に涙を浮かべながら彼の心の内を語るさとり。彼を駆り立てていた理由。それはただ一つ、『人間が大好きだから』だった。

 

「なんで・・・なんでですか!!?どうしてあそこまでのことをされておきながら!!大好きだなんて・・・」

「・・・」

「もう喋れるわ。ご自由にどうぞ?」

「簡単なことだ・・・最初で最後の・・・家族との約束なんだからな・・・」

「っ!!それ・・・だけ・・・?」

「あぁ・・・本当に、それだけだ・・・。何より俺は、元々人間が好きだったんだ・・・。そういう人間が少なからずいるのは確かだ。だけど、それと同じように、心優しく、俺達妖怪と共存を望むような、そんな人間がいることもまた確かなんだよ・・・。だから俺は、人間を信じたい・・・。強く・・・だが、弱く生きる・・・あの小さな命達を。愛おしい存在を・・・自分の命ある限り見届けたい・・・そう、心から願ったんだよ・・・」

「馬鹿ね・・・本当に・・・大馬鹿よ・・・」

「あぁ、そうかもな。この世界に流れ着き、最初に出会った萃香に教えてもらったこの世界。人間と妖怪が共存しようとしている世界。正直、うらやましかったよ・・・もし、俺の元いた世界がこんな風だったら・・・ってな・・・。でも、だからこそ、そんな風にしないために・・・俺やミドリのような存在を出さないために・・・この世界を守りたかったんだ・・・」

「ミクス・・・」

「小町や勇儀、幽香、幽々子達も、俺のこんな考えに賛同してくれたんだ・・・。小町は不当な力で早くに命を落とす人間達を悲しんで、勇儀はさっきの理由に加え、その世界なら地底の皆も笑って暮らせる。そんな風に考えてな。幽香は最初はそうでもなかったが、俺と戦い、力を持たない者の苦しみを肌で感じ、力を持つ者と持たない者の違いを知った。力を持たない者は、力を持つ者を恐れる。力を持つ者は、害の有無に関わらず、力を持たない者に恐れられる。彼女はそれを知り、協力してくれた」

「幽々子は半分は私からの差し金みたいなものだけど、彼女自身も彼の考えに賛同していたわ。亡霊として千年を超える日を過ごし、無念の内に失われていく数多の命を見届けてきた。そんな悲しい世界が、少しでもよくなるのなら・・・そう願っていたわ」

「そう・・・だったんですね・・・」

 

 幻想卿のほぼ全てを巻き込むほどの大きな異変。その理由が、ほんの小さな・・・しかし、とても大きな理由・・・。それは大きすぎる力を持つ者の心を動かし、ここまでの大きな異変となった。

 

「だけど、それもここまでだ。俺の意思はお前達に負けた。その負けた意思を、これ以上貫くほど、諦めが悪いわけじゃないさ。さぁ、もういいだろう?」

「こんな大事なことを聞いて・・・今さらどんな顔であんたを退治しろってのよ・・・」

「お前達が自分達で出来ないって言うなら、俺が自分で・・・それだけだ・・・」

「ダメだよ!!絶対そんなの許さない!!意思が負けたって!!諦めたって!!ミクスが命を絶つ必要なんか無いんだよ!!」

「萃香・・・」

「そうです!!貴方のその気持ちを皆に伝えれば!!きっと皆分かってくれます!!私も手伝いますから!!」

「さとり・・・」

「確かに、アンタのしたことはとんでもないわ・・・でも、何よりも悪いのは、アンタがその真実を話そうとしなかったことよ。確かに紫の言うとおり、こちら側はすんなりは賛同しなかったでしょうね。でも、そうすれば話し合うという形も取れたはずよ。だから、今度こそ話し合うのよ」

「そうかもな・・・だが、もう決めたことだ。元よりこの世界に来る前に消えるはずだった命。それが俺のわがままで少し伸びただけの話さ。だからもう・・・」

「そんな風に言わないで、妖怪のお兄ちゃん」

「えっ・・・?」

 

 異変が終わり、自分を殺すように言い、無理なら自分で命を絶つと言うミクス。萃香、さとり、霊夢たちが懸命に説得するも、その言葉はミクスには届かず、その命を諦めようとしたその時だった。一人の少女の声が、彼の言葉を止めた・・・。

 

