東方叛逆郷─スパルタクス幻想入り─   作:シフシフ

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遅れて済まない。

それと、なんか、主人公が誰だか分からなくなってしまった・・・・・・。

今回の内容は砂糖が含まれるぞっ。
あと、今回──一万七千文字超えたぞ。

え分割?知るか!!たまには長くてもいいだろぅ!?(圧政)
手を出さなければもっと短くできた。あぁ、手を出さなければな。だが、それでは私がつまらなかった(圧政)


許せ!!!!!(圧政)
あと、誤字脱字報告、コメントの方よろしくオナシャス(圧政)










約束

 時はやや遡り、スパルタクスか結界に閉じ込められ魔法の嵐を受けていた時のことだ。

 

 紫の髪に胸元が真っ赤に染まってしまったパジャマのようなゆったりとした服を着た少女、パチュリー・ノーレッジはその頭をフル回転させて現状の打破を目論んでいた。

 

(考えなさい、パチュリー・ノーレッジ。今、こんな時こそが私の出番でしょう?)

 

 手足を失い肉塊の如く転がる親友に回復魔法を唱える。いや、唱えようとする。

 

「ンッ!むきゅっ!むきゅっ!」

 

 しかし、喉に受けた傷は深い。声帯から首の骨を通過し、パチュリーの後方まで突き抜けた一撃。パチュリーが保険のために用意しておいたあの魔法具の回復は、その殆どを首の骨の再生に使われてしまい、声帯は故障したまま治ってしまった。

 一度治った傷は元には戻らない。つまるところ、自分の生の価値をほぼ全て失ったことになる。

 

 だが、それを悲嘆悲観し親友を見捨てるわけには行かない。

 

 そんな思いでパチュリーは回復魔法を行使する。だが、その光はあまりにも弱々しい。こんな魔法では、自分の二の舞いになる。

 

(あぁ、どうすればいいのかしら・・・)

 

 パチュリーが悔しさを噛み締めながら俯く。しかし、その時だ。煙と爆発が起き続け、絶え間無い光を放つ場所────パチュリーが仕込んでいた結界、レミリアが運命の人と呼んだ男が閉じ込められた場所が視界に入る。

 

 いや、生きているわけがない。

 

 パチュリーは自嘲する。ついさっきまでの自分は確かに世界最高峰の魔法使いだったのだから。

 

(むきゅ?)

 

 いや、まて。何かを忘れてはいないか?パチュリーは深く考えを巡らせる。

 自分はどのような魔法を組んだか。そう、確か───!

 

(ぇ、生きてるの?あの中で?)

 

 パチュリーは思い出す。様々な属性の精霊魔法による広範囲攻撃をこれまた精霊魔法による結界で反射を繰り返し、最大効率でダメージを()()()()与え続ける。当然込められた魔力が無くなれば消えてしまうのだが。それがパチュリーが短時間で仕込める限界の魔法だった。

 

(嘘でしょ、いや、でもまだ魔法は正確に機能している。・・・・・・なら、行けるわね。っ!?)

 

 パチュリーは結界の中の男を見て何かに気が付いたのか、震える手でポケットからメガネを取り出す。これは魔道具の1種だ。対象をより詳しく調べあげる際に使うもので、そういう類の魔法が数種類仕込まれた大変貴重なものである。

 メガネを掛けたパチュリーはスカーレット卿に見られていないことを確認し、結界の中を臨む。

 

(な、なんて量の魔力・・・・・・いや、存在そのものが魔力の塊なの?まって、中央に更に高濃度の魔力体・・・・・・つまり使い魔かゴーレムの類なのね)

 

 今のパチュリーに出来ることは少ない。だが

 

(魔法は満足に使えなくても魔力を込めることはできる。限界を超えて魔道具を使うことも可能。よし、使うわ。むきゅー!うぉー最大パワー!っ!?)

 

 パチュリーの視界に途端に大量の情報が映し出される

 

 ─────

 

 クラス:バーサーカー

 真名:スパルタクス

 属性:中立・中庸

 マスター:レミリア・スカーレット

 時代:?~紀元前71年

 地域:ローマ

 ステータス

 筋力:A

 耐久:EX

 敏捷:D

 魔力:E

 幸運:B

 宝具:C

 

 宝具

 

 疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)

 ランク:A

 種別:対人(自身)宝具

 レンジ:0

 最大捕捉:1人

 常時発動型の宝具。伝説が昇華されて宝具化したタイプ。バーサーカーのクラスで召喚された場合とセイバーのクラスで召喚された場合で宝具の使用法が異なる。

 バーサーカーのクラスで召喚された場合は敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積して貯められた魔力はステータス強化と治癒能力の増幅などに転用され、傷つけられれば、傷つけられるほど強くなる。魔力への変換効率は彼の体力が減少するほどに上昇する。

 

 

 スキル

 

 狂化(EX)

 パラメータをランクアップさせるが、理性の大半を失われる。狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、彼は"常に最も困難な選択をする"という思考で固定されており、実質的に彼との意思の疎通は不可能である。

 

 被虐の誉れ(B+)

 サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。

 

 不屈の意志(A)

 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志。肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を持たない。一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

 

 剣の凱旋(B)

 戦闘で勝利し帰還するためのスキル。スパルタクスは逸話上、幾度となく戦いに赴き帰還したためにスキル化された。

 戦闘での最終局面における回復力の増加、筋力の上昇が発生し、生存率を高める。

 

 運命の導き(B)

 レミリア・スカーレットによって運命操作を行われていることを表すスキル。

 あらゆる幸運判定に+補正がなされ、致命傷を受けづらくなる。

 ─────

 

 

 

 パチュリーの視界に現れたのは────そう、アカシックレコード(ウィ〇ペディア先生)から引き抜かれたであろうスパルタクスのステータスに、多少手の加えられたステータスであった!

