お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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ダ)いきなり呼び出して、一体何ですの?
作)これからここで『ダイヤ姉さん質問返信コーナー』をやろうと思ってるんで、お呼びしました。
ダ)は、はぁ……やるのは構いませんが質問とやらは来ているんでしょうね?
作)いえ、全く。
ダ)はいっ!?
作)あくまで俺が考えた質問に答えてもらおうかと……。
ダ)……それって、やらせではないのですか?
作)というわけで、次回からの『ダイヤ姉さん質問返信コーナー』お楽しみに~。
ダ)話を聞きなさぁーい!!

※もちろん、実際に質問が来た場合はきちんとお答えします。またダイヤ姉さんだけではなく、作者本人への質問でも構いません。



2話 スクールアイドルだった幼馴染にクマのぬいぐるみをあげてみた

『……さん、祥平さん』

 

『う、うぅん?』 

 

 誰かに体を揺すられている。おかしいな。俺は一人暮らしだから、こうして体を揺すられることはないと思うんだけど。というか、滅茶苦茶眠い。

 

『全く、本当に祥平さんはお寝坊さんなんだから。ほらっ、起きて!』

 

 今度はさっきよりも強めに揺すられる。まだまだ眠っていたいところだが、これほど揺すられたら眠るものも眠れない。

 そもそも、俺は一体誰に起こされているのだろう?

 

『ふわぁ……』

 

『あっ、やっと起きた♪』

 

 目を開けると、優しく微笑む果南と目が合った。それもエプロン姿。意味が分からないが、取り敢えず俺も微笑みを浮かべる。

 

『おはよう果南。今日も可愛いね』

 

『か、かわっ!? も、もぅ……祥平さんは本当にずるいよ』

 

 頬を真っ赤に染めて、しかし、すごく嬉しそうに口元を緩ませる果南。これだけでご飯10杯は軽い。

 

『それにしても、どうして果南が俺の部屋に? あと、祥平さんって何?』

 

『はぁ……今になってそんなこと聞くの?』

 

 俺の質問に、果南が呆れたような表情を浮かべる。確かに、果南と俺の結婚生活は毎晩妄想してるけど、まさか妄想が現実になるわけ――。

 

『だって、私たち……一週間前に結婚して、ふ、夫婦になったじゃない』

 

 どうやら現実になったらしい。妄想でも、結婚生活を事細かに想像すれば現実化するみたいだ。

 これだから、人間の力というのは侮れない。人間万歳!!

 

『そ、それに、昨日だってあんなに激しく……』

 

『激しく?』

 

 オウム返し的に呟くと、果南がこくんと頷く。顔もさっきよりも数倍近く赤い。一体全体、激しくってどういう事だろう? 

 しばらく考えていると、俺は一つの考えに辿り着いた。

 

『激しくってまさか……○○○をしたってこと?』

 

『声に出さなくていい!!』

 

 真っ赤な顔のまま声を荒らげる。なんと、俺は知らない間に果南と一線を越えてしまったらしい。たまげたなぁ。

 

『あんなに激しくされて、声だって抑えられなかったし、すごく恥ずかしかったんだからね!』

 

 俺に激しくされて、声を抑えられない果南。

 全然覚えていないのが非常に心残りなのだが、これも妄想通りである。……いや、覚えていないのならもう一度やればいい。

 

『果南、おいで』

 

 布団の中で腕を広げる。いわゆる、ハグ待ちの状態だ。そんな俺に果南は、

 

『そ、そんな事されても、絶対にやらないからね! 朝ご飯だって冷めちゃうし』

 

 驚いた顔を浮かべるも、ぷいっとそっぽを向いて決して俺の方に来ようとしない。全く、素直じゃないやつだな。

 俺は果南の手を掴むと、強引にベッドの中へ引き込む。

 

『捕まえた』

 

『……も、もぅ』

 

 捕まえられた果南だったが、まんざらでもない顔をしている。なんだかんだ言って、果南もそのつもりだったんだな。

 

『可愛いよ、果南』

 

『また、そうやって……でも、ありがとう。だけど、それなら祥平さんも……世界一かっこいい』

 

『世界一って、また大きく出たな』

 

『う、うるさいなぁ。だって、本当の事だもん』

 

 甘えるように俺の胸に顔を摺り寄せる果南。やばい、年上の果南がこうして甘えてくるとめちゃくちゃ興奮する。

 

『ねぇ、祥平さん』

 

 そこで果南が顔をあげる。色っぽい声に潤んだ瞳。暴力的なまでの上目遣い。

 これで興奮しない男がいたら、三時間にわたって説教を受けてもらう必要があるな。ダイヤ姉さんから。

 

『どうした、果南?』

 

『昨日の続き……もっとしよ?』

 

 これだから果南は……たまらない! 俺は希望通り、まずは彼女の唇へと顔を寄せ――。

 

 

● ○ ●

 

 

「んー、んー……あれっ?」

 

 おかしいな。いつまでたっても、柔らかい感触が俺の唇へとやってこない。

 あぁ、果南は恥ずかしがり屋さんだからな。きっと、赤い顔をして逡巡しているのだろう。ほんと、頭の先からつま先まで俺の好みなので勘弁してほしい。

 それにしても、右手が何かやわらかくて、温かいものを掴んでいる。そして、左手にも少し感触は違うが同じような柔らかさと、温かさ。

 

「これだけじゃよく分からん……」

 

 果南の身体であることは間違いない。しかし、どこの部位なのかよくわからない。そう思って、俺はもう一度両手をもみもみと動かす。

 

 まずは右手。これは極上ともいえるほど柔らかい。どうしたらこんなやわらかいものが、人間界に存在するのか。はなはだ疑問である。

 そして、左手。やわらかいはやわらかいが、少しだけ張りがある。だけど、固いというほどではなく、程よい硬さで跳ね返ってくる弾力がなかなか楽しい。これは揉みごたえがある。

 

「ひゃぁ!!」

 

