ゆかり「まったく、いつ来ても木に囲まれたフィールドですね。落ち葉だらけじゃないですか。」
オーキド私有地の庭にあるバトルフィールドは、ポケモン達が過ごしやすいように自然に近い形に保たれている。
かったるそうにフィールドをひと眺めしたゆかりの第一声はやはり罵倒だった。
オーキド「もうワシ、Mに目覚めてしまおうかな……」
マキ「はかせ……」
悲しみのあまり虚ろな目で空を見上げながら、オーキドは自身の人格改造を試みるのだった。
そんな様子を見ていた対戦者のきりたんは、ゆかりが指でクルクルと玩んでいるマスターボールを注視していた。
きりたん(マスターボール。シルフカンパニーが造りあげた究極のモンスターボール……。
一般流通は無く、リーグ四天王やチャンピオンクラスですら手に入らないボールのハズ…。一体どこから?)
思案中、ポンポンと肩を叩かれる。
茜「ーーきりたんちゃん、きりたんちゃん。」
きりたん「え?何ですか?茜さん」
茜「あんな~バトル頑張ってな。ウチら応援するよ」
キラキラとした天使のような笑顔できりたんにエールを送る茜。
きりたん「応援ですか。それはありがたいですが、ずん姉様の声が聞き取り辛くなるので、声援は控え目でお願いします。」
茜「うん。分かったよ~」
にぱっ笑うと茜は観覧席へ戻って行った。
葵「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」
茜「きりたんちゃんの応援や。ゆかりさんのマスターボール見て緊張しとったみたいやから」
葵「お姉ちゃんは優しいね。きりたんちゃんって、少し変わってるから、私
苦手で…。」
茜「そっかぁ。なら、お姉ちゃん葵の分まで仲良くするわ。きりたんちゃんも、わかり辛いけど悪い子とちゃうよ。
お、始まるみたいやな」
ずん子「それでは両者。ボールを構えて--試合開始!」
開始の合図と同時にお互いにボールを投げ込む。
が……。
きりたん「行くよ。ハガネまる!」
きりたんのボールはしっかりとバトルフィールドに着地した。
ゆかりのボールは…。
ゆかり「あ……」
手から滑り90度直角にフィールド外にはえている木に引っかかり、取り敢えず開閉されたボールが虚しくポトリと地に落ちた。
きりたん「…………。」
ハガネまる「……。」
その光景に絶句したきりたんと『ハガネまる』ことハガネールを尻目に、面倒くさそうにダラダラとボールの元へ歩き、足で器用に蹴り上げて手に取った。
ゆかり「………あ-。どうすっかな。
まあ、なんでもいいですね。オイ、むしけら。適当なわざで好きなように戦え。負けたらしばきます。」
きりたん「あなたそれでトレーナーのつもりですか!?」
ガサッ-ー!!
ハガネまる「グオオ?!」
きりたん「え?」
ほんの一瞬きりたんが目を離した瞬間に、何かがハガネまるに無数の攻撃を仕掛けてきた。
きりたん「え!?え!!?ハガネまる!?
どうしたんですか!一体何が起きたの?」
ずん子「きりたん。落ち着きなさい。
ハガネまるのダメージは微々たるものよ!」
葵「お、お姉ちゃん見える?」
茜「な、なんも見えんよ……」
ハガネまるに何かが攻撃を仕掛けている。だが周囲の木々が揺れ木の葉が擦れる音。そして金属同士が打ち合うような音と火花が舞うだけ。
マキ「……ゆかりんのあの子、またスピードが上がってる。」
ずん子「……ッッ。」
見えないポケモンの正体を知っている旧友の二人でさえ、その姿を視認することが出来ないでいる。
マキは目を開き必死に姿を追い、ずん子は勝てるイメージが浮かばない悔しさで歯噛みする。
ゆかり(…………さてと。)
ゆかり「オイ、くそがきさん。反撃も無く負けるくらいならいっそ地面に這いつくばって許しを請え。」
きりたん「な……!?……ぐすっ」
地面を指してきりたんを見下ろすゆかりに対して反撃するつもりでにらみ返すが、その目には既に涙が溜まっている。
きりたん(……冗談じゃ無い……相手のポケモンすら分からないまま、負けるなんて……っ。
負け無くないもん…っ!)
きりたん「…………居場所さえ、見えたら。」
ゆかり「目に見えないスピードで動いている敵に当たりますか?」
きりたん「ぐっ……なら、なら……。
あ--それなら、避けられない攻撃をしたら良いじゃないですか。」
そう口にしたきりたんの目は、完全に据わっていた。
ずん子「--!!?きりたん待ちなさい。
あなたまさか!!」
きりたん「私は負けたく無いんです!!
ハガネまる『すなあらし』です」
ずん子「皆さん逃げて下さい!
このままじゃここら一体が砂に埋もれて……!!」
バァン--!!
ハガネまる「オ、オオ………」
ずん子「え……」
破裂音と同時にハガネールのうめき声が上がり、その巨躯が地面に投げ出された。
ゆかり「……36点。ま、逃げなかった分で及第点ってとこですかね」
欠伸をしながらゆかりんは呆然とするきりたんを見ながら言った。
ゆかり「クソガキさん。」
マスターボール中身はだ~れだ。
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