 

 さらに情報の波は襲い来る。

 ウィキペディ〇より引き出される数多の情報が、パチュリーの脳に吸い込まれていく。

 その人生、その能力。その他諸々。

 

 そしてこの戦いの─────勝機を見つけるのだ。

 〇ィキペディア先生万歳。独自設定も多少含まれているがそんなことはどうでもいい。

 パチュリーはすぐさま行動に移した。このままの彼(バーサーカー)を戦わせてはだめだ。決して勝つことは出来ない。

 

(だから、変えてしまおう。・・・・・・お、怒られそうね。いや殺されそう、か。でもどうせ魔法もまともに使えないちんちくりんだわ。構わない)

 

 パチュリーは魔法を必死に唱える。なんども噎せっていたが、それでも何とか唱えることに成功する。

 行うのは霊基の書き換え───クラスチェンジである。

 

 ウィキ〇ディア、宝具説明の最後の方にこう書いてあったのだ。

 ──セイバーのクラスで召喚された場合は、相手の攻撃に耐え抜くと体力や魔力を回復し、次以降の同じ攻撃を無効化するか、もしくは反射するというものになる。

 

 ここにパチュリーは勝機を見出した。

 スカーレット卿唯一の弱点は攻撃力の低さだ。いや、絶対に貫通するという意味で言うなら火力は高く無くていい。故にこそ一撃が育たず軽いのだが、手数でそれは補えた。

 だが最早言うまでもなく、スパルタクスセイバーとの相性は完璧と言えた。

 それに、とパチュリーはスカーレット卿を睨む。

 

(スカーレット卿の能力は絶対的な自信から来るもの。恐らく生涯をかけて攻撃が無力化されたことは無いはず、なら、無効化されたり反射されたりしたならば確実にプライド(能力)傷が生まれる(綻びが生じる)はず。そこをレミィとフランでどうにか止めをさせれば───!)

 

 結界の中で変化が起こる。何が起きてるかを正確に視認することは出来ない。けれど、魔力の動きが彼が変わっていることを表していた。

 

 ─────

 

 クラス:バーサーカー/セイバー

 真名:スパルタクス

 属性:中立・中庸

 マスター:レミリア・スカーレット

 時代:?~紀元前71年

 地域:ローマ

 ステータス

 筋力:B+

 耐久:EX

 敏捷:C+

 魔力:D+

 幸運:B

 宝具:B

 

 宝具

 

 疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)

 ランク:A++

 種別:対人(自身)宝具

 レンジ:0

 最大捕捉:1人

 常時発動型の宝具。伝説が昇華されて宝具化したタイプ。バーサーカーのクラスで召喚された場合とセイバーのクラスで召喚された場合で宝具の使用法が異なるが、今回はバーサーカーをセイバーに上書きしようとした所不思議なこと─叛逆─が起き、2つの宝具を使用できるようになった。

 敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積して貯められた魔力はステータス強化と治癒能力の増幅などに転用され、傷つけられれば、傷つけられるほど強くなる。魔力への変換効率は彼の体力が減少するほどに上昇する。

 圧政に対する叛逆心が宝具と化したため、一度攻撃を耐え切った場合体力を回復し、同じ攻撃であれば無効化もしくは反射する。これはスパルタクスの意志によるものであり彼が反射、無効化などをその都度好きに切り替えられる。無効化や反射には魔力を消費する事は無いが、発動している限り魔力を消費し続ける為、燃費は良くない。

 

 

 スキル

 

 狂化(EX)

 パラメータをランクアップさせるが、理性の大半を失われる。狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、圧政者との会話中は一気に狂化が跳ね上がるため、実質的に彼と圧政者の意思の疎通は不可能である。つまり他とはある程度可能となる。

 

 

 ダブルクラス(ー)

 セイバーとバーサーカーの霊基を持っている事を表すスキル。本来のスパルタクスがセイバーとバーサーカーを両立させて召喚されることはなく、このスパルタクスは本来のスパルタクスとは違う存在と認識され、この戦いの記憶が座のスパルタクスに記録されることもまた無い。そして双方の効果を使うことが可能となる。

 

 被虐の誉れ(B+)

 サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。

 

 逆境のカリスマ(A+)

 逆境であれば逆境であるほど、つまりピンチであればあるほどカリスマのランクが上昇していく最大ランクがA+。平常時はCランク程度。

 

 不屈の意志(A)

 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志。肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を持たない。一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

 

 剣の凱旋(B+)

 戦闘で勝利し帰還するためのスキル。スパルタクスは逸話上、幾度となく戦いに赴き帰還したためにスキル化された。

 戦闘での最終局面における回復力の増加、筋力の上昇が発生し、生存率を高める。

 

 運命の導き(B)

 レミリア・スカーレットによって運命操作を行われていることを表すスキル。

 あらゆる幸運判定に+補正がなされ、致命傷を受けづらくなる。

 

 ─────

 

(でき・・・・・・た!)

 

 完全な形には出来なかった。だが、偶然が最善を呼んだのだ。終わり良ければ全てよし、だ。勝ち筋はハッキリと見いだせた。

 結界の中、光る双眸。

 ゴクリと唾を飲む。痛む喉を無視して、パチュリーは念話の魔法をどうにか行使する。

 

 〈私の名前はパチュリー・ノーレッジ。簡潔に言うわ。あの子達を助けて欲しいの〉

 

 万の想いを込めて問う。主人に決して従わない従者だ。それが救うかは賭けだ。でも、きっと問題ない。

 そう信じ────返事は来る。

 

 〈子供(弱者)を救うことは当然である。だが、覚悟しろ。奴を殺した後、次はお前を殺す、圧政者〉

 

 帰ってきたのは是。助けるという肯定。親友が助かるのなら安い身だ。いくらでも殺すがいい。パチュリーの決意は早かった。それこそ一瞬の躊躇いもなく。

 

 〈えぇ、構わないわ〉

  〈おぉはははは!良いぞ!ならば今までの行いを思い出し、自らを恥じるが良い!〉

 

 短く、それでいて深い決意。

 スパルタクスには2人の仲は分からない。今彼の記憶に存在するのはめちゃくちゃなものばかりだ。支離滅裂なものばかりだ。色々な人に会い、会話の大惨事世界大戦を勃発させ、こうして子供を守っている。セイバーとしての理性がややり戻された為に、混乱は避けられない。