 なんか悲鳴みたいなのが聞こえたけど、気にしない、気にしなーい。俺は躊躇なく揉み続ける。その度に上がる悲鳴……というか甘い声。

 恐らく果南の声だろうが、結婚してやることはやったんだし、そこまで驚く必要はないはずなんだけど。しかし、俺の腕が何者かにガシッと掴まれた。

 

(いったい誰だよ? 俺と果南の新婚生活を邪魔する人は……)

 

 仕方ないので俺は目を開ける。……あれ? 目を開ける? なんだ、今までのは全部夢だったのか……。ため息をつく俺。

 しかし、はたと気付く。夢にしてはやけに感触がリアルだったような? 色々と察した俺は、恐る恐る目を開ける。

 

「お・は・よ・う、祥平」

 

 目の前には、こめかみに青筋を浮かべる果南がいた。そして、俺の右手は果南のふくよかな胸を、左手は程よくしまったヒップを鷲掴みにしている。

 そういえば昨日、果南が朝ご飯も作ってあげるから、部屋に来てねとか言ってたな。

 

 恐らく朝ご飯を作って待ってたはいいけど、俺があまりにも遅い。しびれを切らした果南が俺の部屋に来た。鍵も閉めてなかったからそのまま入ってきて、寝ぼけた俺に布団へ引きずり込まれたのだろう。

 我ながら完璧な推理。名探偵コ〇ンも真っ青に違いない。これからは名探偵祥平と呼んでほしいものだ。

 

「おはよう、果南」

 

 取り敢えず朝の挨拶は重要なので、俺は挨拶を返す。ダイヤ姉さんにも口酸っぱく言われてきたからな。「朝の挨拶は重要ですわ!」って感じに。

 ……さて、もう一度意識を失うのは決定的だし、どうしようかな? 悩んだ結果、俺は今の素直な気持ちを吐き出すことにする。

 

「果南……お胸とお尻、ごちそうさまです」

 

 感謝の気持ちを伝える俺に果南は、

 

「はっきり言うな、バカぁあああ!!」

 

 もの凄い力でげんこつを振り下ろしてくるのだった。今日も耳をつんざくような「バカぁ!」ありがとうございます。

 果南のその声が聞けただけで、胸やら尻やらを揉んだかいがあったってもんだよ。それでは皆さん、おやすみなさい。

 

 

● ○ ●

 

 

「……祥平は朝から何をやっているんですの?」

 

 気を失ってから一時間後。俺は果南の部屋で、遅めの朝食をとっていた。

 ちなみに頭には大きなたんこぶ。自業自得だが、痛いものは痛い。

 

「そうは言ってもダイヤ姉さん。寝ぼけてたから仕方ないじゃないですか」

 

「仕方ないことかもしれませんけど、それでも普通寝ぼけて、む、胸やお尻なんかもみませんわよ」

 

「いやいや、逆に寝ぼけて揉んでしまうほど、果南の胸とヒップは魅力的だったってことです。あの極上の柔らかさといったら……」

 

バシッ!

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 後頭部にすさまじい痛みが走り、俺はその場でのたうち回る。

 

「ふんだっ!」

 

 涙目の俺に、プンスカ怒る果南。怒ってる姿も可愛いけど、今は痛みが強過ぎてそれどころじゃない。今の俺は一人だけ世紀末だ。

 

「はぁ……」「あははっ! ほんと祥平って、面白いわね」

 

 ため息をつくダイヤ姉さんと、いつも通りの鞠莉を見ていると少しだけ痛みも和らいでくる。

 この三人は、いつも果南の部屋で朝ご飯を食べているみたいだ。ほんと、仲がよろしいことで。ダイヤ姉さんにシップを貼り直してもらっていると、

 

「ところで祥平、今日の予定は?」

 

 鞠莉が訊ねてきたので、俺はスマホの予定表を開く。

 

「うーんと、午前中に引っ越し屋さんが来るんで、それがひと段落してからは暇ですね。というか、どうして俺の予定を?」

 

「祥平ってまだこっちに来たばかりでしょ? だから、一通りこの辺りを案内してあげようと思って!」

 

 パチッとウインクを決める鞠莉。彼女にこんな提案ができるとも思えないので、恐らくダイヤ姉さんあたりが言ったのだろう。

 

 ダイヤ姉さんは年下にものすごく甘い。口では怒っているけど、本当にあの人が怒ったところを見たことないしな。

 その理由は、彼女に二つ下の妹がいて、その妹を溺愛してるからだと勝手に思っている。ごくまれに赤ちゃん言葉になってたし。あれを聞いた瞬間、文字通り悪寒が走った。

 

 それにしてもルビィちゃん、元気かなぁ? 飴をちらつかせると、にこにこ近づいてきたダイヤ姉さんの妹が懐かしい。

 ちなみに妹を溺愛した結果、何故年下全般に甘くなったのかという因果関係は不明である。まだまだ研究の余地がありそうだ。

 

「そうですね……それじゃあお言葉に甘えて、この辺りを案内してもらうことにします」

 

「オッケーよ! 引っ越しはどのくらいで終わりそうかしら?」

 

「えっと、大体二時間くらいかと……というか、手伝ってくれるんですよね?」

 

「ソーリー……私、その時間はコーヒーを飲みつつ、テレビを見なくちゃいけなくて、ベリーハードなのよ」

 

 なるほど、それならしょうがないか。だってコーヒーを飲みながら、テレビを見る必要があるんだし。ベリーハードというのも納得……。

 

「できるかぁ!! 何がベリーハードだよ! ただ、ぐうたらしてるだけじぇねぇか!!」

 

「あらら……バレちゃった♡」

 

 可愛く舌を出す鞠莉に、俺は問答無用で声を荒らげる。英語の発音が良すぎて流されかけたが、彼女全く忙しくない。むしろ、この中で誰よりも暇なくらいだ。

 

「手伝え! コーヒー飲んでる暇があったら手伝え!!」

 

