ーーーそれは、ある日の夕食後の出来事だ。
夕食が終わってすぐのこと、突然ラムが取り出したものはエミリア(らしき人)が表紙(手書き)の冊子だった。
「バルスの部屋で見つけたものよ、中は知らない言語で書かれてて全く読めないけど、絵の内容から察するにエミリア様とあんなことやそんなことをする内容ね。バルス、これが何か説明しなさい」
「いや、誤解を生むような表現するなよ!そんなエッチぃ内容じゃねぇよ。それはだな、漫画というものだ」
「まんが?」
側でエミリアが首をかしげる。
「そう、漫画だ。俺の故郷にある本の一種で絵と文字で表現された一種の芸術というか、絵本の進化版みたいなやつだ」
「なるほど、つまりバルスはそのまんがとやらを介して己の卑しい妄想を実現させてブヒブヒしていたというわけね」
「だから誤解を生むような表現をするなよ」
人が一度は絶対抱く願望、漫画を書きたい。スバルもまた例外ではなく、文字の勉強の傍ら元の世界で一度は辞めた絵の練習を再び始め、こつこつと書き貯めていたのだ。漫画の台詞は誰かに見つかっても内容がわからないよう元の世界の文字で書いていた。
「ねぇ、スバル。私も読んでみても良い?」
「ラムにはもう見られてるからな、良いぞ」
机の真ん中に証拠品として置かれていた手作りの冊子をエミリアに渡す。
読み始めるも、やはり内容がわからず首をかしげている。
「僕の判子作ったときもそうだけど。スバル、絵上手いね」
エミリアの後ろから顔を出したパックが感嘆したような声を漏らす。そして食堂の隅の方から「にーちゃの判子!?」とベアトリスの反応。
「なんだ、ベア子。欲しいなら適当な紙に押してやるぞ」
「いらないのよ」とベアトリスはそっぽ向いて黙り、これ以上の対話の意思は無いことを主張する。
「スバル君、スバル君、レムが描かれているものはありますか?見てみたいです!」
「いや、まだだ。レムもラムも描くには難しい服着てるからなぁ、もう少し上手くなってからだな」
しょぼんとしたレムの頭を撫でて宥めてる。
「私も興味があるわねぇ。そのよくわからない言語でなんて書かれているのか」
ロズワールの言葉にスバルはビクッ、と体を震わせる。漫画自体の内容はどうであれ聞かれるのは恥ずかしいものである。
「ロズワール様からの質問に答えられないと言うのバルス、さぁ、答えなさい」
レムはスバルの反応を怪しいと視たのかここぞとばかりに食いつく。
「これは、もしもエミリアたんが俺の故郷に来たらという話だ」
「バルスの故郷?」
「そうだ、俺がエミリアたんに俺の故郷を案内しているという話だ」
スバルの言葉にラムは納得したという様子で頷く。
「つまりこのまんがというものにはスバル君の故郷が描かれているのですね」
レムの目が爛々と輝く。
「そうなるな」
「バルスの故郷、気になるわね」
「この、空を飛んでいるものは何?」
エミリアが示しているもの、それは丁度漫画の中のエミリアも同じことを聞いていた。
「それは飛行機というものだ」
「「「ひこうき?」」」
「その乗り物に乗ると空を飛んで移動することができる」
「それは興味深ぁいものだねぇ、私も空を飛べるけど、その大きくて重そうなものをどぉんな術式で飛ばしてるのかな」
「原理は知らねぇけど、結構な人数を一斉に運べるぞ」
というスバルの話もここにいる人たちにとってはにわかには信じがたい話だろう。
エミリアが次の気になるところを聞こうと口を開くが、それはベアトリスが食堂を出ていく音で遮られた。
「もういい時間ですね、お片付けを始めましょう」
「そうね。バルス、良い話を聞かせてもらったわ」
メイド二人の言葉でそれぞれがそれぞれの夜へと向かった。
スバルの漫画から始まったスバルの元の世界の話から一週間たった日のこと。
「スバル君、少し良いですか」
と、レムが恥ずかしそうにスバルに声をかけた。
「どうした?レム」
「これを見てください」
差し出したのは既視感のある冊子。
「まんが、書いてみました。上手にできてたら、誉めてくれても良いですよ」
その内容はスバルの口から語るにはとても恥ずかしいものだった。
それからしばらく、ロズワール邸では漫画を書くブームが続いた。
口調を再現するのが難しい。スバルが原作より大人しい気がした。