 分からないが、それでもパチュリーが圧政者であるか否かについてはハッキリしている。

 許可もなく人の霊基を弄り、更にはこれ程の苦痛を与え続けるのだから、これを圧政と言わずなんと言うか。

 今なおこの身を痛め付ける魔法にスパルタクスは怒りを覚えた。だが、それと同時に高まっていく力。そして知覚する。自らの宝具の進化を。

 

 〈今この時ばかりは感謝しよう圧政者!だが、この慢心が貴様の首を跳ねるのだ。弱者に救いあれ、圧政者に死よ、あれ〉

 

 ───────パリン。

 

 と軽い音が響く。結界(圧政)が叛逆者に屈したのだ。

  それと同時にスパルタクスは地を駆けた。

 重々しい音と共に陥没する地面。加速する視界。宝具のステータスアップ効果をふんだんに使い、自らを加速させた。

 

「──ぬぅ!」

 

 体は既にボロボロだった。自らの命が死に行こうとしているのが分かる。これ程のダメージを受けたのは久しぶりだろう。

 

 だが、だからこそ─────叛逆する。

 

 あの猛烈な魔法()()を耐え切ったのだ。故に、フィードバック(回復効果)は凄まじい。瞬く間に全ての傷が塞がっていく。溶けて貼り付いた皮膚も、電撃で壊れた神経も、凍って砕かれた両腕も。何もかも。

 

「やめてぇえええええええええ!!」

 

 レミリアが叫んぶ。その視界の先には魔弾を構えるスカーレット卿の姿。スカーレット卿の先にはフランの姿。そして、それを守るようにして立つ紅の闘士。その姿は血だらけで、とてもでは無いがスカーレット卿の攻撃を耐えられるとは思えなかった。

 だが決して勝てない相手に対し、子供を守らんとするその意思、熱意、正義感。それはスパルタクスが大いに好むものであった。

 

「────────!」

 

 美鈴を投げ飛ばし、レミリアとフランに覆いかぶさる。迫る光弾を小剣ではなく、己が背で受け止める。貫かれたら終わりの賭けだ。金属のような音が鳴り響く。

 バーサーカーであった時のスパルタクスが受けた攻撃に対しても正確に機能しているらしい。その事実に、目の前の少女らを救えた喜びに、自然と頬が緩む。

 

「良くぞ戦った小さな同志達よ」

「ぁ、あぁ」

「安心したまえ」

 

 華奢な体の叛逆者達に背を向けながら立ち上がり、圧政者(スカーレット卿)を睨む。その顔には笑みを張り付けて、然してその眼は笑ってなどいない。

 

 自分は愛を持って圧政者を討ち滅ぼさんとするバーサーカーでは無い。ただただ圧政者を許すまいと正義に燃えるセイバーでも無い。その二つを持った、持たされた紛い物だ。

 

 だが、それでも。この意志(叛意)がある限り、背後で息を呑む小さな同胞達の英雄(スパルタクス)なのだ。

 その鋼よりも尚硬い意志は、決して折れぬ不屈の闘志こそが、叛逆の英雄(スパルタクス)たる所以。

 仮に本来ありえないクラスとなろうとも、彼の本質が変わる事は決して無い。

 

 おのれ魔女め、小癪な呪いを。そう内心で愚痴る。

 スパルタクスはスカーレット卿にグラディウスを構える。堂に入ったその構えは、今までの技術無き構えでは無く、明らかな闘士の構えであった。

 

 ─────恐らく、私はここで死ぬだろう。だが、それは全てを救った後だ。私は救わなければならないのだ。

 

 

 

 

「────────これより、叛逆を行う」

 

 

 

 

 決死の覚悟でそう言い放つ。

  そしてふと気が付いた。

 

 

 ─────どうやら魔女は殺せなさそうだ。

 

 

 スパルタクスは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は終わったか?」

 

 対峙する両者。片や圧政者、片や叛逆者。互いに求めるものは片方の死。互いが振るうのは圧倒的な暴力。

 

「おぉ!圧政者よ。貴様に痛打を与えるべく、このスパルタクスがやって来たぞ!はははは!」

「ふん、狂人が。貴様程度、何ができるというのか」

 

 スカーレット卿の高慢な態度は崩れない。パチュリーの読みが外れたのか?いいや、違う。

 

 これは──────()()()()である。

 

(どうやら無意識の内に手心を加えていたらしいな。全く、あの程度の雑魚を貫けないとは。いや、恐らくだが能力すら使っていなかったのだろう)

 

 スカーレット卿の一撃は、確かにスパルタクスの背に当たり、そして無効化された。

 だがそれはありえない。スカーレット卿は認めなかった。数百年生きてきてそのような事は無かったからだ。

 だが、彼は気が付かない。あの瞬間()()()()()()時点で負けは確定したのだ。

 

「今宵は既に叛逆の時!ユクぞ、圧政者よ。我が愛を持って貴様を倒そう!」

「愛だと?くっ、くはははは!面白い、面白いぞ狂人。愛など下らな・・・?まぁよい。少しばかり興が乗った。付き合ってやろう。────来い」

 

 一瞬何かに首を傾げた。気のせいかとスカーレット卿は考え直し、くいっくいっと手招きする。そして大げさに両腕を広げる。まるで十字架の様。これは本人が弱点を全て克服した絶対強者であると考えるポーズだ。

 

「では行くぞ、ははは!」

 

 スパルタクスは疾走する。その巨漢からは考えられないほどの速度だった。スカーレット卿は少し驚き、チラリとパチュリーを見る。眼鏡をかけて状況を見定めているようだ。あの者がスパルタクスを強化させる魔法でも使ったのか。あの喉で?