「祥平、今あなたコーヒーを馬鹿にしたわね? コーヒー一杯を馬鹿にすると、後でコーヒー一杯に泣くわよ?」

 

「一円を笑う者は一円に泣く……みたいに言われても騙されないからな!?」

 

 朝食中にもかかわらず、子供ような言い争いを繰り広げる俺たち。

 

「二人とも、今は朝ご飯を食べているのですから少しは落ち着いて……」

 

 見かねたダイヤ姉さんが止めに入るも、

 

『ダイヤ姉さんは(お胸の寂しいダイヤは)黙ってて!!』

 

 この有様である。ほんともう、どうしようもない。後、ダイヤ姉さんの胸をいじるのはやめて差し上げて。

 今さら言ってもどうせ手遅れなんだから。

 

「……二人とも」

 

 案の定、こんなことを言われて黙っているダイヤ姉さんではない。顔を真っ赤にしてプルプルと全身を痙攣させる。

 さて、あのセリフが飛んでくる前に耳を塞いでおかないと。恐らく110デシベルくらいのうるささだからな。

 説明しておくと110デシベルは、車のクラクション並みの大きさである。この音量を口から出すダイヤ姉さんは、やっぱりすごい。なんて思いつつ耳を塞ぐと。

 

「ぶっぶー!! ですわ!!」

 

 お馴染みのセリフが飛んでくるのだった。二回目ともなると、不思議なことに感動すら覚える。

 何となく、クラクション音に似てなくもない。

 

「はぁ……私が原因とはいえ、どうしてこうなっちゃったんだろう?」

 

 横ではため息をつきつつ、果南が味噌汁を啜っていた。

 

 

● ○ ●

 

 

 その日の午後。

 荷物の整理がある程度完了し(結局、鞠莉は自分の部屋で紅茶を飲んでいた。コーヒーでもないのかよ!)、俺たちは近くにあるショッピングモールへと足を運んでいた。

 後、言っておくと果南とダイヤ姉さんは手伝ってくれました。ほんとありがとう。

 

 そしてこのショッピングモールなのだが、何でもここに行けばある程度の物は揃ってしまうらしい。なので、果南達はよくここを利用しているとのこと。

 

「すげぇ……これが東京のショッピングモールか!」

 

「大袈裟すぎない? 祥平が住んでた浜松にも、イ〇ンくらいあるでしょ?」

 

 ショッピングモールを見上げて驚いている俺に、果南が呆れたような笑顔を浮かべる。

 

「いや、イ〇ンは若干遠かったせいで、ほとんど行かなかったんだ。代わりにサ〇ストリートと、プレ〇はよく使ってたけど」

 

「ごめん、その二つどっちも分からない」

 

 おかしいな。サ〇ストはともかく、プレ〇は結構CMで流れてた気がするんだけど。もしかすると、地域によって流れるものが変わるのかもしれない。

 

「なんだか今の祥平、果南の反応にそっくりだね」

 

「ちょっと鞠莉!」

 

 慌てた様子で果南が鞠莉の口を塞ぐ。しかし、どこぞの難聴主人公と違って、俺は聞き逃さないし、叩かれたところで記憶も失わない。というか、気を失っていちいち記憶が吹っ飛んでいたら、結構やばい気がする。

 

「そっくりって、鞠莉。一体、どういうことです?」

 

「果南もね、初めてここに来た時、祥平と同じようにポカンと口をあげて見上げてたのよ。あの時の写真も残ってるけど、見る?」

 

「ぜひ!!」

 

「見なくていい!!」

 

 素早くスマホを奪い取ろうとする果南からうまく逃げつつスマホを確認すると、確かにポカンとした表情でショッピングモールを見上げる姿が写っていた。

 これはこれで可愛い。まぁ、果南は何をしても可愛いんだけど。

 

「家に帰ったら送ってあげるわね♪」

 

「それはそれは…へっへっへ、鞠莉さんも悪よのぉ」

 

「いやいや、祥平ほどではないですよ」

 

「送らなくていい! 後、変な小芝居もいいから!」

 

 ニヨニヨと笑いあう俺たちを果南が一喝する。俺と鞠莉は果南をいじる時だけ息ぴったりだ。

 

「ふふっ! この時の果南さん、本当に面白かったですね」

 

「……そう言ってるけど、ダイヤも似たような顔してたよ?」

 

「へっ!?」

 

 スマホを動かしていくと、果南と同じような顔でショッピングモールを見上げるダイヤ姉さん。

 やっぱり田舎者は、どこに行っても同じだということが証明された。今度論文でも発表しよう。

 

「削除しなさい、今すぐに!!」

 

 今度はダイヤ姉さんが顔を真っ赤にして、鞠莉からスマホを奪い取ろうと必死だった。どうでもいいけど、今の光景が一番田舎者みたい。

 しばらくスマホの争奪戦が行われた後、俺たちはやっとショッピングモールへ。なんかすごく疲れた……。

 

「ところで果南。今日は何を買うんだ?」

 

「祥平の日常品を一通りそろえてあげようと思って! 今日だって引っ越し屋さんは来たけど、ほどんど大型の荷物しか置いてかなかったし。必要な物って意外と多いからね」

 

 なるほど……。流石一人暮らし二年目は色々と分かってらっしゃる。言われてみると、各種洗剤とかハンガーとか買ってなかったっけ。

 

「私たちも最初は苦労しましたわね。何が必要か分からず、うろうろしてましたし」

 

「そうそう。ダイヤはまだいいけど、鞠莉は本当に大変だったんだから。ほんと、よく一人暮らしを許可してくれたよね」

 

「果南とダイヤがいるからって、お父さんはすぐに許可してくれたわよ!」

 

 どれだけ信頼されてるんだよ果南とダイヤ姉さん。分からなくもないけど。

 それにしても、鞠莉の一人暮らしが欠片も想像できない。あの人、一体どうやって生活しているんだろう?

