「デス」「DEATH」「「デース(DEEAATH)!」」 作:こそ泥
S.O.N.G本部の潜水艦内部
つい先日までLIVE GenesiXの用意で騒がしかった船内も今では重苦しい沈黙、無機質なカタカタというキーボードを操作する音が響いている
「アメノハバキリとイチイバルが破壊され切歌君と調君が重体・・・」
「命に別状は無いということですが、それでも・・・」
「久しぶりの奏者勢揃い、という訳にはいかないか・・・」
モニターを見つめながら話をするのは司令の風鳴弦十郎と風鳴翼のマネージャーを務める緒川慎次。重体と言うことでベッドから抜け出せない切歌と調の二人を除いたS.O.N.Gの主立った面々がこの場に揃っていた
「解析したところ翼さんとクリスさんのシンフォギアはエネルギーをプロテクターとして固着させる機能が壊されているようです」
「もちろん、直るんだよな?」
「櫻井理論が開示され各国の異端技術解析は格段に進歩しているわ」
「それでも、了子さんでないとシンフォギアシステムの修繕は望めない」
友里あおいと藤堯朔也、S.O.N.Gでも優秀なオペレーターの二人から告げられた言葉に全員の顔が暗くなる
「アルカ・ノイズと錬金術。その上シンフォギア奏者が相手となると戦えるのが響君ただ一人というのは・・・」
「そもそも、そのシンフォギア奏者ってのは一体どんなやつなんだ?あの二人の知り合いみたいだったが・・・」
「そのことについては私から話そう」
「マリアさんから?」
ここまでただ話を聞くだけだったマリアがクリスの質問に答える
「彼女の名前は凸守早苗。私たちと同じF.I.Sにいたシンフォギア奏者だ」
5年前、アメリカ某所―――
ただただ白い真っ白な部屋。その中には白衣を着た大人が数人と大勢の子供達がいた。その中にはまだ幼い調や切歌、マリアとセレナの姉妹も含まれていた。これから何が起こるのか、集められた子供達が恐怖や不安に駆られ震えている中、自分達が入ってきた扉が開く
『止めるDEATH!離すDEATH!!凸守はそんな検査なんて受ける気はないDEATH!!』
そこにいたのは幼い少女と暴れる彼女を押さえ込む複数人の大人。集められた中でも群を抜いて小さい少女を相手に数人がかりで押さえ込んでいる様は滑稽と言うべきものだった。掴んでいる大人の白衣の袖にはいくつか歯形を付けた者がいることからよほど大暴れしてきたのだろう
『―――アグッ!?女の子はもっと丁重に扱えDEATH!』
部屋の入り口から中へと文字通り放り込まれた彼女は閉じた扉に向かって吠え立てる
『だ、大丈夫?』『怪我はない?』
『DEATH?なんDEATHかお前らは?凸守になんの用DEATH』
それが彼女――凸守早苗――と切歌、調、マリア、そして今はいないセレナ。5人の出会いはそんな始まりだった
聖遺物との適合が確認された五人は何度も顔を合わせることとなった。あいにくと振り分けられた支部が違うため頻度はそう高くはなかったがしばしば検査や合同訓練のたびに彼女たちはそれぞれ愚痴や面白いエピソードを話し、仲良くなっていった。訓練の時に他の支部での活躍を聞くたびに頬が緩むのを抑えられず、次に会ったときはお互いを褒め、時にフォローしあう。親友と呼ぶ関係になるまでそう長くはかからなかった
特に同じ日本人である切歌は意外と頭の良かった凸守に泣きつきヤレヤレと言いながら意外と面倒見の良い凸守が勉強を見ていたせいかよく懐いた。気付くといつ頃からか口調もまねをしてデスデス言うようになっていた。仲睦まじい二人をみた調が少しだけむくれながら楽しそうに二人の会話の輪に入ってゆく。それをマリアとセレナが眺めながらたまにマリアが会話の槍玉にあげられ参戦するマリアをセレナがたしなめる。彼女たちが集まったときのいつもの光景。辛いはずの訓練の中でも特に辛いはずの合同訓練で休憩時間になるたびに見受けられたほのぼのとした和やかな時間
だが、そんな光景も長くは続かなかった
―――セレナ・カデンツァブナ・イブの死亡
命を賭してネフィリムの暴走を抑えたセレナの死亡。残された4人は悲しみに打ちひしがれ訓練にも身が入らなくなった。今までならば有り得ないミスを連発、特に妹を失ったマリアの低迷が酷いもので、セレナのいた頃と比べ半分以下にまで訓練のスコアが落ちたこともあった。支部が違うため凸守と会う頻度も少なくなりマリアだけでなく切歌やそれにつられて調も口数かが減っていた
そんな深い悲しみであろうと時間という薬は容赦なく癒やしていく。セレナの死から三年もたつ頃にはその悲しみから立ち直りようやく前を向いて歩き出せる目の前まで来ていた。久しぶりの合同訓練に胸を躍らせていた彼女たちの耳に飛び込んできたのは合同訓練の中止ととある事件の概要
