・突っ込みどころ満載かもしれませんがあまり気にしないでいただけたら幸いです。
大地は荒廃し、海からは魚が消え、幾つもの国と言語が消滅するほどの大きな戦争があった……らしい。
大断絶と呼ばれるその戦争は遥か昔の出来事として、人々にとってその戦争は記憶から記録になり下がっている。現在の人類の状況と過去の記録から察するに大断絶と呼ばれる戦争は確かにあったのだろうと考えられている程度の事だ。
この国に数ある伝説の一つでしかない遥か昔の戦争など、歴史の授業でもないと思い出すことは無い。
多くの国民にとって今晩の献立の方が関心度としては高いだろう。
ここにもまた、大多数の例に漏れず今日の晩御飯をどうするか悩む人が居た。
「今日の夜ご飯は何にしようかしら?」
「俺的には肉が食いたいな。やはりお肉様は正義だ」
「そうね~、ヘークローさんの言う通りお魚にしましょう」
「……」
「……」
ヘークローと呼ばれた男性と少女は無言で見つめあう。
この部屋にいる人物は二人。
そのためヘークロー……藤堂平九郎は同じ部屋にいる少女に今夜の食事の意見を請われたと思い返答した。しかし、彼女の決定はヘークローの希望に全く沿うものではなかった。むしろ、積極的に反対の事を言っているようにも思える。
少女にとって彼の意見は大して重要でなかったようだ。いや、ある意味では一つの指標になっているのかもしれない。
「あの、もしもーし……フィリシアちゃん? 俺の話聞いてます?」
「お肉は昨日食べましたよね」
「あ、はい。すいません」
フィリシアと呼ばれた少女はニッコリと、イイ笑顔でヘークローに言う。
ここでは彼に献立の決定権は無いに等しい。
彼の胃袋はこの場に居るフィリシアを含めた複数の少女達に握られているのだ。彼女達に下手にたてつけば今夜の食事が残念なことに成ることをよくわかっている。
さて、この会話だけを見れば二人は妻と妻の尻に敷かれている夫にでも見えたかもしれない。
しかし、実際には夫婦なんて言う甘い関係ではないし、この二人には明確な立場の差があるのだ。
ヘルベチア共和国陸軍少佐藤堂平九郎。
ヘルベチア共和国陸軍少尉フィリシア・ハイデマン。
それが二人が持つ肩書きである。
つまり、ヘークローは上司であり、フィリシアはヘークローの部下である。
通常、軍という組織において上官に対してこんななめた態度をとれば厳しい罰を受けることは想像に難くない。
だが、この基地においてそれは問題とならない。何故なら、この基地のトップである司令官はヘークローであり、そのヘークローが問題としないからだ。
ヘルベチア共和国。
大陸の東端に位置するこの国の名だ。
ヘークローとフィリシアが所属する部隊はトロワ州セーズの街に駐屯し、第1121号要塞を拠点とする第1121小隊。
彼らの役目は辺境の国境線防衛と警備である。
隣国の正統ローマ帝国とは僅か二ヶ月前に暫定的に休戦したばかりであるため、ヘルベチアにとって国境防衛は重要任務と言える。
しかし、第1121小隊が駐屯するセーズの街が接する国境線の向こう側は荒涼とした砂漠が広がるノーマンズランドであるため、第1121小隊に緊張感はゼロだ。
「魚……か……。な、なら焼き魚にしよう」
「ああ! 良いですね~。それじゃあ煮魚にしましょうか」
せめて自分の好きな調理法方にしてもらおうとヘークローは悪あがきをするが、フィリシアは何食わぬ顔でその意見を却下する。
「……」
「……」
ヘークローの表情は筆舌に尽くしがたい微妙な表情で、対するフィリシアは相変わらずニコニコとした表情で再びお互いに無言で見つめあう。
まだまだ若い青年、とは言え今年で二十六歳のヘークローは年下のこの少女には逆らえない。
心の中で溜め息をつきながらヘークローは思う。
こんなことだから、腹黒だのなんだのと言われているのだ、と。
「ヘークローさん? 何か言いたいことでも?」
「なーに、君の夫になるであろう男性には同情を禁じ得ないと思ってね」
ヘークローは「ははは」と、笑いながら冗談めかして言う。
当然彼も本気で思って言っているわけではない。この程度何てことはないジョークだと。ちょっとした話のタネとするために深く考えずにポロっと口走ってしまったのだ。
「ヘークローさん」
「ん?」
だが、忘れてはいけない。
「夕飯は抜きです」
「ぐえー……」
今日のヘークローの胃袋は彼女が握っていると言うことを。
ヘルベチア共和国トロワ州セーズの街。
平和なこの街で第1121小隊は今日もゆるゆるである。
こんな感じで続けていきます。
もっともっと響け!
空の音よ!