 

「取り合えず話しててもしょうがないから、一つずつ見ていこ?」

 

 果南の声に俺たちは再び歩き出す。ちなみにダイヤ姉さんと果南の二人で、買い物リストを作っていたみたいだ。

 俺の為にここまでしてくれるなんて。感謝のあまり涙が零れ落ちそうである。

 

「って、祥平!? どうして泣いてるの!?」

 

「気にしないでくれ。心の汗が流れ出てるだけだから」

 

「意味わかんないよ!!」

 

 泣いているのをうまく? 誤魔化して、俺たちは買い物リストを消化していく。そして、

 

「取り合えず、買いたいものは全部揃ったかな?」

 

 ショッピングモール内にあったお洒落なレストランで一息つく俺たち。どうやらここが三人のお気に入りらしい。

 田舎者の俺にとって、少々入りにくいお店だ。

 

 果南おすすめのパスタを注文し、四人で談笑していると俺はあることに気付く。まぁ、ショッピングモールに入った時からそうだったんだけど。

 

「ところでさ、ちょっと質問なんだけど……何で俺たちこんな見られてるの?」

 

「……やっぱり気付いてた?」

 

「そりゃ、これだけ見られてて気づかないほうがおかしいって」

 

 そう。俺たち……というか、俺以外の三人がチラチラとお客さんの視線を集めていたのだ。

 最初はこんな美人が三人も集まってれば当然とか思ってたのだが、どうにもそれは違うらしい。美人というだけならこれほどまでに視線を集めないだろうし、何よりサイン色紙を持っているのもおかしな話である。

 

「果南達って、有名人なの?」

 

「い、いや、そういうわけでもないんだけど……どうする、話しちゃう?」

 

「あまり気が進みませんが、毎回こんな視線に晒される祥平の事を考えたら話すべきでしょうね」

 

「それじゃあ、早速祥平に動画を見せてあげよっか!」

 

 どうやら話し合いが終了したらしい。鞠莉がスマホを動かし、俺に動画を見せてくる。そこに映っていたものとは、

 

「……果南達が歌って踊ってる」

 

 アイドルっぽい衣装に身を包んだ9人の女の子だった。その中にはもちろん果南達三人もいる。

 フリフリの衣装を着て踊っているのは別段構わないのだが、気になるのはどうしてこんなことをしているのかだ。

 

「えっとね、私たち高校時代スクールアイドルってのをやってたんだ。祥平も聞いたことくらいあるでしょ?」

 

「そりゃ、あれだけ有名だし名前くらいは……って、スクールアイドルをやってた!?」

 

 思わず大きな声を出してしまった俺に、店内の視線が集中する。しかし、今の俺にとってそんな事は大して気にならない。

 

「声が大きいですわよ! もっと静かに、落ち着いてください!」

 

「これが落ち着いていられるか!! 果南が、あの果南がスクールアイドルになって、歌って踊ってたんですよ! そもそも、どうして教えてくれなかった!? 知ってたら『I ♡LOVE♡ 果南』って書いたハチマキを巻いて、ペンライトを持って応援に駆け付けたのに!!」

 

「祥平の連絡先も知らなかったし、しょうがないよ。というか、仮に知っててもそんなハチマキ巻いてきたら追い出してたと思う」

 

 ジト目の果南だったが、俺は気にせずどんどんと机をたたいて嘆く。

 

「畜生! 俺がもっとスクールアイドルに精通していれば……こんなことにはならなかったのに!! 果南の事が好きだって公言しておきながら何たる不覚。俺は最低で最悪だ。これはもうここで腹を切るしか……」

 

「お、お客様……あまりうるさくされると、他のお客様に迷惑がかかるので」

 

「あっ、すいません。それじゃあうるさくしないよう、切腹しますね。今の俺は万死に値しますから」

 

「死なれるともっと困るんですけど……」

 

 困り顔の店員さんを無視して、俺は先ほど買った包丁を鞄の中から取り出していた。

 

「わっ! 祥平ってば何してるの!? ちょっとやめなって!!」

 

「大丈夫だ果南。仏教の教えには、輪廻転生という素晴らしい教えがあってだな……」

 

「何に転生するかわかんないじゃん! それこそ、石とか草とかだったらどうするの!?」

 

「その時は自分の運命を受け入れて、その人生を全うするだけさ」

 

「かっこよくない、全然かっこよくないからねそのセリフ!!」

 

 一種の悟りを開いた俺を必死に説得する果南。その横では、ダイヤ姉さんが申し訳なさそうに頭を下げている。そして鞠莉は、

 

「うーん、やっぱりここのスパゲッティはデリシャスね!!」

 

 いつも通りマイペースだった。

 

 

● ○ ●

 

 

「はぁ、祥平のせいで恥かいちゃったよ」

 

 果南が非難の視線を俺に向ける。

 結局、俺の暴走は収まったのだが、お店には多大な迷惑をかけてしまった。出禁にならなかっただけまだましだろう。

 

「まぁ、別にいいじゃんか。スパゲッティも美味しかったし」

 

「何にもよくない!!」

 

 真っ赤になって叫ぶ果南。どうやら相当ご立腹らしい。

 

「二人とも落ち着いてください。こんなところで喧嘩をしてればもっと目立ちますわよ?」

 

 ダイヤ姉さんの言葉に、果南は渋々引き下がる。ありがとうダイヤ姉さん。実は内心、果南に嫌われたらどうしようと思ってたから、本当に助かった。

 

「ところで祥平。さっき見せた動画の中で誰が一番好み「果南」……果南以外で」

 

 あまりの即答に、鞠莉が若干引いている。そして、質問を果南以外に変えられた。

 

「果南以外ですか……それじゃあもう一回動画を見せてもらえませんか? 果南しか目に入らなかったので」

 

バシッ

 

 腰辺りを誰かに力いっぱい叩かれる。叩かれた部分をさすりながら振り返ると、果南が耳まで真っ赤にしてそっぽを向いていた。

 めちゃくちゃ可愛かったので、しっかりと脳内保存。

 