凸守によるクーデター。当時13歳だった凸守がシンフォギアの力を使って支部の主要な施設を破壊、逃走を図った
この時に、凸守の戦闘力の高さが役に立った。差し向けられた追っ手を蹴散らしあらゆる壁を粉砕していくことが出来る凸守とミョルニルだからこそ脱走は成功したかに見えた
しかし、事態はすぐに収束へと向かった。シンフォギアという強大な力を持ってしても少女がただ一人で無事に生きていけるほど社会は甘くない。政府の暗部から狙われているのだから尚更だ。事件が起きて5日後には凸守は衰弱したところを拘束された後、姿を消した
幾度となく安否を確かめるもその全てに回答されず、唯一信じることの出来るナスターシャ教授からも「生存している確率はごく限りなく低い」という言葉を受け、マリア達はまた深い悲しみの底へと落とされる。そんな悲しむ子供達の姿を目にしたナスターシャ教授は後に月の落下の報告とソレを隠蔽し自分たちだけ逃げようとした国を見限り反逆を胸にマリア達を説得する。ナスターシャ教授の言葉を受けマリア達は武装組織『フィーネ』として動き始める。亡くした友の想いを胸に抱き・・・
「―――そんな訳だから昔の彼女のことはわかるけど、最近のことは全くわからないわ。むしろ私達の方が驚いているくらい。・・・特に切歌は一番悲しんでいたから」
「そんなことが・・・」
「でもよぉ、おかしくねーか?なんでそんなヤツが錬金術師と一緒に敵に回ってんだ?」
「それは・・・、わからない。なぜ早苗が敵に回っているのか見当も付かないわ」
「それに彼女が使っていたあの力。・・・禍々しいものだったがアレは一体・・・」
「話に割り込むようで悪いが、その事についてなのだがクリス君の保護した
マリアからの話が終わるとクリスから疑問が飛ぶ。その疑問に答えようにもマリアに答えることは出来ない。だが、迷宮に入りかけた答えは弦十郎によって意外なところからもたらされた
「彼女、早苗さんはキャロルに命を救われたと何度も話していました」
奏者達が集まったのはS.O.N.G内に設えられた取調室。そこに彼女、エルフナインはいた。クリスがレイアとの交戦時に保護した少女だが一般人なら知るはずのないシンフォギアのこと、クリスの正体を知っていたことなど様々な理由から拘束されていたのだ
「『暗い地下深くで拘束されただ死を待つだけだった凸守を助けてくれたのがマスターDEATH。だから凸守はマスターのために働くんDEATH』。彼女は僕に何度もそう話してきました」
「・・・そんなことが」
無駄に上手い声真似を披露しながらエルフナインは凸守の言葉を語る。その語られた想像を絶する内容に聞いていた周囲の人から言葉が消える
「・・・話はわかったがあの力とどういう関係があるんだ?まさかあれが錬金術の力なんて言わないよな?」
「あの力こそがプロジェクト『イグナイト』の成果であり、世界を分解しようとするキャロルの力に対抗するために僕が持ち出してきたものです」
「イグナイト・・・?」
聞き慣れない言葉。パカリ、とその手に持った箱の中からエルフナインが取りだしたのは古びた黒い楔状の物体
「皆さんはシンフォギアシステムにいくつか奥の手があることはご存じだと思います」
「絶唱とエクスドライブのことか」
「ええ。ですが他にも決戦機能があることをお忘れですか?」
エルフナインの言葉で思い出すのは凸守が奥の手を発動したときの色。彼女たち、特にクリスと翼はその色をよく知っている
「・・・やはり、か」
「暴走状態・・・あの色を見たときから薄々思ってはいたが」
「ええ。暴走を制御しその力を利用する。それこそがプロジェクトイグナイトの目指すものです」
暴走。奏者の恐怖や怒りなどの負の感情がシンフォギアシステムと共振し抑えきれない破壊衝動へと変化することで逆に奏者の意思とは無関係に周囲を破壊する。制御仲間をも巻き込む諸刃の剣
「ちょっと待ってちょうだい」
苦い顔する翼とクリスの背後からマリアが声をかける
「なぜそんなものが早苗のシンフォギアに組み込まれているの?ノイズと戦うならまだしもその味方である彼女のシンフォギアにわざわざ暴走の可能性があるものを組み込む必要は無いはずよ」
「・・・わかりません。僕もその事については知らされていませんでした。ですが今の状態でアルカ・ノイズに対抗するためにはこの力しか無いのは確かです」
「現状、コッチが負けてんだ。四の五の言ってる暇はねぇ」
「罠であろうと切り払って進めば良いだけのこと」
「・・・ハア」
あまりに血気盛んな二人にマリアから溜め息が漏れる。その間にもクリスと翼はエルフナインにシンフォギアの改修を願い出ていた