 

(まぁ、どうでも良い。どうせ結果など分かりきっている)

 

 鼻で笑い、スカーレット卿はこちらに走るスパルタクスを見た。全吸血鬼の中で最強のスカーレット卿からすれば、速度が亀から兎に変わった程度の変化だ。

 

「はぁ」

 

 ほんの少しの失望と共に、ゆっくりとその手のひらをスパルタクスに向ける。

 収束する光。これはスカーレット卿が放てる最大火力。拳一つ分程の大きさの光の弾。

 

「圧政者に痛打を!!!」

 

 眼前まで迫ったスパルタクスに手向けとして放つ。万物を貫く究極の貫通性だ。当たればどのような防御ですら貫く最強の矛。

 

 しかし。

 

 

 

「─────ぬぅんっ!!」

「!?」

 

 スパルタクスに光の弾が触れると同時に消失する。混乱するスカーレット卿の頭が掻き消える。

 スパルタクスの一撃がその頭を消したのだ。

 

「──っア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?な、なぁ!?何が起き」

「死ぬが良い!!」

「やめ────」

 

 スカーレット卿は戸惑った。初めて感じる痛みが体を支配する。体が痛い。痛いとはこんな感覚なのか。

 

「ぐぅうう!?おのれぇ!?何をした!?お前か!?お前か!?パチュリー・ノーレッジ!?」

「ははははははははははははははははは!!愛!愛だ!!」

「ヒィッ!?そ、それが愛なものか!」

 

 光。光。光。

 

「何故だ!何故効かん!!!」

 

 直線的に放たれる光の光線は、スパルタクスの肩や腹に当たり、周囲を眩く照らした。怯えるその心ではスパルタクスを貫くなど到底不可能であった。

 

「はははははははは!無駄である!最早その圧政に屈する事は無い。さぁ、死ね、圧政者よ」

「おのれぇ!?なぜだ!?」

 

 スカーレット卿が感じたのは疑問だった。

 なぜ、貫けていないのか。

 理由など不明だ。

 当然、理解など不可能だ。

 ありとあらゆるものを貫いてきた能力が、ただ鋼のような筋肉に阻まれているのだから。

 

「わ、訳が分からない!」

 

 思考が混乱する。訳の分からない仮説が並べられる。

 

 

 だが、彼にわからずとも我々には分かるのだ。スカーレット卿が負ける理由、その最もたる原因が。

 

 

 そう、それは───

 

 

 

 

 

 

 

 ────筋肉(マッスル)だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 マッスルとは即ち英雄。マッスルとは英傑を表す言葉。

 筋肉は全てを解決するマスターキーなのだ。アカシックレコードとは即ち筋繊維に違いない。

 なにせ、古来より無理難題は筋肉により解決されてきた。

 根源?筋肉の間違いだろう。なにせ歴史が証明している。基本、人類史は戦争と筋肉でまかり通っているのだから。根源は恐らく筋肉、もしくはプロテインだ。

 

「思い返すがいい・・・・・・!圧政者よ!貴様が受けたその痛み!それはお前が弱者に与え続けたきたもの、一方的に与えたものだ!故に!こうして数倍になって返ってくるのだ!!このスパルタクスの手によって!」

 

 肉薄され逃れられないスカーレット卿は必死に攻撃するが全て無効化される。

 唸るスパルタクスの上腕二頭筋、否、全身の筋肉が圧政者を殺す機会を求めてギチギチと音を立てているかのようだ。まるで威嚇音の様な音に、スカーレット卿の心は更に萎縮する。

 

「ふはははははッ!ははははははははははははははははは!!!愛!!愛だ!!」

「こ、この化け物めがっ!!」

 

 お前が言うな。この場にいるスカーレット卿とスパルタクス以外が思った。

 スパルタクスとスカーレット卿が一方的な凄まじい攻防を繰り広げる中、レミリアとフランが動き出した。

 

「ありがとう美鈴、このお礼は必ずするわ」

「私もするよ!」

「ありがとう、ございます、そのお言葉だけでも十分に報われました」

「こほっ、いや、あなた、全然死なないわよっそのくらいじゃ」

「「おい」」

「あはは・・・それは言わない約束というヤツでは」

 

 まぁいいわ。と小さく呟くと同時に、ニヤリ、と笑う2人。

 

「来なさい────グングニル」

「おいで────レーヴァテイン」

 

 運命に従い必中する必殺の神槍、全てを焼き尽くす焔の魔剣。

 かの吸血鬼の王は言った。武器は弱者の証であり、吸血鬼には必要の無いものだと。

 ならば、使おうではないか。私達はお前とは違うのだから。人と同じようにして立ち向かおう。

 

「スパルタクス!私達も手伝うわ!」

「うん!頑張る!」

「なっ!?」

「ははははは!イイぞぉ!共に戦おう叛逆者達よ!!今こそ圧政者を打ち砕く時っ!」

「「はぁああ!!」」

 

 スパルタクスの大振りの横薙ぎ。必死の形相でそれを()()するスカーレット卿、しかし不慣れなこと故に、スキだらけにも程があった。

 

「えいっ!!」

 

 近付くだけで肌を焼くかのような炎、武術を知らないフランのテキトーな振り下ろしも、回避技能の無いスカーレット卿からすれば致命的だ。

 

「ぐぬぅぁぁぁあ!?あ、熱いだとこの吾輩が!?熱を、感じるというのか!?」

 

 回避しきれずに肩を焼かれるスカーレット卿。初めて受ける細胞が死ぬほどの熱に驚愕し、慌てふためく。

 もしや、と不安が頭をよぎる。

 

(もしや、この2人にも吾輩の力が効かないのでは・・・・・・?)

 

 いや、そんな筈は無い。この男と同じな訳が無い。

 だが。

 

(だがもしもあの魔女が奴に魔法を掛け、それがこの結果をもたらしているのだとしたら!吾輩のの娘達も同じ様に吾輩の攻撃が効かないのではないか!?)

 

 考えれば()()()()()()。弾幕をはる手が鈍る。

 

 体が衰弱していくのは何故だ。

 心が冷たくなるのは何故だ。

 四肢の末端から、背骨の底から這い上がる悪寒は何だ。

 何故、奴らの笑みを見ると足が後ろへ向うのだ。

 

「「「(あ)ははははははははははははははははは!!」」」

「く、来るなぁ!」

 

 弾幕をめちゃくちゃに撃ちまくる。当たれば貫かれる。能力が精神の状況に依存する以上、弱体化したそれらだが、貫通性が無くなったわけではない。フランとレミリアに当たればタダでは済まないのだ。

 

「ぬぅはは!フラン、レミリア!私の背に捕まるといいッ!」

「ええ!」「うん!」

「おのれぇ!!」

 

 撃ちながら後方へ飛ぶスカーレット卿。舞台は図書館から紅魔館の廊下へ。直線に伸びる廊下、回避困難な貫通弾幕。本来ならばどれだけの妖怪であろうともこの攻撃を前に穴だらけになって死んでしまうだろう。だが。

 

「「「ははははははははははははははははは!!!」」」

 

 止まらない。

 

 恐ろしい笑い声も、その死の足音も。

 

 踏破する。走る。走る。走る。

 

 全ての攻撃を弾き、無効化し、時折反射し、迫ってくる。

 

 その表情は苦痛に満ちていたか?