「ほんと、祥平ってベリー変よね」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま鞠莉に返します」

 

 呆れる鞠莉にセリフを返品したところで、俺はもう一度彼女のスマホを覗き込む。

 

 なるほど、果南には敵わないけどみんな揃いも揃って美人ばっかりだな。というか、千歌と曜もいるじゃん。あと、ルビィちゃんも。

 こんなこと言ったらあいつらに怒られそうだけど、全然気付かなかった……。

 

 ちなみに、千歌と曜は小さい頃から転校するまでの間、一緒に遊んだ仲である。果南と一緒でいわゆる幼馴染と言うやつだな。

 

 そんな事はいいとして、誰でもいいから早く決めないと……。俺は踊っている女の子を色々と見ていった結果、

 

「うーん、果南以外ならこの子かな。この、頭にお団子がくっついてる」

 

 指差したのは黒髪ストレートに、お団子がくっついた美人さん。多少スレンダーではあるが、足も長いし、可愛いので問題なし。歌もうまいし、果南以外なら間違いなくこの子が好みである。

 

「あぁ、善子ちゃんね……」「堕天使ヨハネを選ぶだなんて、祥平もなかなかやるわね」「ま、まぁ、普通にしてれば美人ですし」

 

 しかし、果南たちは揃って微妙な反応。というか、堕天使ヨハネって何? 俺の視線に気づいたのか、ダイヤ姉さんが苦笑いを浮かべる。

 

「えっとですね、祥平が選んだこの子……実は中二病なんですの」

 

「中二病?」

 

 中二病とはあれか。自分には他の人にない特別な力があると思い込んで、痛い言動や行動を繰り返すおかしな人の事か。

 いやいや、こんな可愛い子に限ってそんな事……。

 

「はい、祥平。これが堕天使ヨハネよ!」

 

 鞠莉の声に、俺はもう一度彼女のスマホを覗き込む。そこに映っていたのは、自分を堕天使だと言ってきかない善子(善子じゃなくて、ヨーハーネ!!)だった。なんか今、誰かにツッコまれた気がするけど……。まぁいいや。

 

 しばらく彼女の姿を見つめた俺は、果南とダイヤ姉さんに向かって優しく微笑む。それだけで二人は察してくれたらしい。ほんと、さすが幼馴染。

 さて、これ以上彼女を見ているとリトルデーモンにされそうなので動画を停止させる。

 

「それじゃあこの後はどうする?」

 

「善子さんはスルーなのですね……」

 

「いやだなぁ、ダイヤ姉さん。俺は戦略的にみて彼女をスルーしただけですよ」

 

「結局スルーしてるじゃありませんの!!」

 

 なぜか激昂してしまったダイヤ姉さん(モ〇ハンに出てきそう)を宥め、俺たちはショッピングモール内を適当に歩き回る。

 

「おっ! ここのゲーセン、相当広いな」

 

 俺は目の前に広がるゲームセンターに、感嘆の声をもらしていた。浜松では学校終わりなどによくゲーセンへと足を運んでいたが、広さがまるで違う。

 やっぱり東京はすげぇや。

 

「時間もまだ大丈夫だし、遊んでく?」

 

 果南の問いかけに有無を言わずに賛成。ゲーセン内には定番のメダルゲームやクレーンゲーム、ダンスゲームや音ゲーなど様々な種類のゲームが設置されている。

 

「うーん、まずはどれからやろう?」

 

「祥平! それならまずこれをやりましょ!!」

 

 鞠莉が指差したのはダンスゲーム。やってもいいけど、俺が圧倒的に不利じゃね?

 

「ダンスゲームはなぁ……俺やったことない「私に勝てたら果南の秘蔵写真をプレゼント!」やりましょう!」

 

「何言ってるの!?」

 

 見事な手のひら返しを見せた俺は、鞠莉を引っ張っていく。果南が後ろからギャーギャーとうるさいが、周りの音がうるさくて何言ってるか分からない。なので無視させてもらおう。

 

「ふっふっふ~、スクールアイドルの最前線で戦ってきた私に果たして祥平は勝てるかしら?」

 

「それはこっちのセリフです。愛の力は無限大だってことを教えてあげますよ」

 

 俺と鞠莉はバチバチと火花を散らす。一方、

 

「鞠莉! 絶対に勝ってよ! 絶対だからね!!」

 

 果南は秘蔵写真を見られたくないのか、鞠莉を必死で応援していた。ダイヤ姉さんは面倒くさくなったのか、適当にぶらついているらしい。その為、この場には居なかった。

 

「ちなみに、鞠莉。その秘蔵写真とは?」

 

「流石にそれは教えられないわ。でも……かなり際どい写真だってことだけは教えておいてあげる♪」

 

「……おいおい困ったな。それじゃあ益々負けられなくなったよ」

 

 無駄にかっこいい声を出す。鞠莉のお蔭で、勝たなければならない理由が増えてしまった。現在、ツッコミ不在でお送りしております。

 

「そんな事を話しているうちに、そろそろスタートね!」

 

 彼女の言う通り、あと10秒ほどでゲームスタートとなっていた。俺は今一度大きく深呼吸をする。

 

『さぁ、勝負だ(よ)!!』

 

 そして結果は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜだぁああああああ!!」

 

 俺は情けない声をあげて涙を流していた。

 

「ふっ! 祥平はまだまだ甘いって事よ! 出直してきなさい!!」

 

 悠然と俺を見下ろす鞠莉。点数だけで見ればほぼ互角。しかし、僅かなミスが勝敗を分けてしまったらしい。

 その為、俺は悔やんでも悔やみきれずこうして涙を流しているというわけだ。

 

「よ、よかったぁ……」

 

 果南は秘蔵写真の流出が無くなり、ホッと胸を撫でおろしている。

 

「祥平、顔をあげなさい」

 

「勝者の顔なんて見たくねぇよ! どうせ俺の事バカにするんだろ!? 「何ですか、あのテイタラクは」って!! あなたには分からんでしょうね!! ……畜生、あの時のミスさえなければ。あのミスさえなければぁあああ!!」