「・・・ここから彼女たちがどう出てくるのかはわからないが戦闘が発生する可能性は十分にある。皆、注意しておいてくれ。エルフナイン君も彼女たちの力になってやってくれ」
「「「はい」」」
「・・・・・・」
弦十郎がそう言葉を残すと「俺たちも出来ることをするぞ!」と言い緒川と一緒に部屋を出る。残されたのは響・翼・クリス・マリアの奏者4人とエルフナイン
「・・・どうした立花?先程も返事がなかったが具合でも悪いのか?」
「・・・・・・」
先程の弦十郎の挨拶にも返事を返さなかった響を訝かしんで翼が声をかけるも響は思い詰めた様子で言葉を返さない
「・・・このバカがここまで重傷だとこっちの調子が狂っちまうな」
「・・・・・・戦わないと、いけないんでしょうか・・・」
「あん?」
「戦わずにどうにかすることは出来ないんでしょうか」
「立花?」
「このバカ、今度は何を言い出してんだ?」
響の唐突な疑問に翼とクリスが思わず尋ね返す。マリアだけはその様子を一歩引いて見守っている
「私達のシンフォギアは人助けの力。それを人と戦うために使うなんて間違ってると思うんです」
「んなこと言ってもなぁ」
「言いたいことはわかるが、相手が対話を望まぬ以上
「それでも、わたしはこの力で争いたくないんです!」
響はつい1年ほど前までこのような争いとは無縁の世界に生きてきた。全ての元凶となったライブで生き残り、周囲からの迫害と言っていい行いに耐えてきた。唯一残った陽だまりと共に人の悪意から逃れてきた。ようやく辿り着いた安息の地でも運命の神様の悪戯で静かに暮らすことも叶わず、襲い来る現実に立ち向かった。厳しい現実に何度も挫折し、しかし、そのたびに立ち上がり壁を乗り越えてきた
だからこそ、立花響は人と拳を交えることを、人との争いを嫌悪する。自分の周囲の人が傷つくのが嫌だから。争った相手と手を繋ぐ難しさを知っているから
「逃げているの?」
「逃げているつもりじゃありません!」
今まで沈黙を続けていたマリアからの問いかけに即座に反応する響。その二人の様子に翼とクリスは何かを察したのか口を
「・・・だけど、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かと戦いたくないんです」
「それは―――」
そんな響の様子を見てマリアは思う。どうにかするための力を持っていて、力を振るえば状況が好転するとわかっているのに、自分個人の理由で力を振るわない
「―――力を持つものの傲慢だ!」
まるで、自分たちの嫌いな特権階級の奴らのようではないか、と
響とマリアが話をしているとき、残る二人の奏者も目を覚ましていた
「キリちゃん。大丈夫?」
「だいじょうぶ・・・だったらいいんデスけどね。まだちょっと厳しいデス」
本部内の病室の中、切歌と調は昨日の襲撃で負った傷を確認する。怪我事態はそこまで酷いものではなく途中からLiNKERを投与していたおかげか思っていたよりもシンフォギアによるバックファイアは少なく後遺症もそこまでではない
だが、それ以上に戦いの間の会話が、その時の言葉が二人を、特に切歌を傷つけた
『うるさいDEATH』
『国連の犬になって!』
凸守を拘束したのはアメリ政府。捕まった後、何をされていたのかは知らないが大体の目星は付く。酷い目に遭った後でも国家に良い思い出を持っていろというのは土台無理な話だろう。特に彼女たちはレセプター・チルドレンとして身寄りのないところを無理矢理連れてこられた身。国への信頼なんて元々無いに等しい。そんな相手の下でかつて共にいた人が働いているのであれば怒りも湧くだろう
「・・・私達はどうしたら良かったんデスかね?」
「キリちゃん・・・」
ベッドの上で膝を抱えて目尻に雫を浮かべる切歌。常識人の切歌だからこそ受けた衝撃から立ち直るのは難しい
「えい!」
「ぎゃっ!?な、なんデスか!!??」
だがそれは一人だけだったときの話。切歌の頭に調のチョップが落ちる
「キリちゃん」
「ハ、ハイ!」
「キリちゃんは早苗が本当に敵になったとしてあんな風に言ってくると思う?」
「・・・え?」
今の切歌には心強い
「戦ってるとき少しだけだけど早苗、笑ってた」
「!!」
武器を交え自分たちが少しだけ、過去を思い出して笑ったときに凸守も笑っているのを調は確かに見ている
「忘れるわけないって言ってた」
「それは・・・」
切歌と鍔迫り合いしているとき、調の背後からの奇襲に凸守はことも無く対応してみせた。まるで背後から来るのがわかっていたかのように
「ねぇキリちゃん―――」
本当に、早苗が敵になったと思う?