「なん・・・で・・・」

「私との最後のお願い、守ってくれてありがとうなの」

 

 それは、失いたくなかったモノ

 

「どうして・・・」

「私のこと、忘れないでくれて、ありがとうなの」

 

 それは、忘れられないモノ

 

「私みたいに、人間皆に愛をくれて、ありがとうなの」

「ミドリぃぃ!!!!」

 

 それは・・・どうしても・・・もう一度会いたかったモノ・・・

 

「妖怪のお兄ちゃん、また会えて、本当に嬉しいの・・・」

「ミドリ!!本当にミドリなんだな!?でも、どうして・・・」

「あのお姉さんがね、少しだけど会わせてあげるって」

「あのお姉さん・・・って・・・っ!!そうか・・・貴女の力、権限なら、それも可能・・・というわけですか・・・」

「ええ。貴方の元いた世界を統括する閻魔に連絡し、少しの間だけ、こちらの世界に来られるようにと。私から出来るのはこのくらいです」

「ありがとう・・・ございます・・・」

 

 突如として現れたミドリの姿に困惑しながらも、その姿も、その声も、全てがミドリであると分かり、一気に駆け寄り抱きしめるミクス。幻想卿を統括する閻魔、映姫に深く頭を下げ、改めてミドリを見るミクス。

 

「ごめんな・・・あの時、守ってあげられなくて・・・」

「ううん。妖怪のお兄ちゃんは、私を守ってくれたの・・・」

「でも、お前は・・・」

「身体はだめだったかもしれないの。でも、妖怪のお兄ちゃんは、私の心を守ってくれたの」

「心・・・」

「私に喜びをくれて、私に家族をくれて、私に愛をくれたの・・・。それだけで、私の心は、私のままでいられたの・・・」

「ミドリ・・・」

「あの後ね、お父さんとお母さんに会ったの」

「っ!!」

「二人ともね、私のことをちゃんと見ててくれてたの。それでね、ごめんね。本当にごめんねって謝って、私のことをい~っぱい抱きしめてくれたの」

「そうか・・・そうだったんだな・・・」

「妖怪のお兄ちゃんのお陰でね、私、本当の家族からも愛をもらえたの。全部全部全部、妖怪のお兄ちゃんのお陰なの・・・だから、妖怪のお兄ちゃんは、私のことをちゃんと守ってくれたの」

「良かった・・・本当に良かったな・・・ミドリ・・・」

 

 その存在を噛み締めるように、その小さな身体を見つめ、その頭を優しく撫でながら、ミドリの話を聞くミクス。ずっと考えていた、自分がもっとしっかりとしていれば・・・そんな考えも、笑顔で話すミドリの姿に、徐々に薄れていく・・・。

 

「だからね・・・今度は、私が、妖怪のお兄ちゃんの心を守ってあげるの」

「ミドリが・・・?」

「うん!死ぬ前の最後の約束、人間のことを嫌いにならないでって約束・・・妖怪のお兄ちゃんは守ってくれたよね?」

「あぁ、俺は今でも、人間が大好きだよ」

「ありがとうなの。それでね、これはわがままなんだけど、死んでからの最後のお願い聞いてほしいの」

「死んでからの、か。いいよ。何でも聞いてあげるよ」

「あのね・・・お願い・・・生きて・・・」

「っ!」

「こんな言い方ずるいのは分かってるの・・・でも、それでも、妖怪のお兄ちゃんに生きてほしいの・・・。私が生きれなかった分まで・・・本当の最後まで・・・私たち人間のことを・・・見届けてほしいの・・・」

「ミドリ・・・」

「ずっと・・・ずっと見てるから!!他の皆が見てなくても、私はずっと見てるから!!だから!!」

「ありがとう・・・ミドリ・・・」

「妖怪のお兄ちゃん・・・」

「馬鹿だな・・・俺・・・こんな大事なことを・・・またミドリの気付かされるなんてな・・・。生きたくても生きれなかった命・・・その分も・・・か・・・」

「じゃあ・・・!」

「あぁ・・・約束するよ・・・。俺はこれからも、精一杯生きる・・・大好きな人間達を見つめながら、自分の命が尽きるまで・・・最後の最後まで、生きるよ」

「妖怪のお兄ちゃん!!ありがとうなの!!」

「お礼を言うのは俺だよ・・・ありがとうな、ミドリ・・・」

「えへへ・・・あ、そうだ!」

「ん?」

「妖怪のお兄ちゃん、ちょっと待っててね」

 