 

「……意外とめんどくさいところがあるのね。だけど安心して、祥平」

 

 ミスを悔やむ俺の耳に鞠莉の言葉が届く。

 

「秘蔵写真はあげられないけど、果南の寝顔写真なら送ってあげてもいいわよ?」

 

「な、なにっ!?」

 

 驚いて顔をあげると、鞠莉がまるで天使のような顔で微笑んでいた。

 その手に握られているスマホには、すやすやとこちらも天使のような顔で寝ている果南の写真。

 

「今度クレープ奢って頂戴ね!」

 

「それくらいなら喜んで」

 

 汚い交渉が成立した。いや、これは俺が悪いのではない。天使のような寝顔を見せる果南がいけないのだ。

 無事、心の整理がついたのでダイヤ姉さんを探しに行く。すると、

 

「何で取れないんですの!!」

 

 クレーンゲームの箱をどんどんと叩くダイヤ姉さんを発見した。

 取り敢えず、クレーンゲームを叩いちゃいけません!

 

「どしたの、ダイヤ姉さん?」

 

「あっ、祥平! 聞いてください。これが取れないんですの!!」

 

 彼女の指差す先にはクマのぬいぐるみ。どうやらダイヤ姉さん、これが欲しくてクレーンゲームに手を出したらしい。

 

「なるほど……確かにクレーンゲームは難しいからな」

 

「きっと、ゲーム会社の陰謀ですわ! 多くのお金を落としてもらいたいがために……そうに違いありません!」

 

 ゲーム会社の陰謀とか、大きな声で言わないでほしい。スタッフが苦笑いで俺たちを見つめている。

 こりゃ早いとこダイヤ姉さんを納得させないと。

 

「ちょっと貸してみ」

 

「祥平、できるんですの?」

 

「これでも、俺はクレーンゲーム結構得意なんだ。浜松に居た頃もよく遊んでたし」

 

 そう言いつつ、俺はダイヤ姉さんと場所を交代し、クレーンゲームを開始する。さて、このクレーンゲームはなかなか難しそうだな。だけど、

 

「……ここら辺かな」

 

 バッチリのタイミングで俺はアームを降下させる。

 

「そんなところにおろして大丈夫なんですか?」

 

 心配するダイヤ姉さんを他所に、どんどんアームは降下していき……ぬいぐるみのタグにしっかりと引っかかった。そして、

 

ガコンッ

 

 穴の中に吸い込まれていくクマのぬいぐるみ。俺は景品を取り出し、ダイヤ姉さんに手渡す。

 

「えっ!? いいんですの?」

 

「別に大丈夫ですよ。というか、男の俺がクマのぬいぐるみなんて持ってたら気持ち悪いですから」

 

 ダイヤ姉さんはしばらく躊躇っていたが、最終的には折れたようで、

 

「……はい。それではお言葉に甘えることにします。ありがとう、祥平!」

 

 いつもの大人びた微笑みではなく、無邪気な笑顔を浮かべるダイヤ姉さん。お礼を言われた瞬間、悔しいが俺の鼓動が少しだけ早くなった。

 普段はいじり過ぎて気付かないけど、やっぱりダイヤ姉さんも果南に負けず劣らず可愛い。それは鞠莉にも言えるんだけど、あの人は色々な意味で別格である。

 

「…………」

 

「果南? どうかしたのか?」

 

「ううん、何でもないよ。それよりもダイヤ、取ってもらえて良かったね」

 

 一瞬だけ浮かべた不満げな顔。その表情を見逃すほど、俺は鈍くない。だけど、ここで無理やり取ってあげても果南は喜ばないだろう。どこかでタイミングを見つけないと……。

 その後は、主にダイヤ姉さんと鞠莉に連れまわされ、ゲームセンターをこれでもかと遊びつくした。

 

 

● ○ ●

 

 

「うぅーん! かなり遊びましたわねぇ~」

 

 ダイヤ姉さんが大きく伸びをしている。結局、あれから一時間ほど遊んでいたからな。疲れるのもある意味当然である。

 ちなみに、なんだかんだゲームセンターを一番エンジョイしてたのはダイヤ姉さんだ。まぁ、そう言ってる俺もダイヤ姉さんと一緒に走り回ってたんだけどね。

 

「いい時間になったし、そろそろ帰ろっか」

 

 ベンチに座っていた果南が立ち上がる。しかし、このまま帰ってしまうわけにはいかない。その為、俺は一つの作戦をとることにした。

 

「……イタッ! イタタタタタッ!!」

 

「ど、どうしたの祥平!? 大丈夫?」「祥平!? 大丈夫ですの?」

 

「い、いや、ちょっと急にお腹が……ちょっとトイレに行ってくるからちょっと待ってて」

 

 二宮祥平、一世一代の大根演技を繰り出し、その場から離れる。うまい具合に果南とダイヤ姉さんは騙すことに成功した。

 しかし、察しのいい彼女にはバレバレだったらしい。

 

「……早く帰ってきなさいよ。それまでは何とか場を持たせておくから♪」

 

「……助かります」

 

 俺はこっそり頭を下げトイレに……ではなく、ゲームセンターへと走っていった。

 

 

● ○ ●

 

 

 ショッピングモールから帰ってきた俺たちは、細かい荷物を俺の部屋に置いた後、果南の部屋に集合していた。

 今は晩御飯を食べて終え、のんびりくつろいでいる。今日も(まだ二回目だけど)果南のご飯はうまかった。

 

「ねぇねぇ、祥平」

 

「ん? どうした鞠莉?」

 

「あれは何時渡すの?」

 

「いや、なんか渡すタイミングが……」

 

「もうっ! 普段は積極的なのに、どうしてこんな時は消極的になってるのよ! マリー、激おこぷんぷん丸なんだから!」

 

 確かに、普段の俺を見ていれば「すぐ渡せばいいじゃん」とかなるんだけど、よく分からない恥ずかしさが全身に込み上げてきておりまして……。

 

「かなーん、話したいことがあるからこっち来て。祥平がそう言ってる!」

 

「おいこら、パツキン。なに勝手な事言ってるんですかね?」

 

 余計なことを言った鞠莉の頭を、取り敢えずぐりぐりする。このやろう……こいつはトラブルメーカーにならないと気が済まない体質なのか?

