とても遅くなった。だが反省も後悔もしていない!
嘘だ!
スカーレット卿はニヤリと笑う。美鈴より手に入れた情報。それは自身の娘達があの男と何かを企んでいるという事。
「ふん、無駄な事を」
スカーレット卿はそれを無視する事は出来ない。当然だ今は大事な時期、八雲紫との戦いに合わせ蜂起されれば流石に対処しきれないだろう。
なので今潰す。
「美鈴、貴様は何もするなよ」
「はっ」
愚かな娘に今1度罰を与えるべく、彼は図書館へと進む。
「魔法陣固定。後は─────」
「ぱ、パチュリーさま!」
「来た、か」
その瞬間は余りにも早く訪れた。二日の猶予などなく、1日と少しくらい。
ガチャりと音を立てて扉が開く。そこからはマッスルがゆっくりと、この
その悠々たる様は正しく王者。この紅魔館の支配者に足る存在だろう。流石は夜の覇王といった所か。
1歩、2歩、ゆっくりと足を進める。
「(あと、1歩)」
魔法が最もよく当たる場所、そこヘあと1歩と言ったところでスパルタクスの足が止まる。そしてその目は真後ろを見た。
「おぉ────圧政者よ。汝を抱擁、せん」
「じゃまだ。貴様に用はない」
廊下を高速で飛翔するのはスカーレット卿。
扉前で仁王立ちするスパルタクスへと、スカーレット卿は貫通属性の弾幕を放つ。いともたやすく筋肉を貫く一撃達は、スパルタクスの体力を削っていく。
距離が零になると同時にスカーレット卿の蹴りがスパルタクスを吹き飛ばす。
「(今!!)」
ナイスだ名も知らない吸血鬼!!とパチュリーがガッツポーズと共に魔法を起動する。
全属性の一斉砲火。おおよそ全ての生物が死滅するほどの破壊力。
「!?」
凄まじい爆発と閃光にスカーレット卿が後ろに飛び跳ねる。確かな手応えを感じて、パチュリーはスカーレット卿の元へ飛ぶ。
「手伝ってくれてありがと。お陰で倒せたわ」
「ふむ、なるほどな」
パチュリーは無表情ながらにそう言う。
スカーレット卿は考えた。パチュリーがなぜスパルタクスを殺したのか。
「吾輩が怖くなったのだろう」とそんな程度の結論を出す。誇り高き吸血鬼の思考が、まさか自分とスパルタクスを間違えてるなんて考えに行き付くわけがない。
「良い手際であった。これからも書物を読み漁り魔法を学ぶがいい」
「・・・・・・?ええ、ありがとう」
なんでお前に言われなきゃいけないの?と思うパチュリーだったが、吸血鬼は偉ぶるのがデフォなので仕方ないと礼を言う。
「(ふふふ、それにしても。見たかしら今の魔法!レミィはちゃんと見てたかしらね)」
パチュリーはドヤ顔でレミリア達が隠れている本棚の方向を見る。
そして
グッ!