 ミドリとの新たな約束・・・。それは、今のミクスの考えとは真逆の、生きてほしいという願いだった・・・。生きたかった命、生きられなかった命・・・その大切さを思い出したミクスは、今一度、新たな約束を交わす。ずっとずっと・・・自分のその命の限り生きていく・・・そんな約束を・・・。そして、思い立ったようにミドリはミクスの元を離れ、ある少女の下へと駆けていく。

 

「鬼のお姉ちゃん!」

「おっとと・・・どうしたんだい?時間も少ないんだし、あいつのとこにいなくていいのかい?」

「うん、時間ももう少ししかないかもしれないの。でも、どうしてもお礼を言いたかったの」

「お礼?」

「妖怪のお兄ちゃんのことを助けてくれて・・・本当にありがとうなの」

「よ、よしてくれよ!あれは紫からの頼みもあって・・・」

「それでも、助けてくれたの。だから、ありがとうなの」

「もう・・・調子狂っちゃうな・・・」

「えへへ・・・他のお姉ちゃん達も、ありがとうなの」

「ふふっ、どういたしまして」

「私なんか・・・一回退治しようとしちゃったのに・・・」

「いいじゃないですか。全部丸く収まるんですから」

「あ・・・もうすぐ・・・時間なの・・・」

「私達はもういいよ、ミクスの・・・あいつのとこに行ってあげな?」

「うん!!本当にありがとうなの!!」

 

 萃香に向かって飛び込むように抱きつくミドリ。そして、萃香、他の3人へもお礼をする。ミドリにとってみれば、彼女達は自分の恩人を助けてくれた者達なのだ。それも当たり前かもしれない。そして、それも束の間、ミドリの身体が少しずつ薄れていく。時間が・・・近付いてきた・・・。ミドリは彼女らにもう一度お礼を言い、またミクスの元へと戻っていく。

 

「妖怪のお兄ちゃん」

「ミドリ・・・もう・・・時間なんだな」

「うん・・・そうみたいなの・・・」

「次に会えるのは・・・何年・・・いや・・・もしかしたらもっと先かもしれないな・・・」

「うん・・・約束・・・だからね・・・」

「あぁ、頑張るから・・・しっかりと、生きるからな・・・」

「うぅ・・・お兄ちゃん!!本当はさびしいの!!もっと一緒にいたいの!!!お父さんやお母さんに紹介したいの!!!もっともっと!!離れたくないの!!!!」

「ミドリ・・・!」

「ずっと見てるって言ったけど!!それでも辛いの!!ずっとお兄ちゃんに会えないの!!!お兄ちゃんに触れられないの!!!お兄ちゃんに頭を撫でてもらえないの!!!お兄ちゃんに愛をもらえないの!!!!」

「大丈夫だよ・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「どんなに離れてても、たとえ会うのが何十年、何百年先だろうと、触れることが出来なくても・・・俺はずっと、ミドリのこと忘れないし、大切にする。愛を与え続けるよ・・・」

「うぅ・・・」

「だから・・・最後は笑顔でお別れをしよう・・・。いつも思い出すミドリが笑顔でいるように。また会う時に、笑顔で会えるように。俺の心を・・・守ってくれるんだろ?」

「うん・・・うん!!」

「よし、強い子だ。もう、大丈夫だな?」

「うん!大丈夫なの!!最後は、ちゃんと笑ってバイバイするの!」

「あぁ、バイバイだ。ありがとう・・・ミドリ・・・」

「えへへ・・・バイバイ・・・お兄ちゃん・・・」

 

 長いようで短い最後の会話を交わし・・・ミドリの身体は、最初からそこに無かったかのように、風景に溶けるように消えていった・・・。最後に見えた少女の顔は、太陽のような笑顔だった・・・。

 

