砦の乙女は手厳しい   作:はなみつき

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追記
やはり違和感がすごかったので祭りのくじ引きをカナタが来る二週間前に変更



第六話 祭リノ準備・赤イ籤

 

 和宮(かずみや)梨旺(りお)はラッパ手である。

 

 男勝りかつクールな性格で、一見何事にも動じないような芯の強さを持っているが、実は怪談話、ピーマン、料理が苦手などの意外な一面を持つ。

 階級は曹長。第1121小隊の中で上から二番目、第1121号要塞の中では上から三番目の階級であるため、隊の実務を任されており、日常生活での指示なども出す小隊の先輩的存在だ。

 なお、この小規模小隊で「上から何番目の階級」などという考え方はとくに意味もないことであるため、年上だからその立場におさまっていると言った方が正しいのかもしれない。

 

「はーい! それじゃあ今年の水かけ祭りの主役、炎の乙女役を決めたいと思いまーす」

 

 フィリシアは四本の紙切れを握りしめながらそう宣言した。

 

 水かけ祭りとは、悪魔から街の人々を命をかけて救った五人の少女「炎の乙女」の伝説が残っているセーズの街において、炎の乙女たちを称えるための春のお祭りのことだ。

 炎の乙女役は毎年第1121小隊の女性隊員から選出されるのが習わしである。

 クレハが小隊に着任してから四ヶ月ほど経っただろうか。水かけ祭りを二週間後に控えたのが今日である。

 

「ささ、早く決めちゃいましょ。先が赤く塗られた紙を引いた人は今年の乙女役です。ノエルちゃんからどうぞ」

「ん」

 

 ノエルは突き出された四本の紙からとくに悩むことなく一番手前のものを引き抜く。

 紙の先は白。ハズレである。

 

「次はクレハちゃん」

「はい……」

 

 くじを選ぶことを促されるクレハであるが、彼女の頭の中には様々な考えが錯綜していた。

 

(も、もしここで当たりを引いてしまったら私が炎の乙女役……。まだセーズの街に来て日も浅いのにそんな大役務められるのかなぁ? こうなったらなんとしてもハズレくじを引くしかない! ハズレはどれ? 一番手前? それとも一番奥のかもしれない? いやいや、少し飛び出ている真ん中のあれ……。な、なーに、勝率三分の二の分の良い賭けよ。気軽に引けば……)

「ほーら、クレハちゃん。はやく」

「うぇ!? は、はい!」

 

 何だかんだとうだうだ考えていたクレハであるが、フィリシアにさらに促されることで結局一番引きやすい手前のくじを選ぶ。

 紙の先は白。またハズレである。

 

(ふう……、よかった)

 

 なんとかハズレの当たりくじを引くことができて安堵の表情を浮かべるクレハ。

 一方、クレハの向こう側に居るフィリシアは誰にも気付かれないようにほくそ笑む。

 わずかに顔をうつ向けたことによって彼女のメガネが怪しく輝いた気がした。

 

「私は最後でいいから、次はリオね」

「ああ」

 

 一瞬見せた悪い顔など最初から無かったかのようにフィリシアはにこやかに残った二本のくじをリオへつきだす。

 残ったくじは二本。

 どちらかが一方が先を赤く塗られた当たりくじ。

 

 リオはそう思っていただろう。

 

 

「うげ……」

 

 紙の先は赤。当たりである。

 

「決まりね。今年の炎の乙女役はリオで決定」

「な、なあ、私なんかがやるより、お前の方が適任なんじゃないか?」

「まあまあ、そう言わずに」

「いや……だが……」

 

 くじにより決定された今年の祭りの主役を称えるようにフィリシアは軽く手を打ち鳴らす。

 フィリシアにつられるようにしてクレハとノエルもパチパチと拍手し始めたために、流石のリオも照れてしまったのか、痒くもない頬を指でかいている。

 

「はあ、仕方ないか……」

 

 

 さて、そんな空気をぶち壊す存在がこの基地に存在していることを忘れてはいけない。

 

「諸君! おはよう!」

 

 ダイニングルームのドアを勢いよく開けてバーン! と言う効果音とともに現れたのはこの基地の司令官、ヘークローであった。

 