とサムズアップした。
「(いやパチェええええええええ!?なにやってんのよぉおおおおお!?)」
ぶんぶんぶん!と顔を横に振るレミリア。
「(むっきゅっきゅ、余りの私の魔法に驚いて言葉も出ないようね)」
ドヤッ!からの胸を張る。言ったりとした服の内側、その殺人的双峰は更に強調され最早マウント=フジだ。そのフジめいた双峰にレミリアの心はネギトロと化す。
「ほぅ、そこに居たか」
「っ!?」
パチュリーの視線からレミリアを発見したスカーレット卿がその身から妖力を溢れさせる。余りにも強力な妖力はそれだけで暴力と化す。
ただの吸血鬼では決して到達できないであろう馬鹿げた妖力に、パチュリーが意識を奪われかけてどうにか持ち直す。
その妖力の質、そこにパチュリーは何かを見出した。
「まさか・・・・・・!」
「(そうよパチェ!そいつよそいつ!)」
パチュリーはようやく気が付いた。目の前の男が何であるか。
ゆっくりとレミリア達の隠れる本棚へとスカーレット卿は手を伸ばす。その手の内、高まる妖力は圧倒的な貫通力を持った暴力兵器。
「やめなさい!!」
君は謝りなさい。
パチュリーが咄嗟に魔法を放つ。相手が吸血鬼ならば使う魔法など当然決まっている。
だが、それよりも先にスカーレット卿は動いていた。
「言ったはずだ。本を読み魔法を学べ、とな。だが、もうこれ以上使う必要は無い」
先程までレミリア達に向けていた妖力がパチュリーへと放たれる。距離が近いもあり、パチュリーに避けるという選択肢は存在しない。
「ッッ!?」
パチュリーが咄嗟に防御系魔法を展開、魔力で構成されたシールドが幾重にも展開されるが────意味を成さない。
連続でガラスが割るような音が響き、パチュリーの喉を光が貫いた。
「──────ぁ」
「パチェッ!!!!」
あっけない。余りにも突然に、呆気なくパチュリー・ノーレッジの命が─────途絶えない。
「ケホッ、ケホッ、うぐ・・・・・・」
パチュリーは生きていた。その傷の大半は塞がっている。それを見たスカーレット卿は「ほぅ」と面白いものを見たと嘲るような笑みを浮かべる。
よく見ればパチュリーの頭につけられていた三日月のアクセサリーが光を失っている。
どうやらあのアクセサリーはパチュリーが瀕死の重傷に陥った時に発動する緊急回復手段だったようだ。
「ふん、まぁ良い。それで貴様は魔法も満足に使えまい」
緊急回復手段故に、その精度は高くはない。傷を塞ぐことは出来る。しかし、完治はできない。そして一度治った傷を治す事は出来ないのだ。
パチュリーはこの日、決して治らぬ傷を喉に負うことになった。
「お父様・・・・・・!」
レミリアがグングニルを展開してスカーレット卿を睨む。その
「ふふは、ふははははは!おぉ吾輩の愛おしき娘よっ!武器か武器と来たかっ!くははっ、くはははは!」
武器とは、弱者の証。精神的な敗北を意味する。
それが妖怪の認識だ。当然ここにいる彼らもそれに当てはまる。
スカーレット卿には勝てないと理解したレミリアは、ほんの少しの希望にかけて武器を作り出した。
スカーレット卿は「点」だ。
ありとあらゆるものに対し、彼は「点」なのだ。故にどれほどの広範囲攻撃であろうと、彼は被害をほとんど受けない。どのような能力を使おうと、満足に掛からない。
そして「点」と「面」では同じ力でも威力が全く違う。一点集中した彼の一撃を防ぐ手段は無い。
彼が彼である限り、彼の
彼を倒すには、彼に能力を使うには、彼を超えなければならない。彼が「自分は超えられた」「自分では勝てない」などと思わなければならない。
負け無し、傷なし、最強の吸血鬼と讃えられる彼は正しく怪物だった。
「はぁあっ!!」
レミリアの運命操作も当然効かない。「我がある故に我あり」。自己完結の完成系は他からの干渉を受け付けない。
がむしゃらの一撃、当たっても効かないと理解していながらの一撃。
「お前には今1度、言わねばならぬ事があるな」
「くっ!喰らえ!!!」
「黙れ小娘。お前の力では何をどうやろうとも吾輩には勝てん!」