「さぁ、これで貴方がこれから生きていくことも決まったわね」

「あぁ、そうみたいだな。さて、どうしたものかな」

「何よ?幻想卿のどこかに適当に住めばいいじゃない。アンタの力ならなんとでもなるでしょ?」

「あぁ、やろうと思えば、な。だけど、俺はただただ平穏に過ごす事は、彼女との約束に反してると思う」

「最後まで人間のことを見届ける・・・ですか・・・。でも、それならこの世界でも十分なんじゃあ・・・」

「いや、俺やミドリみたいな者をこれ以上増やすわけにはいかないんだ。そのためには、全ての世界を見る必要がある」

「そ、そんな途方もないこと!!」

「出来るさ。そうだろう・・・?大妖怪、八雲紫さん?」

「えぇ、私の能力を使えば可能でしょうね」

「確かに、紫の能力があれば出来るでしょうけど・・・それでどうするのよ」

「ミドリのような、人間でありながら普通ではない力を持つ者。その中でも特に迫害などを受けている者達を助けるのさ。この世界に送り届けてな」

「ちょっ!!何勝手なこと言ってんのよ!!それでまた問題が起きたらどうするのよ!!」

「もちろん、そうはならないように考えるさ。俺はそれを紫にしっかりと伝える。その後の裁量は紫、及び幻想卿の住人達に任せるとしよう」

「だ~か~ら~!!勝手に決めるんじゃ無いっての!!紫!!アンタからもなんか言いなさいよ!!」

「そうねぇ・・・迫害されてるって事は人間や他者に対して強い恨みを持ってる可能性が高いわ。貴方の場合は彼女のお陰でなんとかなった。でも、誰しもがそうだとは限らないわ。それはどうするつもりかしら?」

「俺の能力を使ってなんとかするさ。あんまり洗脳染みたことはしたくないが、よっぽどの場合は、な」

「そう、それならいいわ」

「ちょっと!!!何アンタまで馬鹿なこと言ってんのよ!!それ明らかに私の負担がでかくなるやつでしょ!!」

「ありゃ~霊夢、ご愁傷様だねぇ」

「あ・ん・た・ねぇ~・・・」

「それで?立場はどうする?形だけでも紫の部下って形にでもなるか?」

「まさか。そんな必要ないわ。今の私に必要なのは部下なんかじゃないもの」

「そうだったな。今必要なのは」

「「対等な協力者」」

「ふふっ・・・楽しくなりそうね?」

「あぁ、楽しくなりそうだな」

 

 霊夢の悲痛な叫びもむなしく、とんとん拍子に決まっていく。ミクスは他世界の異端者、及び人間を見届けるために、これから先の人生を費やすことにしたようだ。

 

「でも、本当になんとか丸く収まって何よりですね」

「ミクスも紫の能力を使うんだし、これならいつでも会ったり出来るし、楽しくなりそうだねぇ」

「いや、紫以外の全員には、俺の存在は忘れてもらう」

「「「え・・・?」」」

 

 明るくなりかけた雰囲気は一転し、紫、ミクス以外の三人の表情が一気に凍りつく。

 

「あの・・・どういう・・・ことですか・・・?」

「どういうことも何も、そのままの意味さ。この世界の俺に関する記録、記憶を全て消すんだ」

「な、何でよ!!確かにあんたは忙しくてほとんど来たりは出来ないかもだけど、そこまでする必要は・・・」

「そうじゃないんだ。自分で言うのもおかしな話だが、俺は力を持ちすぎてしまった・・・。それこそ、この世界を一人で覆せるほどにな」

「そ、それは・・・そうかもしれませんけど・・・」

「そんな化け物のような者がいるのだと、余計な心配をさせたくない。今までのように、普通に過ごして欲しいんだ・・・」

「ほんと・・・馬鹿ね・・・」

「あぁ、自分でよく分かってるさ」

「・・・だ・・・」

「萃香?」

「いやだ・・・いやだよ・・・」

「気持ちは嬉しいよ。でも・・・」

「私が聞きたいのはそんな言葉じゃない!!!せっかく生きるって決めたのに!!これじゃ何も変わらないじゃないか!!」

「変わるさ。俺はしっかりと生きていく。それが知ってるか知らないかだけの違いさ」

「変わらないよ!!!何も変わらない!!!私の前からはいなくなるじゃないか!!そんなの嫌だ!!!!」

「萃香・・・あんた・・・」

「どうしてもって言うなら!私も連れてってよ!!ミクスとだったら私は!!!」

「ダメよ。それは私が許さないわ」

「何で!?私一人がいなくなったくらいで・・・」

「馬鹿なこと言わないで。貴女がこの世界に与えた影響はとても大きいわ。それこそ、無かったことになんて出来ないくらいにね」

「で、でも・・・!」

 