 憤怒に染まっていたか?

 復讐に歪んでいたか?

 

 

 ──────否、断じて否。

 

 

 ───笑っている(スマイル)のだ。そう、笑っているのだ。

 

「「「ははははははははははははははははは!!」」」

 

 破顔一笑(スマイル)破顔大笑(スマイル)捧腹大笑(スマイル)抱腹大笑(スマイル)

 スカーレット卿からすれば、笑面夜叉(スマ(ry)。嘲笑に他ならない。いや、他人から見たら成人男性がキチマッチョとキチ幼女に追われ悲鳴を上げるだけなのだが。

 

「くそぅ!んっ!?」

 

 ずっと後退していたスカーレット卿の背が壁にぶつかる。視界のやや下を一瞬何かが通り過ぎた。

 

(ば、馬鹿な。測り違えたか!?いや、少なくとも200メートルあったはずだっ!!)

 

 訳が分からなかった。此処は自らの居城のはず。

 なのに、何故だ。

 

「ぬん!!」

「グボハァッ!?」

 

 壁ごと吹き飛ばされ、次の廊下へ出た。ヨロヨロと立ち上がろうとして、固まる。魔力の高まりを感じたからだ。ハッとしてそちらに顔を向け、引き攣る。

 

「スピア・ザ・グンッ──────グニルッ!」

「キュッとしてー!───ドカーン!」

「─────!」

 

 娘達の能力が迫る。

 

 ───まだだ。

 

 放たれた槍は紅の軌跡をもってスカーレット卿を貫抜かんと迫った。

 

 ───まだ、だ。

 

 白く細い指が1本、また1本と閉じられていく。

 

 ───まだなのだ。

 

 ふと、自らの内側が見えた。

 能力で固く閉ざされ守られていた心が。

 いつの間にか狂ってしまっていた約束達が。

 忘れ去ろうとし忘れ去られようとしていた、あの顔が。『愛』と『娘達』を媒体に思い出す。

 

 

「ッ!!」

 

 そうだ。そうだった。

 まだ、吾輩は負けるわけには行かない。

 まだ倒れてしまうことは許されない。やるべき事は残っている。

 

 関係の修復などする気はない。

 だが、だからこそ約束だけは、守らなくてはならない。

 

 

 ───悪魔は契約だけは厳守するのだから。

 

 

「ゥゥウウウウウウアアアッッ!!!」

「「!?」」

 

 神槍を貫手で貫き、破壊を能力で受け止める。スカーレット卿の反撃はそこで終わらない。

 破壊された能力を秒で再展開、前進する。たった1歩、前に進んだそれだけで即座にスパルタクスの後ろを取る。

 

「オオオオオオっ!!!」

 

 そこにいるのは2人の娘。

 しかし、それを許すスパルタクスではない。この男に動揺など無いのだ。

 

「ぬぅん!」

「チィ!!」

 

 身体能力に任せ、スパルタクスの振り向きざまの一撃を回避し、その勢いのままに図書館への廊下を下がる。そして弾幕を撃ちまくる。

 

 再び始まる追いかけっこ。だが、先程とは違い一撃一撃が重く、速い。

 プライドを捨て、思い返す。

 かつて自らが貫き破壊した、いや、破壊しようとしたものを。

 

「─────あぁ思い出したぞ。デザイアよ」

 

 

 

 

 

 

 ──吾輩は何故、産まれてきたのだろうな。

 

 ある日、なんの考えもなく隣に座る()に問うた。

 

 ──さぁ?

 

 女は答える。いや、煙に巻いたのやもしれない。それが吾輩には許せなんだ。

 

 ──さぁ、では無い。答えよ。

 

 愛する女にこの態度では何時かあいそを尽かされるだろう。だが、どうしてかこの女は離れようとはしなかった。変わった女だ。

 

 ──強いて言うのなら、この子達の為では?

 

 そう言って膝の上で眠るレミリアと、腹の中にいるもう1人の娘を愛おしそうに見やる。

 吾輩には理解に苦しむ内容だった。確かに、吸血鬼が子を成すのは難しく、それも2人で尚且つ5年しか月日がたっていないのに、となれば珍しいのは分かるのだが。

 

 ──珍しいからか?

 

 吾輩がそう言うと、女は酷く機嫌を損ねた。これには吾輩も困ってしまう。1度損なわれた機嫌は元に戻るまでが長い故。

 

 ──そうだと思いますか?

 ──お前がそう言う女で無いことは知っている。

 ──ふふ、なら良いのです。

 

 どうやら助かったらしいと、ほっと胸をなでおろす。

 だが、どうやら女の話しは続いていたらしい。仕方ない、この館の主として、聞いてやらねば。

 

 ──この娘たちは私達の血が通っています。とても沢山の血が通っているんです。

 ──ああ。

 ──だからこそ、愛おしいのです。

 

 自分と同じ血が通っているから愛おしい。よく分からない理屈だった。だが真祖としての血が強いのならば強い子なのだろう。誇りに思う気持ちは理解できた。

 

 ──ふふ、分かってないですね?その顔は。

 ──わかっているとも。

 ──嘘つき。この子達もそうなっちゃいますよ?

 ──ふ、悪魔なのだから嘘つきでなくては。

 

 ふっ、やはり。この女は変わっている。まぁ、そこが気に入ったのだが。

 

 ──あなたは、この娘達を守ってくれますか?

 ──ふん、当然だ。吾輩はこの館の主だぞ?住まうもの全てを守る義務がある。

 

 気がつけば話が逸れていた。

 

 ──で、吾輩は何のために産まれてきたと思うのだ?