「あれ? ヘークローさんがこんなに早くから起きてるなんて珍しいですね」

 

 いつもは小隊のみんなが昼食を食べる時間に朝食兼昼食を食べることが多いヘークローである。

 珍しい事態にクレハが思わず質問する。

 

「今日は水かけ祭りの打ち合わせが有るんでな! 早起きしないわけにはいかないな!」

「どれだけ楽しみなんですか……」

 

 ヘークローの発言に頬をひきつらせるクレハ。

 そんなクレハに気付く様子もなくヘークローは再来週行われる祭りを全力で楽しむことだけに気が向いているようだ。

 

「お、今年はリオちゃんが炎の乙女役か」

 

 楽しい妄想から現実世界に帰ってきたヘークローは先が赤く塗られた紙をリオが持っていることを気がつく。

 

「ふふん、今年こそ悪魔役であるこの俺が炎の乙女に打ち勝って見せよう!」

「それだと祭りの趣旨が変わるだろ……」

 

 炎の乙女役は代々第1211小隊の女性隊員が担ってきたのに対し、(かたき)役である羽の生えた悪魔役はセーズの街に住む希望者が務めることになっている。

 ヘークローが第1121号要塞の司令官となってからはヘークロー自身の強い希望もあり毎年彼が悪魔役をやっているのだ。

 

「俺はこれから悪魔のかぶり物を受け取りに行ってくる。炎の乙女よ! 頭を洗って待っていろ!」

 

 そんなことを言ったかと思うとヘークローは「はーっはっはー」と高笑いをあげながら走り去って行ってしまった。

 

「洗うのは首だろ……あいつ、睡眠不足でおかしくなったか?」

「いつも通りじゃないかしら」

 

 ヘークローとの付き合いが長いリオとフィリシアは彼の奇行について冷静に切って捨てる。

 

「それじゃあ、ボクは格納庫に戻るよ」

「……あ、じゃあ私は料理の下準備始めときますね」

 

 話がひと段落したところでマイペースなノエルが初めに動く。

 ヘークローの様子を呆然と見ていたクレハも正気を取り戻し、自分のやるべきことをすることにしたようだ。

 ダイニングルームに残ったのはフィリシアとリオの二人だけ。

 

「……まだヘークローさんのこと、許せない?」

 

 ヘークローが現れてから僅かにだが変化したリオの様子をフィリシアは見逃さなかった。

 

「許すとか、許さないとか…… そいうんじゃないさ」

 

 リオはいつも首にかけている鈴を特に意味もなく指で弄ぶ。

 

「前にも言っただろ? ただ、いつもあの人の隣にいたあいつが羨ましかっただけ。子供のころのそんなしょうもない感情が今も時々浮かんでくるだけだって」

 

 棺に横たわる金髪の女性。

 彼女の回りには沢山の花とトランペットが添えられている。

 そして、その棺の前でひたすら謝罪の言葉を唱え続けている青年の姿。

 

 そんな情景がリオの頭にフラッシュバックする。

 

「だから、大丈夫だ」

 

 そう言ってリオはフィリシアに向き直る。

 そんな様子を見てフィリシアも安心したように微笑む。

 

「そうよねー、リオはヘークローさんの事を人として、上官として好いているものねー」

「なっ! 何でその事をッ」

「私とヘークローさんの会話聞こえてたでしょ? その逆もまた然り、よ」

 

 さっきまでの優しい微笑みとは打って変わって、フィリシアは悪戯に成功した小悪魔のような笑みを浮かべている。

 ウインクをして人差し指を頬の横につけるポーズがイヤに様になっているのは気のせいだろうか。

 

「わ、私は整備に出したトランペットを取りに行ってくる!」

「はーい。いってらっしゃい」

 

 赤くなった顔をフィリシアに悟られぬように素早くきびすを返して部屋から出て行ったリオであるが、フィリシアにはバレバレである。無駄なあがきとはこの事か。

 

「さーて、今度来る新人ちゃんのために楽しい歓迎会の企画を始めなきゃ」

 

 フィリシアは手で握りつぶした『先が赤く塗られたくじ』をポケットにねじ込みながらそう言った。

 

 

 

 

 祝いの日を盛り上げるため、皆が動き出す。

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