スカーレット卿が、手刀を振り下ろす。レミリアはグングニルを盾にしようと構えるが、いともたやすく両断される。手刀は滑るようにレミリアを捉え、腕を吹き飛ばす。
彼は「点」だ。故に、手刀も「点」。直線的に並べられた点が振り下ろされる。点としての性質を持った「線」攻撃。最強の吸血鬼の筋力を小さな点に集め、それが並んだ一撃だ。受け止められるはずがない。
「うぐっ!」
レミリアが苦悶の表情を浮かべる。だが、それでも必死になって戦闘を続けた。
確かに、目の前の吸血鬼に運命操作は効かないだろう。だが、それだけだ。ならば他のものを操ればいい。
「ああぁ!」
操りながら少しでも時間を稼ぐ。それさえすればいずれは────────
「ッ!?」
運命は残酷であった。今誰が紅魔館の外から援軍としてやって来ても、この吸血鬼には勝てないと、そう運命は言うのだ。
ならば、どうしろと・・・・・・?本来の勇者は倒れた。他ならぬ味方の誤射によって。
呆然と佇む暇はない。人では目で追うことすら不可能だろう神速の攻防。
スカーレット卿が手を抜く形で3分、5分と時間が経っていく。
やがて、10分を数えた辺りでレミリアが力尽きた。
その体にはいくつもの穴が空き、そこから夥しい程に出血している。吸血鬼としての再生能力を穿たれたのだ。
もう勝ち目は無いのか?諦めるしか無いのか?漠然とそう考え───
「・・・・・・ふん、ようやく大人しくなったか。お前は我が娘だ。殺さぬよう気を付けるのも疲れるというもの。来い、レミリア」
「───嫌だ」
「なに?」
否定する。
そう、否だ。
レミリアは
私が見た
アレに私がどれだけ希望を感じたか。どれだけ喜びに咽び泣いたか・・・・・・!
レミリアは振り返る。
「お、お姉様・・・・・・!」
涙を目に溜めて、胸の前で両手を組むフランが目に入る。レミリアはそんなフランに微笑み、スカーレット卿へと構える。そして同時に決意を固めていた。
今、
────
あぁ、苦境だ。絶望だ。
失意に沈みそうになる心を考えを、全部まとめて捨て去る。
「何を笑っている。気でも狂ったか」
あぁそうさ。レミリアはスカーレット卿を睨む。口元には獰猛な笑を携えて、その小さな身に秘めた妖力がそれこそ火山の噴火の如く溢れだす。
それを何処吹く風と真っ向からぶつかるスカーレット卿。
「ほぅ、やる気はあるのだな。困ったものだ。娘を好戦的に育てたつもりは無かったのだが・・・・・・なッ!!」
「ククッ、死になさい。圧政者ッ!!」
吸血鬼の死闘が始まった。
地獄の業火が身を焼き尽くした。
凍てつく絶対零度が全てを奪った。
神をも討つだろう落雷が身体を穿った。
体に無事な部分は何一つなかった。
結界が張られ、その中でそれらの力が暴れ狂う。何十、何重にも魔法を受ける。その全てが、その一つ一つがスパルタクスという英霊を殺しなお余りある威力。
「ぉお、お」
快楽にも似た苦痛が身を支配した。
悦楽にも似た狂気が、この身を虐げる者を探していた。
「ぁあ」
初めに壊れたのは眼球だ。高熱に沸騰し、破裂した。
皮膚は全て爛れ、その上を霜が走る。筋肉には致死量の電気が流れ、細胞は蹂躙されていく。
「いいぞ、いい、ぞぉ」
それでも尚、彼が生きているのは。耐えているのは、守りたいと言う思いがあったからだ。
倒したいという願いがあったからだ。
「はははは、はははははははは」
爆炎、吹雪、雷雲、土砂にマグマに水流。潰れた眼球ではそれらを見ることは叶わず、痛みを伝える機能さえ満足に働かなくなった体では現状の把握など不可能。
ただ───────一つだけ分かることがあった。
戦っている。
まだ、あの少女は戦っている。
行かねばならない。この枷を吹き飛ばし、この死地を笑い飛ばし、守らなければならない。
本能がそう囁いていた。いや、これは本能などではない。
「私は、ユク」
絆が、確かに結ばれた絆がそうさせる。
体は動かない。この魔法がいつ終わるのか分からない。だが、理解出来たことがあった。
この魔法の終わりこそが───────────叛逆の開始であると。
「はははは、はーははははははっ!」
次回!ケッチャコォ・・・・・・。