 

 もう1度問う。すると、女は頬を膨らませて吾輩の頬を掴もうとする。

 吾輩は慌てて能力を解除する。軽く触れるだけでもその手を破壊しかねない。

 

 ──私はその問に対する答えを持っていません。でも、私はその問に対する願望はあります。

 

 まるで、わからず屋にわかりやすく教えてやろう、とでも言うかのような口調と態度に少し苛つく。はぁ、この女で無ければ何度殺していたか。

 

 ──願いとは?言え、可能な限り叶えよう。

 ──親とは、子を守る為にいる。色んな生き物がそうです。

 ──うむ。

 ──そして私は、あなたとの血を分けた子供達が愛おしい。

 ──ほう。

 

 なるほど。初めに女が言った言葉が理解出来た。

 

 ──だから私は、あなたが私との愛の結晶を守るために産まれてきた・・・・・・なんて、ロマンチックな妄想をしてみましたっ!

 

 最後は顔を赤くしてそっぽを向く女。

 全く、下らない。その程度、吾輩ならば片手間にこなせようと言うのに。

 内心でそう笑い、けれど何故か吾輩は誓を口にした。

 

 ──ふはは!よかろう、いいだろう!その程度、このフィックス・スカーレットがその願い聞き届けた。我が名を持って約束は守られよう。

 ──えっ?

 ──ふっ、くくっ、ぷはははっ!!見たぞ、吾輩は確と見たぞっ!その間抜けな面をなっ!!くははは!

 

 女はいつも何もかも分かっています、と言った様な顔をしていた。事実、女の能力ならばそうなのだろう。

『未来を望み結末を定める程度の能力』だったか。吾輩は恐らくその予想から外れたのだろう。痛快だった。

 

 ──だが、な。デザイアよ。吾輩は愛の結晶のみならず愛そのものも守るのだぞ?

 ──ふっ、ふふ、変な人。もうやめてください、顔が赤くなってしまいます。

 ──何を言うか。既に赤かろう。

 ──・・・・・・意地悪。

 ──何をいまさら。

 

 この女に立てた誓は2つ目だった。一つは愛を貫くこと、二つ目は愛の結晶を守り貫く事。

 

 ──では、最後に

 ──今宵はもう十分だろう。朝に起きているのは体に悪い。眠りについてしまおうではないか

 ──そうですね。

 

 そこから場面は一転する。次の約束を思い出したのだ。

 満月の夜だった。狼男達が遠吠えをあげて煩わしい。吾輩は常に最強故に、満月だの新月だのの影響すら受けない。満月の日などうるさいだけだ。

 だが、(デザイア)からすれば違うようだ。

 頬を染め、チラチラとこちらを見ている。まぁ仕方の無い事だ。満月の夜は昂るらしい故な?

 

 ──あの、能力を解いてはくれませんか?

 

 女はそう言った。愛いやつめ。だが、吾輩迷う。能力を解けば満月の影響を受けてしまうからだ。そうなれば余裕綽々の強者たる姿を配下に見せることが出来ない。

 

 ──ふむ・・・・・・。

 ──い、嫌なら構いません。少し、手を繋ぎたくなっただけですから。っへ?!ど、ど!?

 

 女の手を掴み、吾輩の部屋へ連れ込む。もちろん能力は解除した。血が昂るのを感じる。女が望んだのは手を握る事だが、男たるもの女の期待は超えねばならぬ。引き寄せ抱きしめる。

 

 ──ま、ま、満月が、見えませんね。ってぇ!?

 

 作り出した光弾に能力を乗せる。それをいくつも作り出し、天上に天窓を拵える。月に穴を開けるようなヘマはしない。

 

 ──これで満足か、注文の多い客め。

 ──ぅ、うぅ、これでは

 ──まだ何か必要か?

 ──そのままベッドに押されそうです。私は少しお話がしたいだけで

 ──ならばこのままで良い。話せ

 

 少し悪戯が過ぎたとはおもう。が、吾輩は悪魔だ。許せ女よ。恥じらうお前が愛いのが悪い。

 やがて女は恥じらいを捨てたのか、真剣な顔になる。

 

 ──幻想郷に行きませんか?

 

 数十年前に噂で聞いた名が飛び出した。確か、人妖が共に暮らす楽園を作る・・・・・・だったか?馬鹿らしい、不可能だ!と笑ってやったのだったな。

 

 ──もう決めたのだろう?吾輩が能力を解いている間に。

 ──その、ペースを乱されたのでまだです。

 

 笑いそうになるのを堪え、考える。

 なぜ幻想郷に行くのか、吾輩には分からなんだ。

 

 ──なぜ幻想郷に?あの下らぬ机上の楽園になど行ってどうする?

 ──レミリアとこの子、フランが幸せになれるのです。

 ──ほう。

 

 正直な話し。娘2人など、どうでもよかった。むしろ、何故自分が幸せになる結末を選ばないのか。いや、娘達が幸せになると言うことが女の幸せなのか?そんなはずは無いか。つまりは自身の幸せは確定しているから、娘達にもお零れを、と言ったところか?

 

 ──待て、吾輩はどうなのだ。

 ──ふふっ、心配ですか?

 ──そのような訳があるか。ただ、お前の能力は興味深いのでな。

 ──貴方は強いですから。勝手に掴み取るでしょう?

 ──ハッ!確かにな。要らぬ心配だったか。

 ──心配だったんじゃないですか。

 ──むむ・・・・・・。

 

 まぁ良いだろう。と吾輩は承諾した。そうだ、これが三つ目だ。・・・・・・最後の誓いだった。

 

 ──では早速

 ──そこまで急がないで下さい。この子が産まれてからでも遅くはありません。

 

 今思えば、ここが・・・・・・()()道だったのだろう。

 

 

 ある日、娘が生まれそうだと使い魔から連絡を受けた吾輩は病室へと急いだ。

 たどり着いたそこには喘ぎ、唸るデザイアの姿が。発汗が起こりにくい吸血鬼だと言うのに酷い汗だった。吾輩はまず、医者を疑った。この場にいるのは皆人間の医者だ。患者の容態が、だと?分かっている。だが、理由は知らん。故に嘘をついていないか確かめようと一人殺した。

 

 ──フィッ、クス、来て、くれたのですね。

 ──当然であろう。大丈夫なのか?