 自分の危険性を危惧し、余計な心配をかけないようにと、ミクスが提案したのは自分自身が幻想卿にいたという事実をなくすことだった。しぶしぶ納得した霊夢とさとりだったが、ただ一人、萃香だけは納得が出来なかった。それは駄々をこねる子供のように、嫌だと叫ぶ萃香。だが、ミクス、そして紫の言葉は冷静なものだった。

 

「萃香・・・気持ちは本当に嬉しい・・・だけどな、これはもう決めたことなんだ」

「なんで・・・なんでだよ!!!なんで分かってくれないんだよ!!!私はこんなにも!!!」

「萃香さん・・・」

「ねぇ・・・お願い・・・だから・・・」

「萃香・・・」

「本当にいいのかしら?別に私は強制はしないわ。貴方の好きなようにすればいい」

「・・・萃香・・・ありがとう・・・俺のことをここまで想ってくれて・・・何度も何度も助けてくれて・・・本当に、萃香がいなければ、俺は今こんな風にはなってなかっただろうな」

「ミクス・・・」

「でも・・・やっぱり俺は、まだ幸せにはなれない。いや、むしろ、これからの人間を見届けることこそが幸せなのかもしれない。だから・・・これでさよならだ・・・」

「どうしても・・・か・・・?」

「あぁ・・・どうしても・・・だ」

「そっか・・・じゃあ・・・一つだけ・・・一つだけでいいから約束してくれ・・・」

「なんだ・・・?」

「何十年・・・何百年だっていい・・・どれだけ経ってからでもいいから・・・また、会いに来て・・・」

「あぁ・・・分かった・・・」

 

 とても静かな会話・・・誰しもが見たことの無い、その姿に違和感の無いほどの小さな少女の涙・・・。そして、最後に少女は約束をした。再開の約束を・・・。覚えているかも分からない。だが、それでもまた会えるならと・・・それが、彼女の精一杯だった・・・。

 

「さて、薬師さんの薬の効力も切れたことだし、そろそろ時間だな」

「ミクスさん・・・」

「安心しな。上手く操作して、天子とは友達のままでいさせてやるさ。もちろん、勇儀とも和解した上での、な?」

「私・・・貴方以上に優しい人を知りません・・・どうか・・・その優しさで・・・たくさんの人と妖怪を・・・救ってください・・・」

「あぁ、任せてくれ。博霊の巫女。今回はいろいろと迷惑をかけてすまなかったな。最後の弾幕ごっこ、楽しかったぞ」

「ほんとに・・・いい迷惑よ。もし万が一ちょっとでも思い出したら絶対にぶん殴ってやるんだから!覚悟しなさいよ!!」

「ははっ、こりゃ失敗できないな。映姫様、本当にありがとう。貴女には感謝してもしきれないほどの恩を受けた」

「貴方の戦い、全てを見届けた結果です。これから先も、貴方が善行を積み続けるのを願っていますよ」

「可能な限りは頑張りましょう。小町、最後まで見届けてくれてありがとうな。もしそっちに行く時には、よろしくな」

「はっ!縁起でもないこと言うんじゃないよ!でも、そのもしもがあった時は、しっかりと届けてやるよ」

「助かるな。紫、今回の件、全てお前が助けてくれたお陰だ・・・本当にありがとう・・・これから、よろしくな」

「えぇ、よろしくお願いするわ。それから・・・ごめんなさいね・・・」

「自分で選んだ道さ・・・。萃香・・・大丈夫・・・また会えるさ・・・きっと・・・いや、必ず会いに行く・・・いつになるかは分からないけど、絶対に会いに行く・・・。その時にはまた、一から仲良くなろうな」

「・・・っ!あぁっ!!もちろんだとも!!約束破るんじゃないぞ!!なんてったって」

「「鬼は嘘が大嫌いだ!」」

「えへへっ、分かってんじゃんか!絶対だからな!!」

「あぁ!!またな!!」

 

 一人ずつ別れの挨拶をし、最後に萃香との約束を交わし・・・ミクスは指を一度パチンと鳴らす。

 

 『いつもどおり』の幻想卿の姿が、そこにはあった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。