 

「お待たせ~。それで、どうしたの祥平?」

 

 食器を片付けた果南がキッチンから帰ってくる。しまった、鞠莉の制裁に気を取られ過ぎたらしい。

 

「え、えっと、その……ご飯美味しかったよ」

 

「ふふっ、それさっきも言ってた。だけど、ありがとう」

 

 お礼の言葉を述べる果南に、俺はホッと一息つく。よしっ、ここで態勢を整えて――。

 

「何言ってるのよ祥平! 今はそんな生ぬるい話をしてる場合じゃないでしょ!!」

 

「ほんと、マジで黙ってくれませんかねぇ!?」

 

 ぎゃあぎゃあうるさい俺たちに、果南だけでなくダイヤ姉さんも不思議そうな表情を浮かべている。

 これで言わざるを得ない空気が益々強くなってしまった。

 俺は観念して一つの袋を果南の前に差し出す。

 

「なにこれ?」

 

「……開ければわかるよ」

 

 首をかしげつつ果南は袋を開く。

 

「あっ……これって」

 

 袋の中に入っていたのはクマのぬいぐるみだった。それも、ダイヤ姉さんと色違いのやつ。

 

「ど、どうしてこれを?」

 

 驚く果南に、俺は頬をかきながら答える。

 

「どうしてって……ダイヤ姉さんにクマのぬいぐるみを取ってあげた時に果南、不満げな表情でこっちを見てたから」

 

「嘘ッ!? 私ってばそんな顔してたの?」

 

「ま、まぁ……」

 

「うわぁ……最悪だよぉ」

 

 顔を赤くして俯く果南に、こっちまで恥ずかしくなってくる。本当はダイヤ姉さんと鞠莉が帰ってから、こっそり渡そうと思ってたのに……。

 えぇい、どうしてこうなった!? ……鞠莉のせいだった。

 

「俺は果南のことが好きだから、果南には笑顔でいてほしいというか、喜ぶ顔が見たかったというか……と、とにかく受け取ってくれ!!」

 

 急に恥ずかしくなってきた俺は、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。なんで俺は思春期の乙女みたいな反応をしにゃならんのだ!!

 

「そ、そんな事いきなり言わないでよ……。うぅ、二人の前なのに顔真っ赤になっちゃう///」

 

 俺以上に顔を赤くする果南が可愛い……なんて考える余裕はない。なんだか、付き合いたての初々しいカップルみたいになった気分だ。

 

『二人とも、可愛い(ですわ)』

 

『うるさい!!』

 

 生暖かい視線を向けてくる二人に俺と果南は一喝する。今そんな事を言われたところで何も嬉しくない。

 

「それで、果南~。祥平がせっかく、クマのぬいぐるみを取って来てあげたって言うのに、お礼の一つも言わないのかしら?」

 

「あぅ……」

 

 ここで飛んでくる鞠莉からの追撃弾。鞠莉、本当に容赦がなさすぎる。彼女には果たして、情けと弱点というものが存在するのだろうか?

 

「だ、ダイヤぁ~」

 

 困った果南がダイヤ姉さんに助けを求めるも、

 

「果南さん、お礼はきちんと述べるべきですわよ?」

 

 ニッコリ笑顔で果南を突き放すのだった。

 それにしても、ダイヤ姉さんが果南をかばわないなんて珍しい。一体、どういう風の吹きまし……ん? なんかダイヤ姉さんの足元に置いてある。あれは……プリンだ。

 なんと、ダイヤ姉さんは既に買収済みだったらしい。計画的犯行に俺はびっくりです。

 

「さぁ果南。早く早く!!」

 

 鞠莉に急かされ、益々顔を赤くする果南。あまりの恥ずかしさにあげたぬいぐるみをギュッと抱き締めている。私はぬいぐるみになりたい。

 

「あの、えっと、その……」

 

 完全に乙女となっている果南が、ゆっくりと俺に近づいてくる。普段のさばさばした様子はもはや見る影もない。おかげで、心臓がうるさいくらいに早鐘をうっていた。

 

「しょ、祥平……あのね」

 

 抱き締めているぬいぐるみを一層強い力で抱き締め、果南が顔をあげる。真っ赤な頬。潤んだ瞳に上目遣い。強烈な三コンボをくらった俺はノックアウト寸前だ。

 そして、くらくらしている俺に向かって果南が口を開く。

 

「あ、ありがとう。このぬいぐるみ、取ってくれて。すごく嬉しかったよ。だからね、ずっと……ずっと大事にするから///」

 

 この場が俺と果南だけなら、間違いなく彼女の身体を抱き締めていた。

 しかし、人がいる手前そんなこともできないので、俺は果南の頭を優しく撫でる。

 

「ふぇっ!? ど、どうしたのいきなり?」

 

「果南が可愛いこと言うからいけない。後……ありがとう」

 

「う、うん……」

 

 そのまま果南の頭を撫で続ける俺。ほんと、髪の毛サラサラでいい匂いがして……。

 やばいと思った俺は撫でる手を止める。しかし、果南は俺の手を掴み、

 

「まだ、やめないで。あとちょっとだけ……お願い」

 

「うっ……はい」

 

 まさかのおねだり。そして、潤んだ瞳の上目遣い。鼻血が出るかと思った。

 

「ねー、ダイヤ。祥平たち、完全に私たちの事忘れてないかしら?」「奇遇ですね、鞠莉さん。私も同じような事を思っていた最中です」

 

 冷めた視線を背中に感じたが、今は果南に集中だ。その後、果南が満足するまで彼女の頭を撫で続け、

 