調の言葉に返すことが出来ない切歌。少しだけ俯いていた顔が上がり調の視線と交差する
「でも、早苗は・・・」
「キリちゃん、早苗は確かに自分の意思で相手の側にいるのかもしれない。それでも本当は私達と戦いたくないんじゃないかな?」
「それなら、なんであんなことを言うデスか!?戦いたくないのなら、どうして・・・」
思わず調に向かい叫ぶ切歌。その目から溢れるのは一筋の涙
「わからない。・・・わからないから、確かめないと」
「えっ?」
調から帰ってきたのは切歌の問いの答えではなく自分に言い聞かせるような言葉
「次会ったときに一緒に話そう。どう思ってるのか、何をしたいのか」
「調・・・」
その様子に切歌の荒ぶった感情も落ち着いていく
「私達の時はあんまり話せてなかったから。だから、今度こそ繰り返さないようにしよう」
「・・・わかったデス!」
つい数ヶ月前、フロンティア事変の時に彼女たちは些細な認識の差が原因で争った。一歩間違えればどちらかが死んでいた。それを繰り返さないために彼女たちは話し合うことを決める
大切な人とわかりあうために
くしくも響とマリア、調と切歌が話し合っているのと同じタイミングで凸守とキャロルも話し合う
「凸守」
「わかってるDEATH」
チフォージュ・シャトー。S.O.N.Gが全力をあげて捜索しているその中にある広間に凸守とキャロル、オートスコアラーは揃っていた
「次こそ確実に遂行するDEATH」
「・・・ならばいい。計画は最終段階に近づいている。ココでの失敗は計画の変更を余儀なくされる。・・・その意味がわかるな」
「DEATH」
「・・・ならば行け」
大広間から凸守が退出する。その後を追うのはミカ以外(お腹が空いて寝ている)のオートスコアラーとキャロルの視線
「ガリィ」
「何ですか?マスタ~?」
「凸守を監視しろ」
「りょうか~い」
言うやいなやガリィの足下に魔方陣が浮かび虚空に消える
「マスター、なぜ未だに凸守を使っているのですか?」
「奴はまだ利用できる。計画を万全に進めるためにも打てる手は多くあった方が良い」
「あら、私はてっきり凸守がマスターのお気に入りだからだと思ってたわ」
「そんなつもりはない。これ以上計画に支障が出るようなら俺の手で潰すさ」
「(それならば初めからガリィを使っていればいいと思うのだが・・・)」
「(マスターにも色々とあるのよ)」
レイアとファラの疑問に答えていく。特にレイアの疑問はガリィがいたら「とか言っちゃって~本当はどうなんですか、マスタ~?」とかからかってきそうだがこの場にいないから問題はない。ないったらない
「ガリィの帰還次第お前たちにも動いてもらうことになる。準備しておけ」
「「ハッ」」
キャロルの言葉に二人は従う。その結果自分たちが消滅するとしても、止まることはない。それが自らが作られた理由なのだから・・・
その後の医務室にて
切「ところで、もしも本当に敵に回ってたらどうするんデスか?」
調「その時は・・・拳で語り合う?」
切「調、そういうとこは真似しなくていいんデスよ?」
響「クシュンッ!」
未「どうしたの?風邪?」
響「いやぁ〜、噂でもされちゃったかな?」
チフォージュ・シャトーにて
フ「・・・本当にマスターってそのケがないのかしら?」
レ「どうした突然」
フ「いえ、さっきはああ言ってたけどアレを見るとどうしても・・・」
→ミカにエネルギーを渡すガリィ
レ「・・・確かにな」
キ「聞こえているぞ」
フ「それとも意外と雨の日の子犬とか拾いたがるタチなのかしら」
レ「フッ。・・・まあ、趣味も人それぞれだからな」
キ「まるでオレの趣味の様に話すのをヤメロ」
凸「マスターの趣味は子犬拾い、と・・・」
キ「・・・なぜオレがツッコミをしないといけないんだ・・・」