 ──辛い、ですが、大丈夫、です。

 

 どうやら人間の医者は嘘をついていなかったようだ。だが安心した束の間、それは起こった。

 

 ──!?!?!?っ!?!!っあ!?

 ──なんだ、何が起きている?!

 

 突如、デザイアがベッドが壊れかけるほど強く暴れだした。声が出ないほどの激痛なのだろう。だが、レミリアの時はこのような事にはならなかった。

 白い美しい肌が土気色に染まっていく。表情が驚きと困惑から、悟りと諦めに変わっていく。能力で何が起きるのか察したのだろう。この時の吾輩は気が付かなかったが。

 いや、ある意味で吾輩は気がついていたのだ。直感に従い、デザイアの腹を、フランを能力で貫こうとしたのだ。しかし、デザイアは弱々しい手でそれを制した。

 

 ──なにを馬鹿な!吾輩が愛しているのはお前だけだと何度言えばッ!!

 ──2人、を、しあ、せ、に─────

 

 儚げな顔には懸命さが滲み出ていて・・・・・・次に響いたのは破裂音だった。

 赤き部屋はさらに紅く染まった。先程までデザイアだったもので部屋が溢れかえる。ピンク色の臓物、腕、足。そして首。

 破裂し顕になった背骨に抱き着くように、その元凶は眠っていた。安らかな眠りだった。産声すら上げない。

 

 あぁ、狂いそうだった。あの時吾輩は確かに狂いそうになったのだ。

 気がつけば殺そうとしていた。だが、思い返す。約束は何だった。デザイアとの契約は何だった!

 

 デザイアを愛し、その愛を貫き!その愛の結晶たる2人を守り!幸せにするべく幻想郷にたどり着く!そうだ、それこそが吾輩との契約・・・・・・!!

 

 だが!!

 

 だが、デザイアは今、死んだ!

 

 最も守りたいと思えたものは、その愛の結晶とやらに破壊された。

 

 無駄に美しい七色の輝きが、その異端たる破壊の象徴が、吾輩には何よりも憎かった。

 

 だから───────破壊したのだ。

 

 この記憶を。

 

 貫いたのだ。

 

 愛の結晶を傷付けぬように、破壊しないように守る為に。

 

 だから、見失ったのだ。忘れたのだ!

 

 娘を守るという約束は、地下への幽閉、半奴隷としての雑な扱いへ変化し!

 娘達を幻想郷へと送り届けるという約束は、幻想郷を支配するという暇つぶしの欲望にすり替えられた!

 

 強き気高き吸血鬼は伝承の通りの悪しき醜き怪物へと変わっていた!!

 

 それが吾輩の、吾輩とデザイアの最期!

 

 今この場に立ち、娘とスパルタクスと名乗る男の前に立つのは誰だ?

 そうだ、フィックス卿だ。悪虐の限りを尽くす不死身の、無敵の怪物。最悪の男。

 

「はははは!ぬぅん!」

 

 吾輩は、契約を守る。2つ破ってしまった。だが、まだ残っている。3度目の正直という言葉があるらしい。なら、これで慰めとしよう。

 

「・・・・・・」

 

 これが仮に全てデザイアの望んだものだったのならば、吾輩に悔いはない。

 娘達を虐げたのは確かに吾輩なのだから。

 幸せになれ、娘達。

 

 だがな、ただ殺られる理由には行かないのだ。吾輩は最強最悪の吸血鬼!

 超えて見せろ我が子よ。その男の力を借りてでもよい。超えて見せろ。

 

 この吾輩を倒せるのならこの先も不自由なき生をおくれよう。

 

 決意は固まった。砕けていた能力は・・・・・・蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────パキッ

 

「「!!」」

 

 図書館の中、追いついたレミリア達が見たものはスカーレット卿・・・フィックス卿の首に振るわれたグラディウスがひび割れ、完全に折れる瞬間だった。

 

「くく、くくく・・・・・・」

 

 フィックス卿の不気味な低い笑い声が響く。片手で顔を押さえ、笑いを押し殺そうとしている様だ。

 その内心が自らの死を持って娘達を幸せにしようと抗う父親だとして、唐突に溢れ出したおぞましき妖力はスパルタクスを除く全ての生き物の肌を粟立たせる。

 

「実に、実に愉快な時間であった。どうだったレミリア、フランドール。吾輩の演技も、なかなかどうして捨てたものではあるまい?」

 

 両手を広げ、ふわりと浮かぶ。穴の空いた壁を背に、堂々と連中を俯瞰する。

 

「貴様らの顔が、心が、力が!希望に向かい勢い付く様はとても心が踊ったとも」

 

 まるで無傷。全ての傷は既に治り、ボロボロにされたはずの洋服は治っている。まるで何事も無かったかのようにそこに居る。

 

「う、そ・・・・・・」

 

 パチュリーが震える声を出した。

 

「どうした、来ないのか?ならば吾輩から行くとしよう」

 

 手に作り出した光の弾は小さい。そしてそれは素早くスパルタクスへと飛び────()()

 

「!?」

 

 パチュリーが声にならない悲鳴をあげた。

 

「ふん下らんな。実にくだらない。使い魔風情が吾輩を倒す?ふははは!このフィックス・スカーレットを!?実に荒唐無稽な夢ではないか!流石はお子様だ!我が娘ながら恥ずかしいぞ!!」

 

 2つ、三つと作られた光弾がスパルタクスの体を貫いていく。その後にレミリア達がいるためにスパルタクスは飛び出さない。

 

「貴様が何者であるか、見抜いかせてもらった。サーヴァント、過去の英雄達を奴隷として従えた姿とはな。そして吾輩の力を無効化して見せた奇跡は『宝具』だろう?ならば単純な話だ!宝具に守られる貴様を貫けぬならば、宝具ごと貫いてしまえば良い!」

 

 そう言って放たれた光弾はスパルタクスの膝を破壊する。スパルタクスが倒れ込む。

 頼れる壁が脆くも崩れ去ったのだ。レミリアとフランの顔が恐怖に歪む。

 