「も、もう大丈夫。ありがと……」

 

「お、おぅ……」

 

 分かると思うが、お互いの顔は真っ赤。果南の裸をうっかり見てしまった時はこうならなかったのに……。不思議だ。

 

『じーーーーーー』

 

 後、後ろからの視線がさらに冷たいものになっている。きっと半眼で睨まれているに違いない。

 果南も同じように視線を感じ取ったようで……お互いに頷きあう。

 

「そ、それじゃあ、今日はそろそろ部屋に戻るよ。明日は大学のオリエンテーションで、早く行かなきゃいけないからな」

 

「そうだね! 寝坊しちゃいけないし、今日はもうお開きにしよっか!」

 

『逃げた!!』 

 

 ギャーギャーうるさい二人をしり目に、俺は果南の部屋から逃げるようにして立ち去ったのだった。

 

 

● ○ ●

 

 

「色々ありましたけど果南さん、嬉しそうでよかったですわね」

 

 果南を散々いじって、部屋を後にした鞠莉とダイヤ。

 

「果南ってば、ずっと顔真っ赤にしちゃって……すごくシャイニーだったわ!」

 

「ふふっ! それにしても、果南さんの宝物がまた一つ増えて良かったです」

 

「……口だけなら何とでもいえるけど、それを体現してる果南は本当にすごいわよ。だって、幼稚園の時に祥平からもらったものだって、大事に保管しているんだから」

 

 これが愛のなせる力なのかしら? 鞠莉が呟く。

 

 ダイヤと鞠莉はある時、見せてもらったのだ。果南が祥平からもらったという宝物の数々を。

 中には何が書いてあるのか分からないものもあったし、こんなの貰って嬉しいの? というものもあった。

 だけど果南は「全部、私の大切な宝物なんだよ!」と言い張ったのだから、本当にすごい。

 

「果南さんって、意外とピュアですわよね。多分、Aqoursの中でも指折りの」

 

「ほんとほんと……って、あら?」

 

「どうしたんですの?」

 

「……ううん。ちょっと驚いただけよ。祥平からのサプライズにね!」

 

「サプライズ? それって一体……あっ!」

 

 ダイヤと鞠莉の視線の先には、なにやら袋のようなものが置いてあった。

 

 鞠莉が袋を開くと出てきたのは……ダイヤ、果南と同じクマのぬいぐるみ。それもちゃんと二人と色が違う物。

 それをしっかりと胸に抱きよせ、鞠莉は笑顔を浮かべた。

 

「私の分までちゃっかりとってくるなんて、これは祥平に一本取られたわ」

 

「ほんと、小学生の頃と何ら変わってませんわね。適当なことばかり言っているけど、きちんと周りを見て相手を気遣える。果南さんが羨ましい限りですわ」

 

「おやおや~、ダイヤってば嫉妬?」

 

「なぁっ!? ち、違いますわ!!」

 

「そうやってムキになって否定するところが、ア・ヤ・シ・イ・ゾ!」

 

「祥平の事はその、殿方として意識したことは一度もありません! ただ……」

 

「ただ?」

 

 すると、ダイヤがうっとりした表情を浮かべる。

 

「果南さんのように素敵な殿方と出会って、素敵な恋ができたら幸せだなと」

 

「……ダイヤってたまにロマンチックになるよね。まぁ、そこがベリーキュートなところでもあるんだけど!」

 

 鞠莉が勢いよくダイヤに抱き付き、ダイヤは迷惑そうにしながらも笑顔になる。

 

「……果南と祥平。恋人同士になれるかしら?」

 

「傍から見れば、完全に恋人同士なんですけどね。だけど……」

 

 ダイヤの顔が少しだけ曇る。それは昨日、祥平が帰った後の会話を思い出したからだ。

 

『……駄目だよ。私と祥平の気持ちは違う。祥平の好きと、私の好きは違うんだよ。……私じゃ、あの人の代わりなんて務まらない』

 

 苦しそうな表情で吐き出された言葉。あの出来事が無ければきっと、この二人はとっくに付き合っているだろう。

 だけど、あの出来事のせいで果南は次の一歩を踏み出せない。

 

「気にしても仕方がないわ、ダイヤ。あの事は誰が悪いわけでもない。運が悪かったとしか言いようがないもの」

 

「……分かっています。あれはある意味お互いが被害者、ですから」

 

「祥平がどうかは分からないけど、果南に関しては自分の力で乗り切るしかない。心の問題に、他人がどうこう言ったって意味ないもの」

 

「そうですわね……」

 

「だけど!」

 

 そこで鞠莉がニッコリの笑顔を浮かべる。いつものおちゃらけな笑顔ではなく、相手を思いやる時にだけ見せる特別な笑顔。

 

「二人が困ってたり、相談してきた時には、しっかり助けてあげましょ!」

 

「……やっぱり鞠莉さんは鞠莉さんですね。だけど、私も同じです。大切な友達が傷ついていく姿なんて、やっぱり見たくないですもの」

 

 一時期、バラバラになってしまった事もあったが、今はそれを乗り越え再び親友として笑いあって過ごしている。そして、これからも三人で……いや四人で笑いあうためにも、親友としてできることはやってあげたい。これが二人の想いだった。

 

「なんだか私たち、相当なお人好しよね」

 

「いいんですよ。だって……好きでやってるんですから」

 

 再び笑いあう二人。

 夜空ではそんな二人を見守るように無数の星が煌めいていた。




 亀更新とか言って一週間ちょっとでの更新です。流石春休み(笑)。
 さて今回もギャグ多めでお送りしましたがいかかでしたでしょうか? 少しでも笑っていただけたなら嬉しいです。ちなみに、最後の部分はまだ気にしなくて大丈夫です。

 この一週間ほどで評価や感想、お気に入りを入れて下さった方、本当にありがとうございます。これを励みに次話の作成を頑張っていきたいと思います。
 それではまたな!!
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