「恐れよ!ひれ伏せ!吾輩が覇者である!」

 

 口が恐ろしい弧を描く。

 

「空も、ごの幻想郷も!お前達の命も!全て!吾輩のものだ!そう、全ては須らく吾輩のものなのだ!!」

 

 目をかっと見開き、叫ぶ。

 ただそれだけでボロボロになっていた本が吹き飛ばされ、図書館を嵐のごとく舞う。紙が暴れ狂う音が全てを飲み込んでいく。場を恐怖が支配する。逆らってはならないと心を傷つけていく。

 

「否、である」

 

 だがそんなことの一切合切を無視して、スパルタクスは物申す。

 

「人は平等である。自由である。断じて、貴様ら圧政者のものでは無い。それを証明するために、成すために私はここにいる。」

「はっ!下らん!貴様では吾輩は倒せん!武器を失った弱者に何が出来る!!」

「失って等いない。私の得物はこの心故に!我らの心に確かに武器はあるのだ」

 

 互いに凄味のある笑みで威嚇し合う。翼を大きく広げたフィックス卿は光の弾を無数に作り出す。その数二百。

 対するスパルタクスは駆け出した。守りを捨てたのではない。もうレミリア達が狙われないと理解したのだ。

 

「お前では吾輩には勝てん!!」

「否!我らは勝ち続ける!叛逆が我らが願いならば、叛逆をし続ける限り叶い続ける!故に、我らは勝利し続けるのだ!!」

 

 戦いは続く。光と血、肉片の舞う狂乱は終わらない。

 既にどれだけの時間戦闘を行ったか、記憶には残らない程に長く、けれど短い時間。

 

「死にたまえ!!」

「死に絶えるがいい!!」

 

 スパルタクスの体が穴だらけになる。再生は追い付かない。だが、生けるならば、生有るならば進む。突き進む。眼前に獲物は転がっている。結末はそこにある。

 

「「ふはははははは!!」」

 

 腕が千切れた。足がもげた。内蔵に無事なものは無い。それでも、前進をやめない。その姿、その背中に人々は魅入られた。過去、多くの人々が追ったその背は今も尚人を魅了する。

 傷に覆われた青ざめた皮膚、靡く金髪。血だらけのそれらのどこに魅力を感じるのだろう。分からない、だが、分かることはある。

 

 ───────勝てる。

 

 意味のわからない自身。訳の分からない根拠。理由無き理由。

 立ち上がる。誰もが確かに地に足をつけ、大地を踏みしめ立ち上がる。希望を得る。

 

 その全ての心に「武器」はある。

 

 圧政者を、圧政を圧し折る鉄槌は確かにそこにある。

 

「はははははは!!!ユくぞ!!」

「うん」「ええ」「わかったわ」「了解です」

 

 目線だけで通じ合う意志。

 

「我らが愛は──」

「スピア・ザ・グングニル!!」

「レーヴァテイン!!」

「ロイヤルフレア!!」

「彩光蓮華掌!!」

「爆発するぅ────!!!」

 

 同時に放つ、必殺の技。

 スパルタクスをして耐えられないと理解できる馬鹿げた火力。全ての攻撃をスパルタクスの魔力の波が後押しする。

 フィックス卿はそれを─────受け止める。

 

「ぐぬぅぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「「「「!?」」」」

「まだ、だぁあぁぁああ!!」

 

 その意志はフィックス卿の意志すら上回る。けれど、それを意地で受け止める。体は焼け、心臓は痛み、体は灰となろうとしても、まだ耐えなければならない。

 

「─────我が愛を受けるがいい・・・・・・!!」

 

 その絶死の空間に、スパルタクスは飛び込んできた。

 有り得ない。ほんとうにイカレている。

 フィックスは大いに・・・・・・笑った。

 引き絞られた鉄拳。単なる拳で決着を付けようというのだ。

 手を離す。槍が心臓を貫き、火炎が、気が体を灰に変えていく。だが、フィックスもまた拳を引き絞った。

 

「「ぬぅん!!!」」

 

 スパルタクスが狙うのは頭。フィックスが狙うのは霊格。

 互いの腕は交差し────狙い通りの場所を貫いた。

 生まれたこの隙を逃すレミリア達ではない。

 

「───運命を定める・・・・・・!!!やって!フラン!」

「きゅっとしてっ!!ドッカーン!!!」

 

 凄まじい爆発が発生した。

 館が崩れ始める。

 

「くく、は・・・・・・馬鹿な、この吾輩が・・・・・・!」

 

怪物は落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁は去り、朝がやってこようとしていた。

 壁を突き破り、外に倒れ込む影。フィックス卿その人である。

 

 なぜ、生きているのか不思議な程に彼は死に絶えている。

 

「・・・・・・」

 

 声を発することは既に不可能。目だけがゆっくりと愛おしそうに二人を見た。

 その内心で如何なる感情が蠢き、どのような後悔をして、どんな走馬灯を見ているのか。

 

「私たちの、勝ちよ。お父様」

「─────────」

 

 決意に満ちた、その紅き眼に。愛おしい誰かを見つけた。優しく、強く、美しいその眼に。

 

 ──あぁ、そうか。これが、愛の結晶か。ようやく、見つけたよ。デザイア。

 

 風が吹く。フィックスの体の端から少しづつ、灰となって空へ舞う。

 

 妖怪としての核はフランに、肉体の核はレミリアに、再生能力はパチュリーと美鈴に。能力そのものはスパルタクスに壊された。

 

「!」

 

 フィックスは微笑みを浮かべ、その体はすべて風に運ばれる。

 

 レミリアはグングニルを強く握りしめ、俯いた。

 

「愚かな、人だ」

 








すまねぇ、すまねぇ、こんなことになるつもりは無かったんだ!!(大嘘)

と言うか!!書き終わってから動画上がってて聴いたけど、「英雄 運命の詩」さん、TVサイズの方しか知らないけどスパルタクスの歌だよねぇ!?この小説に割りと内容あってる気が・・・・・・え?失礼?ですよね、すみませんでした!(市民)

次回はいつも通り短く。

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